<大項目> 放射線影響と放射線防護
<中項目> 放射線による生物影響
<小項目> 自然放射線と健康
<タイトル>
米国自然放射線の疫学調査(アーチャーら) (09-02-07-07)

<概要>
 米国における宇宙線による線量当量率は高度によって年当り26〜27mrem(海面レベル近く)から107mrem(3km) まで分布しており、この宇宙線による線量とがん死亡率との関係が疫学的に調べられている。エクホフ(Eckhoff)らによると高度600mまでは高度が上がるに従って白血病死亡数は増加し、それ以上の高度では減少することを見いだした。一方、アーチャーら(Archer) は地磁気による影響を考慮すると宇宙線線量が増えるとがん死(腎臓がん、乳がんなど)や先天異常による胎児死亡が増加するとしている。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 米国における自然放射線とがんとの関係について宇宙線や地磁気に着目した疫学的検討がいくつか行われている。

1.白血病死亡率と高度との関係
 カンサス大学のエクホフ(Eckhoff) 氏らは人口統計と白血病死亡率データを高度との関係から解析し高度約 600メートル(2000フィート) までは白血病死亡率は高度に比例して増加するが、それ以上の高度になると有意に減少することを見いだした。調査対象期間は1960−1966年で、約5000の地域区分における白血病死亡率(10万人当りに正規化した値)を約1950メートル(6500フィート)までは高度約60メートル(200フィート) 毎に、1950から2220メートル(7400フィート) の間は約 120メートル(400フィート) 毎に区分し、2220メートル以上は代表値2670メートル(8900フィート)にまとめて、求めている。このよう・な区分により、各区分内の人口はいずれも10万人以上となっている。 図1 に示すように各区分における白血病死亡率はかなり大きく変動しているが、傾向として高度 600メートル(2000フィート)までは高度上昇と共に死亡率が増加し、それを越えると次第に減少する。最小自乗法により数式化すると
 海面から約 585メートル(1950フィート)までは
   LD=6.52+1.02A
   LD:白血病死亡率(10万人年当り)
   A:高度(1000フィート単位)
 585メートル以上の高度では
   LD=8.06+(−0.32)Aとなる。
 宇宙線線量は高度に比例して大きくなり海面で29.9〜31.1mrad/年、高度1500メートル(5000フィート) で40.0〜60.0mrad/年、30,000メートルで80〜120mrad/年であり( 表1 )、この線量率から推定算出される白血病死亡率は10万人当りでそれぞれ0.06〜0.062,0.08〜0.12,0.16〜0.24である。
 以上のことから自然放射線(宇宙線)が仮に白血病の原因になっているとしてもそれは他の要因の影響よりははるかに小さいこと、高度が上がるに従って白血病の発生を下げるような何らかの要因が存在することが示されている。

2.地磁気による宇宙線の変動とがん死亡率との関係
 一方、米国保健省のアーチャー(Archer) 氏らは、米国において宇宙線の地上への到達量の決定に、標高だけではなく地磁気の作用による効果を考慮に入れた。これによると、宇宙線のフラックスと、新生児の死亡率やいくつかの癌、特に腎臓と乳がんの死亡率との間に正の相関が示されている。宇宙線のフラックスと死亡率は、米国北部から南部へ累進的に減少しており、両者間の正の相関関係がある。
 宇宙線の地表への到達量は地磁気により影響を受ける。 図2 は米国における地磁気のフラックスの等高線を示すが、地磁気のフラックスの高い所ほど宇宙線の地表到達量は少なくなる。従って宇宙線量は北では高く、南で低い。 図3 は1950年〜1969年の期間における白人男女の腎臓がん死亡率の地理的変動と等高線を示す。腎臓がんの他に乳がん、多発性骨髄腫卵巣がん、リンパ腫、胃がん、精巣がん、全立腺がん、白血病、ホジキン病、大腸・直腸がん、甲状腺がん、脳神経系腫瘍が宇宙線フラックス等高線に良く似た分布を示し北部で多く、南に下がるに従い減少している。先天性異常による胎児死亡も同様である。
 上記のがんと異なり、肺がんの分布は、地磁気等高線とは全くはずれているが、これは肺がんの主因が地磁気に関係のない喫煙や空気汚染によるためと思われる。皮膚がんは逆の相関を示すが、これは皮膚がんが紫外線により惹起されることによる。

3.高度による酸素濃度減少の影響
 高度が上がると宇宙線が増え、従って放射線で誘発されるがんが増えると考えられるにも拘らず、実際には白血病(前述(1) 項)や肺がん、腸がん、乳がんなどの死亡率は低くなることが観察されている。米国国立健康環境科学研究所のワインベルグらは高度が増すに従って空気が薄くなることががん死亡率の低下に影響すると考え、がん死亡率と高度との関係について酸素濃度(温度が上がると薄くなる)と自然バックグラウンド放射線(高度が上がると増加する)の2つを影響因子として取り上げて解析した。肺がん、腸がん、乳がんの死亡率は高度による酸素減少の影響を補正して解析すると自然放射線量が増えるに従って増大し、また逆に自然放射線の影響を補正して解析すると、高度が上がり酸素が減少するに従ってこれらのがんの死亡率は減少する。このことから彼らは「発がんには酸・素が関係しており、低酸素の空気吸入はがんやある種の心臓病に対して防護作用がある」、そして、「自然放射線にはその線量に比例した発がん効果があることは否定出来ない」と結論している。
<図/表>
表1 高度別にみた米国の人口分布、及びそれに対応する宇宙線による線量当量率
図1 高度と白血病リスクとの関係
図2 米国における地磁気フラックス(水平磁力)の等高線
図3 米国における腎臓がん死亡率の地理的変動

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<関連タイトル>
米国自然放射線の疫学調査(フリゲリオら) (09-02-07-06)
中国の高自然放射線地域における住民の健康調査 (09-02-07-01)
インドの高自然放射線地域における住民の健康調査 (09-02-07-02)
ブラジルの高自然放射線地域における住民の健康調査 (09-02-07-03)

<参考文献>
1)Eckhoff,N.D. ら Health Physics 27,377(1974)
2)Archer,V.E. ら Health Physics 34,237(1978)
3)米国科学アカデミーBEIR−・報告書(1980)「低線量電離放射線の被曝によるヒト集団への影響」、ソフトサイエンス社(1983)
4)Radiation Research 112,381-390,1987. C.R. Weinberg ら
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