<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
インド、ケララ州のトリウム含有量の多いモナイザイト岩石地域は自然放射線(主としてγ線)のレベルが高く、平均的な値として住民の被曝線量は 3.8mGy/年であり 5mGy/年を超えるものは全体の約25%を占める。
バーバ原子力研究センターの調査によると、この地域の住民の乳幼児死亡率、出産児の性比、生殖能力(妊性)、染色体異常先天性異常などについて放射線の影響は認められない。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 インド、ケララ州とタミールナヅ州の南西の海岸には主として、トリウムを高濃度重量%に含むモナザイトの沈積地帯がおよそ0.5kmの幅で250kmの長さにわたって続いている。その中でも最も高濃度(トリウム含量8〜10.5重量%)のモナザイト地域はケララ州の海岸のキロン区からアルピイ区にある55kmの長さの地域と、タミールナダ州のマラヴァラクリチ近くの2.5kmの長さの地域であり、これらの地域では植性と人口の密度が高い( 図1 参照)。
 モナザイト中のトリウムとその壊変生成物からアルファ、ベータ、ガンマ線が放出される。従ってここの住民は(1)モナザイト中のトリウムからのベータ、ガンマ線の外部被曝、(2)空気中のトロン 及びその娘核種吸入による肺の内部被曝、(3)飲食物摂取、及び吸入を通じてのこれらの核種の体内取り込みによる内部被曝を受けている。このケララ州の高自然放射線地域の住民について1950年代からバーバ原子力センターがWHOなどの協力を受けて健康調査を実施している。
 約200軒の住居をランダムサンプリングして空間線量を測定した結果によると平均値としてγ線1300mR/年である。住民にTLD個人線量計を腕輪、ネックレスの形( 図2 参照)で常時着用させて線量を測定した結果によると、被曝線量率は平均 4.3×10-7Gy/h、24%が 5.7×10-7Gy/h以上、6%が ×10-6Gy/h以上、0.7%が 2.3×10-6Gy/h以上を被曝している。放射性核種の食品からの摂取量は平均値として全αが8、228Raが6、40Kが131 Bq/日で、最も寄与の大きい食品は魚とタピオカ(芋の一種)である。
 調査地域の対象戸数は13355軒で住民数は約70000人であり、この中には全ての年齢層と宗教とが含まれている。家族構成・年齢等の人口学的データは戸別訪問により調べられた。この集団は(1) この地域外で雇用されている者、(2) 完全にこの地域内で雇用されている者、(3)漁民、の3グループに分別される。第1のグループには就学児童と、1日の大半をこの地域外で過ごすものが、第2のグループには地域内で働くもの、家庭の主婦、未就学児童が含まれる。第3のグループは漁業に出かける以外はこの地域内または、付近で時間を過ごす人々である。これらの集団について乳幼児死亡率、妊性(家系をたどっての夫婦当り産児数の調査)、性比(新生児の男女比)、先天異常(ダウン症など)が調べられたがいずれについても低自然放射線地域(通常の地域)と比較して有意な差異は認められていない。但し約20mSv/年以上被曝しているグループでは、そのグループの人数が少ないので確実ではないが、それ以下の線量のグループと比べて、妊性は1番低く、幼児死亡率は最も高くなっている傾向がある。
最も放射線の影響を表し易い染色体については、新生児、各種年齢層の子供、成人の末梢血リンパ球の染色体異常が調べられた。この結果によっても高放射線地域と低放射線地域との間で、染色体切断、2動原体、リングなどの異常の発生率の差は認められない。
<図/表>
図1 インド,ケララ州のモナザイト地帯
図1  インド,ケララ州のモナザイト地帯
図2 個人被曝線量測定に用いられた女性用ペンダント型のTLD
図2  個人被曝線量測定に用いられた女性用ペンダント型のTLD

<関連タイトル>
中国の高自然放射線地域における住民の健康調査 (09-02-07-01)
ブラジルの高自然放射線地域における住民の健康調査 (09-02-07-03)

<参考文献>
(1) Gopal-Ayengar, A.R., K. Sundaram, K.B. Mistry et al. Current status of investigations on biological effects of high background radioactivity in the monazite bearing areas of Kerala Coast in South-West India. p.19-28 in:Proceedings of the International Symposium on Areas of High Natural Radioactivity. Pocos de Caldas,
Brazil, 1975.
(2) Gopal-Ayengar, A.R., K. Sundaram and K.B. Mistry. Evaluation of the long-term effects of high background radiation on selected population groups of the Kerala coast. p.31-51 in: Peaceful Uses of Atomic Energy, Vol.11. Proceedings of the Fourth International Conference, Geneva, September 1971. IAEA, Vienna(1972).
(3) Gopal-Ayengar,A.r.,K.Sundaram, K.B. Mistry et al. roceedings of IAEA Symposium on Biological Effects of Low Level Ionizing Radiation. IAEA-SM-202/703,1976
(4) UNSCEAR Report, Annex B, p88, 1982
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ