<大項目> 放射線影響と放射線防護
<中項目> 放射線による生物影響
<小項目> 晩発性放射線の影響
<タイトル>
放射線が寿命に与える影響 (09-02-05-05)

<概要>
 マウス、モルモット等の動物実験により放射線を全身照射すると、寿命が短くなることが知られている。当初、寿命短縮は、自然の老化の促進と考えられた(非特異的寿命の短縮という)。1975年、Walburg Jr.は、被ばく群から白血病胸腺リンパ腫と骨髄性白血病)を除くと、累積死亡曲線が対照群と全く重なることを見つけ、放射線による寿命短縮は腫瘍の誘発とその促進により説明できると結論した。しかしながら、人間については原爆被ばく者の追跡調査等においては、放射線の非特異性は認められていない。
<更新年月>
2002年10月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.動物実験
(1) 線量効果関係
 線量と寿命短縮の関係は、マウスを用いて、よく研究されており、一般的に線量効果関係はほぼ直線型になる。マウスの場合、1Gyあたり4〜7週寿命の短縮が起きる。短縮率で言うと約7%である。
 縦軸に死亡率を対数でとり、横軸に年齢を等差スケールでとると、ほぼ直線になる。これをゴンペルツ関数と呼ぶ( 図1 )。放射線を被ばくすると線量に応じて曲線(直線)が平行に上方に移動する。つまり、被ばくによってある年齢だけ寿命が短縮したことを示す。この寿命短縮は、腫瘍の発生率の増加と潜伏期間の短縮による。
(2) 線量率効果
 一般に、被ばく時の放射線の線量率が下がると、影響は小さくなる。線量率効果の結果は、系統によって異なる。B6CF1マウスでは、線量効果直線の傾きが小さくなる。1Gyあたりの寿命短縮日数は、低線量率照射(2〜20cGy/日)で15.8日で、線量率効果比は、2.4である。一方、RFMマウスでは、低線量域(0.5Gy以下)で寿命短縮が急に大きくなる(LQモデルがあう)が、低線量率では傾きの緩やかな直線型になる(線量効果比は、約2.5)。それ以上の線量では線量率にかかわらず、傾きの緩やかな直線型になる(線量率効果比は、1.2)。この系統では、比較的低い線量で高発する胸腺リンパ腫と卵巣腫瘍が、低線量率被ばくでは激減しており、これらの腫瘍による死亡率が寿命短縮に反映されたと考えられる。近年の環境科学技術研究所での低線量率照射実験では、20mGy/日のガンマ線を400日間連続照射すると約100日の寿命短縮が見られた。その原因は主として胸腺リンパ腫の発生によるものであった。
(3) 年齢依存性
 寿命短縮の大きさは、被ばく時年齢に大きく依存している。マウス(B6C3F1)を用いた実験では、感受性は、新生児期と幼若期が高く、その後年齢と共に低下する( 図2 )。胎生後期は新生時期より影響が小さい。新生時期が感受性が高い理由の一つは、肝腫瘍や肺腫瘍の発生率が他の時期と比べ高いことが挙げられる。マウスの新生時期は人の胎生後期にあたり、人の胎生後期は放射線による寿命短縮のリスクが高いと考えられる。
(4) ローレンツの実験
 1954年、ローレンツは、0.11cGy/日の低い線量率で生涯連続照射すると寿命が延長することを報告した。その後、放射線による寿命延長効果は他の系統のマウスやラット、モルモットでも認められた。しかし、特定の病原菌をもたないSPF(Specific Pathogen Free)動物での実験では、寿命延長は認められなかった。また寿命延長した群でも腫瘍の発生率は対照群に比べ高くなっており、延長の理由は発がん率の低下ではなく、おそらく低線量率被ばくによる免疫系の活性化が関与していると考えられている。
(5) 内部被ばくの影響
 マウスや犬に骨吸収線量にして約10Gy以下のラジウム226Ra)やストロンチウムを内部被ばくさせた場合、寿命は変わらないか延びることが報告されている。それ以上の被ばくでは、骨腫瘍による寿命短縮が見られる。
(6) 高LET放射線とRBE(生物効果比)
 中性子線は、低線量で大きく寿命を短縮させる。線量効果関係は、0.5Gy以下では直線型が、それ以上では上に凸の曲線となる。線量率が低くなっても影響は変わらないか、高線量域ではむしろ影響が大きくなる(逆線量率効果)。RBEは、線量率が低くなるほど大きくなり、3〜50である。
2.人の疫学調査
 人のデータは、原爆被ばく者、職業被ばく集団の追跡調査から得られる。
(1) 原爆被ばく者
 原爆被ばく生存者の死亡調査のデータをもとに2Gy以上被ばくした人の平均寿命を計算した結果、白血病やその他のがんによる0歳時の寿命短縮は男性で約3年、女性で約2年、がん以外の疾患による場合はそれぞれ、約0.4年と約0.3年であった。また、寿命短縮は線量に比例していた( 表1 )。
(2) 放射線科医師
 1950年代に米国の放射線科医師の寿命が調査され、放射線に被ばくしない内科医より寿命が5年短いと報告された。その後の調査でも、眼科・耳鼻咽喉科の医師に比べてリスクが大きいことが示された。しかし、1940年以降放射線科医になった医師の寿命は短くなっていない。これは、放射線防護の対策が行われたことによる。日本においても同様の結果が報告されている。
(3) 低線量放射線による寿命延長
 高バックグランド地方に住む人々、核施設や原子力潜水艦に従事した人々は、しばしば低い死亡率を示すが、原子力産業で働いている作業員では骨髄性白血病のリスクが高いという報告もある。
 人は放射線で寿命がどれくらい短くなるのか、また低線量放射線で寿命は延びることがあるのかなどについては、まだ論争が多いところがあり、さらに今後の研究が必要である。
<図/表>
表1 線量あるいは爆心地からの距離と平均余命
図1 γ線1回照射を受けたマウスの年齢別死亡率
図2 寿命短縮に関する感受性の年齢依存性

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<関連タイトル>
放射線ホルミシス (09-02-01-03)
放射線と寿命 (09-02-01-04)
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がん(癌) (09-02-05-03)
動物実験と人間への外挿 (09-02-08-05)

<参考文献>
(1) Storer,J.B.,Serrano,L.J.,Darden,E.B.,et al.: Radiation Research 78,122-161(1979)
(2) Thomson,J.F.,Williamson,F.S.,Grahn,D.,and Ainsworth,E.J.: Radiation Research 86, 573-579(1981)
(3) Sasaki,S.:J.Radiat.Res.,32,Suppl.2,73-85(1991)
(4) Cologne,J.B.Preston,D.L: The Lancet,356,303-307(2000)
(5) 菅原 努(監修)、青山 喬(編著):放射線基礎医学(第9版)、金芳堂(2000)
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