<大項目> 放射線影響と放射線防護
<中項目> 放射線による生物影響
<小項目> 生物効果の基礎原理
<タイトル>
放射線生物効果の年齢依存 (09-02-02-18)

<概要>
 生物体の放射線に対する感受性は被ばく時の年齢により異なり、一般に幼若なものほど放射線感受性が高い。これは幼若なものほど盛んに分裂している細胞が多く、このような細胞の方が緩やかに分裂しているものや休止しているものよりも放射線の致死作用や発がん作用に関する感受性は高いことによる。放射線のがん誘発効果に関しても、原則的に幼若なものほど感受性が高いといえるが、胎児期にはその原則が当てはまらず、またがんの種類によっては原則から外れるものもある。遺伝的影響に関しての放射線感受性についてはあまり調べられておらず、遺伝有意な被ばくであれば年齢に依存しないとして扱われている。
<更新年月>
2002年10月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.放射線生物効果の年齢依存の一般的特徴
 生物の特徴の一つは寿命があることであり、年齢は特定生物個体の性質を考えるときのきわめて重要な因子である。放射線の生物学的効果も被ばく時の年齢により異なる。一般的には、幼若なものほど放射線に対する感受性が高い。即ち、盛んに分裂をしている細胞の方が緩やかに分裂している細胞や休止している細胞よりも放射線の作用に関する感受性が高く、また幼若な個体ほど盛んに分裂している細胞が多いからである。しかし、生物では実際にはそれほど単純ではなく、放射線生物影響の指標に何を選ぶかによって多様な様相を示す。以下に確定的影響確率的影響に分け年齢依存を概観するが、確定的影響について最近の研究はほとんどない。
2.確定的影響
 全身に大線量を急性被ばくすると生物体は死に至る。マウスのX線 一回照射による骨髄死の半致死線量LD50を指標にした放射線感受性は、幼若時に一度ピークがあり、その後低下して老齢になって再び高くなっている( 図1 )。他方、一定線量照射後の生存時間と年齢との関係はやや複雑である。マウスに約8Gy照射後の生存時間で感受性を表すと、感受性は出生直後にはかなり低いが、4週間までに急速に高まり5週間以降は再び徐々に低下する。
 個々の臓器に対する影響は、その臓器の生理的状態により異なる。例えば骨や軟骨は成長期には感受性が高く、成熟すると感受性は低下する。逆に、生殖腺被ばくによる生殖能力の喪失のしきい値は年齢が進むと低下するため、見かけの感受性は年齢と共に高まるといえる。
3.確率的影響(がん)
 自然の発がん率は年齢を経るに従って増えるが、放射線は自然発生がんの頻度を高めるといわれている。このことから推察されるように、放射線誘発がんにも年齢依存性がある。しかし、通常被ばくとがんの発生までの間には長い潜伏期間があり、年齢依存性も単純ではない。人での放射線誘発がんの年齢依存に関し、放射線影響研究所の清水らの広島・長崎における疫学調査の結果から、以下のように推定されている。
 放射線により誘発される致死がんの発生は、腫瘍の種類に依存して、被ばく時年齢ならびに死亡時の年齢である到達年齢と共に変わる。一般的には若い人ほど罹患率が高い。たとえば女性の乳房の罹患率は、0〜9歳での被ばくで最も高く、10〜19歳ではやや低下し、20〜39歳ではさらに低下するが、40歳以降は大幅に低下する。また、甲状腺疾患の発生リスクは0〜9歳では非常に高く、10〜19歳でも高いが、20歳以降は急速に低下する。この傾向は全てのがんによる死亡の相対確率の推定値にも認められる( 表1 )。たとえば、白血病以外の全てのがんの相対リスクは被ばく時年齢が10歳以下の場合では、対照者の2.32倍となっている。
 米国のBEIR報告では、基本的に清水らのデータを用い、修正相乗予測モデルで0.1 Sv被ばく後の米国人集団の年齢別過剰生涯死亡確率が計算されている( 表2 )。それによれば、大部分のがんは被ばく時年齢によって死亡確率が大きく変動する。たとえば、消化器がんと乳がんでは年齢の増加に伴い一貫して減少するが、呼吸器のがんでは中年の年齢域で増加している。
 ICRP 60では清水らのデータを用い、相乗予測モデルで、0−90歳、0−19歳、20−64歳の年齢群別に、日本人集団の各臓器の致死がんの相対確率を男女平均値として計算した( 表3 )。年齢群による致死がんの相対確率は臓器によって異なり、個々の臓器のリスクの合計としての総確率が年長者群(20−64歳)と若年者群(0−19歳)とで係数約3となっている。
 動物実験による放射線影響研究でも年齢依存性が研究されている。放射線医学総合研究所の佐々木は、幼若期被ばくに着目し、放射線晩発影響の年齢依存に関する実験研究を精力的に行ってきた。マウスの寿命短縮を指標とした放射線感受性の年齢依存に関する観察結果を 表4 に示す。一般に幼若期の被ばくでは寿命短縮が著明であるが、胎児期被ばくではむしろ新生児期よりも低くなっている。なお、マウスの新生児期は人の妊娠後期に当たると考えられている。主として寿命短縮に寄与している要因は悪性腫瘍の発生であるが、個々の臓器の腫瘍発生における年齢依存性には一般論はないようにみえる。すなわち、骨髄性白血病では生後100日で感受性が最も高い( 図2 )が、下垂体腫瘍の発生は胎児期に感受性が高く( 図3 )、肝腫瘍の発生では新生児期被ばくで感受性が高い。
4.確率的影響(遺伝障害)
 放射線の遺伝的影響に関しては、人間を対象とした研究では統計的に有意な影響が認められた例はない。すなわち、広島・長崎での被ばく者を対象とする疫学調査でも遺伝的影響が明らかであるという結論は得られていない。したがって、被ばく時年齢と遺伝的影響の関係については全く分かっていない。動物実験でも、被ばく時年齢と遺伝的影響に着目した生物効果との関係を調べるための研究はほとんど行われていない。遺伝的に有意な被ばくであれば被ばく時年齢の影響は特段考慮に入れる必要がないものと考えられる。
<図/表>
表1 原爆被ばく時の年齢と到達年齢別の1Gy被ばく後の種々の部位における致死がんの相対確率
表2 低LET放射線による0.1Svの急性全身均等被ばく後の過剰生涯死亡(米国人集団)
表3 年齢群別の臓器の致死がんの相対確率(日本人集団、男女の平均値)
表4 マウスでのガンマ線照射による寿命短縮における照射時年齢の影響
図1 マウスでの急性被ばく効果(半致死線量LD50)の年齢依存
図2 寿命短縮に関する感受性の年齢依存性
図3 雌B6C3F1マウスにおける発ガン感受性の年齢依存性

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<関連タイトル>
ICRP1977年勧告によるリスク評価 (09-02-08-01)
国連科学委員会(UNSCEAR)によるリスク評価 (09-02-08-02)
BEIR-Vによるリスク評価 (09-02-08-03)
ICRP1990年勧告によるリスク評価 (09-02-08-04)

<参考文献>
(1)菅原 努(編):放射線細胞生物学、朝倉書店(1968年)
(2)日本アイソトープ協会(編):ICRP Publication 60、丸善(1992年)
(3)UNSCEAR 報告書(国連科学委員会)、(1994年)
(4)NAS,BEIR-5報告書 1990年
(5)Sasaki,S.:J.Radiat.Res.,32;Suppl.2,73-85(1991)
(6)Sasaki,S.:Radiat.Environ.,30,205-207(1991)
(7)放射線被曝者医療国際協力推進協議会(編):「原爆放射線の人体影響1992」、文光堂(1992)
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