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<概要>
 生物は生殖作用によって代々その種や個体の生命が系統として維持される。多細胞生物では有性生殖が最も普通であり、高等生物では両性生殖、すなわち、雄性と雌性の配偶子(精子と卵子)が癒合して両者のDNAが合体する受精という現象によって生じる新生細胞(接合子)が新しい生命力を備え、活発に増殖することによって新しい個体における組織・器官の形成や成長を達成する。生物個体の中で生殖に与る器官は生殖器官とよばれ、その中には配偶子の生産を担う組織として、雄性細胞の精子を生産する精巣や雌性細胞の卵子を生産する卵巣が存在する。 通常の細胞生産は有糸分裂によっておこなわれるが、精子と卵子は減数分裂という特別の分裂法で染色体を半減した細胞(半数体)として生産される。
<更新年月>
2002年10月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.生殖と生殖細胞
 生物学における生殖の意義は、新しい世代の細胞や多量の細胞から構成される新しい生物個体を生産することである。生殖は生物個体の生活環の一部であり、親から受け継いだ遺伝子(DNA)のプログラムに従って達成される個体の発生、誕生、成長、成熟によって再び遺伝子を次代に引き継ぐことである。この世代を経た遺伝子の継承目的遂行のために特別に生殖器官で形成される細胞が生殖細胞である。個体の生命は、両親の生殖細胞(精子と卵子)に分配されたDNAを必要な遺伝情報として受け取ること、すなわち、受精からはじまり、受精卵である一個の細胞がその遺伝情報をコピーしてその遺伝情報の作用を充分遂行することが出来るように細胞分裂をおこない増殖することから始まる。新世代における細胞増殖は、の癒合ばかりでなく卵子の細胞質があって初めて進行する。真核細胞では、有糸分裂または減数分裂という2種の細胞核分裂機構によってDNAが次世代の細胞に配分される。
2. 有糸分裂と減数分裂
 真核細胞では、細胞分裂の際にDNAを主成分としてそれをタンパクが包みこんだ形の染色体を形成し、それを均等に2分してDNAを娘細胞に振り分けている。生体を構成する体細胞に起こる有糸分裂では、個々の染色体を始めとして核や細胞質など細胞成分がすべて2分されるので、親細胞が保有している染色体構成や細胞質に備わる機構や機能もそのまま新生細胞に受け継がれる。つまり、遺伝的には全く同一の細胞が生産される。受精卵の発生、組織/器官形成、さらには個体の成長ならびに再生組織における機能細胞の生産、損失補充はすべて有糸分裂によって賄われる。有糸分裂過程には、前期、中期、後期、終期の4つのステージが順に継続しておこり、核分裂の終了後に細胞質の分裂が起こり、細胞は完全に2分される。これに対して減数分裂は、生殖細胞にのみ起こる特殊な分裂形態で、有性生殖をする生物では配偶子(精子と卵子)が癒合・合体する受精という現象により必然的に起こる遺伝物質の倍加(=染色体の倍加)を防ぐため、あらかじめ生殖細胞の遺伝因子を1/2に減らした半数体にするための特殊な分裂法である。通常、2回の細胞分裂が続いて起こり、前または後のどちらかで染色体数を半減させる。精(卵)巣組織で精原(卵原)細胞は有糸分裂で増殖し精母(卵母)細胞を作るが、1ヶの精母細胞は減数分裂して4ヶの精細胞を生産し、精細胞が変形して精子となる。他方、1ヶの卵母細胞は減数分裂により1ヶの大きな卵細胞と3ヶの小さな半数体の核だけ残る極体を生産する。ヒトの精子には、22本の体細胞染色体と1本のXまたはYの性染色体が含まれ、卵子には22本の体細胞染色体とX染色体が1本含まれる。精子および卵子に含まれる22本の体細胞染色体は受精により合体してそれぞれ1組の相同染色体対となる(染色体の構成<09-02-02-03>参照)。因みに、有糸分裂と減数分裂はほとんどの生物学の教科書および参考書に記載されている。
3.相同染色体と減数分裂
 相同染色体とは、通常、倍数体と呼ばれる体細胞を構成している複数の染色体の中でサイズ、形、腕の縞模様(バンドパターン)などが全く同一と見られる1対の染色体組で、一方は父方、他方は母方由来の染色体である。相同染色体はサイズが同じであるため、染色体が分裂時に2ヶに分離するための糸状タンパクである紡錘糸が付着する部分,すなわち中心粒(セントロメア)の位置、腕のバンドの位置、保有する遺伝子の位置などが一致していると考えられる( 図1 )。減数分裂の特徴は、体細胞染色体数(2n)が半減(n)することで、それは2本の相同染色体が互いに接合することによって達成される。2本の染色体はそれぞれ2本の染色分体(クロマチド)から構成されているから、接合によって4本の染色分体が絡み合う。相同染色体は互いに染色体の相同部分を接合させることが可能なため、接合することによって4本の染色分体の部分的な相互交換が可能になる。これは染色体腕の交叉(クロッシングオーバー)として、ショウジョウバエでは古くから証明されている現象であり、これによって親の染色体に存在した対立遺伝子の古い組み合わせは交叉という現象により新しい組み合わせに組替えられることになる。組替えの終わった4本の染色分体は2回の減数分裂過程を通じて4ヶの生殖細胞に1本づつ配分される。すなわち、減数分裂は単に染色体数の半減を達成するばかりでなく、生殖細胞に新しく遺伝子を組替えられた染色体を提供する重要な役割を果たしている。つまり、この生殖細胞を生産する減数分裂法によって遺伝子の新たな組み合わせをつくり、生物の多様性と適応性を新たに創り出す基本原理の一つとなっている。
<図/表>
図1 相同染色体の接合
図1  相同染色体の接合

<関連タイトル>
細胞の構成 (09-02-02-01)
染色体の構成 (09-02-02-03)
体細胞と組織構成 (09-02-02-04)
放射線の細胞への影響 (09-02-02-07)
放射線の生殖腺への影響 (09-02-04-03)

<参考文献>
(1)岡田要(編):実験発生学、裳華房(1961年)
(2)日本発生生物学会(編):初期発生における細胞,岩波書店(1971年)
(3)バリンスキー(著)林雄二郎(訳):発生学、岩波書店(1977年)
(4)伊藤隆(著):組織学、南山堂(1977年)
(5)妹尾左知丸ほか(編):哺乳動物の初期発生−−基礎理論と実験法、理工学社(1980年)
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