<大項目> 放射線影響と放射線防護
<中項目> 放射線による生物影響
<小項目> 生命と放射線
<タイトル>
放射線と寿命 (09-02-01-04)

<概要>
 半数の人が致死に至る線量(LD50)の放射線を一度に被ばくして死を免れた生残者の場合、余命は被ばくしなかった場合の50%に減少するという。
 急性であれ慢性であれ、放射線被ばくを受けると通常5−20年にも亘って何らかのかたちで健康状態に影響が出るといわれる。この効果を放射線の「晩発効果」といって、発がん、組織障害、遺伝的障害などを起こす。放射線事故などで致死に至らない被ばくを受けた場合、よくこの晩発効果が問題とされるが、「寿命短縮」も放射線の「晩発効果」として国際放射線防護委員会(ICRP;1966)において「非特異的老化現象を早めるリスクがある」として認められている。しかし、寿命短縮が高線量の急性被ばくによって起こるという研究結果が多いことから、寿命短縮論に対する反論も多い。最近は、低線量被ばくの影響研究のなかで、「放射線の寿命短縮効果」を確かめることも研究の重要な視点となっている。
<更新年月>
2004年02月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 人間の平均寿命は、食生活、生活様式、生活環境、社会環境、気候風土等に関係していると考えられるが、科学技術の発達によってもたらされた現代の生活様式、その中に深く入り込んだ科学技術が人間の寿命の長短に影響をもつと心配されるものがある。その一つが放射線であろう。
1.寿命短縮効果
 放射線が寿命短縮を引き起こすことを最初に動物実験で報告したのはRussとScott(1939)といわれているが、その後、1940年代にアメリカでは原爆の製造という政策に関連して被ばく実験が大規模に行われ、この調査研究から被ばく線量が多くなるほど被ばくした動物の生存期間は短くなることが明らかになった。図1はこれらの研究の結果の一部で、急性放射線被ばく実験でほぼ 50%致死線量 (7.5−7.85Gy) を与えられ運良く30日以内に放射線死を免れたマウスの死亡率は、時間が経過すると一時的に低くなるものの被ばく後5,6ケ月以上経過すると死亡率は再び上昇して、被ばくしなかったマウスに比べて10倍近く死亡率が上昇したことを示す。この研究で被ばく後長期間が経過して観察される死亡原因には、がんや退行性病変が多く、放射線に起因する特定の疾患によるものはなく自然老化に類似しているという所見から、当時の研究者は放射線による寿命短縮は老化の促進に相当すると結論した。そのため、老化のモデルとして医学や生物学の興味を呼んだといわれる。さらに、1956年には、過去24年間、計82,441人の医師の死亡記事を分析して、放射線科の医師は放射線と接触のない医師に比べて5.2年の寿命短縮があるという報告(Warren)が発表された。この報告の結論はさらに疫学の専門家(Seltser & Sartwell, 1958)によって再検討されることになり、アメリカの5つの医医学会員医師の長期にわたるぼう大な死亡調査が行われた。その結果得られた結論は、被ばく機会の多い順序で医師に高い死亡率が観られ、集積被ばく線量の大きい高齢者で死亡率は最も高くなったというものである。その後、この結論は国際放射線防護委員会(ICRP)の関心を引く結果となり、1966年の同委員会が出版した報告書(ICRP Publication 9,1966)には「晩発性の身体的影響白血病を含む悪性腫瘍白内障、皮膚障害、生殖能力障害と恐らく非特異的老化を含む」と記載され、委員会は「そのリスクを容認できるレベルまで制限する」対象として取り扱っている。
2.寿命短縮の要因と研究
 放射線による寿命短縮の要因として通常は、物理学的要因と生物学的要因が考えられる。前者における因子としては、1回の照射線量、分割照射の場合はその回数およびその間隔、照射線量率、全集積線量、線質などが挙げられるが、エックス線やガンマ線1回照射の場合は線量の増加に対して短寿命効果は直線的に増加する。
 その増加率は1Gy当り約7%、また中性子線照射では短縮効果は3−4Gyまでで頭打ちとなる。他方、生物学的な因子は、生物種、系統、性、被ばく時の年齢などが知られている。中でもその種および系統が本来持っている寿命の長短が放射線に対する感受性と相関があるとみられ、本来寿命の長いものは感受性が低く、性差による感受性はメスのほうが高いという報告が多いようである。また、年齢差では年齢の増加とともに感受性は高くなる傾向にある。寿命短縮の研究は照射後の時間経過にしたがって死亡率の変動を求めてそれをプロットする所謂「累積死亡率曲線」、「生存曲線」などを作成すると容易にその短縮状況が判定できる。年齢別死亡率曲線ではゴンペルツ曲線がよく用いられる。この曲線は数式化が完成しているので、その結果による理論化が可能であるところから多くの研究者が利用している。
 放射線による寿命短縮効果の研究は、高線量照射による動物実験では有意な差が得られる場合が多いが、必ずしも効果があるとは見られない。特に、ヒトの被ばく集団に関するデータは、職業被ばく集団(医師、技師)、放射線治療患者集団(がん患者、その他)、原爆被ばく集団と核実験による住民の被ばく集団(長崎、広島、マーシャル群島など)から得られているが、被ばく様式、集団のサイズ、観察方法等がそれぞれ異なるので同一に論ずることは不可能である。近年、原爆被ばく生存者に関するデータ解析が注目されたが、1959−1978年に及ぶJoblonとKatoの調査結果では、がん以外の全死因による死亡率は被ばく年齢にも関係なく、非特異的寿命の短縮は観察されず、放射線による寿命短縮説を支持する結果は得られなかった(図2)。しかし、2Gy以上被ばくした原爆被ばく者ではリンパ球の増殖能が年齢とともに低下するという報告(秋山ら、1983)、さらに清水、加藤ら(1991)の調査で原爆被ばく者の若年被ばく群に1965年以降がん以外の疾患による死亡リスクの過剰が認められた報告がある。このことは、放射線の晩発効果の研究として、生物個体の寿命ばかりでなく、種々の組織細胞の寿命研究も進められることが必要であることを予測させる。細胞の寿命研究の対象として細胞の染色体に見られるTelomereの減少が関連するといわれ、研究が盛んに行われている。そこで寿命短縮に関する低線量放射線の影響研究が求められるが、「放射線ホルミシス」という現象も観察されている中で益々複雑な展開となる。結局、細胞寿命短縮効果は最終的には個体寿命短縮効果に繋がるという視点からも着実な発展が期待される。
<図/表>
図1 原爆実験からのγ線に被ばくしたマウスの急性死(被ばく後30日)と晩発死(Furthらより)
図2 がん以外の全死因による死亡率(被ばく年齢別)

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<関連タイトル>
放射線が寿命に与える影響 (09-02-05-05)
生命進化における放射線 (09-02-01-01)
放射線と生物の適応応答 (09-02-01-02)
放射線による骨髄の損傷(骨髄死) (09-02-04-06)
放射線による腸管の損傷(腸死) (09-02-04-07)
放射線による中枢神経障害(中枢神経死) (09-02-04-08)

<参考文献>
(1)松平寛通(監):放射線ホルミシスI、ソフトサイエンス社(1990)
(2)松平寛通(監):放射線ホルミシスII、ソフトサイエンス社(1993)
(3)菅原 努(監):放射線基礎医学(第9版)、金芳堂(1993)
(4)近藤宗平:改訂新版−人は放射線になぜ弱いか、講談社(1991)
(5)Proctor CJ, Kirkwood TBL, 2002. Modelling telomere shortening and the role of stress. Mechanism of Ageing and Development, 123,351-363.
(6)Gary Van Zant and Gerald de Haan, 1999. Genetic control of lifespan: studies from animal models, ISSN 1462-3394, Cambridge University Press. http://www.-emm.cbcu.ac.uk
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