<大項目> 放射線影響と放射線防護
<中項目> 環境中の放射能
<小項目> 環境放射線による被ばくおよびその評価
<タイトル>
人工放射線による被ばく (09-01-05-06)

<概要>
 環境中の人工放射線(能)の主な起源として、大気圏核実験、原子力発電に伴う核燃料サイクル、放射性同位元素の利用、原子炉事故等がある。人工放射線による被ばくの形態は、放射線の種類、放射性核種の物理的、化学的性質により異なる。14C、3H等の純粋β放射体では内部被ばくが主要な被ばく経路であるが、β線のほかにγ線を放出する137Cs、106Ru等では外部被ばく、内部被ばくともに重要となる。一般人が人工線源から受ける被ばくとしては、医療用診断の際に受ける線量が圧倒的に多いが、環境中の放射能に限定すると、核実験により生じた放射能からの被ばく線量が大きい。
<更新年月>
2012年02月   

<本文>
 環境中には人間の活動により造り出された人工放射能、人工放射線が存在し、これらから人間は様々なかたちで被ばくしている。主な人工放射線源として、大気圏内核実験により生成され環境中へ移行した放射能(フォールアウト放射能)、原子力発電を中心に核燃料サイクルの各段階で環境に放出された放射能、放射性同位元素の利用、原子炉事故などが挙げられる。その他、核兵器製造、地下核実験、アイソトープ電池を使った人工衛星の落下による地域汚染事故、そしてトリチウム(3H)やプロメチウム(147Pm)を用いた夜光時計や煙感知器等の微量放射線を放出する一般消費材、また、医療用や研究用の放射線利用施設からの漏洩放射線が存在する。
 これら様々な人工放射線からの被ばくは、人体の外部の放射線源による外部被ばくと、人体の内部に取り込まれた放射性物質による内部被ばくに大別される。外部被ばくは、空気中に存在する放射性物質からの被ばくと、地面や建物等に沈着した放射性物質からの被ばくに分類される。
 通常、地面や建物等に沈着した放射性物質は、空気中の放射性物質に比べて生活環境中により長い期間存在するため、これによる被ばく線量の方が大きい。また、内部被ばくについては、呼吸器を通して放射性物質が体内に取り込まれる場合を吸入摂取、食物や飲料水から消化器を通して取り込まれる場合を経口摂取という。放射性核種が混入している物質の性状によって、吸入され易いものと経口摂取され易いものとがある。
 外部被ばくで問題となる放射線は、透過力の大きいγ線やX線、中性子線である。場合によっては、β線からの皮膚への被ばくが問題となることもあるが、一般には、空気や環境中の物体で容易に遮蔽されるα線やβ線からの外部被ばくは重要ではない。
 一方、内部被ばくにおいては、α線やβ線は放出された線源のごく近傍でエネルギーを失うため、体内に取り込まれた線源が存在している器官や組織に集中的に線量を与える。また、体内の線源から放出されたγ線は、線源が存在する器官、組織以外にも被ばくを与える。
 これらの人工放射線による世界規模の集団実効線量が、推定値ではあるが「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」(UNSCEAR)の報告書にまとめられている。
(1)核実験に起因する放射能からの被ばく
 核爆発により生成される放射性核種は数100種類に及ぶが、その大部分は半減期が短かったり、生成量が少なかったりして、人間の被ばくに重大に関与する核種は数核種に限られる。重要な核種として14C、137Cs、95Zr、90Sr、106Ru、144Ce、3H、131I、プルトニウムが挙げられる。
 このうち14C、90Sr、3Hは純粋なβ放射体、239Puや240Puなどのプルトニウムはα放射体であるため内部被ばくのみが重要である。それ以外の核種は、崩壊する過程でβ線に加えてγ線やX線を放出し、内部被ばくと外部被ばくの両方が問題となる。ただし、95Zrは半減期が比較的短く、体内に摂取される前に減衰してしまうため、外部被ばくが主な被ばく経路となる。内部被ばくの場合は、放射性物質の摂取経路と核種により被ばくしやすい器官、組織が異なる。例えば吸入の場合には、主に肺が被ばくする。経口摂取では、90Srは骨と骨髄に、131Iは甲状腺に集り易く、それぞれが集中的に被ばくする。一方、比較的全身に均一に分布する性質のある14C、137Cs、3Hの場合には、全身が被ばくする。
 上記の核種による世界平均年間実効線量は、14C(半減期5730年)など半減期の長い核種については将来10000年後までの人類の被ばくを考慮して、2494μSvになると推定している。
 これまでに、地球上と大気圏において、合わせて2000回以上の核実験が行われた。これによる、1945年〜2005年の期間の世界平均でみた一人当たり実効線量推定値を図1に示す。
(2)原子力発電に伴う核燃料サイクルによる被ばく
 原子力発電を中心にして、採鉱と精錬、ウラン燃料加工、原子炉運転、燃料再処理があり、これらの一連の流れは核燃料サイクルと言われている。核燃料サイクルの各段階で、気体や液体の形で少量の放射性物質の環境への放出がある。これらの放射性物質は、フォールアウト放射能とほぼ同様の経路で人間に被ばくを与える。被ばく量の観点から重要な核種として、希ガスヨウ素14C、137Csなどが挙げられる。
 ウランの採鉱、精練等により生ずる鉱滓からは、気体状の放射性核種である222Rnとその崩壊により生ずる娘核種が様々な放射線を放出しており、これらの核種を気体またはエアロゾルの形で吸入することにより肺が被ばくする。222Rnの親核種である238Uは長半減期(4×109年)であるため、鉱滓に対して適当な処理を施さない場合、長期間にわたる被ばく源となる。222Rnとその娘核種からの被ばくは、自然放射線からの被ばくにおいても主要な部分を占めている。
 原子炉運転及び燃料再処理においては、希ガス、3H、14C、ヨウ素などの放出がある。希ガスは、不活性であるため体内にとりこまれても沈着する割合は少なく、外部被ばくが主な被ばく経路となる。ヨウ素には、131Iの他に、長半減期のため再処理工場からの放出が問題となる129Iも含まれる。
 これらの核燃料サイクルにおいて公衆が一人当たり受ける年間被ばく線量は、UNSCEARの2008年報告書によると、採鉱と精錬で25μSv、燃料製造で0.2μSv、原子炉運転で0.1μSv、再処理で2μSvと報告されている(表1)。また、2000年〜2002年の核燃料サイクルにおける職業被ばくは、作業者数66万人、年集団線量800人・Sv、年平均実効線量1.0mSvであった(表2)。
(3)原子炉事故に伴う公衆の被ばく
 これまで放射性核種を環境に放出するような事故は数件発生しているが、その中で最大規模の事故はチェルノブイリ原子力発電所(旧ソ連)の事故である。この事故で放出された放射性核種による世界の集団実効線量は約60万人Svと推定されている。その他に、スリーマイルアイランド原子力発電所(アメリカ)の事故、ウィンズケール原子炉(イギリス)の事故などがあるが、それらによる集団実効線量はずっと少ない。なお、2011年3月の東京電力福島第一原発事故ではヨウ素換算値で約57万〜77万ベクレル相当の放射性のヨウ素とセシウムが大気中に放出されたと推定されている(「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」中間報告(2011年12月))が、2012年2月時点で、この放出による集団実効線量の推定値は報告されていない。(注:セシウム137のヨウ素換算値は「セシウム137のベクレル数×40」で算定される。)
(4)その他の放射線源からの被ばく
 電源としてアイソトープ電池(238Pu)を搭載した人工衛星の大気圏への再突入による地域汚染事故に伴う集団実効線量も推定されており、スナップ9A、コスモス954などの人工衛星について、それぞれ2100人Sv、20人Svとされている。
 夜光時計や静電防止装置、煙感知器等、ラドン温泉器、排気ガス浄化装置など生活用品のなかにも放射線を放出する性質を持つものがある(表3)。これらの場合、線源が密閉されているため使用者に対しては外部被ばくのみが問題となるが、製造過程では作業従事者の内部被ばくも問題となる。
 医療や研究の目的で用いられる加速器や原子炉等の放射線利用施設からも、きわめて少量の放射線が漏洩し、施設近傍での被ばくの原因となる。加速器では漏洩放射線による外部被ばくが考えられる。実験用原子炉からは少量の放射性物質が放出され、発電用原子炉と同様の被ばくを与える。しかし、いずれの施設においても放射線管理体制が法律で義務づけられている。
 一般人が人工線源から受ける被ばくとしては、医療用診断の際に受ける線量が圧倒的に多く、その量は増加傾向にあるが(図2)、環境中の放射能に限定すると、核実験により生じた放射能からの被ばく線量が大きい(表4)。
(前回更新:2004年8月)
<図/表>
表1 原子力平和利用に基づく一人当たり年間線量
表2 世界の職業被ばく(2000〜2002年)
表3 生活用品その他による公衆の被ばく線量−安全側評価値
表4 人工放射線源による年間個人被ばく線量
図1 核実験による世界の一人当たり年間実効線量の推定値(1945〜2005年)
図2 各種線源による世界の一人当たり年間実効線量

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
天然の放射性核種 (09-01-01-02)
人工放射線(能) (09-01-01-03)
放射線による外部被ばく (09-01-05-01)
内部被ばく (09-01-05-02)
自然放射線による被ばく (09-01-05-04)
世界における人工放射線による放射線被ばく (09-01-05-07)

<参考文献>
(1)United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation (UNSCEAR): UNSCEAR 2008, Report Vol. 1 SOURCES OF IONIZING RADIATION, Volume I: Report to the General Assembly
(http://www.unscear.org/unscear/en/publications/2008_1.html)
(2)United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation (UNSCEAR): UNSCEAR 2008, Report Vol. 1 SOURCES OF IONIZING RADIATION, Annex B: Exposures of the public and workers from various sources of radiation
(http://www.unscear.org/unscear/en/publications/2008_1.html)
(3)放射線医学総合研究所(監訳):国連科学委員会報告「放射線の線源と影響」、1993年版、(株)実業公報社(1995)
(4)原子放射線の影響に関する国連科学委員会(編)、放射線医学総合研究所(監訳):放射線の線源と影響、原子放射線の影響に関する国連科学委員会の総会に対する2000年報告書、上下巻、実業公報社(2002年3月)
(5)酒井一夫、米原英典:UNCEAR2008年報告書、第59回原子力委員会資料第1号、
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2010/siryo59/siryo1.pdf
(6)丹羽太貫:第56回国連科学委員会報告、放射線科学 Vol.51、No.9、p.4-17(2008)
(7)(社)日本原子力産業協会:電離放射線による世界の平均被ばく線量、UNSCEAR-2008年報告書、http://www.jaif.or.jp/ja/news/2010/UNSCEAR2008report_radiation.pdf
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