<大項目> 放射線影響と放射線防護
<中項目> 環境中の放射能
<小項目> 環境放射線による被ばくおよびその評価
<タイトル>
世界における自然放射線による放射線被ばく (09-01-05-05)

<概要>
 人間は、宇宙線天然放射性核種からの放射線など自然放射線による内部及び外部被ばくを受ける。被ばくの程度は、大地、構築物や食物中・空気中などの放射性核種濃度等多くのパラメータに依存し、地域的、時間的変動もある。自然放射線による年間実効線量は、世界の平均的な値として、宇宙線から約380μSv(外部被ばくのみ)、宇宙線によって生成された放射性核種から約10μSv、地球起源の放射線(大地放射線)のうち外部被ばくにより480μSv、内部被ばくラドンを除く)により290μSv、さらにラドンとその崩壊生成物による内部被ばくにより、すなわちラドン222の吸入から1150μSv、その経口摂取から5μSv、ラドン220の吸入から100μSvを受け、総計約2400μSv被ばくすると推定されている。
 なお、自然放射線による年間実効線量の世界的平均値は、国連科学委員会報告書「放射線とその人間への影響」において、1977年以降今日までに数回(1982、1988、1993、2000年)再評価されているが、2000年版は1993年版を再評価したもので、表現も多少変更された。
<更新年月>
2004年08月   

<本文>
 よく知られているように、自然放射線の強度には時間的、地域的な変動がある。例えば、宇宙線強度は、天体活動に伴う時間的な変動と緯度・高度による地域的変動を示す。また、地球起源の放射線(地殻γ線など)の強度は、地質や建材などの違いに起因する場所的変動のほか、気象条件などの変化に伴う時間的な変動を示す。本項では、国連科学委員会(UNSCEAR)の報告が示した通常のバックグラウンドの地域における自然放射線による一人当りの年間実効線量の推定値について述べる。ここで考える被ばく源は、宇宙線(電離成分及び中性子成分)、宇宙線生成核種(トリチウム、ベリリウム7、ナトリウム22、炭素14)及び原始放射性核種(カリウム40、ルビジウム87、ウラン系列核種、及びトリウム系列核種)とし、何れも外部被ばくと内部被ばくの両方について推定する。
1.外部被ばく
1.1 宇宙線
1.1.1 電離成分
 海面レベルの宇宙線電離成分による空気吸収線量率は、世界の平均的な値として屋外で約31nGy/h、屋内では建物による遮蔽効果を0.8として約26nGy/hである。屋外と屋内での滞在時間比率を0.2:0.8とすると、年間実効線量は世界平均で約280μSvと推定される。
1.1.2 中性子成分
 海面レベルでの宇宙線中性子束密度は1.22×10-2/cm2・secで、1.3×10-2/cm2・secとした場合、実効線量率では9nSv/hである。宇宙線中性子による空気吸収線量率は高度が増すと急激に増加し、高度10〜20kmで極大に達する。この効果と高度別人口分布を考慮すると、世界平均は約100μSvとなる。
1.2 宇宙線生成核種
 食品や飲料水に含まれるトリチウム、ベリリウム7、ナトリウム22、炭素14などの宇宙線生成核種による内部被ばく線量(経口摂取)が10μSvと評価されている。この線量の大部分は炭素14によるものである。
1.3 大地放射線
 土壌や建材中に含まれる原始放射性核種には、前出のカリウム40、ルビジウム87、ウラン系列核種、トリウム系列核種の他、235Uを親とするアクチニウム系列核種や238Uの自発核分裂生成核種なども存在する。これらの核種からのγ線によって外部被ばくが、また、これらの核種を含む食物によって内部被ばくがもたらされる。しかし、後2者の土壌中濃度はきわめて低く、それによる線量も無視し得る程度であるので、ここでは触れない。
1.3.1 屋外被ばく
 41ケ国で実施された屋外空気吸収線量率の実測調査結果を表1−1および表1−2に示す。この表を見ると、各国の屋外空気吸収線量率の平均値は24〜160nGy/hという比較的狭い範囲に収まり、人口で荷重した世界平均値は59nGy/hである。屋外における外部被ばく線量のほとんどは舗装した地表面で生じているが、土壌表面でも幾分生じている。
 一方、地球上には、上述の平均線量率値から外れた特異な地域も存在する。インドのケララ地方には、トリウム濃度の高いモナザイトを含む砂の地域(長さ55km、約7万人が住む)があり、そこでは200〜4000nGy/hの外部被ばくを受けると推定されている。また、ブラジルのエスピリト・サント州大西洋沿岸でおよそ100〜4000nGy/hが代表的なものである。この他にも、ナイル三角州、ガンジス三角州、ケニア海岸、イランのカスピ海沿岸、スウェーデンのウランを含む岩周辺など、いくつかの地域で特異な高放射線線量率が測定されている。
1.3.2 屋内被ばく
 多くの人は屋外に比べ屋内で過す時間の方が長いため、建物内での放射線レベルに関する知識が必要である。しかし、屋内放射線線量率の大規模な実地調査データは屋外に比べて乏しい。41ケ国での実地調査によると、屋内空気吸収線量率(表1−1表1−2)は20〜190で、人口荷重した世界平均は約84nGy/hであった。
 ここで、調査された空気吸収線量率の屋内/屋外比は0.8〜2.0の範囲にあり、屋内の平均吸収線量率が屋外より高いと判断されている。この比は建物の性質(建材、厚さ、配置)に依存するので、屋外データから個々の事例を推測するには限界がある。木造及び軽量材住宅の遮蔽性能は不十分であるが、屋内の空気吸収線量率は屋外より幾らか低くなる。それに対して、煉瓦、コンクリート、石材で造られた重量家屋では、屋外からの放射線を吸収するが、屋内の吸収線量率は主として建材に含まれる自然放射性核種の濃度で決まり、一般に屋内の方が高い。
1.3.3 屋外と屋内の和
 1.3.1及び1.3.2より、屋外、屋内での空気吸収線量率はそれぞれ59、84nGy/hである。今、屋外及び屋内での逗留率を0.2及び0.8とし、空気吸収線量率−実効線量換算係数を0.7とすると、大地放射線による年間外部被ばく線量は
 屋外:59(nGy/h)×0.7(Sv/Gy)×8760(hr/y)×0.2= 70 μSv
 屋内:84(nGy/h)×0.7(Sv/Gy)×8760(hr/y)×0.8= 410 μSv
合計480μSvと推定される。
 この他、土壌や空気中に含まれた天然放射性核種から放出されるβ線、空気中に分布する222Rn(ラドン)、220Rn(トロン)及びそれらの娘核種から放出されるγ線も外部被ばく線量にわずかな寄与をもたらす。
2.内部被ばく
 1988年の国連科学委員会報告では、内部被ばく線源として宇宙線生成核種、カリウム40、ルビジウム87、ウラン系列核種、トリウム系列核種に分けて、ラドンとその崩壊生成物による線量はそれぞれの系列の中で実効線量が評価されていた。しかし、1993年報告では、ウラン系列核種とトリウム系列核種による実効線量はラドンとそれ以外に分けて線量評価され、また、ルビジウム87による線量評価の記述はなくなった。内部被ばく線量して、1年間の標準的な食品と空気の摂取量から預託される実効線量が評価された。
 生物圏に存在する放射性核種は、食物の消化と吸収を通じて人体に入り、内部被ばく源となる。ここでは、天然放射性核種に起因する内部被ばくによって、肺、生殖線、赤色骨髄、骨内膜細胞、その他の組織に生じる吸収線量と実効線量を述べる。
2.1 宇宙線起源核種
 宇宙線起源核種に起因する線量は非常にわずかで、トリチウム、ベリリウム7、炭素14、ナトリウム22が若干の線量寄与をするのみである。
 トリチウムは大半がHTOの形で存在し、食物を通して体内に取り込まれる。核実験前の地表水中放射能濃度は大陸上で200〜900Bq/m3、海水中で100Bq/m3であった。大陸地表水中濃度を400Bq/m3と仮定すると、トリチウムによる年間吸収線量は全ての人体組織について10nGyのオーダーである。年間実効線量は0.01μSvと推定される。
 ベリリウム7は主に葉菜を介して体内に入り、年間組織吸収線量は大腸下部で12μGy、他の組織ではそれより若干低い。年間実効線量は約0.03μSvと推定される。
 炭素14は、14N(n,p)14C反応によって生成される。人体中の14Cの比放射能を230Bq/kgとすると、年間組織吸収線量は5〜24μGy、年間実効線量は12μSvと推定される。
 ナトリウム22による組織吸収線量は赤色骨髄や骨内膜細胞で比較的高いが、何れの組織についても年間0.1〜0.3μGyで、年間実効線量は約0.15μSvと推定される。
 以上より、宇宙線生成核種による年間実効線量は合計13μSv程度と推定される。
2.2 原始放射性核種
2.2.1 カリウム40
 成人男子では、体重1kg当り約2gのカリウムが含まれる。カリウム40(40K)の同位体比は0.0117%であるから、55Bq/kgに相当する。40Kによる組織別吸収線量では赤色骨髄が最も多く(270μGy/y)、年間実効線量は165μSvと推定される。
2.2.2 ウラン系列とトリウム系列の放射性核種
 まず、(1)食品を牛乳製品、肉製品、穀物製品、葉菜、根菜及び果実、魚製品及び水と嗜好飲料の7区分に分け、1年間のそれぞれの食品消費量と空気の摂取量を、成人、子供及び幼児について割り出し(表2)、(2)それぞれの食品中に含まれるウラン系列及びトリウム系列の放射性核種濃度を確定し(表3)、(3)それぞれの放射性核種の単位放射能当たりによる成人の預託実効線量(*1)を算出し(表4)、(4)その値を基に、子供と幼児を含めた世界平均の実効線量が評価された(表5)。その結果、ウラン系列とトリウム系列の放射性核種による実効線量は、経口摂取により52μSv、吸入により10μSvと評価された。
 なお、表2は世界保健機構(WHO)による標準消費率に基づいており、また、表3は多くの調査報告を基に算出されている。
3.まとめ
 以上述べた内容をまとめて、通常のバックグラウンドの地域における自然放射線による1人あたりの年間実効線量の推定値を表6に示す。

[用語解説]
(*1)預託実効線量:放射性物質を体内に取り込んだ個人が、体内から全ての量が排泄されるまでの間に受ける(内部被ばく)線量である。実効線量預託(将来の幾世代にもわたって受ける(内部被ばく)線量)とは異なる量である。
<図/表>
表1−1 大地ガンマ線からの空気吸収線量率(1/2)
表1−2 大地ガンマ線からの空気吸収線量率(2/2)
表2 食品と空気の年標準摂取量
表3 食品および空気中の自然放射性核種の標準放射能濃度
表4 成人に対する単位放射能の自然放射性核種の預託実行線量
表5 自然放射性核種の年齢荷重平均年摂取量とそれによる実効線量
表6 自然放射線源による被ばくの年間実効線量(世界平均)

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<関連タイトル>
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実効線量 (09-04-02-03)
宇宙線の発見 (16-02-01-02)

<参考文献>
(1)放射線医学総合研究所(監訳):国連科学委員会報告「放射線の線源と影響」、1993年版、(株)実業公報社(1995)
(2)原子放射線の影響に関する国連科学委員会(編)、放射線医学総合研究所(監訳):放射線の線源と影響、原子放射線の影響に関する国連科学委員会の総会に対する2000年報告書、上下巻、実業公報社(2002年3月)
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