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<概要>
 人体が放射線にさら(曝)されることを「被ばく(被曝)」という。「被ばく」は、放射線源がどこにあるのかによって分けられ、放射線源が身体の外部にあり体外から被ばくする場合を「外部被ばく」、放射線源が身体の内部にあり体内から被ばくする場合を「内部被ばく」と呼ぶ。人間の生活環境中には、自然放射線宇宙線及び天然放射性核種に起因するもの)と人工放射線(フォールアウト原子力施設などの人間の活動に起因するもの)とが存在するが、一般公衆の生活環境中における外部被ばく線量の大半は自然放射線によるものである。
<更新年月>
2004年08月   

<本文>
1.「被ばく」とは?
 人体が放射線にさらされることを「被ばく」という。これと似た「被爆」という言葉があるが、これは本来「爆撃を受ける」という意味である。原水爆による被害を受けた人を「被爆者」と呼ぶので混同して用いられることがあるが、「放射線を受けた」という意味で使う場合は「被ばく」が用いられる。
2.外部被ばくと内部被ばく
 放射線を身体の外側から受けることを「外部被ばく(または体外被ばく)」(external exposure)と呼ぶ。身体の外側から放射線が来るのであるから、放射線源は身体の外にある。例えば、自然放射線のうち、地殻γ(ガンマ)線(または大地γ線;土壌中に存在する天然放射性核種が放出するγ線のことを示す)や宇宙線(太陽や銀河などの天体活動により発生した荷電粒子などの放射線、それらと空気との相互作用により新たに発生した各種の放射線のことを示す)を直接受けることによる被ばくは外部被ばくである。また、胸部X線撮影や胃の透視検査などによる被ばくも外部被ばくである。原水爆の爆発時に放出される放射線、原子炉や放射線照射装置などで発生した放射線、原子力施設の事故時に放出される放射性雲(放射性プルーム)中の放射性核種が出す放射線なども外部被ばくの原因になる。
 一方、放射性核種が吸入経口摂取によって体内に取り込まれることにより、身体の内側から放射線を受けることを「内部被ばく(体内被ばく)」(internal exposure)と呼ぶ。自然界には天然の放射性核種(U−系列核種、Th−系列核種及び40Kなど)が存在しており、これらは食物中にも含まれている。そのため、食物を食べるときに天然放射性核種もいっしょに摂取され、それらは新陳代謝に伴って体内を通過したり、身体の一部に蓄積したりする。このようにして体内に放射性核種を保有することにより身体の内側から被ばくすることになる。食物摂取以外でも、呼吸によって空気中の天然放射性核種(ラドンなど)を肺に取り込むことで内部被ばくが発生する。天然放射性核種以外では、核実験や原子炉事故などによって居住環境中に放出された放射性核種を食品などと一緒に摂取すること、放射性核種の付着した微粒子を空気と一緒に肺へ吸入することも内部被ばくの原因となる。
3.外部被ばくが問題となる放射線
 外部被ばくは、透過力の強い放射線に関して問題となる。透過力の極めて弱い放射線であるα線の場合は、空気中でそのエネルギーのほとんどを失ったり、人体に到達しても衣服や皮膚の表面で止まってしまうため、外部被ばくは問題にならない。しかし透過力の弱い放射線の線源が体内にある場合は、その放射線のエネルギーのほとんどが体内で失われるため内部被ばくとして問題になる。また、β線はα線に次いで透過力が弱く、皮膚には被ばくを与えるが重要な臓器には到達しないので、外部被ばくでは皮膚のみが対象になる。外部被ばくは、全身を照射することになる透過力の強い放射線(γ線、高エネルギーβ線、中性子など)が主に問題とされる。
 環境中において外部被ばくの原因となる放射線を測定する際には、γ線についてはNaI(Tl)シンチレーション検出器、電離箱、TLDなど、β線についてはGM管有機シンチレータなど、中性子についてはBF3計数管などの検出器が用いられる。
4.環境放射線による外部被ばく線量
 人間の生活環境中には、自然放射線(宇宙線及び天然放射性核種に起因するもの)と人工放射線(フォールアウトや原子力施設などの人間の活動に起因するもの)とが存在する。両者による被ばく線量を比較すると、事故などの特殊な場合を除いて、自然放射線による寄与が大半を占める。自然放射線による外部被ばく線量は、宇宙線については緯度・高度、天然放射性核種起源の放射線については地質、気象条件などに依存し、地域的、時間的な変動がある。図1に国連科学委員会(UNSCEAR、2000)が算定した自然放射線による被ばくの世界平均値を示す。この算定によると、外部被ばくの年実効線量は、宇宙線によるものが約380μSv(直接電離及び光子成分が280μSv、中性子成分が100μSv)、天然放射性核種起源の放射線によるものが約480μSvとなっている。また、自然放射線による被ばくの高い地域の代表的な値との比較を表1に示す。
 日本全国における宇宙、大地からの自然放射線による被ばく線量(ラドンなどによるものを除く)を図2に示す。
 日本人の自然放射線と人工放射線による被ばく線量の平均的な値の算定値を図3に示す。なお、原子力施設に起因する日本人の被ばく線量は実効線量で、年間約0.01μSvと見積もられている。
<図/表>
表1 自然放射線源による被ばくの年間実効線量(世界平均)
表1  自然放射線源による被ばくの年間実効線量(世界平均)
図1 自然放射線源による被ばくの世界平均値
図1  自然放射線源による被ばくの世界平均値
図2 日本全国の自然放射線による被ばく線量
図2  日本全国の自然放射線による被ばく線量
図3 日本国民の環境放射線被ばく線量
図3  日本国民の環境放射線被ばく線量

<関連タイトル>
天然の放射性核種 (09-01-01-02)
人工放射線(能) (09-01-01-03)
フォールアウト (09-01-01-05)
地球上に存在する放射性核種 (09-01-01-06)
内部被ばく (09-01-05-02)
自然放射線による被ばく (09-01-05-04)
人工放射線による被ばく (09-01-05-06)
診断用医療放射線と人体影響 (09-03-04-01)
外部被ばくの評価 (09-04-04-03)

<参考文献>
(1)放射線医学総合研究所(監訳):放射線の線源と影響、実業公報社(1995年)
(2)原子放射線の影響に関する国連科学委員会(編)、放射線医学総合研究所(監訳):放射線の線源と影響、原子放射線の影響に関する国連科学委員会の総会に対する2000年報告書、上下巻、実業公報社(2002年3月)
(3)原子力安全研究協会(編):生活環境放射線、原子力安全研究協会(1992年),p.140-p.143
(4)北畠 隆・森田 皓三:放射線生物学、通商産業研究社(1991年3月)
(5)菅原 務(監)、青山喬(編):放射線基礎医学第8版、金芳堂(1996年2月)
(6)有水 昇(監)、高島 力、増田康治、佐々木康人(編):標準放射線医学 第5版、医学書院(1999年12月)
(7)阿部史朗:わが国における自然放射線被ばく、放射線科学、32(4),109-113(1989)
(8)渡利一夫、稲葉次郎:放射能と人体、研成社(1999年6月)
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