<本文>
日常生活で内部被ばくをもたらす
40Kなどの放射性核種はほとんど食品を経由して体内に摂取される。食品以外に内部被ばくをもたらす可能性のある代表的な物には、(1)煙草、(2)リン酸肥料、(3)土壌を含む建築材の3つが挙げられる。
喫煙者は煙草中に含まれる
210Pb及び
210Poによって被ばくを受ける。両核種の煙草中の濃度は0.02−0.03Bq/gの範囲にあり、その一部が気管や肺を経て体内に取り込まれる。吸い方や煙草の産地等によっても異なるが、目安として煙草を1日20本吸うと仮定した場合、年間で0.2mSvほどの
線量になると見積もられる(文献1)。被ばくが比較的大きくなる組織は肺で(
表1)、平均的な喫煙者の肺では、非喫煙者のそれと比べて、
210Pbの寄与が約1.5倍、
210Poが約3倍になることが観察されている。一方、喫煙者が摂取しているPb及びPoの量は自然に空気から取り込む量の20倍以上あり、喫煙者の肺に含まれる両核種の量が比較的小さいことは、吸入摂取された両核種が速やかに肺から移動し、体外へ除去されていることを示唆している。肺以外の組織では、両核種による線量の増加は明瞭でない。
喫煙者について両核種の代謝を調べた調査研究によれば、
210Poは
210Pbに比べて
軟組織へ移動しやすく、毎日連続して一定量の煙草を吸う条件において軟組織中の濃度が平衡に達する時間は、
210Poで2〜3ヶ月であるのに対し、
210Pbでは数十年を要することが報告されている(文献2)。
リン鉱石の
鉱床は比較的高濃度の
238U系列の放射性核種を含んでいる。そのため、リン鉱石を原料として製造されるリン酸肥料中には
238U、
226Ra、
210Po等の放射性核種が多く含まれている。その濃度は、肥料を製造する工程や鉱石の産地によっても異なるが、
238U系列核種全体で1Bq/g前後のレベルにあるとされる。リン酸肥料を農地等に散布する作業者やその散布地周辺に居住する住民は、散布時の拡散もしくは地表からの舞い上がり等を経路としてこれらの放射性核種を吸入摂取することがある。ただし、こうしたリン酸肥料による内部被ばくが生じる状況は限定され、日本人全体の
被ばく線量への相対的な寄与は小さい。
222Rn(ラドン)は主に地中の
226Raが崩壊することによって生成され、気体となって大気中へ拡散する。その過程でラドンの一部は
娘核種に変わり、
エアロゾルに付着したり水滴に取り込まれる等して、環境中を浮遊、移動する。大気中における挙動は、風向や風速、大気安定度等の気象条件や地形によって大きな影響を受けるが、屋外においては比較的速やかに希釈・沈着し、線量への寄与は小さい。一方、屋内に存在するラドンは、そこに住む居住者に長期間にわたり内部被ばくをもたらすことがある。
屋内にラドンが流入する代表的な経路には、(1)屋外大気中ラドンの開口部からの流入、(2)土壌中
226Raから生じたラドンの床下からの流入、(3)家屋建築材中の
226Raから発生したラドンの拡散、の3つが挙げられる。このうち、建築材からのラドンは、換気の悪い室内において濃度が上昇し被ばくのレベルを大きく高める可能性があり、注意を要する。
226Raを比較的多く含む建築材には、ミョウバン頁岩、軽石又はグラナイトを素材とする軽コンクリートなど天然起源のものや、鉱澤や石膏などの工業産物起源のものがある(文献2)(
表2、
表3)。
建築材中ラドンによる被ばく線量を評価した事例として、リン石膏を使用した住居の住人が受ける線量を試算した報告がある(文献2)。条件設定の根拠等は省略するが、リン石膏中の
226Ra濃度を0.925Bq/g、室内の換気率を1回/hと仮定すると、室内大気中のラドン濃度は0.0074Bq/Lと推定される。ここで1トンの市販鉱石によって作られるすべてのリン石膏が建築業界で使用され、平均寿命が50年の住宅に4人が居住するとのシナリオを仮定した場合、気管−気管支及び肺が付加的に受ける集団線量預託は0.011Sv/トンと推定される。
過去に日本分析センターが実施した国内の家屋内ラドン濃度水準全国調査の結果報告によれば、屋内ラドン濃度は算術平均で15.5Bq/m3、住民の受ける線量として年間平均で約0.46mSvと推定された(文献4)。なお、欧米諸国では、生活習慣の違いもあり、ラドンによる被ばくは日本に比べて数倍高い水準にあり、その低減対策についての検討も進んでいる(文献5)。我が国の社会動向や国民の生活スタイルの変化を考えると、今後の傾向として、喫煙者数の減少に伴い煙草による被ばくが減少する一方で、気密性の高い住宅の増加に伴い建築材からの被ばくが増えることが予想される。
その他、日常生活での内部被ばくを増やす原因として、医療において診断目的で用いられる
放射性医薬品(
99mTc、
111In、
123I等)やポジトロン製剤(
18F(FDG等)の体内への取り込みも挙げることができるが(文献1,3)、それについての解説は別の項に譲る。
(前回更新:2004年8月)
<図/表>
<関連タイトル>
ラドン(自然環境中の放射線源) (08-01-03-12)
放射性医薬品(放射性薬剤)の利用状況 (08-02-04-01)
夜光時計、蛍光灯点灯管、煙感知器など日用品への放射性同位元素の利用 (08-04-02-07)
天然の放射性核種 (09-01-01-02)
地球上に存在する放射性核種 (09-01-01-06)
食品中の放射能 (09-01-04-03)
各種食品中の放射性核種の種類と濃度 (09-01-04-04)
日常の食生活を通じて摂取される放射性核種の量 (09-01-04-05)
自然放射線による被ばく (09-01-05-04)
<参考文献>
(1)町末男、佐々木康人(編):放射線の世界2008、日本原子力文化振興財団(2008)、pp.34-47
(2)原子力放射線の影響に関する国連科学委員会(編):「放射線の線源と影響(1977年国連科学委員会報告書)」、放射線医学総合研究所(監訳)(1978)
(3)原子力放射線の影響に関する国連科学委員会(編):「放射線の線源と影響 原子力放射線の影響に関する国連科学委員会の総会に対する2000年報告書)」(放射線医学総合研究所 監訳)実業公報社(2002)
(4)放射線医学総合研究所:ラドン濃度測定・線量評価最終報告書、NIRS-R-32(1998)
(5)ICRP:The 2007 Recommendations of the International Commission on Radiological Protection. ICRP Publ. 103,Annals of ICRP Vol.37(2/4),Pergamon Press,Oxford(2007)