<大項目> 放射線影響と放射線防護
<中項目> 環境中の放射能
<小項目> 環境放射能の人体への移行
<タイトル>
日常の食生活を通じて摂取される放射性核種の量 (09-01-04-05)

<概要>
 日常食を通じて摂取する天然放射性核種40Kは、約50Bqである。体重60kgの成人男子の体内には40Kが約4000Bq存在している。また、2010年度に文部科学省の委託を受けて福島県が実施した環境放射能水準調査(東京電力福島原発事故前まで)では、大気浮遊じん、降下物、陸水、土壌、(0〜5cm、5〜20cm)、精米、野菜類、淡水産生物、海水、海底土、海産生物について核種分析を行い、137Cs が降下物、土壌、淡水産生物、海産生物から検出されているが、過去3年間(2007年〜2009年)の範囲でこれまでの結果とほぼ同じレベルであったと報告されている。なお、2011年3月12日以降については、福島原子力センターの測定において、定時降下物、上水から137Cs等が検出されており、東京電力福島原発事故の影響が示されている。また、同事故以降の食品中の放射性物質については農林水産省、厚生労働省が継続的に検査を実施しており、その結果は随時これらの省のウェブサイトで公表している。
<更新年月>
2012年02月   

<本文>
1.天然放射性核種の摂取量
 ほとんどすべての食品中には、天然放射性核種と人工放射性核種のいずれか、または双方が含まれている。食品に含まれる最も代表的な放射性核種は、40Kである。自然界に存在するカリウムの大部分は放射線を出さない安定同位体であるが、ほんの一部(約0.0117%)は、天然放射性核種の40Kである(図1参照)。カリウムは地球環境に広く分布し、動植物にとっては必須元素であり、構成成分でもある。したがって、食品中のカリウムの濃度がわかれば40Kの濃度も計算できる。食品別にみると野菜、肉類、海産物に多く含まれている。人の身体の古くなった細胞は、次々と壊れ、新しい細胞に置き換えられている。細胞が壊れると、さまざまなイオンも失われ、カリウムイオンも失われてしまうが、このカリウムイオンはほとんどの食物に含まれている。なかでも豆類やきのこ類がカリウムの主要な補給源となっている。成人は、日常約2g弱のカリウムを摂取しているが、それは、40Kの量で表示すると約50Bqに相当する。体重60kgの成人男子の体内には40Kが約4000Bq存在している。この40Kは年齢とともに少なくなり、女性は男性よりも少ないのが普通である。
 40K以外にも人体の内部被ばくに関連して、いくつかの重要な天然放射性核種がある。
 「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」(UNSCEAR)は2000年報告書の科学的附属書中で、食品に含まれる238U、232Th及びその娘核種の年間摂取量を報告している。表1に、日本における核種別の年摂取量を参考値と比較して示した。ここで参考値とは、成人が各種食品について年間標準量として仮定した量を消費した場合の摂取量を示したものである。日本人は210Poの摂取量が220Bq/年と最も多く、参考値に比べて非常に高い値を示している。これは海産物に含まれる210Poが比較的高濃度であるためと考えられている。
2.人工放射性核種の摂取量
 代表的放射性核種の90Srと137Csについては、環境放射能水準調査の一環として、日本各地で採取した環境試料(降下物、大気浮遊じん、陸水、海水、海底土、土壌及び各種食品試料)中の濃度を日本分析センターが測定し、十分なデータを蓄積している。
(1)食品(日常食)中の人工放射性核種
 食品中の自然放射性核種の測定事例は少ないが、核実験由来の人工放射性核種90Sr、137Csなどの長寿命核種については、長期間にわたる系統的な測定が行われている。食品では、米、野菜、海産魚、淡水魚、海藻、牛乳などの測定結果が報告されている(日本分析センター報告書参照)。1974年度〜2002年度までの日常食中の90Sr、137Csの経年変化を図2図3に示した。これらの図より、両核種とも核爆発実験に由来するピークがそれほど顕著には見られず、チェルノブイリ事故前までは、年々減少傾向を示していた。事故後137Csについては1987年をピークに一時的に増加し、現在では1970年代の1/4程度のレベルに戻っている。
 その後、2010年度の報告によれば、47都道府県の各衛生研究所等が採取し、日本分析センターが分析を行った主要な食品の測定結果(平均値)は次のとおりである。
 1)精米
  90Sr : 0.0052Bq/kg生
  137Cs : 0.0045Bq/kg生
 2)牛乳(原乳)
  90Sr : 0.016Bq/L
  137Cs : 0.0082Bq/L
 3)根菜類(主にダイコン)
  90Sr : 0.048Bq/kg生
  137Cs : 0.0071Bq/kg生
 4)葉菜類(主にホウレンソウ)
  90Sr : 0.044Bq/kg生
  137Cs : 0.025Bq/kg生
 5)茶
  90Sr : 0.20Bq/kg
  137Cs : 0.14Bq/kg
 6)魚類
  90Sr : 0.0096Bq/kg生
  137Cs : 0.089Bq/kg生
 7)貝類
  90Sr : 0.011Bq/kg生
  137Cs : 0.016Bq/kg生
 いずれも2004年度(平成16年度)から2009年度(平成21年度)の調査結果と同程度であった。ここで、2010年度に文部科学省の委託を受けて福島県が実施した環境放射能水準調査(東京電力福島原発事故前まで)の結果を表2に示す。大気浮遊じん、降下物、陸水(上水(蛇口水)、淡水)、土壌(0〜5cm、5〜20cm)、精米、野菜類、淡水産生物(いわな)、海水、海底土、海産生物(あいなめ)、それぞれの核種分析を行い、137Cs が降下物、土壌、淡水産生物、海産生物から検出されている。この結果は、過去3年間(2007年〜2009年)の範囲でこれまでの結果とほぼ同じレベルであった。福島市の土壌中濃度の最高値がやや高いが採取年月は2010年6月と福島原発事故の前であり、通常の測定値のばらつきによるものと考えられる。なお、2011年3月12日以降については、福島原子力センターのモニタリングポストの空間線量率測定結果が上昇するとともに、定時降下物、上水から137Cs等が検出されており、東京電力福島原発事故の影響が観測されている。
(2)輸入食品の摂取による内部被ばく
 昨今の食品輸入の増加は著しい。食品の輸入率(自給率)を考慮して日本人の内部被ばく影響を試算してみると、以下のようになる。
 食品試料が全て国産品であるとの仮定をし、次に輸入食品の放射性核種濃度はUNSCEAR(1993年)の値(文献8)を用いている。この食品群別データは北半球の温暖地域に基づくデータである。日本の輸入の90%近くが北半球から輸入されていることを考慮すると、この計算には適したデータと考えられる。226Raを例にとると、表3のようになる。6食品群別の摂取量に対して、自給率と輸入率(1−自給率)を充てる。食品群それぞれの摂取量(kg/y)に自給率を掛けた積(自給摂取量kg/y)には放射性核種の国内濃度(mBq/kg)を掛け、輸入率を掛けた積には国際濃度を掛ける。
 自給率が1.0の時、すなわち、摂取がすべて純国産であった場合の226Raの一人当たり摂取量は28mBq/日である。それぞれの自給率が表3の値の時、摂取量は55mBq/日となる。
 原子力放射線緊急時における食品の安全性確保対策に資することを視野に入れて、わが国への輸入食品重量の大きい近隣国等の農産品や水産品等を重点対象として、放射性核種に関する調査研究を平成18年度から国立保健医療科学院で行っている。その結果を表4(2010年度)と表5(2011年度)に示す。これらの調査で対象とした輸入食品からは人工放射性核種の137Cs 、90Sr、239+240Puが定量されたものの、濃度レベルは低く、輸入食品のモニタリング時の対象核種である137Csは概ね1Bq/kgを下回る値であった。
 参考までに、厚生労働省はチェルノブイリ事故発生(1986年)直後から輸入食品の放射能検査(放射能暫定限度:137Cs+134Csとして370Bq/kg)を継続実施している。
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 なお2011年3月の東京電力福島原子力発電所事故に伴い、福島県を中心に広い地域を対象とした食品中の放射性物質の検査が農林水産省、厚生労働省において継続的に実施されており、それらの検査結果は随時これらの省のウェブサイト(参考文献12及び13)で公表されている。
(前回更新:2004年8月)
<図/表>
表1 食品中に含まれる238U、232Thおよびその娘核種の年間摂取量
表2 ゲルマニウム半導体検出器による核種分析測定調査結果(福島県)
表3 輸入食品の摂取による226Raの内部被ばく線量の影響
表4 輸入食品中の放射性核種濃度(平成21年度)
表5 輸入食品中の放射性核種濃度(平成22年度)
図1 体内、食物中の自然放射性物質
図2 日常食中の90Sr濃度の推移
図3 日常食中の137Cs濃度の推移

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
各種食品中の放射性核種の種類と濃度 (09-01-04-04)
調理・加工による放射性核種の濃度の変化 (09-01-04-06)
輸入食品中の放射能の濃度限度 (09-01-04-07)
大気圏内核実験当時の体内放射能とチェルノブイリ事故後の体内放射能 (09-01-04-09)
内部被ばく (09-01-05-02)

<参考文献>
(1)佐伯誠道(編):環境放射能、ソフトサイエンス(東京)(1984),p.276-284
(2)茨城県公害技術センター:茨城県における放射能調査(第44報)2001.3
(3)国連科学委員会(UNSCEAR):Sources,Effects and Risks of Ionizing Radiation,New York,(1988)
(4)安斎育郎:家族で語る食卓の放射能汚染、同時代社、東京(1988)
(5)渡利一夫、稲葉次郎(編):放射能と人体、研成社(1999)
(6)原子力安全研究協会:生活環境放射線(国民線量の算定)(1992)
(7)丸山隆司(編):生活と放射線、放医研環境セミナーシリーズNo.22,
(8)国連科学委員会(UNSCEAR):Sources and Effects of Ionizing Radiation,Annex A,33-89(1993)
(9)原子放射線の影響に関する国連科学委員会(編)、放射線医学総合研究所(監訳):放射線の線源と影響、原子放射線の影響に関する国連科学委員会の総会に対する2000年報告書、上下巻、実業公報社(2002年3月)
(10)文部科学省:日本の環境放射能と放射線、環境放射能調査研究成果発表会、
http://www.kankyo-hoshano.go.jp/08/08_0.html
(11)電気事業連合会:原子力・エネルギー図面集 2011年版、
http://www.fepc.or.jp/library/publication/pamphlet/nuclear/zumenshu/digital/
index.html
(12)農林水産省:農産物に含まれる放射性セシウム濃度の検査結果(随時更新)
http://www.maff.go.jp/j/kanbo/joho/saigai/s_chosa/index.html
(13)厚生労働省:食品中の放射性物質の検査結果について(第332報)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000023p4a.html
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