<大項目> 放射線影響と放射線防護
<中項目> 環境中の放射能
<小項目> 環境放射能の人体への移行
<タイトル>
放射性核種の体内移行と代謝 (09-01-04-01)

<概要>
 放射性核種経口摂取吸入あるいは皮膚を介して身体内に入ると、その化学的性質にしたがって吸収され親和性臓器に移行し、滞留あるいはその後に排泄される。この過程を代謝という。代謝速度は放射性核種の化学形ならびに生体側の影響を受ける。
 放射性核種を体内に取り込むことによっておこる内部被ばくは、放射性核種の代謝に大きく依存するため、放射性核種の代謝はそれによる被ばくを考える上で重要な要因の一つであり、また代謝研究は精度の高い被ばく評価を行う上で最も基本となる情報を提供する。
<更新年月>
2010年06月   

<本文>
 環境中に放射性核種が存在すると、なんらかの経路により人体内に取り込まれ、体内に存在しながら放射線を放出し、人体に放射線被ばくをもたらす。このような様式での被ばくを内部被ばくあるいは体内被ばくという。
 人体内へ放射性核種が入る経路として主要なものは3種あり、経口摂取、吸入、および皮膚吸収である。
 食物や飲料水に混入した放射性核種が経口摂取されると、消化管で吸収され血液中へ移行するが、吸収率はその物理化学的特性に依存する。すなわち、元素としての性質とそれがどのような化学形になっているかに大きく依存する。放射性核種が水や有機物を構成するもの、あるいはナトリウムやカリウムのような1価の金属と塩素やヨウ素のようなハロゲンとの塩などを構成するものであれば一般的に消化管吸収率が高いが、トリウムプルトニウムのようなアクチニド元素であればその消化管吸収率は一般にきわめて低い。
 放射性核種の消化管吸収率は基本的にはこのように放射性核種(元素)の化学的性質によって決まるが、生体側の要因にも依存する。多くの放射性核種に関して乳児は成人より一般に消化管吸収率が高い。 表1に元素別の消化管吸収率を示す。
 血液中に入った放射性核種は、その化学的性質にしたがって特有の体内組織(親和性臓器)に移行し、そこに沈着する。例えば、トリチウムやセシウムなどは全身にほぼ均等に分布沈着し、カルシウムやストロンチウムは骨に、ヨウ素は甲状腺に沈着する。種々の組織に沈着した放射性核種は時間の経過にしたがい血液中に現れ、再吸収されるものもあるが、最終的には腎臓、消化管などから体外に排泄される。
 図1は国際放射線防護委員会(ICRP)が体内被ばく線量計算を行うために用いている、放射性核種の代謝モデルを模式化したものである。臓器や組織に沈着した放射性核種の排泄速度は通常、生物学的半減期により表される。セシウム137137Cs)は全身にほぼ均等に分布し、その生物学的半減期は約110日である。このことは、ある時100ベクレルの137Csを摂取したとすれば110日後の体内量は50ベクレルに、220日後には25ベクレルに減っていくことを意味している。生物学的半減期は放射性核種の種類、すなわち元素としての性質によって異なるが、その化学形によっても異なる。トリチウムは酸化物(トリチウム水)であれば生物学的半減期は約10日であるが、蛋白や糖のような有機物を構成している場合には平均的な生物学的半減期は約40日である。
 吸入による放射性物質の摂取の場合には、放射性物質は呼吸気道に沈着するが、その様相は放射性物質の粒子径に大きく依存する。呼吸気道に沈着した放射性物質は、それが体内移行性(吸収率)の高いものであれば経口摂取とほぼ同様な挙動をとる。しかし、例えば酸化プルトニウムのように体液に溶解しにくいものは肺あるいは肺のリンパ節に長期に滞留するなど、吸入摂取特有の体内挙動を示す。
 身体が受ける放射線の線量は、放射性核種が放出する放射線の種類と放射能としての半減期という物理的特性に依存することはもちろんであるが、今まで述べてきたような放射性核種の生物的特性にも大きく依存する。ある放射性核種に着目すれば、消化管吸収率が高く生物学的半減期が長い放射性核種ほど大きな線量を身体に与えることになる。
(前回更新:2001年10月)
<図/表>
表1 いくつかの元素の消化管吸収率
図1 ICRP代謝モデルの模式化

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
食品中の放射能 (09-01-04-03)
内部被ばく (09-01-05-02)
放射性核種の体内取込みと体外除去 (09-03-03-04)
年摂取限度(ALI) (09-04-02-14)
全身カウンタ (09-04-03-11)

<参考文献>
(1)Gastrointestinal Absorption of Selected Radionuclides, A Report by an NEA Expert Group, OECD-NEA, Paris 1988.
(2)作業者による放射性核種の摂取の限度(ICRP Publication 30)Part 1、日本アイソトープ協会、(1980)
(3)草間 朋子(編):ICRP 1990年度勧告、その要点と考え方、日刊工業新聞社、(1991)
(4)Age-dependent Doses to Members of the Public from Intakes of Radionuclides; Part 1. ICRP Publication 56, (1989)
(5)松坂 尚典、西村 義一:主要放射性核種の胎児移行、日本原子力学会誌、24:680-687(1982)
(6)西村 義一、稲葉 次郎:幼若期における放射性核種の代謝の特性、保健物理、26:149-155(1991)
(7)青木 芳朗、渡利 一夫(編):人体放射能の除去技術−挙動と除染のメカニズム−、講談社サイエンティフィク(1996)
(8)渡利 一夫、稲葉 次郎(編):放射能と人体−暮らしの中の放射線−、研成社(1999)
RIST RISTトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ