<大項目> 放射線影響と放射線防護
<中項目> 環境中の放射能
<小項目> 環境中での移行と挙動
<タイトル>
放射能の河川、湖沼、海洋での拡散と移行 (09-01-03-05)

<概要>
 環境中には自然放射能原子力施設から放出された放射能、フォールアウトなどに起因する放射能が存在するが、それらの移行経路の一つとして、水圏中の移行、即ち、川・湖沼・海洋中における移行がある。この移行経路は、大気中の移行と異なり、時間経過が長いので、その放射能レベルは一般には低いが、飲料水として直接、あるいは動植物の食物連鎖を経由して間接的に放射能を取込む経路となり得る。
 川、湖沼、海中における放射能の移行では、拡散と希釈が作用する。また、堆積物への放射性核種の移行も考慮する必要がある。さらに、食物連鎖に関連して、生物による放射能の濃縮効果が重要である。
<更新年月>
2003年03月   

<本文>
 原子力施設からの海水中への放射能の直接放出は、出来る限り低くなるよう、厳しく管理され、常時、モニタリングにより、その確認が行われている。これ以外の原因による放射能として、自然放射能とフォールアウトがある。いずれも、地表水によって河川・湖沼中を移行したのち、最終的に海水中に移行する。
 表1大気圏内核実験により生成された放射性核種による線量預託を示す。この値は、1980年までの核実験が原因で、その時点以降に個人が受けるであろう吸収線量を無限時間精算したものであり、137Csの場合、吸収線量が生殖腺では、体外照射により600μGy、体内照射により280μGyであることを示している。図1放射性物質の海洋より人への移動を、図2に放射性核種の移行経路を示す。このような移行の途中で、それらの中に含まれる放射能は、飲料水として直接、あるいは潅漑用水を経由する食物連鎖により、人間に摂取されることが考えられるので、これらの経路に基づく被ばく評価を行う必要がある。
 環境中の主な人工放射性物質としては、3H, 14C,129I,90Sr,137Cs,239Pu,241Amなどがある。
(1)放射能の河川中の移行
 表層水中の放射能は、地表あるいは土壌中で、土壌による吸着と脱着を繰り返しつつ移流し、河川・泉・湖沼中に移行し、終りには海洋中に移流する。河川は、流入速度と流出速度の高い湖と考えることができる。河川水における放射性核種の平均滞留時間は、著しく短いので、両者に同じ量の放射性核種の流入があった場合、河川の方が湖よりも通常濃度が低くなる。河川によって運搬される水の量は、年間を通じて相当変化するものと思われる。春に雪が溶けるときの川は、その年の渇水期の数倍の面積を覆うことができる。河川に沿った氾濫原は、河川水によって運搬された放射性核種を保持するかもしれないし、この汚染は後年その河川に再び放出されるかもしれない。したがって、河川機構における放射性核種の挙動のモデル化は、湖よりも複雑である。最後には海へ運搬されるものと思われる。この間に、飲料水として人間に摂取されるもの、淡水産の魚介類を人間が摂取することによる放射能の取り込み、潅漑用水を通じ、さらに穀物・野菜・肉・牛乳などに放射能が移行し、これが人間により摂取されるものなどの経路がある。潅漑用水から人間の食物への移行には、生物による放射能の濃縮が重要な役割を果たしている。このような経路を通じて人間に摂取される放射能の被ばく評価が必要である。
(2)放射能の海洋中における移行と拡散
 海洋水の全体積は1.37×1021リットルであり、ほとんどの水は食物生産のために人に利用されることのない深海にある。魚および他の海産物は、体積が海洋の全水体積の0.1%にあたる1.37×1018リットル、平均深度が約50mの沿岸で主に生産される。原子力発電プラントから直接放出された低濃度の放射能、あるいは、河川・地下水によって移流してきた放射能は、海洋中で海水とともに流動し、一時的な吹き戻しもあるが、潮流により移行・拡散する。海水中では、温度の異なる水塊による上下混合と海中沈降物による吸着と海底への沈降、高温海底域における上昇流などが考えられる。海洋中の放射能の一部は、海棲の魚介類・海草に取り込まれ、さらに人間によって摂取されるという一種の食物連鎖を構成する。このような経路を通じて人間に摂取される放射能に基づく被ばく評価が必要である。
<図/表>
表1 大気圏内核実験により生成された放射性核種による線量預託(北半球中緯度地帯の場合)(μGy)
図1 放射性物質の海洋より人への移動
図2 放射性核種の移行経路

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<関連タイトル>
放射能の牛乳への移行 (09-01-03-04)
放射性核種の生物濃縮 (09-01-04-02)
食品中の放射能 (09-01-04-03)

<参考文献>
(1)佐伯誠道(編):「環境放射能」、ソフトサイエンス社、(1984)
(2)日本原子力文化振興財団:原子力の基礎講座、(6)人体と放射線・原子力と環境、(1996)
(3)山田正俊:海洋の物質循環と放射性核種の分布、宇宙と地球の放射線環境−その未来予測への挑戦、月刊地球、号外 No.22,(1998)
(4)長尾誠也:湖底及び海底堆積物からみた天然環境における137Cs,239Pu,240の動態、KURRI KR, No.18, 47-56,(1998)
(5)武石 稔:ひ沼における137Cs移行モデルの検討、JAERI-CONF-99-001, 246-257, (1998)
(6)松永 武:河川水中における放射性セシウムの移行挙動、KURRI KR, No.18, 149-158,(1998)
(7)Baxter M.S, Fowler S.W, Povinec P.P(IAEA):Observations on Plutonium in Oceans, Appl. Radiat. Isotopes, 46, No.11, 1213-1223,(1995)
(8)Ueda S, Hasegawa H, Kondo K:Concentration and Speciation of 137Cs in the Sediments in Brackish Lake Obuchi, Rokkasho Village, Radioisotopes, 48, No.11, 683-689,(1999)
(9)放射線医学総合研究所(監訳):放射線の線源と影響、原子放射線の影響に関する国連科学委員会の総会に対する2000年報告書、(株)実業公報社(2002.3)
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