<大項目> 放射線影響と放射線防護
<中項目> 環境中の放射能
<小項目> 環境放射能の種類
<タイトル>
フォールアウト (09-01-01-05)

<概要>
 フォールアウトは、通常「放射性降下物」と訳されるが、特に核実験に起因する放射性降下物のことに限定して使われることが多い。また、チェルノブイル原子力発電所事故など、原子力施設の事故により環境中に放出された放射性物質が地上に降下してくるものも「フォールアウト」と呼んでいる。
 核実験により環境中に放出された放射性物質のあるものは、短時間の内に実験場周辺に降下し、また、あるものは、成層圏にまで達し非常に長い時間をかけて地表に降下する。前者の実験場周辺に短時間内に降下するものを局地フォールアウトと呼ぶ。今日、環境中に存在する人工放射性核種の大半は、1950年代から60年代前半にかけて行われた大気圏内核実験によるもので、これらのフォールアウトによる環境および人体への影響を調べるため、わが国では、各都道府県ごとに「環境放射能水準調査」が実施されている。
<更新年月>
2004年02月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.フォールアウトとは
 「フォールアウト」は、「放射性降下物」と訳される。1940年代中頃から行われた大気圏内核実験により環境中に多量の人工放射性物質が放出されたため、多種類の人工放射性核種が「放射性降下物」を構成するようになった。そのため、「フォールアウト」という言葉は、特に核実験に起因する「放射性降下物」のことに限定して使われることが多い。しかし、チェルノブイル原子力発電所事故など、原子力施設の事故により環境中に放出された放射性物質が地上に降下してくるものも「フォールアウト」と呼んでいる。
 現在、環境中に存在する人工放射性核種の多くは、1950年代から60年代前半にかけて行われた大気圏内核実験によるものである。ここでは、この核実験に起因するフォールアウトおよびソ連のチェルノブイル原子力発電所事故に由来するフォールアウトについて述べる。
2.フォールアウトを構成する放射性核種の種類および量
 人類が大気中へ大量のフォールアウトを最初に放出したのは、1945年の原爆実験であり、その後、現在に至るまで核実験は続いている。表1に、これまで実施された大気圏内核実験の回数および規模を示す。表から分かるように、1950年代後半から1960年代前半をピークに多くの核実験が実施されてきており、その結果、多量の人工放射性核種が地球全域に降り注いだ。核実験によって生成される放射性核種には、中性子等の放射線により放射化されてできる放射性核種、すなわち誘導放射性核種もあるが、ほとんどが核分裂によるものである。その代表的なものを表2に示すが、このうち生成率(収量)が多く、ある程度の寿命を持つものとしては、137Cs、103Ru、140Ba等があげられる。
 核実験に起因するフォールアウトにより、実験場周辺のみならず地球全体が汚染される事実は、当初あまり知られていなかった。1954年3月のビキニ水爆実験によってわが国のマグロ延縄漁船第5福竜丸が南方海上で放射能汚染し、乗組員が被災した事件によって初めて知られるようになった。そして、1955年12月に開かれた第10回国連総会で、このように地球全体に降下するフォールアウトの全人類に対する影響を検討するため、「原子放射線の影響に関する科学委員会」(略してUNSCEARという)が設立された。
 表3は、核実験が開始されてから1980年までの期間における90Srの年間降下量と地上蓄積量を北半球、南半球および地球全体についてまとめたものである。年間降下量、蓄積量とも、北半球の方が南半球の値よりも2〜3倍大きい。これは、核実験のほとんどが北半球で行われたためである。年間降下量が、1963年をピークにして次第に減少しているのは、1962年に米ソが大気圏内核実験を打ち切ったためである。90Srの地球全体での蓄積量は、1980年で39E16Bq(約1050万Ci)であり、そのうち76%が北半球に存在している(なお、年間降下量の1980年までの積算値よりも蓄積量が小さいのは、90Srの物理的減衰によるものである)。
3.環境中における挙動
 核実験により、または原子力施設から大気中に放出された放射性核種は、大気中で拡散しながら、一部は徐々に地表面に降下してゆく。地表面への降下には、降水に捕捉されて、降水と共に降下する場合や直接地表面へ降下してゆく場合等がある。
 大気圏内で行われた核実験により、生成された放射性核種が運ばれて地表面に降下する過程は次の3つである。
(1)核爆発後約1日以内に爆発地点のごく近傍に降下するもので、局地フォールアウトと呼ばれる。
(2)気流にのって遠方まで運ばれ、地上に降下する。
(3)爆発により成層圏に達した核種が、ゆっくりと対流圏に移行し、やがて地表面に降下する。
 表3に示したような地球全体に、しかも長期間にわたって汚染をもたらすものは、(2)と(3)によるものである。
 核実験起因のフォールアウト中に含まれる放射性核種の種類と量は、核実験が実施された時の条件(大気中か、地上か、水上か、水中かなど)、使用された爆弾の種類と大きさなどで異なってくる。また、地上への降下の状態も核実験が行われた季節やその時の気象状況などによって違う。一般的に言って、核爆発で生成する球状雲が初期の高熱時に地表と接触する様な条件下では、フォールアウト中の粒子の直径は比較的大きく、放射性核種の中には誘導放射性核種がかなり多く含まれてくる。球状雲初期の高熱時に地表と接触しない場合には、フォールアウト中の粒子の直径は小さく、含まれる放射性核種は核分裂生成物が主体となる。
 地表面に落下した放射性核種(フォールアウト)は動物や植物にも取り込まれる。一例として、デンマークにおける全食事中の90Srと137Csの濃度の経年変化を図1に示す。
4.核爆発実験等に伴うわが国でのフォールアウト調査(放射能測定)
 核爆発実験に伴う放射能測定は、1957年度より関係省庁において行われていたが、米国およびソ連が大気圏内核爆発実験を再開したために、これによるわが国への影響を調査するため、1961年の閣議決定により設置された放射能対策本部の方針等に基づき、関係省庁、都道府県そして放射線医学総合研究所や日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)などの研究機関等も参加した全国規模の「環境放射能水準に関する調査」が行われてきている。
 それらの調査結果から、フォールアウトによる90Srや137Csの降下量は、日本海側が多く、太平洋側が少ない傾向を示すことが明らかにされた。わが国におけるフォールアウト90Srの1980年末までの積算降下量は、秋田が最高で、約150mCi/km2、最低は大阪で、約57mCi/km2、6地点の平均値は約92mCi/km2である。1986年に起きたソ連のチェルノブイル原子力発電所事故を踏まえて、従来32都道府県で実施されてきた放射能調査網の強化が図られ、1990年度から47の全ての都道府県で「環境放射能水準調査」が実施されることとなった。
5.チェルノブイル原子力発電所事故に起因するフォールアウトおよびその影響
 1986年4月26日にソ連のチェルノブイル原子力発電所で起きた事故により放出された放射性物質は、日本の各地域でも環境試料中に観測された。幸いな事に日本での降下量は、ソ連やヨーロッパ地域に比べるとそれほど多くはなかった。図2は、ヨーロッパ各国に降下した放射性セシウム137Cs + 134Cs)の量を示したものである。最も降下量が多いのは、オーストリアで約620mCi/km2、少ないのはイギリスで27mCi/km2である。また、図には示していないが、スペインやポルトガルでは、イギリスよりも降下量は少ない。このように、ヨーロッパ各国によってかなり違いがあるのは、事故直後の気象条件(例えば、風向きや降水の有無等)による。一方、日本での降下量は、3.5mCi/km2であった。この値を、核実験によるフォールアウトが最も多かった1963年における日本の137Csの降下量(52mCi/km2)と比較すると、1割以下である。
 チェルノブイル事故によって環境中に放出された137Csにより日本の成人男子が受けた被ばく線量表4に示す。表には、比較のため天然放射性核種である40Kによる線量も示した。外部被ばくおよび内部被ばくともに、137Csから受ける線量は40Kから受ける線量の約1%またはそれ以下である。
<図/表>
表1 これまでに実施された大気圏内核実験の回数と規模
表2 核実験により生成される放射性核種の種類
表3 90Srの年間降下量と地上蓄積量(北半球、南半球および地球全体)
表4 日本人(成人男子)におけるチェルノブイル事故に由来する137Csによる被ばく線量と天然放射性核種の40Kによる被ばく線量との比較
図1 デンマークにおける全食事中の90Srと137Csの濃度の経年変化
図2 チェルノブイル事故によりヨーロッパ各国に降下した放射性セシウム(137Cs+134Cs)

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<関連タイトル>
放射線による外部被ばく (09-01-05-01)
内部被ばく (09-01-05-02)
国連科学委員会(UNSCEAR) (13-01-01-19)

<参考文献>
(1)檜山 義夫(編):放射線影響の研究,東京大学出版会、東京(1971)
(2)川瀬 金次郎ほか:環境放射能、東海大学出版会、東京(1971)
(3)佐伯 誠道(編):環境放射能、ソフトサイエンス社、東京(1984)
(4)日本化学会(編):放射性物質、丸善、東京(1978)
(5)市川龍資:放射線科学,31,45-52(1988)
(6)内山 正史、内田 滋夫:プロメテウス、No.67(1988)
(7)United Nations:Ionizing Radiation Sourcesand Biological Effects,UNSCEAR 1982 Report (1982)
(8)M.アイゼンバッド(阪上 正信 監訳):環境放射能(第2版)−環境科学特論−、産業図書、東京(1979)
(9)放射線医学総合研究所(監訳):放射線の線源と影響、原子放射線の影響に関する国連科学委員会の総会に対する1993年報告書、実業公報社、東京(1995)
(10)放射線医学総合研究所(監訳):放射線の線源と影響、原子放射線の影響に関する国連科学委員会の総会に対する2000年報告書、実業公報社、東京(2001)
(11)市川 龍資:第五福竜丸事件から50年−環境放射線研究体制の整備−、エネルギーレビュー、vol.23(2003年)、p.6-10
(12)S.Morisawa:Dynamic performances of the fallout radionuclides in the environment and related health risk evaluation, JAERI-CONF2003-010, 55-61(2003)
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