<大項目> 放射線影響と放射線防護
<中項目> 環境中の放射能
<小項目> 環境放射能の種類
<タイトル>
人工放射線(能) (09-01-01-03)

<概要>
 環境中の人工放射線(能)の起源は、核実験と原子力発電に伴う核燃料サイクル、その他の放射線源があげられる。
 人工放射線の量は自然放射線に比べ極めて少ない。また、核実験に起因するフォールアウト放射能が人工放射線の大半を占める。
<更新年月>
2004年09月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.人工放射線(能)とは
 環境中には、天然の放射線と人工放射線が存在する。人工放射性物質とは人間の活動により造り出された放射性物質であり、環境中の人工放射線とはこれから放出される放射線である。
 主な人工放射性物質として核実験により生成され環境中へ移行した放射性物質(フォールアウト放射能)、ならびに原子力発電に伴う核燃料サイクルの各段階で環境に放出された放射性物質が挙げられる。その他、発光時計、煙探知器等微量の放射線を放出する一般消費財、また、医療用や研究用の放射線利用施設からの漏洩放射線(能)が存在する。
 現在、日本における人工放射線の量は、自然放射線に比べると極めて少ない。人工放射線の中では、核実験に起因するものが大半を占めている。大気圏内核実験は、1945年から1980年まで続けられ、世界集団に対する人工の環境放射線源による被ばくの最大の原因であった。大気圏内核実験停止後、地下核実験が引き続き行われたが、地下核実験では放射性核種の環境への放出や個人被ばくの主要因となることはまれである。
2.核実験に起因する放射線(能)
 核爆発では様々な放射性核種が生成される。放射性核種は、核分裂による核分裂生成物と原子核が中性子を捕獲して放射性核種に変わった放射化生成物に分けられる。図1は、235Uの核分裂の際、どのような放射性核種がどのくらいの割合で生成するかを示している。この図は核分裂生成物の収率曲線と呼ばれる。この図から、質量数が90から110ならびに130から150前後の核種が生成されやすいことがわかる。P239Uおよび233Uに対する収率曲線もこの図と似ている。
 核爆発により生成される放射性核種は数100種類におよぶが、その大部分は半減期が短かったり、生成量が少なかったりして、人間の被ばくにはあまり寄与しない。人間の被ばくに関与する主だった核種は数核種に限られる。重要な核種として14C、137Cs、95Zr、90Sr、106Ru、144Ce、3H等が挙げられる。このうち14Cと3Hは放射化生成物であるが、その他の核種は核分裂生成物である。
 生態圏に存在する核実験起因の放射性物質の大部分は、大気圏内での核実験によるもので、地下核爆発からの寄与は相対的に小さい。大気圏内の核実験で生じた放射性物質は、まず大気圏上層に注入されるが、その後大気圏下層に移行し、フォールアウトと呼ばれる過程により人間の生活圏に達する。フォールアウトは、核実験場所から100km以内に降下する局地フォールアウト、風の流れにのり広い地域に拡散する対流圏フォールアウト、長時間にわたり全世界的な汚染を引き起こす成層圏フォールアウトに分類される。
 フォールアウト放射能は、空気の吸入や食物の経口摂取を通して体内に取り込まれることにより、また地表面に沈着した場合は放出される放射線からの直接の体外照射により人間に被ばくをもたらす。
 主なフォールアウト核種については、生活環境内での移行調査が広く行われてきた。例えば、90Srや137Csに関する地域的にも時間的にも豊富な測定データは、核実験で生まれた長半減期核種の環境中でのふるまいを推定するために利用されてきた。図2に食物中の90Srと137Csの濃度の経年変化を示す。核実験がより頻繁に行われた北半球での濃度が高いことや、1966年以後は濃度が単調に減少してきていることがわかる。1986年に起きたチェルノブイル原発事故の影響も認められる。
 大気圏内核実験において生成して地球規模に拡散した放射性核種を表1に示す。最近では、大気中核実験は行われておらず、フォールアウト放射能全体の量とこれによる被ばくも一時期より著しく減少した。これまでに約2400回の核爆発実験が地表面下で行われてきた。特に、大気圏核実験を禁止した部分的核実験停止条約が合意された1963年以降、地下核実験がより頻繁となった。うまく閉じ込められた地下核爆発実験は、どのような人類集団に対しても非常に低い線量しか与えないが、実験から漏れた放射性物質が少なくとも地域的な距離にまき散らされることになった場合があった。
3.原子力発電所に起因する放射能
 原子力発電に関係する事業は、ウラン鉱石の採鉱と精錬、核燃料物質への転換、核燃料の加工、原子炉による発電、使用済燃料の貯蔵、再処理、放射性廃棄物の貯蔵と処分といういわゆる核燃料リサイクルを構成している。これら核燃料リサイクルのそれぞれの事業で放射性物質が生成されるが、事業に応じて代表的な生成放射性核種が異なる。ここでは国連科学委員会の1988年報告書(文献1)をもとに、それぞれの事業により環境(大気圏、水圏)へ放出された代表的な放射性核種の規格化放出量(単位質量当りあるいは単位発電量当りの放出量)をまとめる。以下の文中括弧内の数字は同報告書付属書B(文献1)の項番号を示す。
(イ)原子力発電量と炉型:1987年における全世界の原子力発電所から生産された総発電量は、189GWa(1.66×1012Wh;GWa=GW年)である。上記報告書付属書Bが示している規格化放出量はこの発電量を基に算出されたものである。炉型としては、加圧水炉(PWR)、沸騰水炉(BWR)、ガス冷却炉(GCR)、改良型ガス冷却炉(AGR)、黒鉛減速軽水冷却炉(LWGR)、重水炉(HWR)および高速増殖炉(FBR)がある(文献1、2項)。
(ロ)ウランの採鉱と精錬:坑内採鉱についてラドン放出量の平均値は、酸化ウラン(U38)生産量で重み付けすると300GBq/tとなる。稼働している種々の炉型について必要なウランから推定すると、1GWaの電力を生成するために250tの酸化ウランが必要であることが1993年報告(文献2)で示されている。この計算から、ウラン鉱山からの平均ラドン放出量は75TBq/GWaとなる。ウラン精錬では、例えば、1日2000tの鉱石を処理する精錬工場の残鉱石(尾鉱堆積物)から1日に222Rnが1〜7TBq,238Uが1〜4GBq,230Th,226Ra,210Pbはそれぞれ各0.2〜2GBqが大気中へ放出される(25項)。
(ハ)ウラン燃料加工:精錬所で生産されたウランの濃縮物は酸化ウラン、フッ化ウラン等に転換し、235Uの濃縮を行い燃料に加工する。濃縮後の加工工程ではウラン化合物の多くは固体であり容易に除去できるし、沈殿タンクも用いているので、放出されるウラン等の量は少ない。国連科学委員会は河川に沿って立地した軽水炉燃料生産の各工程のモデル施設について規格化放出量を表2のように推定した(42、43項)。
(ニ)原子炉運転:原子炉の運転により、燃料の核分裂により多くの放射性核種が生成される。また原子炉構造物および燃料被覆管や冷却水中の不純物が中性子と核反応して別の放射性核種が生じる。これら放射性核種の幾分かは環境中へ放出される。大気中に放出される放射性物質としては核分裂希ガス(クリプトン、キセノン)、中性子で放射化された気体(14C,16N,35S,41Ar)、トリチウム、ヨウ素などである。一方、水圏に放出されるものはトリチウム、核分裂生成物および放射化された腐食生成物である(53項)。国連科学委員会は1990年−1997年にわたる各国発電炉の放出データを中心に、主要核種の発電量で規格化した年間放出量をまとめた。1970年から5年間毎及び1995年から1997年の3年間の平均規格化放出量も示している(54−85項)。これらの調査を基に主要核種の平均規格化放出量を表3に整理した。
(ホ)燃料再処理:世界を代表する再処理施設はセラフィールド(英国)とラアーグ(仏国)にある。国連科学委員会は、1970年から1997年に至る燃料再処理施設の年間放出量及び単位電気出力当たりで規格化した5年間の平均放出量をまとめている。これらの調査結果を基にこの6年間の平均規格化放出量を表4に整理した。
(ヘ)中・低レベル放射性固体廃棄物の処理、処分:原子炉の運転中に循環水の処理や使用済み燃料貯蔵プール水の精製によって生じる放射性廃棄物は濃縮され、セメント等で固化される(中レベル廃棄物:ILW)。このほか施設の管理区域等で使用される多種類の防護機材が固体廃棄物となる(低レベル廃棄物:LLW)。アメリカその他の国のデータを基にすると軽水炉から生じた廃棄物中のILWは単位発電量当りPWR、BWR各々から約5TBq/GWa、合計約10TBq/GWa、LLWはPWRから約200GBq/GWa、BWRから約500GBq/GWa、合計約700GBq/GWaである(126項)。カナダのCANDU炉(HWR)からの廃棄物発生量はILW約5TBq/GWa、LLW約250GBq/GWaである。GCRからの廃棄物ではILWは約20TBq/GWa、LLWは約10TBq/GWaと見積もられる(128項)。これらの固体廃棄物は地表付近に埋設されている(浅地層処分)が、一部は1949年から1982年まで北東大西洋に投棄された。投棄された放射能はα放射体(680TBq)、β/γ放射体(38000TBq(1975年までは3Hを含む))、3H(15000TBq)である(135項)(表5参照)。
4.日常生活と人工放射線
 一般消費財のなかにも人工放射性物質を含むものがある。発光時計に代表される放射性発光製品には147Pm等が含まれている。放電管およびスタータ等の電子・電気製品には、動作の信頼性を高める目的で63Ni、85Kr、147Pmや3Hを利用しているものがある。その他、静電除去装置に使用されている210Po、煙探知器に使われている241Am等も人工放射線源として数えられる。
 医療や研究の目的で用いられる加速器や原子炉等の放射線利用施設からも、極めて少量の放射線、放射性物質が漏洩し、施設近傍での被ばくの原因となる。
 医療用としては治療や診断に99mTcや131I、125I等が用いられるが、一般公衆への影響はほとんど無視できる量である。
 以上のうち、被ばくの観点から重要なものとされていた発光時計は、放射線源を用いないものに置き換わりつつあり、一部輸入品の時計にトリチウムなどの放射性物質を用いたものがある程度である。
<図/表>
表1 大気圏内核実験において生成した地球規模に拡散した放射性核種
表2 モデル燃料転換、濃縮、加工施設からの規格化排出物放出量
表3 原子炉運転で放出される放射性核種の規格化放出量
表4 使用済み燃料再処理施設から放出される放射性核種の規格化年間放出量
表5 発電単位あたりの廃棄物中のILW量と放射能濃度
図1 235Uの核分裂生成物収率曲線
図2 デンマークにおける全食物中の90Srと137Cs

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<関連タイトル>
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ウクライナ共和国チェルノブイル原子力発電所事故後の放射能対策 (09-03-02-06)

<参考文献>
(1)放射線医学総合研究所(監訳):放射線の線源、影響及びリスク、原子放射線に関する国連科学委員会への1988年報告書、附属書付、実業公報社(1990年3月)
(2)放射線医学総合研究所(監訳):放射線の線源と影響、国連科学委員会 1993年報告書、実業広報社(1995年10月)
(3)放射線医学総合研究所(監修)、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(編):放射線の線源と影響、原子放射線の影響に関する国連科学委員会の総会に対する2000年報告書 上下巻、実業公報社(2002年3月)
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