<大項目> 放射線影響と放射線防護
<中項目> 環境中の放射能
<小項目> 環境放射能の種類
<タイトル>
自然放射線(能) (09-01-01-01)

<概要>
 人間の活動に関わりなく自然界にもともと存在する放射線の総称を「自然放射線」という。これは起源別に1.宇宙線(地球外空間から地球大気中へ侵入する陽子などの高エネルギー放射線とこれらが地球大気と相互作用を起こしてできた中間子などの二次粒子)と、2.岩石・土壌、建材、空気等に含まれる天然放射性核種からの放射線<α線アルファ線)、β線(ベータ線)、γ線ガンマ線)>に分けられる。
<更新年月>
2004年02月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 「自然放射線」とは、自然界に存在する放射線の総称であり、起源別に1.宇宙線と2.天然放射性核種(主に原始放射性核種)からの放射線の2種類に大別される。宇宙線と大気との相互作用によって生じた核種(宇宙線起源核種または宇宙線生成核種)から放出される放射線は通常後者とみなされる。ここでは、被ばく線量の大半を占める宇宙線と原始放射性核種からの放射線について述べる(図1参照)。
1.宇宙線
 「宇宙線」とは、地球外の空間から地球大気中へ侵入する高エネルギー放射線(一次宇宙線)と、これらが大気中の原子核と相互作用を起こすことによって生ずる二次粒子や電磁波(二次宇宙線)とに分けられる。
1.1 一次宇宙線
 一次宇宙線の大半は太陽系外に起源をもつ一次銀河宇宙線であるが,太陽フレアの最中に放出される主に陽子とアルファ粒子から成る低エネルギーの荷電粒子(一次太陽宇宙線)も存在する。一次銀河宇宙線の大部分は、太陽系外から太陽系に侵入する高エネルギー陽子(約90%)と4Heイオン(約10%)から成る。その他、重粒子、電子、光子、ニュートリノも存在する。一次宇宙線粒子の地球の入射粒子束は地球磁場の影響を受け、低緯度地方ほど低エネルギー荷電粒子が宇宙空間へ跳ね返されるため、宇宙線強度は高緯度ほど高くなる。(「緯度効果」)。また、一次銀河宇宙線の低エネルギー陽子成分は、太陽活動に伴って11年周期の変動を示し(「モジュレーション」)、その粒子束は太陽活動が極大の時極小になり、逆に太陽活動が極小の時極大になる。
1.2 二次宇宙線
 一次宇宙線は、大気中に侵入した後大気中原子核と種々の反応を起こし、新しい粒子や核種を生成する。高エネルギーの一次宇宙線粒子は、空気の原子核と「破砕反応」と呼ばれる核反応を起こし、中性子、陽子、π中間子、K中間子などの二次粒子と、3H、7Be、22Naなどの反応生成物を生む。こうして生じた高エネルギーの陽子、中性子、π中間子はさらに空気の原子核と相互作用を起こし、さらに多くの二次粒子を生じさせる(「カスケード」)。またπ中間子は、壊変してミューオンまたは光子となり、別の種類のカスケードを開始する。
 このような過程により一次宇宙線粒子から生じた二次粒子は「二次宇宙線」と呼ばれる。また、3H、7Be、22Naなどの反応生成物は、それ自体が放射線を放出する核種であり、「宇宙線起源核種または宇宙線生成核種」と呼ばれ、二次宇宙線とは区別される。
 二次宇宙線は地表面にまで達し、空気を電離する。海面レベルでの宇宙線による空気電離量の内、75%がミューオンの衝突により飛出した電子に、15%がミューオンの崩壊により生じた電子に起因する。この他、宇宙線成分中には中性子も含まれ、年間実効線量当量では電離成分の約8%に上る。
 宇宙線強度は高度によっても変化し、電離量では、高度2000mで海面レベルの約2倍、5000mで約10倍、10000mで約100倍となる。
2.天然放射性核種からの放射線
 地球上に存在する天然放射性核種としては、地球の誕生時から地殻中に存在してきた「原始放射性核種」が主なものである。この他、宇宙線と大気との相互作用によって発生する「宇宙線起源核種」、自発核分裂や宇宙線中性子による誘導核反応により生じた放射性物質、太古には地球上に存在していたが半減期が十分長くないため現在では事実上天然に存在しない「死滅放射性核種」などもあるが、量的には極めて微量である。ここでは原始放射性核種からの放射線について述べる。
2.1 原始放射性核種からの放射線
 原始放射性核種の主なものは、カリウム40(40K;半減期12.5億年)、232Th(半減期140億年)を親とするトリウム系列核種、238U(半減期45億年)を親とするウラン系列核種の3種類である。ウラン系列核種およびトリウム系列核種は、α崩壊またはβ崩壊を起こしながらα線、β線、γ線を放出する。40Kは、β崩壊を起こして40Caと40Arに壊変する際、β線とγ線を放出する。
 これらの核種は、地殻、岩石・土壌、海水、建材、人体など殆ど全ての物質中に様々な濃度で含まれている。即ち、地質や建材の種類によって含まれる放射能濃度はまちまちであり、このことが地域・場所による線量率の違いの主な原因となっている。
 ウラン系列やトリウム系列の中には、222Rnや220Rnなどの希ガスも含まれている。壊変系列の途中で生成された放射性希ガスの一部は、それを含む物質(土壌、建材など)から空気中へ逸散する。さらに壊変してできた粒子状原子は、空気中エアロゾル(浮遊塵)に付着し、天然の放射性エアロゾルを形成する。これを呼吸器系へ吸入することによる被ばく線量(実効線量当量)は自然放射線の中で最大の寄与を示し、とくに、天然放射性物質濃度の高い岩石などで造られた建物内では、空気中放射性エアロゾル濃度が高くなり呼吸器系への線量が増加するため、居住空間での空気中Rnおよびその娘核種の濃度や挙動が問題視されている。
 屋外における天然放射性核種からの放射線レベルは、その場所の土壌中放射性核種濃度によってほぼ決まる。屋内では、建材中放射性核種濃度と建材の遮蔽効果が決定因子として加わる。屋外での空気吸収線量率(地上1m)は、日本では平均49(最小5〜最大100)nGy/hであり、世界平均(55nGy/h)とほぼ同じである。全国規模の調査データを有するオーストリア、デンマークなど23ケ国の国別平均では24〜85nGy/hであり、平均値としては各国とも大差ない。しかし一部の地域では線量率が特異に高い場所もある。例えば、モナザイトに富む地質上に位置するインドのケララ地方(150〜1000nGy/h)、ブラジルのガラバリ地方(130〜1200nGy/h)などの値が報告されている。
2.2 原始放射性核種以外からの放射線
 前述のように、天然放射性核種には原始放射性核種以外に、宇宙線起源核種、自発核分裂生成核種、死滅放射性核種などが含まれるが、これらは量的には極めて微量であり、放射線源としては原始放射性核種に比較して無視し得る程度である。
<図/表>
図1 自然放射線とその起源

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<関連タイトル>
放射能 (08-01-01-03)
天然の放射性核種 (09-01-01-02)
自然放射線による被ばく (09-01-05-04)
世界における自然放射線による放射線被ばく (09-01-05-05)
インドの高自然放射線地域における住民の健康調査 (09-02-07-02)
ブラジルの高自然放射線地域における住民の健康調査 (09-02-07-03)
宇宙線の発見 (16-02-01-02)
放射線の分類とその成因 (08-01-01-02)

<参考文献>
(1)放射線医学総合研究所(監訳):国連科学委員会報告書(UNSCEAR Report)「放射線とその人間への影響」、1977、1982、1988、2000年版、実業公報社
(2)藤高 和信:宇宙と地球の放射線環境−その未来予測への挑戦−、月刊地球、号外No.22(1998年)
(3)古川 雅英:地球の放射線環境、放射線、vol.29(2003)、p.51-62
(4)村松 康行、土居 雅広、吉田 聡(編):放射線と地球環境−生態系への影響を考える−、研成社、東京(2003年)
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