<大項目> 放射線利用
<中項目> 放射線の理工学利用
<小項目> 理化学利用
<タイトル>
放射線測定による年代推定 (08-04-01-11)

<概要>
 放射性核種壊変を利用して、考古学試料や岩石などの年代を測定する方法が行われている。試料に残っている放射性核種の量、親核種と生成している娘核種の量の比、試料が周囲の放射線から受けた損傷の量などから試料の年代(数値年代)が推定されている。岩石などを対象とするK-Ar法、Rb-Sr法、U.Th-Pb法、フィッショントラック法、熱ルミネッセンス法及び生物の遺物などを対象とする14C法がよく使用されている。
 大賀ハスの名で知られる古代のハスの実の14Cによる年代測定は有名な利用例の一つである。
<更新年月>
2014年11月   

<本文>
 年代測定には自然環境条件下で変動しない正確な時計が必要である。放射性物質の壊変現象は原子核内での強い結合格子間に由来する現象で、壊変速度は10万℃近くまで変化しないことから絶対年代測定での時計として適している。
 1947年、アメリカの物理化学者であるウィラード・F・リビー(1908〜1980)が、大気中の窒素14Nに一次宇宙線で生じた二次中性子が衝突して14N 、14Cの核反応によって14Cが生成し、大気の二酸化炭素にほぼ一定の濃度の14Cが含まれていることをつきとめ、1960年にノーベル化学賞「放射性炭素による年代決定」が授与された。
 放射線の測定による年代推定の原理、方法、利用を以下に述べる。
1.原理
 放射性物質の壊変の式は次のように表される。
   N=Noexp(−λt)
   λ=0.693/T
 Noは始めに存在する放射性核種の原子数、Nはt時間後の原子数、Tは半減期、λは壊変定数である。上式から、過去における原子数Noと現在における原子数Nあるいは現在までの壊変数No-Nと現在の原子数Nが得られれば、対応する時間tすなわち年代を計算できることが分かる。NとNo-Nは実測されるが、Noそのものは別の方法から求めたり、仮定された値が使われる。
2.方法
 測定法は種々あり、仕分け方もいろいろあるが、ここでは原子核の壊変現象を利用する方法と結晶による放射線の吸収現象を利用する方法に分類し、主な測定法について記す。
2.1 原子核の壊変現象を利用する方法
(1)14C法
 遺跡から発掘される生物の遺物である木材、木炭、貝殻、骨などの年代測定に利用される。14Cは、地球に照射される宇宙線と大気中の窒素原子との核反応で生成し、大気中の14C濃度は生成と壊変が平衡した一定値になっている。生物は新陳代謝により生体中の炭素中に一定の割合で14Cを取り込むが、生物の死後は新陳代謝が停止するために、14C濃度は時間経過とともに半減期5730年で減衰する。従って、14C濃度を測定することによって生物の生命活動停止後の年代を知ることができる。この測定法には14Cが放出するベータ線の比放射能を測定する放射性炭素年代測定法と、加速器質量分析器で炭素同位体の存在比(14C/12C、14C/13C)を測定する方法(AMS年代測定法、Accelerator Mass Spectrometry)がある。ただし、前者の放射性炭素年代測定法の大前提は、大気あるいは、生存する植物の14C濃度が過去・現在・未来にわたって変化しないことである。しかし、実際には14Cの生成率は時代とともに変化し、さらに大気中の二酸化炭素の濃度は地球規模の炭素サイクルの変化の影響を受ける。したがって放射性炭素年代と暦年代は一致しないので放射性炭素年代の年代校正を行う必要がある。
 1970年代後半以降、感度の高い後者の方法(加速器質量分析法(AMS法))がよく使われるようになった。最近では、土器に付着する煤、壁画に使われている塗料、種子や花粉化石、骨試料に含まれる特定の有機物など、極微量の試料も放射性炭素年代測定の対象となっている。約300年前から5.5万年前までの年代が測定可能であり、縄文土器の年代が1万6000年まで遡ることもこの方法でわかった。また、大賀ハスの名で知られる古代のハスの実の14Cによる年代測定は有名な利用例の一つである。比較的新しい(〜1万年前)試料の14C濃度を±0.1〜0.2%の精度で測定でき、誤差±10〜20年の放射性炭素年代測定が実現されつつある。
(2)フィッショントラック法
 ウラ二ウム(238U)自発核分裂現象を利用した年代測定法の一つである。岩石中の雲母、ジルコンやカンラン石には、ウランが微量含まれている。天然ウラン中99.3%を占める238Uは、半減期44億7000万年でアルファ崩壊するほかに、わずかの確率で自発核分裂をする。この自発核分裂によって生じた238Uの核分裂片が岩石中を通過するとき飛跡(フィッショントラック)を残す。この飛跡は岩石が生成したときから蓄積し始めるので、内部に残っている238Uの量とフィッショントラックの数から岩石の年代を計算できる。さらに、フィッショントラックは熱によって消失するので、人為的な加熱や火山の噴火後に形成されたトラック数から、それ以後の年代を知ることができる。約1万年より古い年代が測定可能である。大阪層火山灰から取り出されたジルコン結晶に含まれる微量ウランのフィッショントラックの例を図1に示す。
(3)K-Ar法、Ar-Ar法
 天然のカリウムは、主として39K(93.22%)と41K(6.77%)の安定同位体から構成されているが、放射性同位体40K(半減期12億8000万年)を0.012%含む。40Kは壊変し、10.7%が40Arになる。火山の噴火によって形成された岩石が閉鎖系であれば、その中に含まれる40Arは40Kの壊変によって生じたものである。Arは空気中にも含まれているが、質量分析計による岩石中の36Arの測定値と大気中のArの同位体比から、40Kの壊変による40Arと大気中の40Arを区別することができる。図2にK-Ar法の原理と年代計算式を示す。
 Ar-Ar法は、速中性子によって39Kから39Arを生成させ、アルゴン同位体の測定のみで40Kの量を決定する。この方法は、K-Ar法では困難な一部アルゴン損失を受けている岩石についても年代測定できる利点がある。
 これらの方法により角閃石、雲母、長石などを試料として、数万年より古い年代が測定可能である。
(4)Rb-Sr法
 87Rbは半減期488億年でベータ壊変により87Srになる。この生成量と岩石中に残存している87Rbの量から年代を計算できる。ルビジウムは、85Rb、87Rbの二つの同位体をもち、カリウムを含む岩石に付随して含まれているが、ルビジウムを主成分とする独立した岩石はつくらない。ストロンチウムは、84Sr、86Sr、87Sr、88Srの4つの同位体をもち、ストロンチウムを主成分とする岩石も存在する。実際には、岩石生成時に既に87Srがいくらか存在していたと考えられる。そのため、年代が同じでRb/Sr比の異なる2種類以上の試料から87Rb/86Srと87Sr/86Srを測定し、最初から存在した87Srの寄与を取り除く操作をする。
(5)U.Th-Pb法
 岩石などの生成時の年代測定に用いられる。238U、235U、232Thはそれぞれ壊変を繰り返して、下記のように206Pb、207Pb、208Pbになる。Rb-Sr法と同じように204Pbとの比を測定して年代を求める。204Pbは放射性起源同位体をもたない。
   238U(半減期 44,7億年) −−−> 206Pb
   235U(半減期 7.04億年) −−−> 207Pb
   232Th(半減期 140億年) −−−> 208Pb
2.2 放射線エネルギーの吸収現象を利用する方法
(1)熱ルミネッセンス法
 放射線エネルギーを吸収した石英や長石などの鉱物は、加熱されると発光する(熱ルミネッセンスという)。鉱物が加熱されるとそれまでに吸収した放射線による熱ルミネッセンスは消失する。この現象をタイムゼロイングまたは単にゼロイングという。土器焼成や火山噴火などによってゼロイングされた鉱物の熱ルミネッセンスの強度は、ゼロイング以後に鉱物が吸収した放射線量(蓄積線量)に比例する。一方、高感度の線量計素子や遺物の分析によって放射線量率(年間線量)を調べることで年代は(蓄積線量)÷(年間線量)で求められる。この方法は鉱物を含む遺物・遺構に適用され、約100年前から100万年までの年代が測定可能である。日本の前期旧石器遺跡のほとんどは、この方法によって年代が測定されている。熱のかわりに光によって発光させる光ルミネッセンス法では、太陽光によるゼロイングを利用して、黄土(黄砂)などの風成堆積物の年代測定もできる。
(2)電子スピン共鳴法
 電子スピン共鳴(electron spin resonance:ESR)年代測定法は、物質中の電子を測定することにより第四世紀の化石や岩石などの年代を測定する方法である。自然界は岩石や土壌中に微量ではあるが存在するウラン、トリウム、カリウムなどから放出される微弱な放射線に満たされていて、空からは宇宙線が降り注いでいる。この様な自然放射線により一定の確率で放射線損傷(格子欠陥)が化石や岩石中に生じ地質時代を通して蓄積される。
 物質が放射性元素からの放射線や宇宙線を浴びることにより、古い試料ほど不対電子が蓄積し、その量は浴びた放射線量に比例する。放射線によって生成された結晶中の格子欠陥や不純物中心の不対電子は、磁場中でマイクロ波を吸収させると共鳴吸収を起こす。この共鳴吸収の現象を利用して熱ルミネッセンス法と同じ原理で年代測定をする。石英を含む遺物、歯、骨などの遺物に適用し、約1000年から数100万年までの年代が測定可能である。
3.利用
(1)天文・地球化学における利用
 Rb-Sr法、U.Th-Pb法、K-Ar法、フィッショントラック法などにより岩石固化時の年代や隕石の固化年代の決定などから地球、月、その他の天体の年齢の測定が行われている。
(2)考古学における利用
 14C法、フィッショントラック法、熱ルミネッセンス法、電子スピン共鳴法などが考古学や人類学で扱う試料の年代測定に用いられている。
(3)土木・地質分野における利用
 3H/3He法、210Pb法などが地下水の滞留期間や泥の堆積年代の推定に使われている。
 表1に放射年代測定法とその適用範囲の例を示す。
(前回更新:2002年1月)
<図/表>
表1 放射年代測定法の適用範囲および適用物質
図1 大阪層群ピンク火山灰中のジルコンのフィッショントラック
図2 カリウム−アルゴン法の原理と年代計算式

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<関連タイトル>
環境放射能測定による地下水年代の推定 (08-04-01-12)
考古学研究への放射線利用 (08-04-01-13)
電子スピン共鳴法による年代測定 (08-04-01-35)
自然放射線の照射効果を利用したルミネッセンス年代測定 (08-04-01-39)

<参考文献>
(1)IAEA:Radioactive Dating、IAEA(1963)
(2)日本化学会(編):新実験化学講座 10 宇宙地球化学、丸善(1976)、p.337
(3)日本化学会(編):化学総説 No.29 核現象と分析化学、学会出版センター(1980)、p.225
(4)日本化学会(編):第4版 実験化学講座 14 核・放射線、丸善(1992)、p.314
(5)兼岡一郎:年代測定概論、東京大学出版会(1998年11月)
(6)長友 恒人(編):考古学のための年代測定学入門、古今書院(1999)
(7)松浦秀治ほか編:考古学と年代測定学・地球科学、(株)同成社、1999年4月8日
(8)北川浩之:放射性炭素年代測定、縄文時代の考古学12、研究の行方、(株)同成社、2010年1月5日
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