<大項目> 放射線利用
<中項目> 放射線の農林水産業利用
<小項目> 食品の保存等
<タイトル>
食品に対する放射線照射(食品照射) (08-03-02-01)

<概要>
 食品照射は、放射線照射を利用する新しい食品保存技術である。その開発・利用は、20世紀初頭から始まった。1952年には馬鈴薯のX線照射による発芽抑制効果が報告され、その後、国際的に食品照射の研究が進められた。この技術は、放射線(X線、ガンマ線、電子線)の電離作用等を利用し、食品中の細菌や病害虫のDNAに放射線損傷(鎖切断、塩基損傷)を引き起こして殺菌・殺虫し、それらを排除する技術である。照射線量(食品の吸収線量)は0.05〜50kGyの範囲で、目的により使い分けられる。
 FAO(国連食糧農業機関)、IAEA(国際原子力機関)、WHO(国連世界保健機関)等は照射食品の安全性について合同で検討し、1980年には10kGy以下の照射食品の安全性を勧告した。コーデックス(Codex:国際食品規格委員会)もそれを確認した。1997年にはFAO・IAEA・WHO高線量照射に関する合同研究部会は、上限10kGyの撤廃を勧告している。これらの結果から、食品照射の安全性に問題はないと判断されている。
 世界では50カ国以上が60品目以上の照射食品を生産しており、2005年以降に千トン以上の照射食品を生産する国は16カ国、世界で総量約40.5万トンの照射食品が生産され、2012年には100万トンを超えたと推定される。日本は、馬鈴薯の発芽防止の照射のみを許可しており、照射処理量は2005年に約8.1千トン、2010年は約6.2千トンであった。
<更新年月>
2015年09月   

<本文>
1.食品保存と放射線照射
1.1 食品の保存技術
 食料の獲得・確保は生物生存の基本的な条件であり、現在でも、先進諸国においてすら食料は満ち足りた状態とは言い難い(図1)。さらに、世界の人口は2000年の約61億人から2050年には90億人に増加し、食料の需要は2000年の約45億トンから2050年には69億トンに増加すると考えられているが、食料生産量は穏やかな増加にとどまると予想されている。将来には食料需給の逼迫が予想される。一方、現在でも、食品の25%は病害虫と微生物による腐敗により廃棄されている。
 人類は、古くから食料の鳥獣被害対策とともに、様々な増産技術と保存技術を開発・利用してきた。そのうち、食品の保存技術は、(a)食品変質の低減技術及び(b)食品の病虫害の防除技術に大別できる。放射線の特徴を利用した食品照射の技術は、その双方に有効である新しい食品保存技術である。
1.2 食品照射技術の開発史
 表1に、食品照射に関する主要な経緯を示す。1895年のX線の発見以来、放射線を利用する疾病治療、農業技術(品種改良、食品照射など)、工業技術等が検討された。
 農業技術のうち食品照射技術に関し、米国は1943年頃から研究開発に力を注ぎ、1950年頃から原子炉による照射線源の製造を開始した。1952年、米BNLのA.H.スパローとH.クリステンセンは馬鈴薯(ジャガイモ)の発芽防止にX線照射が有効であると報告した。その後、世界的に食品照射の研究開発が本格化した。
2.食品照射技術の概要
2.1 食品照射の原理と効果
(1)食品照射の原理
 図2に、生体に電離放射線を照射した際に起きる主な効果を示す。電離放射線の電離作用等により細胞のDNA(デオキシリボ核酸)の二重らせん構造の鎖切断(直接効果)が生じる。また、DNAの塩基は電離されてイオンになり易く、生体中の水も電離されてOHラジカル等が生じる。これらのイオンとラジカルの反応でDNAに不都合な塩基等が生成されるのがDNA塩基損傷である(間接作用)。表2に1Gy(グレイ)の吸収線量により生体中に生じるDNA切断数と塩基損傷数を示す。塩基損傷数はDNA切断数の約3倍である。大線量照射では、DNAの鎖切断と塩基損傷により生体細胞の大量死が起き、様々な影響が現れる。
 人の0.5〜数Gyの被ばくによる急性影響は、上述の細胞の大量死による。また、放射線照射によるガン治療は、ガン細胞に起きる同様の効果を利用している。食品照射では、所定の放射線を食品に照射し、発芽の防止、熟成の調整、細菌や病害虫の除去等を図っている。
(2)食品照射の安全性
 照射食品の安全性の検討は、1960年代から国際的に試験・検討された(表1)。1961年にFAO(国連食糧農業機関)、IAEA(国際原子力機関)及びWHO(国連世界保健機関)が食品照射の安全性等の検討を開始し、1980年には10kGy以下の照射食品の安全性を勧告した。1983年にはコーデックス(Codex:国際食品規格委員会)も同様に照射食品の安全性を確認した。1997年には、FAO・IAEA・WHOの「高線量照射に関する合同研究部会」は10kGyの上限撤廃を勧告している。表3に照射食品の安全性の検討結果を示す。照射食品の毒性・発がん性、食品の放射化、病原性・毒性の増大、及び食品の栄養素の破壊が詳細に検討され、そのいずれにも問題がないことが明らかになった。
 国内では、1967〜1988年の間に、原子力委員会の原子力特定総合研究「食品照射研究基本計画」の中で、7品目4課題(馬鈴薯と玉ねぎの発芽防止、コメと麦の殺虫、ソーセージと蒲鉾の殺菌、温州みかんの防カビ)の安全性を試験・検討して問題が無いことが確かめられた。
(3)食品照射の条件
 表4に、食品照射の区分、線量及び品目を示す。線量は三群に分けられる。発芽は0.05〜0.15kGy の低線量照射で抑制できる。生鮮果実や野菜の害虫は 1kGy 以下で駆除できる。野菜やバナナやマンゴー、パパイア等の熱帯や亜熱帯産果実の熟度調整(成熟の遅延)には 0.25〜1.0kGy が有効である。食中毒防止のための殺菌には 1〜7kGy が必要である。乾燥野菜の品質改善等には、2〜10kGy が適する。また、工業的な滅菌には20〜50kGy の線量が必要であり、加熱と併用されることもある。
(4)食品照射のメリットとデメリット
 表5に、食品照射のメリットとデメリットを示す。食品照射には以下のメリットがある:(a)食品に異物を添加しない物理的な方法である、(b)照射食品に放射性物質(放射能)が生じないまた残留しない技術である、(c)透過力の高いX線、ガンマ線及び電子線を利用するので均一な殺菌・殺虫処理ができる。また、(d)照射処理中の食品の温度上昇は小さく、食品の品質変化は極めて小さい。一方、以下のようなデメリットがある:(a)食品照射施設の建設と営繕のコストは高い、(b)照射食品に特有の品質問題(風味)がある、(c)60Coや137Cs等の放射線源やX線等の放射線発生器の利用は、一般に負のイメージがあり企業、食品業者、消費者に敬遠されがちである。
3.世界と日本の食品照射の現状
3.1 世界の食品照射
 世界の食料問題に関する食品照射の有効性は、FAO、IAEA、WHO等も等しく認め、IAEAはFAO/IAEA共同プロジェクト(NEFA)で食品照射に関する実施国、施設、食品、条件等のデータベースを整理し公開している。既に世界の50カ国以上が、60品目以上の食料・食品の発芽防止・食品保存に放射線照射技術を利用している。
 表6に、世界の食品照射の現況を示す。世界で16カ国が千トン以上の照射食品を製造する。内閣府の調査では、2005年の世界の照射食品量は40.5万トンであった。図3に2005年の照射食品を、(a)品目別、(b)地域別及び(c)国別に示す。品目別にみると、総計約40.5万トンのうちスパイスや乾燥野菜は約46%で最も多く、次いで馬鈴薯やニンニクの発芽止め22%、穀物・果物類20%であった。地域別には、アジア・オセアニアが45%で最も多い。国別では、中国と米国で世界の約2/3を占めている。2010年の食品照射量は、データが得られてない国々を2005年と同量と見做して57.7万トンと推定された。国際放射線プロセス会議(IMRP: International Meeting on Radiation Processing)の情報から、2012年の世界の食品照射量は100万トンを超えたと推定された。
3.2 日本の食品照射
(1)食品照射の検討と馬鈴薯の照射許可
 日本では、1965年に原子力委員会食品照射専門部会が設置され、原子力特定総合研究「食品照射研究基本計画」の基に1967年に食品照射の検討が開始され1991年に終了した(表1)。その成果を承けて、馬鈴薯の「発芽防止」を目的とする照射(吸収線量150Gy、60Coのガンマ線の利用、再照射は禁止)が許可された。1974 年に北海道士幌町農業協同組合の施設「士幌アイソトープ照射センター」で実用照射が開始された(図4)。2010年の照射量は6.2千トンである(表6)。
(2)食品照射に関する法規と照射食品の検知法
 表7に日本の食品照射に関する食品衛生法による規制を示す。日本の食品・添加物等の規格基準は、食品衛生法第11条、昭和34年12月厚生省告示第370号に基づき「食品を製造し、又は加工する場合は、食品に放射線を照射してはならない。」と定めている。
 また、日本は諸外国から大量の食品を輸入しており、平成24年9月10日「食安発0910第2号」に基づき、照射食品は3種の検知法(分析法)((a)アルキルシクロブタノン法、(b)熱ルミネッセンス試験法(TL試験法)、(c)電子スピン共鳴法(ESR法))を用いて監視している。
(前回更新:2007年8月)
<図/表>
表1 食品照射に関する主要な経緯
表2 吸収線量1Gy(ガンマ線)による主なDNA損傷
表3 食品照射で危惧された課題の試験・検討結果
表4 食品照射の区分、線量及び品目
表5 食品照射のメリットとデメリット
表6 世界の食品照射
表7 日本の食品照射に関する食品衛生法による規制
図1 各国の食料自給率の比較
図2 放射線照射が細胞のDNAに与える損傷、直接効果と間接効果
図3 2005年の品目別、地域別及び国別の照射食品
図4 北海道士幌農協のジャガイモ照射施設の内部

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
海外における食品照射の現状 (08-03-02-05)
米国における食品照射の動向 (08-03-02-06)
照射食品の安全性と利用の動向 (08-03-02-07)
電子スピン共鳴法による照射食品の評価 (08-03-02-08)
わが国における食品照射技術の開発(その1)初期の研究とナショナルプロジェクト (08-03-02-09)
わが国における食品照射技術の開発(その2)1980年以降の研究開発 (08-03-02-10)
電子線による殺菌の原理と応用研究の現状 (08-04-01-08)
放射線のDNAへの影響 (09-02-02-06)

<参考文献>
(1)日本原子力研究開発機構 小林、菊地:食品照射「放射線による食品や農作物の殺菌・殺虫・芽止め技術」、放射線科学、88、 18-27 (2009)、http://www.radiation-chemistry.org/kaishi/088pdf/88_18.pdf
(2)日本食品照射研究協議会:、第50回記念大会特集、「食品照射研究の歴史と現状」、食品照射、49(1)、 (2014)、https://www.jstage.jst.go.jp/article/jrafi/49/1/49_47/_pdf
(3)厚生労働省:「食品への放射線照射についての科学的知見のとりまとめ業務報告書」(平成20年3月株式会社三菱総合研究所、平成22年5月改訂)、http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/housya/houkokusho.html、http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/housya/dl/houkokusho02.pdf
(4)厚生労働省 医薬食品局食品安全部:「放射線照射された食品の検知法について」、食安発0910第2号、平成24年9月10日、http://www.mhlw.go.jp/topics/yunyu/other/2012/dl/120910-02.pdf
(5)IAEA, Joint FAO/IAEA Programme, Nuclear Technology in Food and Agriculture、http://www-naweb.iaea.org/nafa/resources-nafa/databases.html
(6)JA士幌町:コバルト照射センター(士幌アイソトープ照射センター)、http://www.ja-shihoro.or.jp/agri/processed/field.html
(7)日本原子力研究開発機構 先端基礎研究センター、放射場生体分子科学研究グループ:「放射線によるDNA損傷とその生体修復」、http://asrc.jaea.go.jp/soshiki/gr/yokoya-gr/mysite5/index.html
(8)農林水産省:食料自給率とは、http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/011.html#CATEGORY9
RIST RISTトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ