<大項目> 放射線利用
<中項目> 放射線利用の基礎
<小項目> 放射線源
<タイトル>
自由電子レーザー装置 (08-01-03-15)

<概要>
 レーザー放射光源の出現によって、光を利用する科学および工学の広い分野で目覚しい発展が起きたが、さらにその先を開発して行く新たな光源として自由電子レーザーの研究開発が強力に進められている。レーザーは単色で、指向性、収束性、干渉性に優れているが、束縛準位間の遷移に伴って放出されるため、光の波長が限られる欠点があった。そこで注目されたのが加速器で発生する自由電子を利用する自由電子レーザーである。加速器で相対論的な高エネルギーまで加速し、アンジュレータと呼ばれる装置を通して電子ビームを蛇行させて単色の放射光を発生させる。電子ビームエネルギーおよびアンジュレータの特性を変えることにより波長を変えることが可能で輝度は放射光よりも桁違いに強い。遠赤外から軟X線領域まで利用可能と考えられている。以下に自由電子レーザーの原理、その特徴、および日本における開発研究、特に最近の進展について述べる。諸外国の状況も簡単に触れるが、特にDESY(ドイツ)とSLAC(米国)で進められているX線発生を目指す短波長領域における巨大プロジェクトを紹介する。
<更新年月>
2007年12月   

<本文>
 自由電子レーザー
1.はじめに−放射光とレーザー
 レーザーの応用分野はきわめて広く、分光学、精密計測、加工、光通信、情報処理などのほか臨床医学、エネルギー工学などでも利用されている。レーザーは従来の光源と異なり、単色性、指向性、収束性、干渉性など優れた特性を有している。レーザーを発生する媒体は、気体、液体、固体(透明なもの)などで、これら物質の原子または分子軌道にある電子(束縛電子)が許容されるエネルギー準位間で遷移するときに発生する光を利用する。多数の媒質が開発されているが、利用できる光の波長はごく限られたものである。
 一方、レーザーの出現と同じ頃からシンクロトロン放射光と呼ばれる光源が注目を集めてきた。これは高速の電子が磁場中で偏向されると放出する光で(図1)、初期の装置を第1世代放射光源という。放出される放射光の強度はビームエネルギーと磁場の強さの積の2乗に比例する。このため強い磁場を使用し高エネルギーまで電子を加速する大型加速器が建設されるようになった。これを第2世代放射光源と呼び、高エネルギー加速器研究機構にある放射光実験施設(KEK PF)が代表的なものである。放射光は輝度が高く、指向性、干渉性は持っているが、スペクトルは連続である。後に述べるアンジュレータと呼ばれる装置を利用して単色で強度の大きい光を発生する装置も開発された。高輝度光科学研究センターSPring-8は蓄積リングにアンジュレータのような挿入光源を設置し、これらを主体とする第3世代の放射光源である。高輝度光源の概略特性を図2に示す。
 その後将来の光源として注目されたのはやはりレーザーである(第4世代)。早い時期から波長可変なレーザー光源の開発が望まれ、注目されたのが束縛されない電子、すなわち自由電子を利用する方法−自由電子レーザーである。
2.自由電子レーザーの原理(参考文献1)
2.1 アンジュレータ
代表的なアンジュレータは、図3に示すようにN極S極を持つ小型の磁石を交互に多数配置したものである。このアンジュレータを通過する電子の発する光を前方から観測する。電子は磁場により蛇行運動をするが、アンジュレータの1周期λ_UMを進むに要する時間は、光はλ_UM/c、電子はλ_UM/v(cは光の速度、vは電子の速度)で、この差が光の1周期(またはその整数倍)に等しいとき、蛇行運動の各頂点から出た光は同位相となり互いに強めあう。これに対し、この関係を満たさない波長では互いに打ち消しあう。それでアンジュレータから得られる光は連続スペクトルではなく、ある波長、基本波でピークとなる。その波長λは
           λ_UM/v −λ_UM/c = λ/c
で与えられ、電子のエネルギーを静止質量に対する比γ = 1/ (1−β^2)^1/2 で表すと、           λ =λ_UM/2γ^2
となる。ここにβ= v/cである。運動方程式から電子軌道を分析するより精密な解析によると、共振する波長はλ_R =λ_UM/2γ^2(1 + K^2/2) となる。ここにKは K = eBoλ_UM/2πmocでアンジュレータパラメータと呼ばれる。eは電子の電荷、Boは磁束密度である。この相互作用を効率よく引き起こすためには、エミッタンス(大きさと発散角の積)の小さい安定なビームが要求される。
2.2 自由電子レーザー
 アンジュレータの中を進行する相対論的エネルギーを持つ電子に共振周波数の電磁波を重ねると、電子は電磁波の電界により減速されて電磁波を発生し電磁波が増幅される。これが誘導放出で、自由電子レーザーの原理である。発生する電磁波を有効に利用するためアンジュレータ両端にはミラーを設置する(図4)。増幅率が大きくなると発振にいたる。1975年から1977年に米国スタンフォード大学でJ.M.J.Madeyらは43MeV、2.6Aの電子ビームを用いて3.4μmの光の発振に初めて成功した(参考文献2)。その後各国で自由電子レーザー装置の研究が行われるようになった。相対論的エネルギーの電子の発生装置としては、初期には放射光源としての蓄積リングが専ら使用されたが、次第に線形加速器(リニアック)が専用加速器として使用されるようになった。
3.自由電子レーザーの特徴
 自由電子レーザーの特徴は第1に単色で波長が可変なことである。また従来のレーザーでは利用が困難な遠赤外および真空紫外−軟X線領域でも使用が可能である。電子加速器による電子ビームがレーザー駆動源となるためこの電子ビームの時間構造を持つ光ビームが得られ、他のレーザーでは不可能な高い平均出力、ピーク出力でフェムト秒域時間幅のレーザーが可能となる。従来のレーザーが媒質を利用するため避けられなかった発熱の問題がないことも理由の一つである。このレーザー光は第3世代放射光源と比べても輝度が桁違いに大きい。
4.日本における開発研究の現状
 わが国最初の発振は、1991年の電総研の蓄積リングTERASにおける可視光領域の発振である(参考文献3)。その後、分子研や電総研の蓄積リングUVSORとNIJI-IVにおける可視から紫外領域の発振、東大や阪大の遠赤外の発振および自由電子レーザー研究所での線形加速器による遠赤外から可視および紫外での発振が行われ、次第に自由電子レーザー研究が盛んとなってきた。以下に最近行われている研究のいくつかを紹介する。
4.1 東京理科大学赤外自由電子レーザー研究センター(参考文献4)
 LaB6カソード、SバンドRF電子銃、全長3m加速管を持つ線形加速器で、電子を最大40MeVまで加速する。アンジュレータは全長1.28m周期数43磁極にSmCoを用いる。発生する光の波長は、5〜16μm、ミクロパルス幅2psec、ミクロパルスエネルギー8〜25μJ、マクロビームパルス幅1〜2μsである。このセンターの特徴は中赤外光を利用する研究が活発に行われていることである。
4.2 原研超伝導自由電子レーザー装置(現日本原子力研究開発機構、ERL自由電子レーザー)
 この装置の著しい特徴は電子線形加速器に超伝導加速空洞を採用していることである。この装置を使用して発生した光は平均約2kW超、ピーク約1GWの高出力で、255フェムト秒/3サイクルで発振した。特に効率は6〜9%と高い。ここで言う効率は発生する光のエネルギーの発生装置で消費される全電力に対する割合であって、常伝導加速器ではこの効率は極めて低いのだが、超伝導加速器を利用するため高い効率が得られている(参考文献5)。現在はこの特徴をさらに進め、エネルギー回収型線形加速器(ERL)を利用する研究を進めている(参考文献6)。
4.3 理化学研究所SPring-8 SCSS 計画(参考文献7)(図5
 自由電子レーザー装置開発の重要な目標の一つはX線発生用レーザーである。難問であったミラーは使用しないSASE(自己増幅自然放射)モードである。SPring-8 SCSS(SPring-8 Compact SASE Source)は主な特徴として、(1)低エミッタンス電子銃、(2)高電界Cバンド加速器技術、(3)短波長真空封止型アンジュレータを使用する。目標とする電子ビームは、エネルギー1GeV、q 1nC、ピーク電流 2kA、Δt 0.5ps、でアンジュレータは、λ_UM 15mm、全長 22.5mである。2006年6月には250MeV電子ビームにより49nmの真空紫外領域での増幅実験、続いて発振実験にも成功した。さらに波長1Å領域のコヒーレント光源を目指すX線自由電子レーザー計画が 2010年の完成を目指してスタートしている。
5. 海外における研究開発の現状
 1977年のMadeyらによる最初のFELの赤外光発振の後、1983年フランスのパリ大学(参考文献8)、少し遅れて独立にロシアのノボシビルスク核物理研究所の蓄積リングによる可視光発振が行われた。現在は、米国、ヨーロッパで遠中赤外線領域において波長可変性、短パルス構造等の自由電子レーザーの特徴を生かした利用者施設(参考文献9、10、11、12、13)の運用が医学、物性、生物科学等の分野において開始されている。以下にX線領域自由電子レーザーの開発研究を行っている二つの大きな計画の現状を紹介する。
5.1 ドイツDESY(ドイツシンクロトロン研究所)自由電子レーザー研究施設FLASH
 この研究施設(Free-Electron Laser in Hamburg)を図6に示す(参考資料14)。レーザー駆動RF電子銃、6台の超伝導加速モジュールで電子を1GeVまで加速する。中間2か所にバンチ圧縮装置を設け1nCの電子を圧縮し、最初50−80Aのピーク電流を1−2kAまで圧縮する。アンジュレータは全長30m、λ_UM 27.3mmのNdFeBの永久磁石を使用する。2007年10月986MeVの電子ビームにより、世界最短となる6.5nmのレーザー光発振に成功した。さらに短波長発生を目指すヨーロッパの自由電子レーザー光源XFEL計画がスタートする。全長3.4kmで2008年春に建設開始、2013年末の試験運転を計画している。
5.2 米国スタンフォードLCLS(Linac Coherent Light Source)(参考資料15)
 この研究施設は、主加速器としてよく知られた世界最大のスタンフォード2マイル線形加速器の後部1kmを使用するものである。この線形加速器への入射部を図7に示す。1nCの電子を135MeVまで加速し、10psecまで圧縮しピーク電流100Aを1-1.5μmの広がりで達成した。主加速器に入射し加速する試験を2007年12月から開始し、1.5Åの自由電子レーザー光の発振を目指し、さらに2009年には施設としての完成を目指している。
(前回更新:2001年11月)
<図/表>
図1 放射光の発生
図2 高輝度光源の概略特性
図3 アンジュレータ放射光の発生と光のスペクトル
図4 自由電子レーザーの発生原理
図5 Spring-8 Compact SASE Source配置図
図6 Freee-Electron Laser in Hamburg配置図
図7 Linac Coherent Light Source入射部配置図

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
加速器(高エネルギー放射線発生装置) (08-01-03-02)
研究炉 (08-01-03-05)
シンクロトロン放射光 (08-01-03-08)
SPring-8(放射光)施設による放射線利用 (08-04-01-07)

<参考文献>
(1)R,Kamei,M.Kihara:加速器科学、丸善(1993)
(2)D.A.G.Deacon,et.al.:Phys.Rev.Lett. 38,892(1977).
(3)K.Yamada et. al.:Nucl.Instr.and Meth. A318,33(1991).
(4)H.Kuroda:Jpn.J.Appl.Phys.41.Suppl.-1,1(2002)
(5)E.J.Minehara et. al.:Nucl.Instr.and Meth. A429,9-11(1999).
(6)E.J.Minehara:J.Particle Acc. Soc. Japan,V.2,N.1(2005)48
(7)T.Shintake et al.:Pro. 1st Ann,Meeting Particle Acc. Soc. Japan,(2004)45,J. Particle Acc. Soc. Japan,V.3,N.3(2006)284
(8)M.Billardon,et.al.:Phys.Rev.Lett.51,1652(1983).
(9)G.Ramian:Nucl.Instr.and Meth. A318,225(1992).
(10)C.A.Brau:Nucl.Instr.and Meth. A318,38(1992).
(11)V.N.Litvineko et. al.:Nucl.Instr.and Meth. A358,369(1993).
(12)T.I.Smith and H.A.Schwettman, Nucl.Instr.and Meth. A304,812(1991).
(13)A.F.G.van def Meer et.al.:Nucl.Instr.and Meth. A341,ABS23(1994).
(14)Deutaches Elektronen-Synchrotron:http://www.desy.de/html/home/index.html,FLASH,http://www.desy.de/
(15)Linac Coherent Light Source:LCLS,PhotoInjector,http://www-ssrl.slac.stnford.edu/lcls
(16)上坪宏道、太田俊明:ものを見るとらえる6 シンクロトロン放射光、岩波書店(2005年10月)
(17)日本原子力研究所東海研究所物理部:パンフレット(1990年1月)
(18)C.A.Brau:サイエンス、239、1115(1988)
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