<大項目> 放射線利用
<中項目> 放射線利用の基礎
<小項目> 放射線源
<タイトル>
放射線利用と照射施設 (08-01-03-14)

<概要>
 放射線利用では、その目的によりガンマ線、電子線、イオンビーム、中性子線、さらに放射光やレーザー光が用いられている。ラジオアイソトープ(RI)から放出される放射線α線、β線、γ線など)を利用しようとする場合には、イオンビームや中性子線を用いて先ずRIを製造する。放射光やレーザー光の発生には、電子線が不可欠である。それぞれに対応した機器・設備が必要であることから、ガンマ線照射施設、加速器利用施設(電子線照射施設、X線照射施設、イオンビーム照射施設、放射光利用施設、自由電子レーザー施設、中性子線照射施設)、原子炉施設等について、それらの特徴を紹介する。
<更新年月>
2015年02月   

<本文>
 ガンマ線を用いた放射線利用の分野では、60Co、137Csを装備した照射施設があり、電子線を利用する分野では、電子加速器を装備した照射施設がある。また、イオンビームやRIビームを用いた放射線利用では、各種イオンの発生装置と共にイオンを加速する機器類が装備された照射施設が必要となる。さらに、中性子線を利用する場合には、原子炉が必要となるが、加速器を用いて中性子線を発生させる場合も多くなった。最近の急速な真空技術の開発により放射光利用技術も放射線利用の仲間に加わってきた。兵庫県播磨科学公園都市に設置されたSPring-8に代表される高輝度放射光施設は大型であるが、主として半導体工業で使われるリソグラフィー用として開発された小型の放射光施設もあり、さらに、自由電子レーザー施設も加わってきた。
 これらの照射施設について次に紹介する。
1.ガンマ線照射施設
 放射線利用で用いられる照射施設のガンマ線源としては、60Coと137Csのラジオアイソトープ(RI)があるが、(1)半減期が長いこと、(2)照射、貯蔵時の安全性が高いこと、(3)コスト及び入手の容易さ、の条件を満足する60Coが一般的に利用されている。
 60Coをガンマ線源(放出γ線エネルギーが1.17MeVと1.33MeV、半減期が5.27年)として利用するには、ステンレス鋼(SUS 316L)製の2重のカプセルに溶封し密封線源とする。日本における商業用ガンマ線照射施設を表1に示す。これらの照射設備は、プロセス用として大型であり、放射線遮へいに必要な部屋壁も分厚くなる。試験研究用の小型照射設備では、部屋壁が薄くても十分な遮へいが可能なものがある。
 商業用ガンマ線照射施設の第1号である、北海道士幌農業協同組合のジャガイモ照射施設内部の状況を図1に示す。60Co線源は中央部に籠状に組み立てられている。委託照射用としての商業用ガンマ線照射施設の例を図2に示す。
 独立行政法人 農業生物資源研究所 放射線育種場(1961年設立)の野外照射施設ガンマーフィールド(88.8TBq60Co保有)及び照射施設(ガンマールーム(44.4TBq60Co保有))は、1965年に設立され、種子、球根・穂木などの短時間照射のための室内急照射用施設として、全国の国立大学に所属する研究者用の共同利用研究施設である。ここでは放射線を利用して植物を中心とした生物の突然変異の誘発や、放射線生物効果の研究が行われている。
 医学分野におけるガンマ線照射施設としては、医療用具の殺・滅菌大型施設と共に、動物実験や輸血用血液の照射用に、137Csを装備した装置(ATOMICA「輸血血液への放射線照射(GVHDの予防)(08-02-02-12) 参照)、さらに、がん治療用の60Coを装備した装置(ガンマナイフ、ATOMICA「ラジオサージャリー(ガンマナイフ、リニアックナイフなど) (08-02-02-10)」参照)がある。これらはガンマ線源を比較的少量使用した小型装置であり、自己遮へいが施されているため、設置・取扱いは比較的簡単である。非破壊検査における放射線利用でも、60Coや192Irのガンマ線源を使用するものは、自己遮へいが施されていて移動使用が可能であるため、建設現場や定期検査の現場で多く利用されている。
2.加速器利用施設
 加速器を用いて発生させる放射線の種類としては、電子線、イオンビーム、中性子線、さらに、最近注目されている放射光やレーザー光がある。工業プロセス用あるいは研究用で使用されている加速器には、高エネルギー加速器と低エネルギー加速器がある。1MeV以上の加速性能を有する高エネルギー加速器は、法規上、届出及び使用の許認可取得が必要となり、従って放射線防護設備が重要である。2013年3月末におけるわが国での使用許可取得台数は1,595台で、そのうち医療機関には、73.9%が設置されている。これらは使用目的により、電子線、X線、イオンビーム等を得るために使用されており、低エネルギー加速器は、もっぱら電子線照射用に用いられている。
2.1 電子線照射施設
 電子線照射施設として、高エネルギー加速器を設置した場合、法規上、届出及び使用の許認可取得が必要である。なお、低エネルギー加速器(900keV以下)の場合には、法規上は放射線発生装置とは見なされない。従って、装置の放射線防護も自己遮へい型で十分であり、特別の防護壁等は不要であることから、工業プロセス用として2000年3月現在、350台以上が利用されている。
2.2 X線照射施設
 小型のX線照射装置は、診療用のエックス線装置が代表的であるが、工業プロセス用のX線源には、主として5MeV以上の高エネルギー電子加速器が用いられる。これは電子線をタングステン、タンタルなどの金属ターゲットに照射することにより発生するX線を利用するものであり、ターゲットの種類によりX線の波長が決まるという特徴がある。電子加速器は、X線照射用としても利用され、電子線を透過しにくい試料の照射に利用されている。また、がん治療などにも電子線・陽子線が用いられている。
2.3 イオンビーム照射施設
 放射線利用の一環として、イオンビームの利用が活発である。イオンビームは、エネルギー付与と共に物質(元素)を注入することができる。そのため、特異な照射効果が期待できることから、新材料・新機能開発や医学診断分野で重要視されている放射性医薬品の製造に利用されている。電子に比べて非常に重いイオンを加速する必要があることから、加速エネルギーは必然的に高くなり、副次的に発生する放射線も高エネルギーとなり、従って、遮へいも大掛かりになる。図3に、日本原子力研究開発機構 高崎量子応用研究所のイオン照射施設の概観を示す。ここでは数10keV〜数100MeVにわたる広範囲のエネルギーで多種類のイオンを加速するため、AVFサイクロトロンと3基の静電加速器(タンデム加速器、シングルエンド加速器、イオン注入装置)が設置されている。図4に独立行政法人 放射線医学総合研究所の重粒子線がん治療装置の全体図を示す。本装置では、ヘリウム以上の重い元素のイオンを加速対象とし、イオン源でイオン化した粒子を2段加速(0.8MeV及び6MeVライナック)した後、主加速器であるシンクロトロンで800MeVまで加速して、2方向から患部に照射する。この装置は、分厚いコンクリート壁で遮へいが施されている。
 理化学研究所のRIビームファクトリー(RIBF)では、水素からウランまで全元素のRI(不安定核)ビームを世界最大強度、最高エネルギーで発生させる次世代加速器施設内に、新型リングサイクロトロン2基(常伝導リングサイクロトロンIRCと超伝導リングサイクロトロン SRC)とRIビーム発生装置(Big RIPS)を新設し、これまで軽い元素に限られていたRIビームを、全元素にわたって世界最大強度で発生させることができる。リングサイクロトロンでの最大加速エネル
ギーは、ヘリウムイオンで400MeV、ウランイオンで100MeVである。図5に、RIビームファクトリー施設全体の概念図を示す。2006年(平成18年)度中にファーストビームを発生し、その後2009年7月にはビームファクトリー稼働後初めての原子核反応実験で32Neの観測に成功している。
2.4 放射光利用施設
 大型加速器利用の最前線には、放射光利用がある。大型放射光施設(SPring-8)は、電子エネルギー8GeVの硬X線領域の高輝度放射光が得られる施設である。その主要部は、電子入射用の1GeVの線形加速器、電子・陽電子を8GeVに加速するシンクロトロン及び蓄積リングから構成されている。これらの加速器本体から発生する放射線を放射線障害の防止に関する法律等に定める線量以下とするために、加速器本体は1〜4m厚さのコンクリート遮へい体で取り囲まれている。一時新聞誌上を賑わせた毒物入りカレー事件における亜ヒ酸中の極微量不純物の分析のほか、蛍光X線分析法による超微量物質の検出能力を飛躍的に向上させる技術開発など多くの成果が得られている。
 放射光源の小型化技術の開発により、放射光は半導体工業で使われるリソグラフィー用をはじめとして、多目的の物質科学及び産業科学用に使われている。現在わが国(国内)に設置または計画されている放射光施設を表2に示す。
2.5 自由電子レーザー施設
 自由電子レーザー(Free Electron Laser:FEL)とは、両端にミラーを置いたウィグラーあるいはアンジュレータの光共振システムに電子ビームを入射し、レーザー光を発振させるものである。その波長は、磁場と電子ビームの持つエネルギーで定まるから、波長が1μm以上のときには線形加速器が用いられ、それ以下のときは電子蓄積リングが用いられている。放射光施設に続く次世代光源として研究開発が進められている。
 日本原子力研究開発機構は1990年ごろから超伝導リニアックによるFELの開発を進め、電子ビームからレーザー光への変換効率の理論限界値であった0.7を大きく超える変換効率4.6%という世界最高の高い効率が得られ、2000年に世界最高の2.3kWの発振を確認している。これによりダイオキシン類をはじめとする環境有害物質を分解・無毒化する技術や、レーザーメスの医療への応用などが実用化に近づいた。
 大阪大学大学院 工学研究科自由電子レーザー研究施設では2台の高周波線形加速器と5台のアンジュレータを装備し、0.23〜100μmの紫外から遠赤外域における任意の波長のFELを利用して、医療への応用研究が進められている。その他の大学、研究機関、企業でも各種の電子加速器を利用して研究開発が行われている。放射線に対する防護は、放射光施設と同程度のものと考えられる。
 独立行政法人 理化学研究所と財団法人 高輝度光科学研究センター(現 公益財団法人)は、2011年(平成23年)6月大型放射光施設SPring-8に隣接して建設したX線自由電子レーザー(XFEL:X-ray Free Electron Laser)施設SACLA(サクラ)で1.2Å(オングストローム:10-10m)のX線レーザーの発振に成功し、2012年3月に供用を開始した。2014年には、世界で初めてフェムト秒(10-15秒)領域においてX線直接吸収分光法による電子スペクトルの一括測定に成功している。この成果は、SACLAから出力されるX線パルスが、フェムト秒という極めて短い時間の間に起こる化学反応などの現象を直接捉えるのに優れていることを実証したことになる。
2.6 中性子線照射施設
 中性子ラジオグラフィや医療用放射性医薬品の製造などに、電子や陽子を加速する線形加速器やサイクロトロンが利用されている。220MeVの電子をタングステン金属に照射したり、800MeVのプロトンを7Liや12Cに照射して各種エネルギーの中性子線が得られている。医療分野では、30MeVのサイクロトロンで陽子、重陽子を加速して、これらの粒子線をベリリウムに照射して中性子線を発生させ、がん治療に用いられた例がある。また、世界最高クラスの1MWパルス核破砕中性子源を用いて、物質科学、生命科学研究を推進する施設として、日本原子力研究開発機構と高エネルギー加速器研究機構が共同で建設した大強度陽子加速器(J-PARC:Japan Proton Accelerator Research Complex)(図6)が、2008年(平成20年)度に第一期施設が完成した。RCS(Rapid Cycling Synchrotron)で1MWの運転が当面の目標で、将来は50GeVまで加速するMR(Main Ring)の陽子加速器構成で世界最高クラスの大強度陽子ビーム生成を目指している。J-PARCは、素粒子物理、原子核物理、物質科学、生命科学、原子力など幅広い分野の最先端研究を行うための陽子加速器群と実験施設群の呼称である(ATOMICA「J-PARC計画とその利用研究 (07-02-01-15) 参照)。
3.放射線源としての原子炉施設
 原子炉で発生した中性子を、RIの製造、中性子ラジオグラフィなどの分野で利用している。製造されたRIが医学・工学から、さらに、環境科学や生命科学の広い領域で利用され、中性子ラジオグラフィはX線透過検査を補完しているが、国内では研究が主で実用化はあまり進んでいない。
 原子炉では中性子をはじめとして、各種の放射線が発生しているため、その漏洩防護対策を厳重に行う必要があり、遮へい壁や気密対策が施されるほか、さらに、換気も負圧設計などにより十分に管理されている。
(前回更新:2005年4月)
<図/表>
表1 日本の商業用ガンマ線照射施設
表2 日本における放射光施設(計画を含む)
図1 ジャガイモ照射施設(北海道士幌農協)
図2 ガンマ線照射施設の例
図3 イオン照射施設(日本原子力研究開発機構 高崎量子応用研究所)
図4 重粒子加速器HIMAC全体図
図5 RIビームファクトリー施設全体の概念図
図6 大強度陽子加速器(J-PARC)の概念図

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<関連タイトル>
加速器(高エネルギー放射線発生装置) (08-01-03-02)
研究炉 (08-01-03-05)
シンクロトロン放射光 (08-01-03-08)
非破壊検査用の線源 (08-01-03-11)
自由電子レーザー装置 (08-01-03-15)
ラジオアイソトープ(RI)中性子源 (08-01-03-16)
放射線利用の概要 (08-01-04-01)
放射線照射による農作物の品種改良(放射線育種) (08-03-01-01)
放射線利用の新たな展開について (10-02-02-04)

<参考文献>
(1)日本アイソトープ協会(編):改訂3版アイソトープ便覧、丸善(1984年12月)
(2)科学技術庁原子力安全局(監)、原子力安全技術センター(編):放射線障害防止法令集、第一法規出版(1994年9月)
(3)日本アイソトープ協会(編):放射線障害の防止に関する法令−概説と要点(改定4版)、丸善(1994年6月)
(4)(財)放射線利用振興協会:特集/工業用放射線照射施設の動向、放射線と産業 No.78,p.2(1998年6月)
(5)独立行政法人農業生物資源研究所(http://www.irb.affrc.go.jp/photo/index.html)
(6)科学技術庁原子力安全局(監修):放射線利用統計2013 日本アイソトープ協会 (2013年12月)(http://www.jrias.or.jp/kokai-page/down-load/download-top.html)
(7)理化学研究所仁科加速器研究センター(http://www.rarf.riken.go.jp/facility/RIBFabout.html)
(8)SPring-8ホームページ(http://www.spring8.or.jp/ja/)
(9)大阪大学大学院工学研究科自由電子レーザー研究施設(http://www.fel.eng.osaka-u.ac.jp/)
(10)放射線医学総合研究所:重粒子医科学センター(http://www.nirs.go.jp/rd/structure/rccpt/index.shtml)
(11)日本原子力研究開発機構:超伝導自由電子レーザーで世界最高効率を達成(http://www.jaea.go.jp/jaeri/jpn/publish/01/ff/ff37/laser.html)
(12)日本原子力産業会議(編):原子力ポケットブック 2004年版、(2004年8月)
(13)日本原子力研究開発機構高崎量子応用研究所ホームページ(http://www.taka.jaea.go.jp/)
(14)日本原子力研究開発機構、大強度陽子加速器施設(http://j-parc.jp)
(15)石川哲也:日本の自由電子レーザー「SACLA」、日経サイエンス2014年7月号p88
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