<大項目> 放射線利用
<中項目> 放射線利用の基礎
<小項目> 放射線源
<タイトル>
ラドン(自然環境中の放射線源) (08-01-03-12)

<概要>
 ラドン(Rn)は、順次に連鎖的に壊変するウラントリウムの放射性系列に属する希ガス元素である。存在する元素の同位体は、すべて放射性で安定核種が存在しない。最も寿命の長いラドン(222Rn)はラジウム226Ra)の壊変で生成する。222Rnやトロン220Rn)は自然環境中の至るところに存在し、地表で生活する人の自然放射線被ばく量のおおよそ半分がラドンによるという。その一方で、ラドンにはトレーサ利用や地震予知の可能性を探る材料の一つになるのでは、との期待もあり、効用をうたう温泉への入浴という親近感もある。ここでは、ラドンの成因とラドンによる人の放射線被ばくについて記し、ラドンの利用にも触れる。
<更新年月>
2005年04月   

<本文>
1. ラドンの発見とその性質
 ラジウムを研究していたラザフォード(E.Rutherford)とドルン(F.E.Dorn)が、1900から1901年にかけて、トリウムやラジウムから放射能を有する気体の放散を認めた。この気体は、当初エマナチオン(放射、放散の意)と称されたが、後にその性質が判明し、原子番号86のラドン(Rn)と命名された。ラドンはヘリウムとかネオンのような化学的に安定な希ガス元素の一種である。現在30種以上の同位体が知られているが、安定なものはなくそれらはすべて放射性である。そのなかで最も安定なものがラドン(222Rn)で、その半減期は3.825日である。
 ラドン(222Rn)はウラン系列図2 238Uの壊変系列)の放射性核種の一員で、親核種であるラジウム(226Ra)のアルファ壊変で生成する。222Rnもアルファ線を放出して壊変し、順次、連鎖的に壊変を繰り返し、最終的には安定な206Pbになる。以下特に断わらない限り、ラドン(222Rn)をラドンと呼ぶ。
 ラドン(Rn)の同位体の一種トロン(220Rn)は、トリウム系列図3 232Thの壊変系列)の一員である。220Rnの半減期は54.5秒で、208Pbになるまで順次、連鎖的に壊変する。以下、トロン(220Rn)をトロンと呼ぶ。
 自然界には、ラドンやトロンのほかに、ウランとかトリウムと同様に連鎖的に壊変するアクチニウムの壊変系列(起源は235U)に属するラドン(219Rn)がある。しかし、235Uの含有量はウラン元素の0.7%に過ぎず、しかも半減期が短い(3.92秒)ため、ラドン(219Rn)による人の放射線被ばくは通常無視される。
2. 環境におけるラドン・トロン
 ウランやトリウムは地殻に普遍的に存在する微量元素である。地殻中のウラン(238U)とトリウム(232Th)の平均壊変数は、それぞれ、0.033Bq/gと0.039Bq/gであり、もしも放射平衡が成立していれば、ラドン(222Rn)とトロン(220Rn)の放射能はほぼ等しいことになる。
 大地を構成する土壌・岩石から、それらの空隙の空気中に放出されたラドンは、地表面から大気中に散逸するか、または家屋の床を通して屋内大気に侵入する。家屋の建材もラドンを放出するため、家屋構造材の種類によって屋内のラドン濃度が変化(表1表2)する。家屋の気密性が高いと屋内のラドン濃度は明らかに増加する。プレハブ、鉄骨、木造家屋のラドン濃度が低く、コンクリートおよびコンクリートブロックの家屋のラドン濃度が高い。また、大地からのラドンの散逸は気象に大きく左右され、さらに、土壌や岩石組成が地域により異なるため、大気中のラドン濃度にも地域性が認められる。北海道・東北、関東、中部、四国および九州・沖縄の7地方に分けてラドン濃度の差異を表3に示す。花崗岩の多い西日本では比較的高く、関東ローム層に覆われた関東地方では低い値である。地殻変動・火山活動、断層の存在などもラドン濃度の変動要因として知られている。屋内ラドン濃度の地理的(緯度別)分布との関係を図1に示す。
 通風性の良好な木造家屋の多い日本は、屋内のラドン濃度が世界的に見て低い、しかし、気密性の高い近代の住宅環境では、換気への配慮がなければわが国でも屋内ラドン濃度が高まる可能性がある。
 世界各国における屋内ラドン濃度に関する有用なデータが豊富にあり、屋内トロンについても新しい情報が利用できるようになっている。国連科学委員会1988年及び1993年報告書にラドンの結果についてかなりの量のデータがまとめられている。最近の調査データとともに表4に示す。
3. ラドン(Rn)放射能の測定
 ラドンの測定には、古くはIM泉効計(*)(放射能は電離箱と検電器で測定する)やZnS(Ag)などが用いられ、測定感度が低かったが、1950年頃からは放射線測定技術が進歩し、それに呼応してラドンの測定技術も大幅に向上した。
 大気中のラドンの測定法には、ポンプを用いて例えば数10リットルの空気を吸入するアクティブ法と測定器を大気中に静置して測定するパッシブ法とがある。その際、ラドンの壊変で放出されるアルファ線を直接測定する方法と、娘核種等を活性炭のような吸着材などで捕集して測定して、間接的に算出する方法とがある。
 温泉にラドンが含まれていることは知られている。そのラドンを測定するのに、温泉法施行規則では「温泉を登録する際には、温泉の成分分析をするためにガラス製棒状温度計、化学天秤などとともに、IM泉効計を保有しなければならない」としている。
 放射線の測定器には、固体飛跡検出器、液体シンチレーション検出器、大容量の電離箱、吸着法で捕集した娘核種等のガンマ線波高分析器、アルファ放射能用の半導体検出器などがある。
 トロン濃度の測定法もラドンと同様である。しかし、トロンの半減期(54.5秒)が短いため、検出器中のガスの滞留時間を調節してラドン濃度を求めるとか、半導体検出器によりアルファ線のエネルギースペクトルを弁別するといった工夫が施される。一般に測定試料中にはラドンやトロンが常に共存し、その割合は測定中にも大幅に変化することが多い。このため測定誤差が大きく、放射能の測定は未だに検討課題とされている。
4. ラドン・トロンによる放射線被ばく
 1982年国連科学委員会(UNSCEAR1982)の報告書が公表され、保健物理の分野において、ラドンによる放射線被ばくが注目されるようになった。1985年頃からは、アメリカなどを中心に保健上のリスクに対する人々の関心が高まり、自然放射能であるラドンに由来する放射線被ばくの研究が盛んになった。
 大気中のラドン・トロンの濃度は低いので、これらの放射線による外部被ばく量は小さい。ラドン・トロンは呼吸により人体に入って内部被ばくの原因物質になる。それらの娘核種等は体内に取り込まれて全身に移行する。呼気のラドン・トロン濃度は2.項に記したように多くの要因で変動する。また、多くの娘核種等を含めた放射性核種の体内移行挙動、半減期や壊変エネルギーなど被ばく量評価にはなお多くの研究課題がある。1985年までに得られたそれらのすべての知識を結集して、平均的な人の自然放射線による被ばく量が報じられた(表5)。それによるとラドン・トロンの寄与は、自然放射線による被ばく量の約半分と見積もられている。
 自然環境のラドン濃度が異常に高い地区、特にウラン鉱山における坑夫等の疫学的調査から、ラドン(Rn)およびその娘核種等による被ばく評価ならびにラドンの内部被ばくに由来するガン発生率の上昇が論じられている。
 ラットを用いた放射線の影響を調べる実験では、ラドンの吸入量が高くなるほど、肺がんの発生率は高くなり、たばことの複合によって2〜4倍高くなる。さらに、ラドンによる発ガンで、たばこは「がん」を促進する物質として作用することが明らかになっている。
5. ラドンの利用
 ラドンは安定な気体で、数日から数10日にわたる測定に適しているため、大気や気団の問題を扱う気象学上のトレーサ(放射性追跡子)として利用されている。さらに、ラドンのトレーサ利用は地下水などを対象とした水文の分野、海洋の分野へも広がっている。
 ラドンの発生源は地中にあり、地殻変動、地震、火山活動、地滑りなどと関係があると予想されている。地震発生頻度の高いわが国では、地震予知を目指した研究に特に関心が集まっている。ラドンと地震との因果関係を追求する研究は、放射能測定技術の進展とともに1950年頃からわが国でも行われてきた。その後、1974年に旧ソ連邦タシケントでの地震予知例が紹介されて以降、わが国のこの方面の研究が活発化した。最近の研究によれば、活断層上またはその近傍の大気のラドン濃度と地震発生との間には、何らかの因果関係が認められるとのことである。

[用語解説]
(*)IM泉効計(Fontactscope):温泉、鉱泉中に含まれる放射性元素であるラドンの量をα(アルファ)線で測定するための安価で簡便な装置。
<図/表>
表1 家屋構造材別の屋内ラドン濃度の年平均値(Bq・m-3)
表2 建材のラドン222発生源の特徴
表3 わが国における地方別屋内ラドン濃度の年平均値(Bq・m-3)
表4 屋内調査で測定された家屋内ラドン濃度
表5 自然線源からの平均被ばく線量
図1 測定された様々な国における室内ラドンの濃度の平均と緯度との関係
図2 ウラン(238U)壊変系列
図3 トリウム(238Th)壊変系列

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<関連タイトル>
α壊変 (08-01-01-05)
地球上に存在する放射性核種 (09-01-01-06)
内部被ばく (09-01-05-02)
放射能泉と健康 (09-02-07-10)

<参考文献>
(1)日本アイソトープ協会(編):アイソトープ手帳(第10版)、丸善(2001年)
(2)放射線医学総合研究所(監訳):放射線の線源と影響、国連科学委員会2000年報告書、実業公報社(2002年3月)
(3)下 道国、山田裕司(編):ラドン、その人間への影響まで、NIRS-M-140 (2000年11月)
(4)岡部 茂(編):大気中のラドン族と環境放射能、日本原子力学会(1985年)、 同(II)(1990年)、 同(III)(1995年)
(5)放射線医学総合研究所(監訳):放射線の線源、影響及びリスク、国連科学委員会1988年報告書、実業公報社(1990年3月)
(6)放射線医学総合研究所(監訳):放射線の線源と影響、国連科学委員会1993年報告書、実業公報社(1995年10月)
(7)床次真司ほか:放射能調査研究報告書(平成11年度)、8.屋内・外のラドン等による被ばく線量調査−生活環境中のラドン濃度調査−
(8)「原子力のすべて」編集委員会(編):「原子力のすべて」、国立印刷局(2003年12月)
(9)放射線医学総合研究所:ラドンの環境中における動態と生物影響に関する研究、http://www.nirs.go.jp/randd/anzen/radon.shtml
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