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<概要>
 研究炉(研究用原子炉)は発電用原子炉とは異なり、主に原子炉で発生する中性子等の放射線を利用する原子炉である。研究炉はその利用目的に基づいて、以下のように分類される。(1)中性子を利用して物理、化学、生物、医療などの研究を行うビーム実験炉、(2)原子炉燃料や構造材料照射のために試験を行う材料試験炉、(3)RI(ラジオアイソトープ)生産用炉、(4)教育訓練用炉、(5)将来の原子炉を開発するための工学試験炉・実験炉・原型炉など。研究炉は、一般に発電炉に比べて高い中性子束(〜2.0×1014/cm 2・s)が得られるように設計されており、熱出力は小さく(1W〜200MW;発電炉は最大で約4,000MW)、原子炉冷却材の温度と圧力も低い。構成材料にも、中性子吸収の少ないアルミニウムなどが主に用いられている。また、中性子ビーム取り出し用の照射孔及び実験孔が多く設けられている。高速炉を除くと、発電炉よりもウラン235濃縮度の高い濃縮ウラン燃料が用いられているなどの特徴がある。
<更新年月>
2015年02月   

<本文>
1.はじめに
 研究炉(研究用原子炉)は、発電用原子炉とは異なり、主に原子炉で発生する中性子等の放射線を利用する原子炉であり、様々な実験、研究に利用されるとともに、ラジオアイソトープの製造などの実用目的にも用いられる。また、原子炉に関する工学的基礎データの取得、原子炉にかかわる人材の育成等に用いられており、工学的研究用原子炉には、新型原子炉の開発のための実験炉や原型炉等も含まれる。ここでは、利用目的に応じた研究炉の分類とその特徴を示すとともに、分類された研究炉毎にその利用例を具体的な原子炉名称を挙げて解説する。
2.研究炉の分類及びその特徴
 わが国で現在運転中または建設中の研究炉について、名称、炉型、熱出力などの特徴を表1に示した。研究炉の主な利用目的は、(1)基礎研究、(2)材料照射、(3)RIの生産・開発研究、(4)医療照射、(5)教育訓練、(6)工学的研究に分けることができる。
 これらの利用目的に基づき、研究炉はそれぞれ以下のような通称で分類される。(1)中性子を利用して物理、化学、生物、医療などの研究を行うビーム実験炉、(2)原子炉燃料や構造材料照射のために試験を行う材料試験炉、(3)RI(ラジオアイソトープ)生産用炉、(4)教育訓練用炉、(5)将来の原子炉を開発するための工学試験炉・実験炉・原型炉など。なお、ビーム実験とラジオアイソトープ生産、ビーム実験と材料照射など複数の利用目的のために製造された研究炉も多い。教育訓練用炉は主として大学に設置されており、各種の原子炉実験にも対応できるように原子炉熱出力が1W〜5,000kWと広範囲にわたっている。
 研究炉は、一般に発電炉に比べて高い中性子束(〜2.0×1014/cm 2・s)が得られるように設計されており、熱出力は小さく(1W〜200MW;発電炉は最大で約4,000MW)、原子炉冷却材の温度と圧力も低い。構成材料にも、中性子吸収の少ないアルミニウムなどが主に用いられている。また、中性子ビーム取り出し用の照射孔及び実験孔が多く設けられている。高速炉を除くと、発電炉よりもウラン235濃縮度の高い濃縮ウラン燃料が用いられている。わが国の研究炉で用いている濃縮ウラン燃料は米国から提供されており、米国が1977年に核不拡散政策を変更して高濃縮ウラン(235U濃縮度90%以上)が使用できなくなったため、研究炉燃料の低濃縮化(235U濃縮度20%以下、シリサイド燃料)が進められた。
3.利用例
 研究炉の用途別分類にしたがって利用例を紹介する。なお、福島第一原子力発電所事故後に原子炉等規制法が改定され、2013年12月には研究炉を含む核燃料施設等に対する新規制基準が施行され、原子力規制委員会による適合性審査が行われているため、2015年2月時点では日本原子力研究開発機構の安全性研究炉NSRRと京都大学原子炉KURのみが稼動している。
3.1 教育訓練用炉
 教育訓練用炉は原子炉の運転・管理、放射線管理に関する技術の習得、原子炉の原理・特性についての理解の促進などに資することを目的とするものであり、研究者・技術者・作業員等の原子炉に係る専門家を育成するとともに、原子力分野に関係する行政・報道関係者、学生を含む一般大衆の原子炉に関する理解の促進に活用されてきた。主に大学に設置された原子炉が教育訓練用に利用されてきたが、1961年から40年間稼動した立教大炉は2011年12月廃止手続きを行い、また、1963年に臨界を達成したTRIGA-II型研究用原子炉である武蔵工大(現東京都市大学)炉は2003年に廃止措置を行った。さらに、東大原子炉「弥生」の運転も停止している。したがって、この目的に利用できるのは現在では近畿大学の教育・研究用原子炉UTR(University Teaching and Research Reactor、昭和36年11月(1961年)に臨界、最大熱出力0.1ワット)のみとなった。一方、日本原子力研究開発機構(JAEA)の原子力人材育成センター(旧国際原子力総合技術センター)では、JRR-4などのJAEAの研究炉を活用して原子炉の運転実習、制御棒校正実験、各種特性測定等を実施し、わが国のみならず諸外国にも門戸を開放して教育訓練を行ってきた。しかし、JAEAの改革計画(2013年9月)の中で、事業合理化の一環としてJRR-4を廃止する計画が示されている。
3.2 ビーム実験炉
 ビーム実験炉としては、京大炉(KUR)、NSRR、JRR-3等がある。KURは平成18年3月から約2年間、運転を停止して高濃縮ウラン燃料から低濃縮ウラン燃料に切り替えた。ガンマ線の少ない中性子が得られるため、KURには医学生物学的照射に適した重水熱中性子設備、生体物質や高分子材料の分子構造研究等に適した冷中性子源と長波長中性子設備、低温照射設備、準単色中性子実験設備などがある。ビーム利用研究としては、中性子散乱実験や中性子ラジオグラフィによる構造解析、即発γ線分析による元素微量分析等が行われ、また、照射設備を用いて放射化分析、フィッショントラック年代測定等が行われている。
 NSRRでは、瞬間的に発生する高中性子束を利用し、動きの速い金属容器内の気液二相流の中性子ラジオグラフィ(NRG)によって二相流を可視化するとともに、その特性の定量的な測定を行っている。1975年6月以来30年以上運転を続け、これまで3154回のパルス運転、1350回の燃料照射実験を実施している。これまでの実験の成果を通して、東京電力福島第一原子力発電所における炉内状況の把握に貢献し、廃止措置の早期達成が期待されている。また、中性子ラジオグラフィは近畿大炉でも行われており、弱い中性子線量ではあるが優れた画像が得られている。
 JRR-3によるビーム利用研究では、各種中性子散乱実験装置によって、生命科学、物質科学の分野で生体や材料物質の構造解明などに多大な成果を挙げている。工業面への応用として残留応力測定も行われている。また、中性子ラジオグラフィを実施し、植物の研究や原子炉安全性研究にも役立てられている。さらに即発γ線分析の分野では、隕石、考古学試料、生物試料などの分析が行われている。
 医療分野の利用では、KURの重水熱中性子ビーム設備でホウ素中性子捕捉療法(BNCT)が行われている。この療法では、点滴等で血液を介してホウ素を腫瘍部に送り込み、原子炉から中性子をその患部に当てる。するとホウ素がリチウムに核変換し同時にα線を放出する。この放出されたα線によりがん細胞が破壊される。KURにおける脳腫瘍等の治療では、熱中性子と熱外中性子による方法があり、これらを最大限に活用する治療技術が開発されている。
3.3 材料試験炉
 軽水炉の長期化対策として、現行軽水炉の高経年化対策、MOX燃料を含む軽水炉燃料の高性能化と安全評価、軽水炉技術の高度化に向けた開発などの照射ニーズがある。
 材料試験炉として代表的なJMTRでは、短時間で照射試験を行うこと(加速照射試験)ができるように発電炉よりも多量の中性子を発生する設計になっており、軽水炉燃料の高燃焼度化のための照射試験、軽水炉の高経年化対策として構造材料の照射挙動を調べる試験、新型炉開発のための照射試験、高速実験炉(常陽)とJMTRとのカップリング照射試験等を行ってきたが、平成18年8月に原子炉を停止し、原子炉の更新及び照射設備の整備に着手している。今後のJMTRについては、JMTR利用検討委員会の答申等を踏まえ、軽水炉燃料・材料の照射、医療用及び工業用のラジオアイソトープの製造、近い将来に急増することが見込まれているハイブリッド自動車等に利用される大口径NTD(Neutron Transmutation Doping)シリコン半導体の照射需要等を考慮して決定される。
 JRR-3では、軽水炉燃料の高燃焼度領域の研究として100GWd/tの加速照射試験、核不拡散性及び環境安全性に優れた岩石型プルトニウム燃料の照射試験が行われ、材料の照射試験では、高温工学試験研究炉及び核融合炉材料の照射試験が継続されている。
3.4 ラジオアイソトープ生産・研究開発用原子炉
 医療・産業・農林水産業で広く利用されているラジオアイソトープのほぼすべてが研究炉またはサイクロトロンで作られている。癌(がん)治療に使用する192Ir、198Auについては、JRR-3、JMTRを含む研究炉全体で国内需要の100%を提供していたが、東日本大震災以後、原子炉が停止しているため供給は滞っている。
 中性子を照射して半導体用素材を作る例(JRR-3)では、シリコン中に約3%存在する30Siが中性子を吸収して31Si(半減期2.62時間)に変換し、β壊変して安定同位元素である31Pになる。シリコン中にこの31Pが均一に分散し、精度良く31Pの濃度を制御できるので高品質半導体材料となる。原子炉で照射生産するシリコン半導体は、ガス拡散法等で生産されるものよりも優れた電気的特性を示すことから、大口径(150mm)半導体シリコンが生産され、大型の超高圧サイリスタ等に使用するなど半導体産業界で重要視されている。
 原子炉からの中性子を照射して行う放射化分析法は、高精度の微量元素分析法として評価が高い。例えば、原油流出による環境汚染調査のための重金属元素等の分析、環境指標海産物(海草、イカ、ホタテ、プランクトン等)に含まれる微量元素の定量、土壌、温泉水、海底堆積物、隕石等に含まれる微量元素の定量等である(JRR-3)。
3.5 高温熱利用炉
 1000℃程度の高温の熱を炉外に取り出し、段階的に各種用途のために熱を有効に利用する方法についての研究は、HTTR(高温工学試験研究炉)で行われている。HTTRは1998年11月に初臨界に達し、その後、2001年12月に定格出力30MW及び原子炉出口冷却材温度850℃を達成し、2004年4月に世界で初めて原子炉出口冷却材(ヘリウムガス)温度950℃を達成した。HTTRは、高温ガス炉技術の基盤の確立と高度化を目的として建設された。そのため、運転データの蓄積とともに、反応度印加事象を模擬した制御棒引き抜き試験、冷却材流量減少を模擬した流量低下試験等を行い、高温ガス炉の安全特性の実証に役立てられている。また、熱利用技術基盤の開発として、水を原料として水素を製造するISプロセスの研究開発を進め、2004年には0.03m3/hで1週間の連続水素製造に成功している。さらに、HTTRの設計、建設、運転、安全性実証試験の成果を活用して、小型、高温の直接ガスタービン発電専用炉の設計概念も構築されている。
3.6 新型原子炉の開発のための炉
 わが国では次世代原子炉として、高速炉と新型転換炉の開発を行ってきた。高速炉の開発は第一段階を実験炉「常陽」、第二段階を原型炉「もんじゅ」、第三段階を実証炉として開発を進め、新型転換炉では、実験炉段階を省略して原型炉「ふげん」から研究開発が始まった。
 高速実験炉「常陽」はナトリウム冷却型の高速中性子炉であり、国のプロジェクトとして国産技術により設計、建設及び運転されてきた。「常陽」では、増殖炉心(MK-I炉心)と照射用炉心(MK-II炉心)による四半世紀に及ぶ運転が行われ、高速増殖炉に関する技術的経験が蓄積された。また、高性能制御棒や高性能炉心材料等の照射試験を通じて燃料・材料の開発に活用され、高速中性子照射炉としても多くの成果を上げてきた。2000年からは、照射性能を飛躍的に向上させるMK-III炉心への改造を開始し、2003年11月に改造工事を完了、2004年5月からMK-IIIの本格運転を開始している。
 「もんじゅ」は、わが国唯一の発電できる高速増殖炉であり、運転しながら、消費した以上の燃料を生み出すことができる。しかしながら、1995年12月8日、2次冷却系中間熱交換器の出口配管からナトリウムが漏えいする事故が発生した。改造工事を終えて2010年5月に運転を再開したが、同年8月に燃料交換用の炉内中継装置の落下事故で再び停止した。その後、多数の機器の点検漏れなどが見つかり、運転再開時期は不透明な状況にある。(詳細はATOMICAデータ「高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の開発(その2)(03-01-06-09)」を参照。)
 一方、新型転換炉「ふげん」は、重水減速沸騰軽水冷却型(圧力管型)原子炉であり、1979年3月に運転開始し、2003年3月に運転を終了するまで24年間順調に運転された。「ふげん」は、外国からの技術導入ではなく、設計から建設、運転までを自主技術で行った。これまでに、圧力管等の信頼性確認、運転手法の確立、運転・保守技術の高度化などを行い、燃料としてウランとプルトニウムの混合酸化物(MOX)燃料を本格的に使用した世界初の発電炉である。
(前回更新:2007年12月)
<図/表>
表1 わが国の試験研究用および研究開発段階にある原子炉一覧表
表1  わが国の試験研究用および研究開発段階にある原子炉一覧表

<関連タイトル>
高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の開発(その1) (03-01-06-04)
高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の開発(その2) (03-01-06-09)
研究炉の概要 (03-04-01-01)
JRR-3(JRR-3M) (03-04-02-02)
JRR-4 (03-04-02-03)
JMTR (03-04-02-04)
高温工学試験研究炉(HTTR) (03-04-02-07)
原型炉「ふげん」 (03-04-02-09)
海外の主な研究炉 (03-04-09-01)

<参考文献>
(1)日本電気協会新聞部(編):原子力ポケットブック 2006年版(2006年7月)
(2)医用原子力技術研究振興財団:医用原子力だより第6号 JRR-4医療照射設備の紹介(2007年7月)
(3)日本原子力研究開発機構 産学連携推進部:原子力機構の共用施設(2006年3月)
(4)日本原子力研究開発機構:原子力機構の施設利用、

(5)研究炉利用ホームページ:日本原子力研究開発機構 東海研究開発センター 原子力科学研究所 研究炉加速器管理部、http://drrta.jaea.go.jp/2/21.htm
(6)日本原子力研究所 東海研究所 研究炉部(編):研究炉利用ハンドブック第2版(1999年3月)
(7)近畿大学原子力研究所:
(8)京都大学原子炉実験所:http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/KURdiv/index2.php
(9)NSRR(安全性試験研究炉):http://nsrr.jaea.go.jp/
(10)JMTR(材料試験炉):
(11)HTTR(高温工学試験研究炉):http://httr.jaea.go.jp/
(12)高速実験炉「常陽」:http://www.jaea.go.jp/04/o-arai/joyo/index.html
(13)高速原型炉「もんじゅ」:http://www.jaea.go.jp/04/monju/
(14)新型転換炉「ふげん」:http://www.jaea.go.jp/04/fugen/
(15)伊藤哲夫:近畿大学、原子力教育研究の半世紀、特集 原子力教育研究に貢献した半世紀、エネルギーレビュー、2012年7月
(16)原子力委員会:もんじゅ研究計画について(見解)平成25年12月24日
(17)三島嘉一郎:徹底分析「研究炉の今」、エネルギーレビュー、2014年6月
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