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<概要>
 核兵器用のプルトニウムは約180〜250トン、高濃縮ウランは約1,250〜1,750トン世界に存在すると推定されている。ロシアは高濃縮ウランについてのインベントリーは発表していないが、 米国との間で 94年1月に高濃縮ウランを500トン売却することで協定を結んでいる。高濃縮ウランは、天然ウラン劣化ウランで混合希釈して燃料加工し、現行の軽水炉にそのまま利用できる。一方、プルトニウムは、ウランとの混合酸化物(MOX)にして、現行の軽水炉炉心に部分装荷するのが最も容易な利用法である。これは、軽水炉級プルトニウムについてのプルサーマル利用と呼ばれ、フランス等西欧ではかなり行われており、日本でも計画が進めれているものと同じである。さらに、プルトニウムの処理効率を高めるためには、MOX燃料を軽水炉炉心に全装荷する方法が有効である。このほか、CANDU炉や高温ガス炉での利用も可能であり、さらに最もプルトニウムの利用効率の高い高速炉への転用も可能である。また、MOX燃料のほかに岩石型燃料による軽水炉への適用及び金属燃料による高速炉への転用が考えられる。
<更新年月>
2006年12月   

<本文>
1.概要
 通常、核兵器用プルトニウムはプルトニウム239の濃度が94%以上、ウランはウラン235の濃縮度が90%以上と言われている。これらの高濃縮ウランやプルトニウムを使うと、表1に示すように、少量で原爆を造ることができる。ウランについては、遠心分離法等により天然ウラン(235Uが0.7%)を濃縮しその濃度を高めればよいが、プルトニウム239はウラン238と中性子の反応により生成されるため、ウランを原子炉中に装荷して燃焼させて造る。しかし、プルトニウム239も中性子を吸収して高次の同位体プルトニウム240へと核変換する(図1)。そのため、プルトニウム239の濃度が94%以上であるように原子炉内の滞在時間を考えて取り出し、再処理して原爆用プルトニウムを生成する(表1に示すように、米国によれば、プルトニウム239が94%以下の60%以上の軽水炉級プルトニウムでも、爆縮技術の高度化により核弾頭への利用が十分可能であると言われている。また、ネプチニウム237やアメリシウム241も核兵器に転用の可能性がある)。
 プルトニウムも高濃縮ウランも軍事用の保有量(図2)は、ピークに達していると考えられる。兵器級の核物質生産は、米国、ロシア、フランス、英国で中止または削減されている。しかし、インド、中国、パキスタンおよび北朝鮮では生産が続いていると見られている。
 1993年1月の戦略兵器削減交渉(START-I)の合意により、兵器として使い道のなくなったプルトニウムは核解体工場などに保管されており、米国は約52トン、ロシアは50トンと公表している(図3)。さらに、2001年にモスクワ条約がSTART-II,-IIIに変わって合意し、2012年までに約4000個の核弾頭を処分し2200個以下にすることになっている。これらはここ20から30年のうちに、核兵器に転用されたり、核保有国以外の第3者に略奪されたりしないために緊急に処分されることになっている。この軍事用のプルトニウムの処分については、原子炉を利用してプルトニウムを燃焼させプルトニウムの質を劣化させて核兵器として使用しにくくすることと、高レベル廃棄物を混合してガラス固化体にして地層処分することが考えられている。現在は、原子炉を利用してエネルギーを生産し、軽水炉使用済み燃料と同等のものにして処分する方法が最も有望と考えられている。
2.原子炉による利用
2.1 高濃縮ウランの転用
 核兵器用の高濃縮ウランは世界で1,750トンあると推察されている(図2)。核拡散防止の観点からロシアの高濃縮ウランはいち早く米国が買い付けている。ウラン235濃縮度90%のものを天然ウランか劣化ウランで希釈して、現行のウラン加工施設でウラン235濃縮度3.2%から5%程度に調節したUO2燃料を造り、そのまま現行軽水炉に利用でき、特別の問題はない。100万kW電気出力で33,000MWd/tの燃焼度の軽水炉では、年間約0.3トンのウラン235を必要とする。50基の軽水炉で50年運転しても750トンであることを考えると、1,750トンという数字から膨大な軍事用高濃縮ウランが製造されていたことがうかがえる。
2.2 核兵器用プルトニウムの利用
 現在、プルトニウムを使用している原子炉は軽水炉と高速炉である。燃料形態は、ウランとの混合酸化物(MOX)で、フランス等西欧の多くで現行の軽水炉炉心の一部分に部分装荷されている(図4)。このとき使われているプルトニウムの組成は、核兵器用ではなく、軽水炉使用済燃料を再処理して得られた原子炉級プルトニウムと呼ばれているもので、プルトニウム239が約70%含まれている。現在、MOX燃料加工が可能な国は、フランス、ドイツ、ベルギー、日本などに限られており、米国はプルトニウム利用を禁止しているためにその施設を持っていない。また、ロシアも加工施設の規模は小さいため、国際協力のもとでMOX加工工場の計画が進められている。図5に核兵器プルトニウムの原子炉への転用プロセスを示す。軽水炉における核兵器級プルトニウムの処理量及び消滅割合を表2に示す。
(1)軽水炉での利用
 MOX燃料を炉心に部分装荷する場合と全装荷する場合とが考えられる。部分装荷は、現在のプルサーマル炉心と同様であり、安全性および技術性の面から問題は少ない。全装荷炉心では、炉心制御のための中性子吸収材の追加や炉心頂部のハードウエアーの変更などが必要である。プルトニウム富化度としては4%から6.8%が考えられている。50トンの核兵器プルトニウムは、120万kW級PWR2基に装荷するとすれば、4%富化度燃料なら25年間、6.8%富化度燃料なら15年間で燃焼可能である。ロシアにはPWRと設計が類似のVVER-1000が有り、MOX燃料利用が可能である。
(2)CANDU炉での利用
 軽水炉に次いで有望なのは、カナダで商業運転中の重水減速型のCANDU炉であり、MOX燃料100%装荷炉心が物理的に可能とされている。50トンの軍事用プルトニウムは、77万kW炉心2基で22年間で処理可能とされている。
(3)高速炉での利用
 ロシアは、軽水炉利用よりも現在許認可中のMOX燃料を使用するBN-800高速炉を利用したいと考えている。一方、米国は、金属燃料使用の高速炉LMRの利用もオプションの一つと考えている。本来高速炉はプルトニウム239の直接核分裂割合が軽水炉に比べて大きく、高次のプルトニウム240,242およびアクチニドが生成されにくく、中性子経済が良いと言う利点があり、プルトニウム利用に適している。しかし、軽水炉に比べて運転経験は少なく、本格的利用は2030年以降と言われている。
(4)高温ガス炉での利用
 プルトニウムの酸化物を微小球の燃料にして燃焼させる。または、トリウム燃料と混合してプルトニウムをほぼ完全に燃やす考えもある。軽水炉での利用に比べて炉の開発要素が多い。
3.岩石型プルトニウム燃料による軽水炉での利用
 この燃料の特徴は、プルトニウム239を生成するもとになるウラン238を含まないか、極力含有量を抑えたものである。そのため、使用済燃料中のプルトニウム残存量が少なく、核兵器用プルトニウムの主要核種であるプルトニウム239をほぼ完全に消滅できる。この岩石型燃料は、使用済燃料も化学的に安定であり、再処理が極めて困難で核不拡散性が高く、環境安全性に優れ、ワンススルー燃料として地中処分するのに適している。現在、日本、フランス、スイス、イタリア、アメリカ、ロシアなどが研究を進めている。
 米ソの狂気の競争の下に多量に生産された核兵器用の高濃縮ウランとプルトニウムは、極めて質の高いもので、原子炉の燃料として転用し平和利用に使用すれば、100万kW電気出力軽水炉50基を100年以上にわたって運転でき、エネルギーを生産し続けることができる。
(前回更新:1998年3月)
<図/表>
表1 核物質の核兵器への転用しきい値
表1  核物質の核兵器への転用しきい値
表2 軽水炉における核兵器級プルトニウムの処理量及び消滅割合(%)
表2  軽水炉における核兵器級プルトニウムの処理量及び消滅割合(%)
図1 プルトニウム239の生成と核変換の原理
図1  プルトニウム239の生成と核変換の原理
図2 世界のプルトニウムと高濃縮ウランの保有量
図2  世界のプルトニウムと高濃縮ウランの保有量
図3 戦略核弾頭の推移と解体核プルトニウム
図3  戦略核弾頭の推移と解体核プルトニウム
図4 世界の軽水炉におけるMOX燃料集合体使用状況
図4  世界の軽水炉におけるMOX燃料集合体使用状況
図5 核兵器プルトニウムの原子炉への転用プロセス
図5  核兵器プルトニウムの原子炉への転用プロセス

<関連タイトル>
プルトニウム核種の生成 (04-09-01-01)
海外のプルトニウム燃料製造施設 (04-09-01-06)
混合酸化物(MOX)燃料とその軽水炉への利用 (04-09-02-03)
岩石型プルトニウム燃料の研究 (04-09-02-10)

<参考文献>
(1)IAEA(編):IAEA SAFEGUARDS GLOSSARY, 1987 Edition, International Atomic Energy Agency, Vienna(1987)
(2)D. Albrite et al.: Plutonium and Highly Enriched Uranium 1996, World Inventories, Capabilities and Politics, SIPRI, Oxford University Press, New York(1997)
(3)Management and Disposition of Excess Weapons Plutonium, Reactor Related Options; National Academy Press, Washington, D.C(1995)
(4)H. Akie et al.:” A New Fuel Materials for Once-Through Weapons Plutonium Burning”, Nucl. Technol.,107,182(1994)
(5)高野 秀機:Pu燃焼炉の概念、第28回炉物理夏期セミナーテキスト、日本原子力学会(1996年7月29日-31日)、p.128
(6)徳原 一実ほか:239Pu高濃度のプルトニウムを装荷したペブルベッド型高温ガス炉の温度係数の検討、JAERI-Tech. 96-025(1995)
(8)高野 秀機ほか:岩石型プルトニウム燃料開発とその燃焼処理技術、原子力工業、42(3)、60(1996)
(8)Frank von Hippel:Global Stocks of Fissile Materials,UN Secretary General’s Advisory Board on Disarmament Matters, UN Conference,Feb.24,2005.
(9) 外務省:http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kaku/beiro/start.html(2006)
(10)日本原子力産業会議:世界の原子力発電開発の動向2005年度版(2005年12月)
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