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<概要>
 使用済燃料の貯蔵すなわち一時保管は、再処理能力にくらべて使用済燃料の発生量が上回ることが予測されるので、注目を浴びている問題である。貯蔵方式には湿式と乾式がある。乾式貯蔵は、湿式にくらべ運転経費が安いことと貯蔵に要する放射性廃棄物の発生量が少ないために経済性が高い。ここでは乾式貯蔵の特徴、形式、安全性の研究について示す。
<更新年月>
2009年03月   

<本文>
1.乾式貯蔵の特徴
 わが国においては、当面の間、使用済燃料発生量が再処理能力を超えるため、一時貯蔵が必要である。使用済燃料の貯蔵法には湿式貯蔵(水中)と乾式貯蔵(気体中)がある。わが国の原子力発電所では、主に湿式(使用済燃料プール貯蔵)により保管管理されているが、一部の原子力発電所の敷地内においては乾式(金属キャスク貯蔵)により保管管理されている。どちらの貯蔵方式も国内外において数十年の実績があり、安全に貯蔵する技術が確立されている。
湿式貯蔵と比較した乾式貯蔵の特徴は以下が挙げられる。
・不活性ガス(主にHe)中に貯蔵するため、燃料被覆管の腐食は起こりにくい環境にある。
・使用済燃料からの崩壊熱除去には、自然対流を利用しているため動的機器が無い。
・水を使用していない事から、水の管理・処理に伴い発生するもの等の放射性廃棄物が少ない。
・主要な設備は貯蔵容器と建屋で構成されており、燃料貯蔵に関する安全確保の多くはそれに期待しており、設備・施設構成が単純である。
2.乾式貯蔵施設の形式
 乾式貯蔵施設の形式を大別すると、金属キャスク貯蔵、サイロ貯蔵(コンクリートキャスク貯蔵含む)およびボールト貯蔵がある。
 金属キャスク貯蔵:金属製の輸送兼貯蔵用容器を用いて貯蔵する方式である。二重蓋構造とし、二次蓋と一次蓋の蓋間を正圧にし、使用済燃料を収納する空間(一次蓋内)を負圧(気密)に維持している。蓋間の圧力を常時監視することにより、仮にシールの1つの気密性が破れても漏えい検出が可能であり、その時点で処置することにより、キャスクの密封機能を保持できる。金属キャスクの形式には、本体材料として鍛造炭素鋼、鋳鉄、SUS−鉛を用いているものがある。操業までに建物が完成していればよいため、現地における建設期間が短く、必要な時期に必要なキャスク基数を調達できる等のフレキシビリティが高い(初期投資のリスクが低い)。図1に金属製キャスクの例(TN24)を示す。
 サイロ貯蔵(コンクリートキャスク貯蔵含む):金属製のキャニスタに使用済燃料を収納し、コンクリート製の構築物に貯蔵する方式である。発電所から貯蔵施設への輸送は、キャニスタが収納できる輸送容器を用いる。一般的に貯蔵施設にて輸送容器からコンクリート構築物へ詰め替えを行うことから、金属キャスク貯蔵に比べて、追加的なハンドリング設備が必要となる。また、コンクリートの遮へい厚さが金属キャスクよりも厚いこと、コンクリートに温度制限があること等から貯蔵密度が低くなる。サイロの形式には、縦置(図2および図3参照)と横置(図4参照)がある。
 ボールト貯蔵(地下貯蔵庫):金属製のキャニスタに使用済燃料を収納し、通常、半地下施設に貯蔵する方式である。個々の容器でなく集中的に遮へいするため貯蔵密度を高くできる利点がある。ただし、発熱密度が高くなるため、冷却のための工夫が要る。密封機能の構造は一重が多いが、多重の場合もあり、設計思想に依存する。雰囲気は不活性ガスの場合が多いが、空気雰囲気の貯蔵例もある。なお、国内のガラス固化体(高レベル放射性廃棄物)の貯蔵施設と同じ貯蔵方式である。図5にボールト貯蔵施設の例を示す。
3.乾式貯蔵の安全性
 使用済燃料を安全に貯蔵するため、貯蔵容器(施設)の密封、除熱、遮へい、臨界防止等を適切に設計することに加えて、構造強度設計により、これらの基本的安全機能性を維持・担保している。
 わが国の原子力発電所敷地内で行われている金属キャスク貯蔵では、事業者による、気密漏えい確認、燃料集合体外観確認等により、長期貯蔵の健全性が確認されている。
 立地点、地形、気象条件によっては、冷却空気中の海塩粒子を考慮する場合もあり、応力腐食割れ(SCC)防止の研究が行われている。具体的には従来材のSUS304L、SUS316Lよりも耐SCC性に優れるSUS329J4L、YUS270(耐海水ステンレス鋼)について、試験片レベルでの定荷重SCC試験、すき間腐食電位測定、自然浸漬電位測定、き列進展試験などを行い、海塩粒子付着により破断にいたる腐食がほとんど発生していないデータを得ている。また、貯蔵施設への塩分流入の低減対策として、圧力損失の小さい、塩分低減装置について様々な形式の装置の研究が行われている。
(前回更新:2002年8月)
<図/表>
図1 金属製使用済燃料輸送貯蔵兼用キャスク(TN24)
図1  金属製使用済燃料輸送貯蔵兼用キャスク(TN24)
図2 コンクリート製円筒型竪置使用済燃料貯蔵用サイロ
図2  コンクリート製円筒型竪置使用済燃料貯蔵用サイロ
図3 コンクリート製ドライ型水平置使用済燃料貯蔵用サイロ
図3  コンクリート製ドライ型水平置使用済燃料貯蔵用サイロ
図4 NUHOMSコンクリート製ドライ型水平置使用済燃料貯蔵用サイロ
図4  NUHOMSコンクリート製ドライ型水平置使用済燃料貯蔵用サイロ
図5 空冷式軽水炉使用済燃料貯蔵用ボールト
図5  空冷式軽水炉使用済燃料貯蔵用ボールト

<関連タイトル>
使用済燃料の貯蔵施設 (04-07-03-15)
海外諸国の使用済燃料貯蔵の現状 (04-07-03-17)
使用済燃料中間貯蔵技術 (06-01-05-14)

<参考文献>
(1)Proc.IAEA Advisory Group/Specialist Meeting,Las Vegas USA,Nov.12—21,1980,DOE—SR—0009
(2)IAEA/OECD−NEA,Storage Safety,Engineering and Environmental Aspects,Vienna,8—12 Oct.1990,IAEA—SR—171
(3)D.Alexandra et al.(eds.):1993 Inter.Conf.Nuclear Waste Management and Environmental Remediation−Vol.1 Low and Intermediate Level Radioactive Waste Management,ASME CSMES CSNS
(4)原子力安全・保安院:輸送貯蔵兼用金属キャスクに関する関連規制と諸課題(2008年11月4日)
(5)電力中央研究所:キャニスタ系使用済貯蔵施設におけるSCC対策に関する研究(その1)塩分流入対策技術およびSCC評価 研究報告、N07030(2008年5月1日)
(6)電力中央研究所:使用済燃料の浅地下ボールト貯蔵方式のフィージビリティに関する研究 研究報告、N07015(2007年12月1日)
(7)電力中央研究所:金属キャスク貯蔵施設の除熱模型試験方法の提案 研究報告、N06032(2007年5月1日)
(8)電力中央研究所:コンクリートキャスク貯蔵実用化のための気中塩分量評価−既存の金属キャスク貯蔵設備での気中塩分計測− 研究報告、N06022(2007年5月1日)
(9)電力中央研究所:使用済燃料コンクリートキャスク貯蔵用キャニスタ候補材の塩化物応力腐食割れ特性(その5)SCC評価および塩分流入低減技術の考案 研究報告、Q06014(2006年6月1日)
(10)電力中央研究所:使用済燃料コンクリートキャスク貯蔵用キャニスタ候補材の塩化物応力腐食割れ特性(その4)長期試験によるSCC寿命評価およびSCC発生感受性の電気化学的検討 研究報告、Q06001(2006年9月1日)
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