<大項目> 原子力安全研究
<中項目> 原子力施設などの安全研究
<小項目> 軽水炉の安全研究
<タイトル>
シビアアクシデント時の炉心溶融進展に関する研究 (06-01-01-09)

<概要>
 1979年3月に米国スリーマイル島2号機(TMI-2)で起きた事故では、原子炉炉心の約半分が溶融した。この事故は設計基準事故を超えた事故であり、シビアアクシデント(過酷事故)の典型例として位置づけられている。これを契機にシビアアクシデントの諸現象の把握やシビアアクシデントへの防止対策のため、炉心の損傷、溶融過程に関する研究が各国で精力的に実施されている。日本と海外の研究の現状と研究成果について概説する。
<更新年月>
1999年03月   

<本文>
1.はじめに
 シビアアクシデント(過酷事故)は、原子炉の安全設計・評価を行う際に想定される設計基準事象(原子炉施設の安全設計の妥当性を確認するために想定された事故等の事象)を超える事故である( 図1 )。原子炉の設計では、設計基準事象として想定される事故が発生しても、安全設備の作動によって、炉心の溶融あるいは著しい燃料の損傷が防止される。しかし、TMI-2事故では安全設備は作動したものの、ヒューマンエラーが加わって原子炉炉心の冷却ができずに炉心が溶融するに至った( 図2 )。
 燃料の溶融等に関する研究はそれまでも行われていたが、TMI-2事故を契機に、シビアアクシデント時の各種挙動の解明と事故防止のための研究が各国で精力的に行われるようになった。炉心の溶融進展に関する研究は、シビアアクシデントに関する重要な研究の一つとして取り上げられている。
2.シビアアクシデント時の炉心溶融進展に関する研究
 シビアアクシデントにおいては、炉心の冷却ができずに燃料の温度が異常に上昇すると燃料が溶融し、それが大規模に進展すると溶融燃料が原子炉容器下部へ落下し、原子炉容器の健全性を損い大量の放射性物質の放出を伴う大きな事故に発展する可能性を有する。炉心溶融に関する研究は、炉心燃料の溶融挙動を調べる個別試験研究と炉心溶融の進展を調べる総合試験研究に大別できる。
 個別試験研究は燃料棒制御棒、スペーサー等の炉心構成材料について温度が上昇した場合の挙動を調べるものであり、研究では材料( 表1 は主要な炉心構成材料の標準的な元素割合の例を示したもの)の組成比率や雰囲気条件を変えて、材料の酸化や溶融等が調べられている。試験研究の結果、異種金属が混じった場合には溶融温度は低くなり、また異種金属が接触している場合でも温度が上昇すると共融現象により低温で溶解するなどの種々の現象が定量的に明らかにされている。 図3 にシビアアクシデント時に炉心構成材料に生じると考えられる種々の現象を、 図4 に構成材料間に生じる反応速度定数の温度依存性を示す。
 総合試験として燃料集合体規模で溶融挙動を調べた代表的な実験を 表2 に示す。この内TMI-2事故調査は、TMI-2の損傷炉心自身を調査解析をしたものである。また、PBF-SFD実験、ACRO-DF実験、NRU-FHT実験は米国のSFD計画(Severe Fuel Damage and Fission Product Source Term Research計画)として燃料の挙動を調べたものであり、その後CSARP計画(Cooperative Severe Accident Research Program)として実施されている。
 CORA実験はドイツで電気加熱方式で行われた実験であり、炉外実験の利点を活かして20回以上の実験を行い多くの知見を得ている。OECD/LOFT実験は米国のLOFT炉を利用した大規模な実験であり、小規模実験とTMI-2事故とをつなぐ実験として評価されている。
 一方、溶融燃料が原子炉容器下部に落下した場合の原子炉容器の健全性に関する代表的な研究として、 表3 に示す実験が行われている。このうち、ALPHA計画はわが国の原研(現日本原子力研究開発機構)で行われているもので、最大50kgまでのアルミナを用いた原子炉容器内溶融炉心の冷却性実験であり、溶融炉心の下部ヘッド内での冷却メカニズムの解明が進められている。
3.研究の成果
 これら一連の個別実験、総合実験等の研究から下記のことがらが明らかになってきている。
(1)燃料の溶融に先行して燃料より低融点の炉心構成材料が溶融し、これが燃料集合体全体の損傷過程に重要な影響を及ぼすこと。
(2)異種金属の接触(制御棒材であるB4CとステンレスやAg-In-Cdとジルカロイ、燃料被覆管材であるジルカロイとスペーサ材のインコネル、燃料のUO2とジルカロイ等)においては、高温になると共融現象によってより低温で溶融が始まること。
(3)炉心の下部は温度が低いので、上部で溶融した燃料は下部で凝固し、冷却流路を閉塞させて炉心の冷却を阻害する可能性が増すこと。
(4)原子炉容器内での溶融炉心の冷却性について、原研(現日本原子力研究開発機構)でのALPHA実験では、冷却水が存在すると原子炉容器壁と固化したアルミナとの間に隙間ができて、これが熱抵抗層として働くとともに侵入した水が冷却効果を発揮して、原子炉容器の溶融を防止する効果を生じていると推測されるなどの研究成果が出されていること。
<図/表>
表1 炉心構成材料に占める各構成元素の割合(TMI-2の場合)
表2 代表的な燃料集合体規模での損傷・溶融実験
表3 原子炉圧力容器の健全性実験
図1 シビアアクシデント時の原子炉格納容器内の主要な現象
図2 TMI-2事故終息後の炉心損傷状況推定図
図3 シビアアクシデント時に炉心構成材料に生じる現象
図4 炉心構成材料間の反応速度定数の温度依存性


<関連タイトル>
TMI事故の経過 (02-07-04-02)
シビアアクシデント時の格納容器の健全性に関する研究 (06-01-01-10)
シビアアクシデント時のFP挙動とソースターム評価 (06-01-01-11)

<参考文献>
(1)大久保 忠恒ほか(編):軽水炉燃料のふるまい、原子力安全研究協会(1998年)
(2)日本原子力研究所:原子力安全性研究の現状、平成7年(1995年10月)
(3)杉本 純ほか:シビアアクシデントに関するCSARP計画の成果、日本原子力学会誌Vol.39、No.2(1997)
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