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<概要>
 ユーロケミック再処理施設(Eurochemic)は、商業用再処理施設開発のため再処理パイロットプラントとして、ベルギーのモル−デッセル(MOL−Dessel)サイト内に建設された。1966年から1974年まで運転され、その間に使用済燃料合計210トンを再処理した。この処理施設は1975年1月に停止し、その後安全貯蔵された。1984年にベルギー放射性廃棄物・核物質管理庁(NIRAS/ONDRAF)の子会社としてベルゴプロセス(Belgoprocess)社が設立されてサイト活動の責任を持っている。この施設廃止措置は、2005年10月現在、除染解体が進められおり、達成率約60%である。最終的には、完全解体し、サイトの緑地化を目標にしている。
<更新年月>
2005年09月   

<本文>
1.概要
 ユーロケミック再処理施設(図1参照)は、欧州13か国で構成する合弁企業が所有し、商業用再処理施設開発のための再処理パイロットプラントとして、ベルギーのモルーデッセル・サイト内に建設された。その後、1966年から1974年まで運転され、その間に使用済燃料合計210トンを再処理した。この処理施設は1975年1月停止し、その後(1975−1979)安全貯蔵(*1)された。
 1987年から1990年に、硝酸ウラン、二酸化プルトニウム、使用済溶媒を収納する二つの貯蔵建屋(6Aおよび6B)を空にし、ユーロケミック再処理施設の主要プロセス施設の解体を始める前のパイロットプロジェクトとして除染作業を実施し、また解体撤去した。主要プロセス施設建屋(図2参照)は、長さ80m、幅27m、高さ30mであり、7階の床でコンクリート55,000m3(表面汚染)、金属構造物1150トンであり、最大セルは、高さ18mである。施設の中心施設は、化学処理装置が含む40の主要セル4から構成している。
 ベルゴプロセス社は、1984年にベルギー放射性廃棄物・核物質管理庁(NIRAS/ONDRAF)の子会社として設立され、サイト活動の責任を持ち、現在、この再処理施設の除染、解体を進めている。
2.技術開発
 本廃止措置プロジェクトでは、本格解体前に表1に示す技術が開発された。主要な技術開発は、金属機器の除染である。除染方法には、乾式および湿式の研磨剤入りブラスト法があり、両者が比較検討された。乾式の研磨剤入りブラスト法では、32トンの汚染機器をクリアランスレベルまで除染できることを実証した。湿式法では、非常にコストが高く効率が悪い、また二次廃棄物の発生量も多く、クリアランスレベルまで除染することが困難であることが分かった。
3.廃止措置の基本方針
 除染により放射能レベルを下げて作業員による直接作業を原則とし、解体物を出来るだけリサイクルすることとしている。ロボットはコスト、効率の観点から採用しないとした。ただし、コンクリート表面除染用スキャブラー、シェーバー装置の自動化、プラズマ切断による平板金属のX−Y切断装置スタンドオフ自動化設定など、被ばく低減のための自動化が取り入れられている。解体・除染等に使用する技術は、一般産業界で実績のある既存技術を原子力用に改良することを基本としている。
4.主要プロセス施設の解体撤去
 本施設の解体は、1990年に始まり、2004年10月までに106セルうちの100セルで進められている。43セルの除染ではバックグラウンドレベルまで下げることができた。他の11セルのコンクリート除染は、完全に解体された後に開始している。また46セルで機器の撤去が開始された。
 幾つかのセルの汚染レベルは、125Bq/cm3(ベータ汚染)、200Bq/cm3(アルファ汚染)であり、またスポットで2−3mSv/h(ガンマ汚染)である。これまでに1,500トンの金属構造物、5,500m2のコンクリート表面部分から12,5003コンクリートが撤去又は除染された。
 金属機器の解体には、プラズマ切断法を用いている。また、直径2インチ(51mm)までの配管には、水圧せん断機を用いる。厚い鋳造鉄遮へいブロックの乾式切断には、多結晶のダイヤモンドと炭化タングステンの混合物の刃を持つ油圧制御装置付き鋸を作業状況に合わせて用いている。
 コンクリート構造物の切断および除染・切断は、電気又は油圧駆動システムによる手動操作で行う。小型電気−油圧ハンマー装置は、セルの浸透汚染領域に用いている。限られたコンクリート表面汚染部分には、剥離除染用に汎用性のスキャブラー(荒仕上げ削り機)が用いられている。また、床スキャブラーには、ダイヤモンド刃先回転式切断ヘッドを持つ床シェーバーが用いられている。壁(図3参照)、天井に適用できる遠隔制御壁面シェーバーも開発され、3−5mm深さで15−20m2/hの切削性能を有する。
5.廃棄物の処理・自由放出
 金属部材を対象にクリアランスレベルまで除染する乾式研磨剤ブラスティング装置が技術開発され、ベルゴプロセスセンターに設置された(図4参照)。この設備は、放射性廃棄物としての処理、中間貯蔵及び最終処分に要する総費用の33%と評価されている。この設備により1996年5月から2004年9月までに約900トンが除染処理され、うち約220トンが2回の測定確認に基づき自由放出された。また、表面測定の困難な金属約620トンについては、除染後に溶融処理し、放出された。
 コンクリート破砕・サンプリング装置は、ライセンスを取得に基づき2001年6月に設置された(図5参照)。これは解体コンクリートを破砕し、放射能測定用にサンプル採取する装置である。サンプルは実験室で粉末にされ、クリアランス測定される。コンクリート破砕物の無制限放出の実績は、2004年9月現在、約1900トンである。
 表2に解体を始めた1990年から1998年までに発生した解体放射性廃棄物の状況を示す。また1990年から2004年までに発生した放射性廃棄物量と無制限放出率を表3に示す。
6.小型廃棄物貯蔵建屋の解体
 2つの小型廃棄物貯蔵建屋(6A/6B)は、主要プロセス建屋解体先行してパイロットプロジェクトとして2000年半ばまでに解体された。建屋6A/6Bの解体中及び跡地の整備状況を図6に示す。ベルギーには適切な規制がないため、EU委員会の推奨する指針RP43を参考に、下記の基準に基づき、建屋6A/6Bの全表面測定及びサンプル採取分析測定により確認が行われた。
  α表面汚染:0.04Bq/cm2, βγ表面汚染:0.4Bq/cm2
  全βγ濃度:1Bq/g(1,000kg平均、ただし最大濃度10Bq/g)
7.コスト、作業員等
 プロジェクト全体のコストは、2003年評価で179.3Mユーロ(240億円)と評価されている(表4参照)。解体作業員は、1992年当時24人であったが、現在は全体で41人であり、うち8人が除染作業を行っている。また、監督・管理業務等に13人が従事している。
 今後の計画は、主要プロセス建屋の東側の部分を2007年から解体する。また、建屋105、122、121および124の解体及び高レベル廃液タンクの解体を検討中である。

用語解説
(*1)安全貯蔵:safe store,SAFSTOR.原子炉デコミッショニングの一方法であり、従来用いられていた「密閉管理」と「遮へい隔離」を総称した用語。最近2つを区別しないで「安全貯蔵」の用語が用いられている。
<図/表>
表1 ベルゴプロセスで開発された技術
表1  ベルゴプロセスで開発された技術
表2 ユーロケミック再処理施設の解体放射性廃棄物の状況
表2  ユーロケミック再処理施設の解体放射性廃棄物の状況
表3 ユーロケミック再処理施設の解体放射性廃棄物量と無制限放出率(1990−2004年10月までの内訳)
表3  ユーロケミック再処理施設の解体放射性廃棄物量と無制限放出率(1990−2004年10月までの内訳)
表4 ユーロケミック再処理施設の廃止措置コスト
表4  ユーロケミック再処理施設の廃止措置コスト
図1 ユーロケミック再処理施設
図1  ユーロケミック再処理施設
図2 ユーロケミック再処理施設の主要プロセス建屋
図2  ユーロケミック再処理施設の主要プロセス建屋
図3 ダイアモンド先刃回転式切断ヘッドを持った壁面シェーバーを用いたコンクリートの除染作業
図3  ダイアモンド先刃回転式切断ヘッドを持った壁面シェーバーを用いたコンクリートの除染作業
図4 乾式研磨剤ブラスティング装置
図4  乾式研磨剤ブラスティング装置
図5 コンクリート破砕・サンプリング装置
図5  コンクリート破砕・サンプリング装置
図6 廃棄物貯蔵建屋6A/6Bの解体及び解体後の跡地
図6  廃棄物貯蔵建屋6A/6Bの解体及び解体後の跡地

<関連タイトル>
ベルギー、ドイツ、その他の国の再処理施設 (04-07-03-19)
ドイツWAK再処理施設の解体 (05-02-05-06)
フランスUP-1再処理施設の廃止措置 (05-02-05-10)
ベルギーの核燃料サイクル (14-05-10-04)

<参考文献>
(1)OECD:International Co−Operative on Decommissioning,Achievements of the NEA Co−Operative Program 1980−1990(1992)
(2)OECD:The NEA Co−Operative Program on Decommissioning,The First Ten Years 1985−1995(1996)
(3)OECD/NEA:Decommissioning of Nuclear Facilities Other Than Reactors,Technical Reports Series No.386(1998)
(4)ベルゴプロセス(Belgoprocess)ホームページ(http://www.belgoprocess.be/
(5)(財)原子力研究バックエンド推進センター:デコミニュース(1998年2月発行)
(6)Sven Baumann,Lucien Teunckens,et.al.,Concrete Crushing and Sampling,A Methodology and Technology for Unconditional Release of Concrete Material from Decommissioning,ICEM’01(2001).
(7)R.Walthery,Lucien Teunckens,et. al.,Abrasive Blasting,A Technique for the Industrial Decontamination of Metal Components from Decommissioning to Unconditional Release Levels,,ICEM’01(2001).
(8)R.Walthery,R.Gilis,P.Lewandowski,B.Ooms,N.Reusen,Experience and Development from Decommissioning of the Former Eurochemic Reprocessing Plant in Belgium,WM’05,(Feb.−Mar.2005).
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