<大項目> バックエンド対策
<中項目> 原子力施設の廃止措置
<小項目> 発電炉以外の原子炉の廃止措置
<タイトル>
ロシアの原子力潜水艦の解体 (05-02-04-03)

<概要>
 ロシアは1950年代末から冷戦終結にいたるまでの旧ソ連時代に、250隻足らずの原子力潜水艦を建造した。その2/3はムルマンスクを中心にコラ半島一帯に基地を持つ北洋艦隊に配備され、1/3はウラジオストック周辺やカムチャッカ半島に基地を持つ太平洋艦隊に配備された。旧ソ連時代には老朽原潜の具体的解体計画はなく、そのまま長年にわたり十分な管理がなされないまま埠頭に繋留しており、現在でもその状況は大きくは改善されていない。陸上での使用済燃料貯蔵能力が極端に不足しているため、ほとんどの退役原潜は燃料を取り出すことができず、炉心に燃料を装荷したままで繋留されている。1990年前後から一部の基地の港湾で解体が始められたが、ソ連崩壊により、旧ソ連諸国における大量破壊兵器に関係する管理体系自体も崩壊の危機に瀕し、脅威削減協力計画(Cooperative Threat Reduction:CTR)を1992年より実施に移した。その一環として、欧米諸国および日本が、北極海域2箇所と極東ウラジオストックの計3箇所の造船所で、原潜からミサイル搭載部を撤去する解体計画支援を開始した。
<更新年月>
2004年02月   

<本文>
1.ロシアの原子力潜水艦解体問題(参考文献1、4、5)
 ロシアは1950年代末から冷戦終結にいたるまでの旧ソ連時代に、250隻足らずの原子力潜水艦を建造した(表1参照)。その2/3はムルマンスクを中心にコラ半島一帯に基地を持つ北洋艦隊に配備され、1/3はウラジオストック周辺やカムチャッカ半島に基地を持つ太平洋艦隊に配備された。ロシアの原潜の型式は、初期のものから最新のものまで、時代的に四世代に分類できる。第一世代のものは全て、また第二世代のものも大半が既に耐用年数を過ぎ退役している。旧ソ連時代には老朽原潜の具体的解体計画はなく、そのまま長年にわたり十分な管理がなされないまま埠頭に繋留しており、現在でもその状況は大きくは改善されていない。陸上での使用済燃料貯蔵能力が極端に不足しているため、ほとんどの退役原潜は燃料を取り出すことができず、炉心に燃料を装荷したままで繋留されている。表2に退役原子力潜水艦の現状を示し、図1に港に停泊中の原子力潜水艦を示した。
 原子炉事故を起こした幾つかの原潜については、原子炉搭載部分を切り離し、燃料を搭載したままノバヤゼムリヤ島東岸のフィヨルドに投棄した例がある。長期繋留されている老朽原潜の中には、腐食などハルへの浸水で沈没の危険のあるものもあり、これらについては沈没防止のため、圧縮空気のハル内への連続注入や、船底の溶接修理などの応急措置が取られているほか、ハル内へのポリスチロール注入も試みられている。また、原子炉系からの放射性廃液漏洩の危険性も高く、原子炉内へのシール剤注入なども行われている。
 ロシアで退役した原潜の総数は2003年5月で約192隻と報告されており、そのうち116隻が北極海域に、また約76隻が極東海域にあり、原子炉の燃料抜き取りが済んでいるのはそのうちの1/3に満たない。
 1990年前後から一部の基地の港湾で解体が始められたが、設備が旧式でほとんど手作業に近く、作業で発生する放射性廃液処理能力も不十分なことに加え、ソ連崩壊後の経済混乱による厳しい資金不足で、実際の解体は遅々として進まない状況が続いた。
2.ロシアの原子力潜水艦解体に関する米国の支援(参考文献1)
 ソ連崩壊により、旧ソ連諸国における大量破壊兵器に関係する管理体系自体も崩壊の危機に瀕し、それらの盗難や第三国への流出の危険性が高まった。このため米国政府は、自国の国防予算を充当して、旧ソ連諸国におけるそれらの管理強化策や、生物化学兵器関連施設やミサイルの運搬・発射装置などの不要軍事設備の解体などを支援する脅威削減協力計画(Cooperative Threat Reduction:CTR)を1992年から実施に移した。
 その一環として、北極海域2箇所と極東ウラジオストックの計3箇所の造船所で、原潜からミサイル搭載部を撤去する解体計画支援を開始した。しかし、既に述べたようなロシア側施設の状況や、作業者への給与支給停滞などで、米国が期待したほどの成果があがらず、1996年までの解体はたったの5隻にとどまった。こうしたことから、1997年から米国は支援をより強化し、解体を行う海軍工廠側との契約形態を変更した上、北極海域での解体場所を1箇所増やし、燃料取り出し設備の機能増強をはかるなどした。その結果事態は好転し、2000年末までにさらに17隻の解体が進んだ。2007年までに北極海域で18隻、極東で18隻の計36隻を解体できる見通しが得られたが、その後に残る140隻以上の退役原潜については現在のところまだ具体的な解体計画はない。
3.ロシアの原子力潜水艦の解体作業(参考文献1、6、7、8、9)
 一部の原潜解体作業が進み出したものの、その作業の主たる目的はミサイル発射装置の撤去である。燃料を搭載したままの原潜の場合、本体を、船首部、ミサイル搭載部、後部の3つに分断し、ミサイル搭載部を解体除去した後、原子炉搭載部に船首部と後部とを再び溶接で連結して浮力を持たせ、埠頭への繋留を継続して燃料取り出しを待つという措置がとられ(図2)、原潜の繋留待機は長期化が避けられず沈没の危険性も否定できない。
 燃料取り出しが済んだ原潜の場合も上記と同様の措置をとるか、または原子炉搭載部(原子炉コンパートメント)にその前後のコンパートメントを溶接して密閉(原子炉モジュールと云う)してブイを付けるかまたは原子炉容器内にポリスチロールを充填して浮力を持たせ、現在は埠頭に繋留(図3)しているが、ロシア原子力省としては陸上保管を望んでいる。これは、現状では放射性廃棄物処理能力が極めて制限されているためと、原子炉本体の解体能力も限られているためであるが、この場合も繋留保管の長期化による沈没や放射能流出の危険性を抱えている。解体後の原子炉容器は、コラ半島の一角に原潜の地下保管施設として建設された400mのトンネルに長期貯蔵することが計画されている。
 セヴェロドヴィンスク(Severodvinsk)で解体前の原子力潜水艦(原子炉搭載部分は取り外し済み)を図4に、原子力潜水艦を解体中(原子炉搭載部は取り外し済み)の原潜を図5に示した。
4.使用済燃料の再処理(参考文献9)
 原子炉から取り出した使用済燃料は、ウラル地方にあるマヤーク(Mayak)再処理工場に鉄道輸送し再処理を行っている。図6に北洋艦隊の基地があるムルマンスクおよびセヴェロドヴィンスクからマヤークへの鉄道輸送経路を示した。極東艦隊で発生した使用済燃料はシベリア鉄道でマヤークまで輸送することになるが、使用済燃料の輸送に関する国際基準に合致するよう鉄道の一部を整備する必要がある。
5.ロシアの原子力潜水艦解体に関する各種課題(参考文献1)
 2002年9月にウラジオストックで開かれた原潜解体に関する国際会議では、極東の太平洋艦隊が保有する退役原潜のうち42隻が燃料を搭載したままであることが報告された。ロシア側は、この問題の早期解決に向け、使用済燃料貯蔵施設の新設、解体原子炉容器の長期保管施設建設、使用済燃料のマヤーク再処理工場への輸送のための鉄道線路補強などの構想を示したが、実現のための最大課題は資金調達問題であるとしている。極東地域における老朽原潜の繋留保管の長期化は、核拡散の観点からの懸念に加え、環境汚染防止の観点からも、わが国としても無視しがたい重要問題である。こうした観点から、我が国は1999年から極東ロシアの原潜解体を支援することにし、2002年6月にカナダのカナナスキスで開催された先進8カ国首脳会議(G−8)や2003年1月の小泉首相の訪ロでも、こうした分野での財政支援強化を表明している。日本としては、むつ解体などの経験を踏まえ、技術的支援を行う能力を有するものの、対象が核兵器を搭載する原潜という機微な軍事技術であるため、ロシア側に一定の線を越えて技術的に踏み込むことができないことから、財政支援をいかに実効のあるものにするかについては難しい課題を抱えている。
6.原子力潜水艦解体工場(参考文献10、11、12、13)
 現在ロシアで原子力潜水艦の解体を実施している造船所は、北洋ではアルハンゲリスク州(Arkhangel’skaya Oblast)のセヴェロドヴィンスク市(Severodvinsk)にあるセヴェロドヴィンスク造船所(Severodvinsk)で、この造船所内にはズヴョ−ズドチカ(Zvyozdochika)(図7)とセヴマシ(Sevmash)(図8図9)の2つの施設がある。極東ではプリモーリエ地方(Primorsky territory:日本では沿海州という)のボリショイ・カーメン(Bolshoy Kamen)にあるズヴェズダ造船所(Zvezda Shipyard)がある。図10にセヴェロドヴィンスク造船所の地図を、図11にズヴェズダ造船所の地図を示した。
6.1 セヴェロドヴィンスク造船所
6.1.1 ズヴェズドチカ(参考文献2)
 この造船所は、白海に面するアルハンゲリスク州のセヴェロドヴィンスク市に位置しており、1953年に北方艦隊の艦船の修理を目的として設立された。1960年代初期に原子力潜水艦の修理を開始し、2003年までに合計89隻の原潜を修理して就役させた。原子力潜水艦の解体は1980年代末頃から開始し、1990年代初期に米ロの戦略兵器削減条約が発効し、原潜解体は1990年代半ばに非常に活発になり、此の状況は現在も続いている。
 この造船所が行っている主な作業は、原潜からの使用済燃料の取り出し、貯蔵、マヤーク再処理工場への輸送、原子力潜水艦の解体である。従来、戦略型原潜の解体が主であったが、今後は多目的原子力潜水艦の解体が多くなり、約60隻の解体が予想される。
6.1.2 セヴマシ(参考文献14)
 セヴマシは、1952年に原子力潜水艦の建設を開始した。1995年までに潜水艦を建造し、この中には北洋艦隊に所属するSSBN潜水艦(弾道ミサイル搭載原子力潜水艦)をすべて建造した。1996年には、オスカーII級の原子力潜水艦を建造するなど多数の原子力潜水艦を建造した。また船隔をチタニウムで製造したアルファ級およびシェラ級原子力潜水艦の解体も実施した。使用済燃料輸送船であるマリナ級サービス船(PM−63)(図12)は、使用済燃料集合体1,400本および新燃料集合体480本を保管可能で、物理的防護設備を1999年に完成した。
 セヴマシは民間の船舶も多数建造し、油井やガス井探査用のプラットフォーム、大型汽船、商業用船舶、小型船、精糖設備、高級家具、純水装置なども製造している。
6.2. ズヴェズダ造船所(参考文献3)
 この造船所は、プリモーリエ地方(沿海州)のボリショイ・カーメンに位置しており、ロシアで最大の原潜解体実績をもっている。この造船所は2003年10月までに32隻の原子力潜水艦を解体した。今後は多目的原潜の解体に着手したいと希望している。工場の従業員は約5,000人で、原潜解体のほかに民間用船舶の建造および修理や、船舶関連以外の事業も行っている。ロシア国防省からの委託は全体の約3割である。原潜から使用済燃料を取り出すため、使用済燃料の陸上取出装置を設置し、2003年1月に使用済燃料輸送容器(TK18およびTUK108)を使用して、燃料の取り出し試験を実施した。
 この造船所には、日本の援助資金で建造された放射性液体廃棄物処理施設「すずらん丸(はしけの一種)」が係留されている。また、米国国防省のCTR計画により、2003年1月、ズヴェズダ造船所の北部地区に使用済燃料取出装置が完成し、使用済燃料を輸送容器(キャスク)に収納することができるようになった。また、鉄道輸送のための一次保管場所として輸送容器40体分の設備が完成し、さらに40体分の設備を建設中である。鉄道支線(ボリショイ・カーメン駅からシベリア鉄道分岐点のスモリャニノヴォ駅)の改修が実施されれば、ズヴェズダ造船所から直接マヤーク再処理工場に使用済燃料を輸送出来るようになる。
7.日本の支援
7.1 すずらん丸(参考文献3、15)
 すずらん丸(図13)は、日本の援助資金により建造された放射性液体廃棄物処理施設を搭載した「はしけ」の一種で、自力での航行はできず、ズヴェズダ造船所港内に係留されている。すずらん丸は2001年に完成し、3年間の運転で低レベル放射性廃液約2,500立方メートルを処理した。設計容量は年間7,000立方メートルであるが、廃液発生量が原潜解体ベースに依存しているので現在の稼働率は低い。移動可能な「はしけ」となっているので、ズヴェズダ造船所以外に保管している廃液処理の利用について、ロシア原子力省(MINATOM)と協議中である。
7.2 ロシアの退役した原子力潜水艦解体事業への日本の支援(参考文献2)
 極東の攻撃型原潜解体事業は、2003年1月に小泉首相がロシアを訪問した時、日本・ロシア両首脳により採択された「日露行動計画」に、着実・早急な実施が明記された。また、ビクターIII級退役原潜解体実施の取り決め案文が2003年4月に基本的に合意され、事業実施の目途がついた。日本支援によるロシア極東の退役原潜艦解体事業「希望の星」の開始式典が2003年6月7日、ズヴェズダ造船所で行われた。ビクターIII級の解体は、2月18日現在、船首、船尾の解体をほぼ終了し、原子炉ブロックの密閉作業が続いている。3月中旬には、原子炉ブロックを屋内ドックから出して海上に浮かべ、ズベズダ造船所から保管場所のラズボイニク湾(ダリラオの施設)へ海上輸送する予定である。
<図/表>
表1 1958年から2001年までに旧ソ連およびロシアで建造された原子力潜水艦
表2 ロシア海軍退役原子力潜水艦の現状(2003年5月現在)
図1 港に停泊中の原子力潜水艦
図2 原子炉搭載部に船首と船尾を溶接し浮力をもたせて埠頭に係留
図3 原子炉搭載部浮力を持たせ、沿海州チャジマ湾の埠頭に係留中
図4 ズヴョ−ズドチカで解体前の原子力潜水艦(原子炉搭載部は取り外し済み)
図5 建屋で解体中の原子力潜水艦(司令塔の後部にある原子炉搭載部は取り外し済み)
図6 使用済燃料をムルマンスクおよびセヴェロドヴィンスクから再処理工場(Mayak)へ輸送するルート
図7 ズヴョ−ズドチカ
図8 セヴマシ全景
図9 セヴマシ(修理中の原子力潜水艦)
図10 セヴェロドヴィンスク造船所の地図
図11 ズヴェズダ造船所の地図
図12 使用済燃料輸送船マリナ級サービス船(PM−63)
図13 放射性液体廃棄物処理施設「すずらん丸」

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
ロシアにおける原子力船の開発 (07-04-05-02)

<参考文献>
(1)日本学術会議:放射性物質による環境汚染の予防と環境の回復、荒廃した生活環境の先端技術による回復研究連絡委員会、2003年5月20日
(2)原産会議「ロシア北方艦隊退役原潜解体事業調査報告書、2004年5月」p.7、12、13
(3)原産会議「ロシア太平洋艦隊退役原潜解体事業調査報告書2003年11月」p.18?21
(4)「原子力eye、2003年8月号」ロシア原潜解体の現況、植松邦彦、p.66
(5)VOPROSY UTILIZATSII APL(ロシア語:有効利用をするための問題点)2002年2月号の表紙、モスクワ
(6)Bellona Report Volume 3, 2001 “The Arctic Nuclear Challenge p.3, 73
(7)“Platform for Temporary Storage of Reactor Compartment in Primorski Krai [Complex for Long Storage of Reactor Compartments], Description of investment project, FSUE ”DalRAO” Vladivostok, Primorski Krai, Russia
(8)Severodvinsk 60周年記念刊行物(ロシア語), p.56
(9)Bellona Report Volume 2, 1996, “The Russian Northern Fleet: Sources of Radioactive Contamination, p.131, 147
(10)Federal State Unitary Enterprise, Machinebuilding Enterprise ZVYOZOCHIKA, Severodvinsk, p.2
(11)Sevmash: Sevmash is a unique production and engineering complex
(12)Tactical Pilotage Chart(米国発行の衛星地図) TPC C−3D
(13)Primorski Krai(沿海州の地図、ロシア語), p.48,49
(14)Bellona ホームページ、Spent fuel storage ship, PM−63
(15)日露核兵器廃棄協力委員会技術事務局「すずらん」p.2
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