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<概要>
 日本原子力発電(株)東海発電所(黒鉛減速炭酸ガス冷却型、電気出力16万6千キロワット)は、1998年3月31日に、31年8か月にわたる営業運転を終了した。東海発電所(GCR)は、商業用原子力発電所初号機としてわが国の原子力発電の定着に大きく貢献してきたが、再び次の役割である廃止措置の合理的達成に取り組むこととなった。
 その後、使用済燃料原子炉内からの取出および英国への搬出を、2001年6月までに完了し、2001年12月には廃止措置第1期工事に着手している。東海発電所の廃止措置では、原子炉設備をすべて解体撤去し、更地の状態に復することを基本としている。発電所の概況、基本方針および解体届けまでの経緯等を述べる。
<更新年月>
2006年04月   

<本文>
 日本原子力発電(株)東海発電所は、1998年5月から原子炉内の使用済燃料の取出し作業を開始し、2001年3月完了、また英国の再処理工場へ搬出は同年6月に完了した。
 その後については、プラントの放射能分布や解体方法等の調査、研究を進め、廃止措置に係る国の基本方針や現在進められている基準整備の状況を踏まえて、国、地元、電力など関係者と十分に協議、調整を図りながら、安全かつ経済的・合理的な廃止措置の実施に向けて取り組んでいる。東海発電所の建設、運転実績および廃止措置計画の概要を表1に示す。また、東海発電所の建屋断面図を図1に示す。
1.停止までの経緯
 1966年7月に営業運転を開始した東海発電所は、その後順調な運転を継続し、1997年末で累計約287億kWhの発電を行い、文字どおりパイオニアとしてわが国への原子力発電の定着に大きく貢献するとともに、電力の安定供給の一翼を担ってきた。毎年の定期検査ごとに設備の安全性や健全性を確認し、必要な対策を施していくことにより、今後とも運転継続が可能な状態にあった。平均時間稼働率は、1997年末時点で77.3%という高い値を示していた。
 しかし、次のような理由で廃止措置に踏み切った。東海発電所のようなガス冷却炉は、天然ウランを使用しているため原子炉や熱交換器などが大きい割には出力が小さく、軽水炉に比べて出力当たりでみると発電コストが割高となる。このため、このガス冷却型の原子力発電所は世界的にも経済性の理由から閉鎖していく傾向にあった。すでにフランス、イタリアなどではこの型の原子力発電所はすべて停止しており、東海発電所の導入元の英国でもすでに1996年現在8基が停止している。これに加え、東海発電所は日本では唯一の炉型であるため保守費や燃料サイクルコストが割高になっていた。このような経済性に係る情勢を踏まえ、今後の運転について検討がなされた。その結果、1996年に総合的な経営判断のもと運転停止が決定され、実用原子力発電所の初号機としての次の役割である廃止措置の合理的な達成に取り組んでいくこととなった。2005年3月現在での海外の商業用ガス冷却炉(GCR)の運転および廃止措置の状況を表2に示す。
2.使用済燃料の炉心からの取出・搬出
 東海発電所では「天然ウラン・中空円筒型・マグノックス被覆」の燃料体を約16,400本使用していたが、最終的には使用済燃料貯蔵プールで貯蔵している取出済の燃料体約2,600本とあわせ、合計約19,000本を2001年3月までに取出し、発電所内の全燃料を2001年6月までに英国の再処理工場へ搬出した。
3.廃止措置に係る国の基本方針
 国の基本方針(総合エネルギー調査会原子力部会(現総合資源エネルギー調査会電気事業分科会原子力部会)[1985年7月、1997年1月])では、「標準工程としては、原子力発電所の規模、炉型等に関係なく、廃止措置方式は安全貯蔵〜解体撤去方式とすることとし、安全貯蔵期間は5〜10年程度とするのが適当」とされている。
 また、原子力委員会の長期計画(1982年6月、1994年6月)では、「原子炉の運転終了後出来るだけ早い時期に解体撤去することを原則とし、解体撤去後の敷地利用については、地域社会と調整を図りつつ、原子力発電所用地として引続き有効に利用すること」となっている。
4.廃止措置の基本方針
 東海発電所の廃止措置では、原子炉、附属設備および建屋を解体撤去し、更地の状態に復することを基本としている。放射能レベルの比較的高い部分は、原子炉領域に限られている。そこで、原子炉領域は放射能を減衰するため、約10年間安全貯蔵しておく。これにより作業者の受ける放射線量を運転中の作業者と同程度に抑える。この安全貯蔵期間中に先行解体として、第1期に附属設備等、第2期に熱交換器等を撤去する。これにより、第3期の原子炉領域の解体廃棄物の搬出ルート確保、資材置場の確保および作業量の平準化を図る。
5.廃止措置計画と規制手続き
 日本原子力発電(株)は、上記の基本方針に基づき、2001年10月4日、東海発電所の解体届を経済産業省に提出した。その後、同12月4日に第1期工事に着手、2006年3月に完了した。
 東海発電所廃止措置計画については、原子炉等規制法の改正および第2期工事にあたり、2006年3月に認可申請が提出された。なお、廃止措置計画および2006年3月までの第1期工事の結果については、東海発電所廃止措置計画<05−02−03−14>を参照のこと。
6.廃止措置に関する技術的調査・検討
 解体届け提出までに実施された調整・検討結果の要点について述べる。
 廃止措置には広範な技術を必要とするが、代表的なものには、切断技術、二次廃棄物処理技術、遠隔自動化技術、除染技術、解体廃棄物処理・処分技術、放射能測定・評価技術、エンジニアリング支援システムなどがある。この他に東海発電所特有のものとして黒鉛取扱技術がある。廃止措置に必要な技術には図2に示すようなものがあり、次の3つに大別される。
(1)プラント実態の調査
 解体で発生する廃棄物の種類、物量および放射能に関するデータは、廃止措置計画の基礎となる重要情報である。解体廃棄物データを精度よく評価するために、東海発電所では現地調査や竣工図面などの情報からすべての機器の位置、形状、重量、材質、放射能レベル等をまとめ、データベースを作成している。これを放射能レベル区分別、品目別等種々の面で集計し、発電所全体の放射能の評価、解体方法および廃棄物処理・処分方法の検討に使用している。
 放射能評価での重要な点は、放射能濃度とその分布を精度よく評価し、そのデータの客観性を確保することである。放射化放射能は、炉心からの中性子によって鋼製の原子炉圧力容器、コンクリート製の生体遮蔽体等の構造物が放射性を帯びたものである。その中性子束密度の評価には、従来の2次元輸送コードを用いた計算の他に、3次元モンテカルロ法での評価も行っている。両者の組み合せによって、精度よく評価できていることが確認されている。
 また、生体遮蔽体のコアサンプルを分析し、放射化放射能を計算値と比較するとともに、放射化計算に影響を与えるコンクリート中の水分量や未照射材の微量元素分析を行い、計算精度の向上を図っている。迷路部のような計算評価の難しい箇所に対しては、原子炉運転中に中性子束測定器や放射化箔を用いて中性子束密度の実測しており、評価に直結するデータを取得している。
 汚染放射能は、気体や液体に含まれる放射性物質が配管、床等に付着したものであり、定常的な運転中の放射線管理によって汚染の程度を把握している。そのレベルや汚染の範囲を廃止措置用データとして特定するため、運転中の放射線管理記録や工事記録の整理を行っている。
 このほかに、物質中の汚染の程度、浸透の具合、放射性核種の組成などについて知ることが必要であり、実際に試料をサンプリングし分析している。
 廃止措置計画作成のための放射能評価の方法を表3に、原子炉周辺の放射化範囲の評価例を図3に示す。
(2)解体工法の検討
 解体工事に係る作業は、放射能レベルが高い原子炉本体やその周辺設備が対象となるので、作業に伴い受ける放射線量や高所作業などの潜在的危険要因に十分配慮した解体技術および工法を採用する必要がある。
 解体手順としては、まず、原子炉圧力容器等の解体に先立ち燃料取替機、熱交換器等の放射能レベルの比較的低い機器を先行して解体撤去し、作業スペースを確保する。次に、原子炉圧力容器など中心部の解体は、炉心部から周辺部に向かって進めていくことで検討している。具体的には、黒鉛などの炉心構造物、原子炉圧力容器、一次冷却系配管、一次遮へい壁、二次遮へい壁の順に内側から外側に向かって解体していき、最後に放射性部分のなくなった建屋を解体する。解体手順の検討例として、図4に解体手順の概要を示す。
今後、具体的な解体工法を計画するにあたっては、以下に示す安全確保のための留意事項や技術の進歩を踏まえて検討を進めていく予定である。
 1) 解体に際して、既存の構造物を、放射性物質の外部への漏洩を防止するための障壁および放射線遮へい体として利用する。
 2) 機器・構造物の高放射化した部分の切断を行う場合は、粉塵等二次生成物の発生の抑制および除去を考慮した工法を採用する。
 3) 放射線レベルの高い場所における作業および高放射化部の機器・構造物の解体を行う場合等には、遮へいや遠隔操作装置を活用する。
 4) 必要に応じて、仮設の汚染拡大防止囲いや集塵装置の設置等を行う。
 5) 解体作業で発生する切断物の取扱い、搬送、保管を適切に行い、汚染拡大の防止および従事者被ばくの防止を図る。
(3)廃棄物の処理・処分方法の検討
 解体に伴って発生する廃棄物には、放射性廃棄物および非放射性廃棄物を含む多種、多様なものがある。
 110万kWe級軽水型発電所の場合、その総量はおよそ50万トン程度といわれている。東海発電所の場合は、その総量が約19万トンと見積られている。このうち、約10%が放射性廃棄物であり、残りの約90%は、放射性廃棄物として扱う必要のない物(約4.5万トン)および放射性でない廃棄物(約12.9万トン)である。放射性廃棄物には、放射能レベルが比較的高いものから極めて低いレベルのものまで含まれているため、適切にレベル区分を行い、それに見合った処理・処分方法を採用することにより、発生する廃棄物を安全かつ合理的に取り扱うことができる。
 一般の産業廃棄物と同様に取り扱うことができるものについては、環境負荷の低減、資源有効利用等の観点から、その有効利用を図っていくことも今日的な課題である。制度的には、2005年の法律改正によりクリアランス制度が導入され、再利用等の合理的な対応が可能になった。
<図/表>
表1 東海発電所の概要
表1  東海発電所の概要
表2 海外の商業用ガス冷却炉(GCR)の運転および廃止措置の状況
表2  海外の商業用ガス冷却炉(GCR)の運転および廃止措置の状況
表3 廃止措置計画のための放射能評価方法
表3  廃止措置計画のための放射能評価方法
図1 東海発電所の建屋断面図
図1  東海発電所の建屋断面図
図2 廃止措置に必要な技術
図2  廃止措置に必要な技術
図3 原子炉周辺の放射化範囲評価例
図3  原子炉周辺の放射化範囲評価例
図4 東海発電所の解体手順の概要
図4  東海発電所の解体手順の概要

<関連タイトル>
原子炉廃止措置に係る国の考えと安全規制 (05-02-01-01)
廃止方法 (05-02-01-03)
海外主要国における廃止措置の考え方 (05-02-01-10)
東海発電所(GCR)の廃止措置計画 (05-02-03-14)

<参考文献>
(1) 通商産業省資源エネルギー庁 公益事業部原子力発電安全企画審査課:パンフレット「役割を終えたその後は?−原子力発電所の廃止措置について−」 (1997年3月)
(2) 通商産業省資源エネルギー庁 公益事業部原子力発電安全企画審査課:総合エネルギー調査会原子力部会報告書−商業用原子力発電施設の廃止措置に向けて−(1997年1月)
(3) 油井宏平:商業用原子力発電所の廃止措置−東海発電所の営業運転停止をひかえて−、平成8年度「放射性廃棄物管理専門研究会」(1997年)
(4) 油井宏平:原子力発電所の廃止措置−バックエンドの完結と再生、電気評論(1996年)
(5) 油井宏平:はじめての商業用原子力発電所の廃止措置に向けて、原子力工業、日刊工業新聞社(1997年)
(6) 日本原子力産業会議(編集発行):総合エネルギー調査会原子力部会原子炉廃止措置対策小委員会報告書−商業用原子力発電施設の廃止措置に向けて、原産マンスリー No.17(1997年)p.59−85
(3) 佐藤忠通:東海発電所の廃止措置、原子力学会誌、40(11)、855−860(1998)
(4) 日本原子力発電・東海発電所−わが国初の商業用原子炉廃止措置へ−、原子力eye、44(5)、26−27(1998)
(5)山本龍美、進む東海発電所廃止措置、商業用原子力発電所では日本初、p.27−30、エネルギーレビュー、2005年10月
(6)子栗第一朗、東海発電所廃止措置は来年度いよいよ第2期工事へ、p.13−15、エネルギーフォーラム、2005年11月
(7) 日本原子力発電(株)ホームパージ:http://www.japc.co.jp (2006年3月)
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