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<概要>
 英国では、東海発電所と同じマグノックス型ガス炉(GCR)1基、改良型ガス炉(AGR)14基、軽水炉(PWR)1基、合わせて16基の発電炉が運転中である。
 一方、閉鎖した発電炉は合計29基であり、その内訳はGCR25基、ウインズケール改良型ガス炉(WAGR、実証炉)1基、重水減速軽水冷却炉(SGHWR)1基及び高速増殖炉2基である。25基のGCRは、現在、長期安全貯蔵のための工事が進められている。この廃止措置方式は、遠隔装置を用いずに容易に炉心部を解体できるようになるまで安全貯蔵(85年間)し、その後、解体撤去するという戦略をとっている。
 ただし、改良型ガス炉(実証炉:WAGR)は、欧州共同体(EC)委員会の原子炉解体研究開発プロジェクトの一つに指定され、遠隔解体装置を用いて炉心部の解体撤去が完了した。また、高速増殖炉の廃止措置計画は、2000年から本格的に開始され、2036年完了を目標にしている。
<更新年月>
2014年01月   

<本文>
 英国では、マグノックス型ガス炉(GCR)1基、改良型ガス炉(AGR)14基及び軽水炉(PWR)1基、合計16基の発電炉が運転中である。
 一方、2014年1月までに閉鎖した発電炉は合計29基であり、その概要は下記のとおりである。
 GCR型では、2000年5月安全性に問題があり停止したヒンクレーポイントA1号機、A2号機、2012年に閉鎖したオールドベリーA1及びウィルファ-2を含め、25基が閉鎖した。ウインズケールの改良型ガス炉(WAGR)は、原子炉本体の炉心、圧力容器の解体を2011年に完了した。重水減速軽水冷却炉(SGHWR)は、安全貯蔵中である。このほか2基の高速増殖炉(DFR、PFR)が、2030年を目標に解体撤去中である。
 最新情報によると英国政府は、エネルギー法案の制定を受け、ヒンクレーポイントCサイトにアレバ製EPR(フランス製の最新型PWR型)2基を建設する計画について、開発同意書を2013年3月に発給した。また、オールドベリー、ウィルファ等のサイトでも新型炉の建設計画が検討されている。
1.英国の原子力廃止措置機構(NDA)と関連組織
 英国では原子力施設の廃止措置をいかに進めるかが課題となり、総合的な戦略の構築、合理的に推進する指導的な機関としてNDAを2005年4月に設立した。NDAは法律に基づき省庁から独立した公的機関である。また、英国原子燃料会社(BNFL)を2005年に廃止し、運転中のウィルファ-1号機及び閉鎖した25基のすべてのガス炉(GCR)を、NDAの所有とした。廃止措置のサイト母体組織(PBO:Parent body organisation)は、NDAとの契約に基づくEnergy Solutions EU Ltd.である。また、このPBO所有のサイトライセンス会社(SLCs:Site License Company)は、マグノックス社(Magnox Ltd.)である。
 英国の廃止措置機構(NDA)が所有する16カ所の原子力発電所サイト、廃棄物処分センター等を図1に示す。
2.ガス炉の廃止措置戦略
 英国のガス炉の廃止措置戦略は、原子炉容器の中に放射能レベルの高い大量の黒鉛ブロックがあるため、原子炉本体のみの長期安全貯蔵を行う方針である。原子炉本体は、安全貯蔵(C&M:Care and Maintenance)約80年後に完全解体する計画である。また、多くのサイトでは、原子炉本体の安全貯蔵準備エリアを除き、広大なサイトエリアについて汚染がないことを確認する作業を行い、解放が進められている。
 長期の安全貯蔵戦略は、高価な遠隔装置を使用しなくても炉心部の解体ができるように、少なくとも80年間安全貯蔵し、また放射性廃棄物発生量を減らし、その後解体撤去する方式である。放射能レベルの高い原子炉内部の黒鉛ブロック、圧力容器などを、遠隔装置を用いないで解体するためには、作業者の被ばく線量を年間2mSvと仮定すると原子炉停止後85年時点で許容される作業時間は約40時間/週と評価され、80年以降が最適時期であるとしている(図2参照)。
3.英国の主なマグノックス型発電炉の廃止措置概況
(1)バークレイ発電所(2基)
 この発電所は、1962年に運転開始、1986年に経済性を理由に閉鎖し、1992年までに燃料の搬出作業が終了した。最初の解体作業はガスダクトと8基の熱交換器(800t/基)の取り外しである。これらは、放射化されたコバルトが減衰するまで地上に保管された(図3参照)。その後、非放射性の補助機器、アスベスト等の撤去及び原子炉建屋の解体が行われた。燃料貯蔵プール建屋の解体は、燃料プール内壁の汚染部を40mmから60mm剥離する作業を含め、1994年から2001年4月にかけて実施された。地上に撤去された熱交換器は、リサイクルのためバークレイサイトから2012年末までに搬出された。本サイトは、2012年現在、全面積の約40%(11ヘクタール)の部分解放が実施されている。
 今後の計画によると、2021年に原子炉本体を安全貯蔵、2070年から解体撤去を開始、2079年までにサイト全体を解放する(図4参照)。廃止措置の全コストは、2005/2006年評価で11.1億ポンドである。
(2)ハンターストン発電所(2基)
 この発電所は、1964年に運転開始、経済性を理由に1号機を1990年3月、2号機を1989年12月に閉鎖し、1995年までに燃料の搬出作業が終了した。今後の計画では、2022年までに原子炉本体を安全貯蔵、2070年から解体撤去を開始、2080年までにサイトを解放する。
(3)トロースフィニッド発電所(2基)
 この発電所は、1964年に運転開始、約28年間にわたって運転したが、鋼鉄製圧力容器の脆化が問題となり、1991年に閉鎖した。その後、燃料の搬出作業を行い、1995年8月までに終了した。この発電所は、国立公園内に設置されているため、景観に与える影響を考慮して原子炉建屋の高さを約50%低くし、原子炉を安全貯蔵する計画を進めている。このため、原子炉建屋内にある熱交換器は半分に切断する(図5a参照)。これらの安全貯蔵準備作業は、2002年から2004年までに、また、原子炉建屋以外の施設の撤去及び景観の復旧は2004年まで行われた。今後の計画では、2027年までに原子炉本体を安全貯蔵(図5b参照)、2073年から解体撤去を開始、2083年までにサイトを解放する。
(4)ヒンクレーポイント発電所(2基)
 この発電所は、1965年に運転開始後、35年間順調に運転し、さらに運転を続ける計画であった。耐用年数45年を目指して、複雑な遠隔操作による炉内の補修と改良を行うために、1999年4月に停止した。しかし、内部への接近が困難であることから、2000年5月、改修を断念して閉鎖を決定、2004年までに燃料の搬出作業が終了した。今後の計画では、2025年までに原子炉本体を安全貯蔵、2080年から解体撤去を開始、2090年までにサイトを解放する。
(5)オールドベリーサイトの廃止措置計画
 本廃止措置計画は、マグノックス社が2007年3月に保健安全執行部(HSE)に申請し、2008年2月に承認されたものである。オールドベリー原子力発電所の廃止措置サイトの外観経過予想図を図6に示す。
 廃止措置は次の3段階に区分して実施する計画である。
 第1段階:安全貯蔵準備段階(C&M: Care and Maintenance Preparations)。
 第2段階:安全貯蔵(C&M)。サイトの維持管理及び放射線測定を実施するとともに、原子炉本体及び中レベル廃棄物(ILW)の長期保管を含め2027年から開始する予定である。
 第3段階:サイト施設の最終解体及びクリアランス作業。約8年間を予定し、原子炉建屋を含む残存構築物を解体し、残存放射能を基準値以下にする。第3段階の工事は、2092年に開始し、2101年までにサイトを規制解除する計画である。
 廃止措置の全コストは、2006/2007年評価で13.1億ポンドである。
4.UKAEAの原子力施設解体のデコミ費用低減、工期短縮計画
 UKAEAの報告によれば、原子力施設のデコミショニング費用を見直し、総額約63億ポンド(1994年の見積もり)から約48億ポンドに下方修正、また作業期間も35年短縮されたと報告している(表1参照)。作業期間の短縮とデコミショニング・除染コストの削減の具体的な項目としては、イ)26基(その内25基閉鎖済み)のデコミショニングの前倒し、ロ)他産業の技術の流用などによる技術革新、ハ)既存施設の再利用による新規施設建設の回避、ニ)作業計画の改善、ホ)費用対効果の高い燃料処理を挙げている。その根拠は、
イ)前倒しをすることによる、施設維持費の減少、短期間の作業による効率向上、
ロ)一般産業界で使用されている機器の活用による開発費の削減、製作費の削減、
ハ)既存施設の再利用(耐震構造など検討が必要)による新規施設建設の回避、
ニ)作業計画の改善を図り、より緻密に計画を作成し、手戻り、作業待ちをなくす、
ホ)費用対効果の高い燃料処理法を採用する、即ち、既存処理方法を可能な限り採用し、必要に応じて改良を行い対応する。例えば、乾式再処理法のように、効率は良いが、新たな開発費、新規施設の建設費を要する方法は回避する。
5.WAGRの解体計画
 ウインズケールの改良型ガス炉(WAGR)は、AGRの実証炉として建設され、18年間の運転後、1981年に役割を終え停止した。この炉は、EC委員会の原子炉解体研究開発プロジェクトの一つに指定され、解体が行われている。炉心部の解体は、10段階区分して解体撤去作業を進め、マニピュレータ式遠隔解体装置を用いて黒鉛ブロック、炉心下部構造物、圧力容器等の解体撤去等を1999年から開始し、2011年に完了した。その後、解体撤去作業は、セラフィールドサイトの他のプロジェクトを優先するため、休止している。(ATOMICAデータ「英国WAGRの解体 (05-02-03-10)」を参照)
6.重水減速・沸騰軽水冷却型SGHWRの廃止措置計画
 重水減速・沸騰軽水冷却型のSGHWR(Steam Generating Heavy Water Reactor)は1960年に建設され、日本のATR「ふげん」と同型炉である。このタイプの炉は、経済性が悪いことから開発を中止し、1990年に閉鎖された。密閉管理(ステージ1)状態であったが2005年に早期解体に変更し、タービン系、燃料貯蔵プールの除染などを2007年までに実施した。しかし、その後、安全上の視点からセラフィールド施設の廃止措置を優先することで、2025年まで解体を延期した。
7.UKAEAドーンレイ・サイトの高速増殖炉等の廃止措置計画
 英国原子力公社(UKAEA)は、2000年10月、ドーンレイ・サイトの環境復旧計画を発表した。これは、高速実験炉(DFR:Dounreay Fast Reactor)、高速原型炉(PFR:Prototype Fast Reactor)、材料試験炉(DMTR:Dounreay Material Testing Reactor)のほか再処理施設の解体撤去、廃棄物処理施設の建設・運転、サイトのクリーン化を行う計画である。これには、立坑(深さ約170m)とこれと連結する湿式サイロから中レベル放射性廃棄物を取り出し、クリーンアップする計画が含まれている。(ATOMICAデータ「世界の高速炉の廃止措置概況 (05-02-04-13)」を参照)
 最近の調査によると、達成目標を2060年から2036年に変更し、経費を総額37億ポンド(約6,850億円)から27億ポンドに低減する検討が進められている。
 PFRは、政府の高速炉開発中止の方針に従って1994年停止された。1,500トンのナトリウムを処理する装置が2001年1月にタービン建家内に設置され、2018年まで処理を行い、2021年までに施設解体を完了する計画である。
(前回更新:2008年12月)
<図/表>
表1 英国(UKAEA)の原子力施設のデコミッショニング費用及び工期の変更
表1  英国(UKAEA)の原子力施設のデコミッショニング費用及び工期の変更
図1 英国の廃止措置機構(NDA)所有する原子力発電所サイト等の位置
図1  英国の廃止措置機構(NDA)所有する原子力発電所サイト等の位置
図2 代表的ガス炉(GCR)の炉心解体作業被ばく量評価(BNFL)−安全貯蔵による放射能減衰効果
図2  代表的ガス炉(GCR)の炉心解体作業被ばく量評価(BNFL)−安全貯蔵による放射能減衰効果
図3 バークレイ発電所原子炉建屋と燃料貯蔵プール建屋
図3  バークレイ発電所原子炉建屋と燃料貯蔵プール建屋
図4 バークレイ原子力発電所の安全貯蔵、サイト解放予想図
図4  バークレイ原子力発電所の安全貯蔵、サイト解放予想図
図5 トロースフィニッド原子炉概略、原子炉建屋(2基)の安全貯蔵概念図
図5  トロースフィニッド原子炉概略、原子炉建屋(2基)の安全貯蔵概念図
図6 オールドベリー原子力発電所の廃止措置サイトの外観経過予想図
図6  オールドベリー原子力発電所の廃止措置サイトの外観経過予想図

<関連タイトル>
海外主要国における発電炉の廃止措置の実績 (05-02-03-01)
英国WAGRの解体 (05-02-03-10)
東海発電所(GCR)の廃止措置計画 (05-02-03-14)
英国ドーンレイ・サイトの環境復旧計画 (05-02-04-11)
世界の高速炉の廃止措置概況 (05-02-04-13)

<参考文献>
(1)日本電気協会新聞部:原子力ポケットブック2013年版、2013年10月、p.287−291
(2)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向 2013年版(2013年5月発行)
(3)World Nuclear Association:Nuclear Power in the United Kingdom(Updated 28 Oct. 2013)
(4)‘Typical reactor dismantling integrated worker annual dose’BNFL,TLG 2002.
(5)NDA, Nuclear Decommissioning Authority Business Plan 2013-2016,December 2012.
(6)NDA. Berkley Site Summary, Lifetime Plan 21. 2005/2006.
(7)A.T.Ellis,‘Decommissioning and Radioactive Waste Strategies for Trawsfynydd Power
(8)Magnox, “Oldbury Site Environmental Management Plan”Issue Five, 2012.
(9)NDA, Oldbury Site Summary, Lifetime Plan 26. 2006/2007.
(10)Terry Benest,‘Taking up arms for decommissioning’ p.14-16,Nuclear Eng. Inter.(Aug. 2004).
(11)(社)日本原子力学会:原子力学会誌‘UKAEA,原子力施設のデコミッショニング費用を下方修正’Vol.46、No.12、827(2004)
(12)Ali McKibbin、Decommissioning a Test Reactor in the UK, 04/01/2012.
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