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<概要>
 原子炉施設では、放射性核種を含む水などが装置から漏れることもまれにあり、これらはコンクリート構造物の内部へ浸透して、わずかではあるが汚染が残ることもある。このような汚染コンクリートを除去すれば、残った建家は一般の構築物と同様に解体ができるとともに、放射性廃棄物の量を減らすことができる。
 汚染コンクリートの除去には、従来、土木・建設の現場で使用されているプレーナ、スキャブラ等の機器の使用が可能である。プレーナ、スキャブラによる研削面はかなり平滑であり、破砕深さは数mmであるが、作業効率は良好である。汚染が表面より深く浸透している部分にはブレーカ等が適している。実際の建家は入り組んだ部分を有しているため、これら種々の機器や工具を組み合わせて全体的な除染を行う必要がある。
<更新年月>
2010年11月   

<本文>
 原子炉施設では、放射性核種を含む水などが装置から漏れることもまれにあり、これらはコンクリート構造物の内部へ浸透して、わずかではあるが汚染が残ることもある。
 原子炉解体における建家解体にあたっては、汚染したコンクリートをあらかじめ取り除いて解体すれば、一般の構築物と同様に解体ができるとともに、放射性廃棄物の量を減らすことができる。表面除染によって、残存汚染コンクリートの量は1/50〜1/200に減量できるといわれている。
 汚染コンクリートの表面の除去には、汚染粉じんの回収措置を施すことにより、従来、土木・建設の現場で使用されているはつり用の機器を用いることができる。汚染がさらに深く浸透している部分には、これらの機器を繰り返し使用するか、ブレーカ等を使用することになる。コンクリート表面は大部分が塗装コーティングされているため、拭き取り除染が可能な部分も含め、汚染の多くは表面層に留まっている。また浸透した場合も通常は1cm程度の表層部に留まると考えられる。しかし、廃液漏洩事故など、トラブルの状況によって、また、汚染核種によって浸透汚染の深さの状況は大きく変わる。
 米国DOEのデコミッショニング・ハンドブック等によるとコンクリート表面除染技術としては、ショットブラスト法、グリットブラスト法、グラインデング法、スキャリファー法(かきおとし)、ミーリング法(平削り)、ドリル・スパル法などを有力な工法として挙げている。以下にこれらの主なものについて述べる。また、コンクリート表面汚染、浸透汚染の除去工法の概要について表1に示す。
 ・ショットブラスト法は、表面を剥離、洗浄する方法である。もともとコーティングの接着性を強固にするための表面処理技術として開発されたが、床面や壁を除去することにも使用される。携帯用のショットブラスト装置を図1に示す。汚染された異物とショット材は回収する装置が必要である。
 ・グリットブラスト法は、通常サンドブラスト、ジェット研磨と呼ばれ、一般に用いられている工法であり、表面処理物の表面に圧搾空気、水、または両者の組合せにより研磨材を吹き付ける。この方法は、表面汚染を均一に除去できる。除去された汚染物、研磨材は容器に回収され処理される。研磨材には、鉄ペレット、ガラスビーズ/ガラス溶融片、プラスティックペレットなどが使用される。装置は、ブラスト噴射、圧力系、研磨材、コンプレッサより構成される。
 ・スキャリファー法(かきおとし)は、コーティングの有無に関係なくコンクリートや鉄材表面を物理的にかきおとしする方法である。スキャブラ(衝撃剥離機)は、ヘッド数を複数(2、4個等)備え、圧搾空気で動くピストンがコンクリート表面を叩く方式を導入しており、コンクリートの薄層15〜25mmの除去に適している。ニードルガン(針型穿孔機)は、コンクリートや鉄表面の剥離に使用される。工具には、圧搾空気で動き2、3、4mmの針のセットが用いられる。針は表面の汚染部を往復運動で剥離させ、除去された塵埃や異物は真空装置や覆いで収集される。
 ・ミーリング法(平削り)は、シェイバー法、プレーナー法とも呼ばれ、コンクリート表面を平らに切削する工法である。ベルギーのユーロケミック再処理施設の解体では、ダイヤモンド砥粉を埋め込んだロータリヘッドを回転させるシェイバー法が用いられた。これは、ボルト等の金属物を削ることも可能で、切削深さも1〜15mmの範囲で調整可能であり、研削速度も大きい。
 ニードルガン、スキャブラ及びシェイバー法について、OECDの原子力機関(NEA)廃止措置タスクグループがまとめた代表的な作業効率を表2に示す。
 1996年3月に解体が終了したJPDRでは、次のようなコンクリート表面の除染技術が用いられた。
 JPDRにおけるコンクリート浸透汚染測定の結果を図2に示す。これから明らかに汚染の深さが限定されているのが分かる。したがってこれらの汚染を除くには、表面汚染部については表層部を数mm程度、浸透汚染部については2cm程度の深さをはく離除去すればよいことになる。JPDRでは、建屋解体に先立ち汚染調査を行い、表面汚染には集塵機を装備したショットブラスト(図3参照)、サンドブラスト図4参照)、スキャブラ(図5参照)、プレーナ(図6参照)、等を用い除染作業が行われた。また、特に深く浸透汚染エリアの除染作業には、集塵機を付加したコンクリートブレーカ等を用いた。JPDRのコンクリート表面汚染に使用された装置の除染効率を表3に、コンクリート浸透汚染に使用された装置の除染効率を表4に示す。
(前回更新:2003年1月)
<図/表>
表1 コンクリート表面汚染、浸透汚染の除去工法の概要
表1  コンクリート表面汚染、浸透汚染の除去工法の概要
表2 ニードルガン、 スキャブラ及びシェイバーの代表的な作業効率
表2  ニードルガン、 スキャブラ及びシェイバーの代表的な作業効率
表3 JPDRのコンクリート表面汚染に使用された装置の除染効率
表3  JPDRのコンクリート表面汚染に使用された装置の除染効率
表4 JPDRのコンクリート浸透汚染に使用された装置の除染効率
表4  JPDRのコンクリート浸透汚染に使用された装置の除染効率
図1 携帯用ショットブラスト装置
図1  携帯用ショットブラスト装置
図2 全γ放射能測定結果と詳細測定における汚染深さの比較(JPDR)
図2  全γ放射能測定結果と詳細測定における汚染深さの比較(JPDR)
図3 JPDRに用いたショットブラストによる除染方法の概念及び作業外観
図3  JPDRに用いたショットブラストによる除染方法の概念及び作業外観
図4 JPDRに用いたサンドブラストによる除染方法の概念
図4  JPDRに用いたサンドブラストによる除染方法の概念
図5 JPDRに用いた床用スキャブラによる除染方法の概念
図5  JPDRに用いた床用スキャブラによる除染方法の概念
図6 JPDRに用いたプレーナによる除染方法の概念
図6  JPDRに用いたプレーナによる除染方法の概念

<関連タイトル>
JPDRの解体(1992年度以降) (05-02-04-10)
ユーロケミック再処理施設の解体 (05-02-05-07)

<参考文献>
(1)日本原子力産業会議(編):放射性廃棄物管理ガイドブック(1994年版)、1994年7月
(2)火力原子力発電技術機構(編):やさしい原子力発電、1990年6月
(3)宮坂靖彦、他:JPDR解体実地試験の概要と成果、日本原子力学会誌 Vol.38、No.7(1996)
(4)宮坂靖彦:原子力施設デコミッショニングにおける最近の解体技術動向、デコミショニング技報、第25号(2002年3月)
(5)US.DOE:Decommissioning Handbook DOE/EM-0142P 1994
(6)NEA(翻訳版):原子力施設の廃止措置、廃止措置における除染技術、NEA廃止措置タスクグループ報告書(1999)
(7)Sevn Baumann, et al., :The Results of Specific Efforts to Improve Techniques for the Decontamination of Concrete Surfaces in Nuclear Facilities, ASME 2001.
(8)畠山睦夫、立花光夫、柳原 敏:動力試験炉(JPDR)の解体における建屋表面の除染と放射能測定、JAERI-Tech 97-064 (1997)
(9)伊藤 章、鳥居和敬:第3回廃止措置技術-コンクリート解体/はつりの技術動向、原子力学会誌、Vol.51、No.10 (2009)
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