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<概要>
 原子炉施設の廃止措置は、密閉管理、遮蔽隔離、解体撤去といった方式を適当に組み合わせて実施される。一般に、作業者や公衆の安全を確保した上で、経済性を考慮し廃止措置作業を実施することが基本とされるが、各国が必ずしも明確な廃止措置の考え方を明らかにしている訳ではない。フランスでは、経済的に有利であるとして、以前、原子炉本体部分を遅延解体する方式を選択していたが、2000年12月、第1世代の発電炉の解体を早める方針に変更され、規制当局が即時解体撤去を推奨している。ドイツでは、即時解体を原則としている。米国では、即時解体撤去、安全貯蔵、遮蔽隔離のいずれを選択することも可能であるが、最近、即時解体撤去を選択する方向にある。英国では、ガス冷却型の原子力発電所を所有するBNFL社は、原子炉の周辺機器及び施設を出来るだけ撤去し、炉心部のみを遮蔽隔離し、約60〜80年間の管理を続け放射能の減衰を待って、最終的にその炉心部と遮蔽体を解体撤去する方針である。また、英国では原子力廃止措置機関(NDA)を設立、廃止措置に係る責任を負うことになり、廃止措置の合理化の検討が進められている。
<更新年月>
2015年12月   

<本文>
 原子炉施設の廃止措置は、密閉管理、遮蔽隔離、解体撤去といった方式を適当に組み合わせて実施される。そこで、各国ではこれに類似した分類が行われるとともに、それに関連した廃止措置方針が示されている。主要国における原子炉施設の廃止措置全体フローを比較し図1−1図1−2に示す。
 廃止措置方式は、以下に示すステージ1、2及び3のIAEAの分類が良く用いられる。また、各々密閉管理方式、遮蔽隔離方式、解体撤去方式とも呼ばれている。
 ・ステージ1(監視付き貯蔵):原子炉施設を閉鎖し、適切な管理下で施設を安全な状態におく。
 ・ステージ2(制限付き敷地/施設解放):原子炉施設の周辺機器、一次冷却系施設等を撤去後、放射能レベルの高い部分である原子炉容器等を密閉処置し、放射性物質の漏洩を防止し、さらに炉体等に遮蔽隔離等の工事を行い、放射能が減衰するまで管理を継続する。しかし、放射能汚染がないことが最終サーベイで確認された施設エリアは、無制限解放される。
 ・ステージ3(制限なし敷地解放):原子炉施設内の放射能を有する構造物を解体撤去し、建屋または敷地は、最終サーベイで確認した後、無制限解放される。
 わが国における商業用原子力発電施設(以下「発電炉」という。)の廃止標準工程は、諸外国の廃止措置調査から、密閉管理と遮蔽隔離の処置方法に区分しにくいものが多いことを考慮して、安全貯蔵-解体撤去として整理している。
 発電炉の廃止措置の方針は、経済性、安全性、原子炉施設の設置状況等を十分考慮して決められるものであり、各国が必ずしも明確な国の方針を示している訳ではない。ただし、基本的な考え方が指針等により示されている国や、発電炉の所有者が方針を検討している国もある。
 以下にその例を示す。
1.カナダ
 カナダの発電炉は、現在、19基が運転され、電力供給の約16%を賄っている。一方、これまでに6基が閉鎖され、ジェンティリー-1号及び2号、ダグラスポイント、ロルフトンNPD-2号、ピッカリング-2(A)及びピッカリング-3(A)である。国土が広いため、発電炉の解体後その跡地の再利用を考慮する必要がないことから、密閉管理方式が取られている。なお、発電炉を所有するオンタリオハイドロ社では、運転停止後、使用済燃料を撤去し、30年間の密閉管理後、約10年間で施設を解体撤去する方策が検討されている。
 カナダ独立原子力規制機関(CNSC)は、認可された事業の廃止措置の計画準備に関するガイダンス(Regulatory Guide G219:Decommissioning Planning for Licensed)を与え、予備的廃止措置計画と詳細な廃止措置計画を策定することを定めている。予備的廃止措置計画は、活動または施設のライフサイクルにおいてできるだけ早く、規制機関に提出しなければならない。詳細廃止措置計画では、廃止措置する領域、想定される廃止措置作業パッケージの実施体制とシーケンスを定めている。廃止措置戦略は、G219の8.0項により即時解体、遅延解体、安全密閉及びこれらの組合せが利用できる。戦略選択には、評価因子として、例えば、除染・解体技術の利用性、施設特性、技術者の活用、機器の再利用等の可能性、作業者や公衆への被ばく、サイトの再利用、財源、廃棄物量や処分容量、規制基準等を挙げている。
2.フランス
 フランス電力(株)(EDF)は、PWR型発電炉58基を運転し、電力供給の約77%を賄っている。一方、これまでに第1世代原子炉(HWGCR型1基、GCR型6基、PWR型1基)及びFBR型1基の合計9基を閉鎖している。
 これらの発電炉の廃止措置は、作業者及び公衆の安全を確保し、環境の保全を考慮することが基本とされている。廃止措置の基本的な考え方は、以前には、原則ステージ2を選択し、原子炉本体の放射能の高い部分を遮蔽隔離し、その部分を経済的及び作業者の被ばく低減など技術的観点から有利であるとして、50年後に解体する方針であった。しかし、EDFは、2000年12月、規制当局のコメントに基づいて長期安全貯蔵のリスク軽減等を考慮し、第1世代原子炉等を閉鎖し、ステージ1または2を選択した発電炉9基について、今後25年以内に解体(ステージ3)を終了させる方針に変更した。
 その後、フランスの原子力安全機関(ANS)は、2009年4月に発表した廃止措置戦略に関する文書において、技術的、財政的に将来の世代に対する負担を先送りすべきでないとの観点から、発電炉等の大型施設が該当する原子力基礎施設(INB)の廃止措置方法として、安全貯蔵方式や遮蔽隔離方式ではなく、即時解体方式を採用するよう事業者に勧告している。
 廃止措置計画の推進は、大量に発生する極低レベル放射性廃棄物処分施設の確保が必要となり、2003年に低レベル放射性廃棄物処分施設の近くに施設を開設した。現在の優先課題として、ガス炉の約17,000トンのグラファイト廃棄物及び軽水炉等の超寿命中レベル放射性廃棄物の処分施設のサイトを選定中であり、できるだけ早く開設する方針で検討されている。
 最近の情報によると、軽水炉(ショーA)を2003年に解体開始、2021年までに完了させる計画が進んでいる。GCR型原子炉本体の解体は、炉心のグラファイトブロック等の超寿命中レベル放射性廃棄物を埋設する処分施設の設置の遅れ等を考慮して、2020年以降ビュジェイ1号機を先行し、他の5基を順次に実施する計画である。
3.ドイツ
 ドイツでは、東京電力福島第一原子力発電所の事故を受けて、9基の炉の閉鎖を行い、運転中の炉は8基となった。この結果、閉鎖した炉は、BWR型10基、PWR型7基、旧ソ連製PWR型(VVER型)6基を含め合計28基である。
 廃止措置の基本戦略は、即時解体撤去を原則とし、サイトのグリーンフィールド化、解体廃棄物のリサイクル、放射性廃棄物の深地処分を図ることである。
 開発研究用のニーダーアイヒバッハ(KKN)は、廃止技術開発に用いられ、1995年に、またグロスヴェルツヒム(HDR)は1998年に解体撤去を終了した。またグンドレミンゲンKRB-A炉(BWR型、25万kWe)は、2003年に建屋を残し、解体を完了した。これらの経験を活用して多くの廃止措置が行われている。
 安全性に問題があるとして1990年にすべて停止した旧ソ連型軽水炉であるグライフスバルトのノルト1〜5号(VVER型)の原子炉施設は、2013年、解体撤去を完了した。このサイトでは、解体廃棄物の中間貯蔵施設での廃棄物管理を残しているが、タービン建屋、原子炉建屋など再利用、広範囲のサイト解放を実現している。ビュルガッセン(BWR型)は、2014年に解体を完了した。多目的研究炉MZFR(PHWR:加圧重水炉)は、廃止措置の最終段階にある。
 2002年、脱原子力政策が成立し、1基当り平均35年運転後に停止することを電力会社と政府が合意している。この政策変更後、2003年11月に閉鎖されたシュターデ(PWR型:67万kWe)は、2016年に解体を完了する予定である。また2005年5月に閉鎖したオブリッヒハイム(PWR型:34万kWe)は、解体撤去中である。
 さらに東京電力福島第一原子力発電所の事故を受けて閉鎖した9基は、うち2基について即時解体を選択、他の7基は廃止措置計画準備中で詳細は不明である。
4.米国
 米国の発電炉は、99基が平均稼働率約92%で電力供給の約20%を賄う成績で運転されている。一方、これまでに34基(試験・開発のための発電炉を含む)が閉鎖された。
 1990年代に閉鎖した9基の廃止措置は、6基が即時解体、3基が安全貯蔵であった。即時解体を選択した5基については、すでに解体撤去を完了し、サイト解放が実現している。その後、安全貯蔵を選択したザイオンの2基も10年後に解体に入り、2020年解体完了を目標に進められている。
 1999年以降2012年までの間、電力不足、運転認可延長20年が認められたことなどから閉鎖炉はなかった。しかし、2013年〜2014年末までの間に、安全性または経済性の理由から5基が閉鎖された。これらの炉の廃止措置方式は、当面、安全貯蔵を選択している。
 米国の廃止措置は、即時解体(DECON)、安全貯蔵(SAFSTOR)及び遮蔽隔離・サイト内処分(ENTOMB)の方式について選択可能である。これらの定義は以下の通りである。
 ・DECON:原子炉の運転停止後、即時解体により無拘束解放する。
 ・SAFSTOR:原子炉の停止後、施設を安全な状態で管理して放射能の減衰を待った後、解体撤去または除染して無拘束解放する。
 ・ENTOMB:遮蔽隔離期間内に制限なし放射能レベルにまで減衰の見込みのないものは、前もって撤去し、残留放射能汚染物を遮蔽隔離サイト内で処分を行い、サイト解放基準を満たすまで管理する。または放射性機器や施設をコンクリート構造物等により閉じ込めて放射能の減衰まで管理する。
 いずれの方式を採用しても、原子炉の運転停止後60年以内に、施設(または跡地)の無拘束解放を義務付けている。
 ENTOMB方式は、60年以内の完結が達成できないことから、現状では実質上認められていない。
 原子力規制委員会(NRC)の指針(R.G1.184)によると、発電炉の廃止措置活動を3段階に分けている。第1段階は、「初期活動」であり、主要な解体撤去作業が始まるまでの期間である。炉停止2年以内に廃止措置活動計画報告書(PSDAR)を、NRCへ提出することが義務付けられている。第2段階は、「主要な廃止措置活動」であり、主要な解体撤去作業及び安全貯蔵または両方の組み合せの活動期間である。第3段階は、「認可終了活動」であり、認可終了予定期日の2年以上前に認可終了計画書(LTP)の提出が義務付けられている。最後のサイト解放は、LTPに基づき最終サーベイを行い、その結果をNRCに提出し、NRCの確認により認可終了となり廃止措置が終了する。
5.英国
 英国では、マグノックス型ガス炉(GCR)1基、改良型ガス炉(AGR)14基及び軽水炉(PWR)1基、合計16基の発電炉が運転中である。新規原子力プロジェクトに基づき、ヒンクリーポイントCなど数箇所のサイトで軽水炉の建設計画が進められている。
 一方、2014年1月までに閉鎖した発電炉は、GCR型炉25基を含め合計29基である。ガス炉の廃止措置については、次の点に考慮して実施するものとされている。
 (1)公衆、作業者、環境の安全を保証する。
 (2)環境及び発電所への影響を最小にする。
 (3)跡地を適切な他の用途に解放する、または同サイトへの新規原子力発電所の建設を計画。
 (4)上記目的に矛盾しない範囲で廃止措置に関する費用を最小にする。
 英国原子燃料会社(BNFL)では、原子炉の運転停止後、即時解体撤去することは経済的に得策ではないとし、以下の3段階による廃止措置を基本戦略としている。
 ・第1段階:燃料の撤去期間を含めて5年間で密閉管理状態にする。
 ・第2段階:生体遮蔽体の外部に在る施設を5年〜20年間で解体し、その後、原子炉本体(黒鉛ブロックを内蔵する原子炉容器と生体遮蔽)を約65年〜80年間遮蔽隔離し、監視を続ける。
 ・第3段階:原子炉本体を解体撤去、放射能の除去と跡地の清掃を10年間で行い、用途別に使用できるようにする。
 原子炉施設の解体は、100年を超えるかもしれない長期的な課題であるため、長期的に責任ある組織対応が必要であるとして、英国政府は、2005年4月1日に原子力廃止措置機構(NDA:Nuclear Decommissioning Authority)をエネルギー法案(2004年7月成立)の下に発足させた。NDAは、主にBNFL及び英国原子力公社(UKAEA)原子炉施設の負の遺産に対して総合的に責任を持ち、規制との調整を含め、安全なクリーンアップ、債務保証及び効率的コスト管理を推進する組織であり、省庁から独立した公的機関と位置付けられている。
 UKAEAは、開発段階の発電用原子炉の廃止措置を早める方向で検討している。NDA設立準備のための貿易・産業省(DTI)報告書によると、廃止措置工期の35年間短縮及び解体経験の蓄積により、総額63億ポンドから48億ポンドのコスト削減ができると評価している。
 AGR型であるウインズケールの実証炉WAGRは、2011年夏までに炉心部・原子炉容器等の解体が完了した。
 ガス炉の廃止措置戦略は、原子炉容器の中に放射能レベルの高い大量の黒鉛ブロックを内蔵しているため、原子炉本体のみの長期安全貯蔵を行う方針である。原子炉本体は、安全貯蔵(C&M:Care and Maintenance)約80年後に完全解体する計画である。また、多くのサイトでは、新規原子炉建設計画に向けて、原子炉本体の安全貯蔵準備エリアを除き、広大なサイトエリアに汚染がないことを確認し、規制解除する作業が進められている。
また、ドーンレイにある高速炉DFR(FBR型)及びPFR(FBR型)は、2024年を目標に解体撤去中である。
(前回更新:2012年1月)
<図/表>
図1−1 主要国の原子炉施設廃止措置全体フローの比較(1/2)
図1−1  主要国の原子炉施設廃止措置全体フローの比較(1/2)
図1−2 主要国の原子炉施設廃止措置全体フローの比較(2/2)
図1−2  主要国の原子炉施設廃止措置全体フローの比較(2/2)

<関連タイトル>
国際的に見た原子力発電所の廃止措置の政策、戦略、費用について (05-02-01-15)
海外主要国における発電炉の廃止措置の実績 (05-02-03-01)
原子力発電所運転終了予定調査 (05-02-03-02)
ドイツにおける原子力発電所廃止措置計画 (05-02-03-03)
フランスにおける原子力発電所廃止措置計画 (05-02-03-04)
英国における原子力発電所廃止措置計画 (05-02-03-05)
米国における発電炉廃炉計画 (05-02-03-06)

<参考文献>
(1)日本原子力産業協会(編):世界の原子力発電開発の動向、2015年版(2015年4月)
(2)総合エネルギー調査会原子力部会:原子力部会原子炉廃止措置対策小委員会報告書-商業用原子力発電施設の廃止措置のあり方について-(1997年1月)
(3)日本電気協会新聞部:原子力ポケットブック2015年版(2015年12月)
(4)資源エネルギー庁公益事業部原子力発電安全企画審査課:役割を終えたその後は?原子力発電所の廃止措置について(1997年3月)
(5)Jean-Jacques:EDF Decommissioning Program-A Global Commitment to A Sustainable Development,ICEM’03(2003年)
(6)宮坂靖彦:英国の放射性廃棄物管理政策の動向と低・中レベル廃棄物処分の概況、デコミッショニング技報、第28号、10-22(2003年10月)
(7)Nuclear Clean Up-Nuclear Decommissioning Authority(NDA)、http://www.nda.gov.uk/
(8)日本原子力学会(編):日本原子力学会誌、Vol.46、No.12、827(2004)
(9)R.G1.184,Decommissioning of Nuclear Power Reactors,U.S.NRC(July 2000)
(10)英BNFL、浄化計画に向け組織を変更、ニュークレオニクス・ウィーク日本語版(2004年5月6日)p.20
(11)Status of the Decommissioning Program,2010 Annual Report、http://pbadupws.nrc.gov/docs/ML1026/ML102630341.pdf
(12)D&D Updates-U.K.Edition,Radwaste Solutions Sep.-Oct.2011
(13)経済産業省:海外の廃止措置規制制度について
(14)フランスのINBの廃止措置及び許認可に関するANSの方針、2009年4月
(15)Canada“Regulatory Guide G219:Decommissioning Planning for Licensed”(June,2000)
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