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<概要>
 1975年8月末に、15カ国による海洋投棄規制条約(ロンドン条約)が発効した。これは、低レベル放射性廃棄物海洋処分等について、ロンドン条約において締約国の特別な許可を得ることにより実施が認められる条約である。わが国は、1980年11月14日に正式加盟し、海洋処分を計画した。しかしながら、関係国の懸念を無視した強行実施や地球環境の問題に鑑み、海洋投棄の実施は極めて困難であり現実的には行われていないことから、わが国では今後、海洋投棄は選択肢としないとの原子力委員会の決定が1993年11月2日になされた。このような内外の情勢の中、第16回ロンドン条約締約国協議会議において、放射性廃棄物の海洋投棄の禁止等が1993年11月12日に正式に採択された。
 なお、わが国でも1955年より1968年までの間、日本放射性同位元素協会が放射性同位元素の分配作業で発生した極く微量の放射性廃棄物を日本周辺の海域に投棄していた。
<更新年月>
2005年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.わが国の海洋投棄
 わが国では1955年より1969年までの間、 日本放射性同位元素協会が放射性同位元素の分配作業で発生した極く微量の放射性廃棄物を日本周辺の海域に投棄していた。その状況を表1表2表3表4および図1に示す。この時期、原子力発電所の放射性廃棄物は実施されていない。表より明らかなように海外諸国の投棄量と比較するとわが国の投棄量は無視し得るほどの量であった(表3参照)。
 OECD/NEA協議会は、「OECD/NEA協議に基づく海洋投棄は一般公衆に影響を及ぼさない」と発表し、わが国もこの立場を支持していた。
2.わが国の海洋投棄廃止の経緯
 1975年8月末、投棄による海洋汚染を防止するため、廃棄物(すべての廃棄物を対象)の海洋投棄を国際的に規制しようと海洋投棄規制条約(ロンドン条約)が、15カ国の批推により発効した。日本は、1980年11月14日に正式加盟(加盟国:日本、米国、メキシコ、英国等70カ国、1993年4月現在)した。この条約は、低レベル放射性廃棄物の海洋処分については、締約国の特別な許可を得ることにより実施が認められる条約である。低レベル放射性廃棄物の海洋投棄を実施するために、1975年10月に(財)原子力環境整備センターが設立された。
 しかしながら、1980年、太平洋ベースン首脳会議で、わが国の海洋投棄が取り上げられ、「完全な安全性が一定期間にわたって実証され、かつ、太平洋の全ての資源が悪影響を受けないことが確証されるまで投棄計画中止を要求する」との共同声明が発表された。
 1983年2月の第7回ロンドン条約締約国協議会議において、「海洋投棄によるすべての影響が明らかにできるような研究が完了するまでは投棄を一時停止する」という決議が採択され、さらに、1985年9月の第9回ロンドン条約締約国協議会議において、海洋処分について、科学的検討のみならず、政治的、社会的等の検討を含む広範な調査、研究を終了するまで海洋処分を一時停止するとの決議がなされ、これを受けて設置された政府間専門家パネル等において検討が行われた。
 このような中で、1993年4月ロシア政府より、かって旧ソ連及びロシアにより日本海、オホーツク海等の極東海域及びバレンツ海等の北方海域に液体及び固体廃棄物を投棄した事実が発表された。さらに、同年10月のロシアによる日本海における液体放射性廃棄物の海洋投棄等が明らかとなり、国際的にも放射性廃棄物海洋投棄に対する関心が一層高まった。
 わが国の原子力委員会では、低レベル放射性廃棄物の海洋投棄の取扱いについて、科学的観点のみならず、政治的、社会的な見地をも加えた広範な範囲から検討が行われた。その結果、低レベル放射性廃棄物の海洋投棄は、国際原子力機関の基準等に沿って行えば、公衆の健康に特段の影響を与えるものではないと考えるものの、(1)関係国の懸念を無視して強行はしないとの考えのもとにその実施については慎重に対処することとしており、現実的には行われていないこと、(2)地球環境問題への国際的関心を背景とした関係国の懸念の高まりに加え、旧ソ連及びロシアにより国際合意に反して行われた一連の海洋投棄による内外への影響を考慮すると、わが国の低レベル放射性廃棄物の海洋投棄の実施は極めて困難であると判断が下された。
 さらに、国内において地中埋設が順調に進展していることなどを踏まえ、わが国としては、今後低レベル放射性廃棄物の処分の方針として、海洋投棄は選択肢としないとの原子力委員会の決定が1993年11月2日になされた。
 1993年11月12日に開催された第16回ロンドン会議では、わが国は海洋投棄全面禁止の決議に賛成した。ロンドン条約(廃棄物海洋投棄に係る海洋汚染防止条約)の概要とロンドン条約改定前後の比較を表5に示す。
<図/表>
表1 わが国の放射性廃棄物海洋投棄
表1  わが国の放射性廃棄物海洋投棄
表2 わが国の試験的海洋投棄予定海域比較
表2  わが国の試験的海洋投棄予定海域比較
表3 1949年〜1982年に実施された海洋投棄における国別投棄放射能量
表3  1949年〜1982年に実施された海洋投棄における国別投棄放射能量
表4 1946年〜1993年に実施された海洋投棄における国別投棄放射能量
表4  1946年〜1993年に実施された海洋投棄における国別投棄放射能量
表5 ロンドン条約改正(1993年11月)の概要
表5  ロンドン条約改正(1993年11月)の概要
図1 わが国の試験的海洋投棄予定海域
図1  わが国の試験的海洋投棄予定海域

<関連タイトル>
海洋投棄規制と実績 (05-01-03-10)
欧米諸国の放射性廃棄物海洋投棄 (05-01-03-22)
廃棄物投棄に係わる海洋汚染防止条約(ロンドン条約) (13-04-01-03)
ロシア連邦による隣接海への放射性廃棄物の海洋投棄 (14-06-01-16)

<参考文献>
(1)原子力安全委員会:平成5年版 原子力安全白書、大蔵省印刷局(1994年2月)
(2)科学技術庁原子力局(監修):原子力ポケットブック 1993年版、日本原子力産業会議(1993年3月)
(3)科学技術庁原子力局(監修):原子力ポケットブック 1994年版、日本原子力産業会議(1994年3月)
(4)IAEA-TECDOC-588, ”Inventory radioactive material entering the marine environment:Sea disposal of radioactive waste”,IAEA,March 1991
(5)IAEA-TECDOC-1105,”Inventory of radioactive waste disposals at sea”IAEA,August 1999
(6)日本原子力産業会議:原子力ポケットブック2004年版、(社)原産(2004年8月)
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