<大項目> バックエンド対策
<中項目> 放射性廃棄物の処理、処分
<小項目> 放射性廃棄物の処分方法
<タイトル>
海洋投棄規制と実績 (05-01-03-10)

<概要>
 投棄による海洋汚染を防止するために、すべての廃棄物の海洋投棄を国際的に規制する海洋投棄規制条約(ロンドン条約)が1972年に採択された。この条約は15ヵ国の批推により、1975年8月に発効した。加盟国は2010年12月現在で日本、米国、メキシコ、英国等86ヵ国である。
 放射性廃棄物の海洋投棄は、日本では実施されていない。外国では、北大西洋においてOECD/NEA協議監視制度の下で、英、仏、西独(当時)等により1967年から1982年にかけて海洋投棄が実施されたが、1983年以降は行われていない。しかし、1993年4月にロシア政府より、極東海域及び北洋海域に液体及び固体廃棄物を投棄した事実が発表された。
 1993年11月の第16回ロンドン会議において、附属書I及びIIが改正され、「放射性廃棄物およびその他の放射性物質」の海洋投棄の禁止、「免除レベル概念の追加」等が正式に採択された。さらに一般産業廃棄物の海洋投入処分の全面禁止等を含むロンドン条約の1996年議定書が2006年3月に発効した。1993年〜1994年に行われた海洋環境調査によれば、日本海における海洋投棄に基づく影響は、調査対象海域で認められなかった。
<更新年月>
2010年12月   

<本文>
1.海洋投棄規則
 海洋投棄規制条約(ロンドン条約)の概要は次のとおりである。なお、本条約の事務局は国際海事機関(IMO)が務めている。
(1)条約の趣旨
 投棄による海洋汚染を防止するため、廃棄物(すべての廃棄物を対象)の海洋投棄を国際的に規制しようというもの。その基本的考え方は、条約上特に許されるもののほか、廃棄物の海洋投棄は禁止するという点にある。
(2)規制の内容
 投棄の規制上、廃棄物を3つのカテゴリーに分けている。
1)海洋投棄を禁止する廃棄物(有機ハロゲン、水銀、カドミウム、廃油、高レベル放射性廃棄物等)
2)締約国の権威ある国家機関が、事前に、申請に基づいて個別的に投棄の許可を与える廃棄物(ひ素、鉛等を相当量含むもの、低レベル放射性廃棄物等)
3)締約国の権威ある国家機関が、事前に投棄の許可を与える廃棄物(上記以外の廃棄物)
(3)条約の付託事項とIAEAの作業
 条約においては、海洋投棄が禁止される高レベル廃棄物の定義作り及びその他の放射性廃棄物の海洋投棄について各国の国家機関が許可を出す際の基準作りをIAEAに付託し、IAEAは1974年秋の理事会で、この基準に関する勧告をした。その後、同勧告の随時見直しが行われ、1986年の理事会で勧告を行った。
(4)条約の発効
 本条約は、15ヵ国の批推により発効するが、1975年8月末15ヵ国に達し発効した。加盟は日本、米国、メキシコ、英国等70ヵ国(1993年4月時点)である。日本は、1980年11月14日正式に加盟した。その後、加盟国が増加し、2010年12月現在で86ヵ国となった。
(5)低レベル放射性廃棄物の海洋処分の禁止
 低レベル放射性廃棄物の海洋投棄については、1983年2月の第7回ロンドン条約締約国協議会議において、海洋投棄によるすべての影響が明らかにできるような研究が完了するまでは投棄を一時停止するという決議がなされた。これに引き続き、さらに、1985年9月の第9回同会議において、下記の決議(「モラトリアム決議」)が採択された。
1)条約附属書の改訂提案に関し、広い観点からさらに検討するために必要な政治的、法的、経済的及び社会的調査研究等を行うこととし、それが終了するまですべての海洋投棄を一時停止する。
2)適当な国際機関による、海洋環境に流入するすべての放射性廃棄物量の把握体制を整備及び維持する。
3)海洋投棄に伴う損害賠償責任の評価手続の明確化を図るよう締約国へ要請する。
 この決議に基づいて、放射性廃棄物の海洋投棄に関する政府間専門家パネルが設置され、同パネルを中心として検討が行われた。
 1993年11月12日の第16回ロンドン条約締約国協議会議において、「放射性廃棄物およびその他の放射性物質」の海洋投棄の禁止等(ロンドン条約の改正)が正式に採択された。ロンドン条約の1993年までの経緯を表1に示す。
 日本としては、このロンドン会議の10日前に、今後海洋投棄は処分の選択肢としないことを決議している。1994年2月にはロンドン条約の改正が発効したことをうけ、同月中に事業所外廃棄規則と障害防止施行規則から海洋投棄関係の条項を削除した。
 その後の世界的な海洋環境保護の必要性への認識の高まりを受けて、さらに海洋投棄ができる廃棄物の範囲を限定する同条約の1996年議定書が2006年3月に発効した。この議定書の批准国は、2010年現在、39ヵ国である。日本ではこの議定書の国内法規への取り入れが進められ、一般産業廃棄物の海洋投入処分の全面禁止等を含む「産業廃棄物の処分及び清掃に関する法律」などの改正が2007年に行われた。
2.放射性廃棄物の海洋投棄の実績
 1967年に、イギリス、フランス、西ドイツ、オランダ、ベルギーがスペイン沖北西500kmの深度約5,000mにβ/γ廃棄物283TBq、α廃棄物9.4TBqを投棄した。
 1969年に、イギリス、フランス、スウェーデン、オランダ、スイス、ベルギー、イタリアがアイルランド沖西方600kmの深度約5,000mにβ/γ廃棄物816TBq、α廃棄物17.9TBqを投棄した。さらに1971年〜1976年に、イギリス、オランダ、スイス、ベルギーがスペイン沖の深度約3,000〜5,500mにβ/γ廃棄物11,357TBq、α廃棄物15.2TBqを投棄した。
 1977年〜1982年に、イギリス、オランダ、スイス、ベルギーがスペイン沖の深度約5,500mにOECD/NEA協議監視制度の下でβ/γ廃棄物39,283TBq、α廃棄物330.3TBqを投棄した。1983年以降は実施していない。表2に、北大西洋における海洋投棄の実績を示す。
 また、IAEAが1999年に発表した「海洋への放射性廃棄物処理の調査」(Inventory of radioactive waste disposals at sea)によると、海洋投棄された放射能は、最初の報告である1946年から1993年までの48年間に14ヵ国、80ヵ所で、合計約85,000TBqである(ATOMICAデータ「原子力潜水艦による海洋汚染 <01-08-01-20>」参照のこと)。
 1993年2月に、ロシア政府は国際的合意に反し、旧ソ連がバレンツ海やカラ海の北洋海域及び日本海などに、液体・固体の放射性廃棄物を長年にわたって海洋投棄していた事実を発表した。この「放射性廃棄物海洋投棄問題政府委員会報告書」によれば、1959年以来、投棄された海域は、バレンツ・カラ両海域で13ヵ所、極東が日本海、オホーツク海、カムチャッカ半島沖の太平洋の3海域で、原子力潜水艦の原子炉隔壁、燃料を含む原子炉及び放射性廃棄物をロシア海軍が投棄した。この海洋投棄は、国際海事機関(IMO)や国際原子力機関(IAEA)にも報告されなかった。海洋環境に投棄された放射性廃棄物を正確に確定することは困難だが、その総量は投棄時点で2,159TBqを超えたと推定されている。
 以上が外国の海洋投棄の実績であるが、日本における海洋投棄処分の実績はない。
3.旧ソ連・ロシアの放射性廃棄物海洋投棄に係る対応
(1)日本海投棄海域における海洋環境放射能調査
 1993年4月のロシア政府の放射性廃棄物海洋投棄問題に関する白書の公表に対して、科学技術庁(現文部科学省)を中心とする放射能対策本部幹事会の対応策協議に基づき、海洋環境放射能調査が実施された。1993年4〜6月の日本海における海洋環境放射能調査及び1993年10月のロシアが行ったウラジオストック沖の日本海における液体放射性廃棄物投棄後直ちに実施された海洋環境放射能調査のいずれでも、調査結果にその影響が認められていないことが確認された。さらに、日本海の投棄海域において1994年3〜4月に、日本、韓国、ロシア及び国際原子力機関(IAEA)の専門家による第1回共同海洋調査を実施し、1995年7月に共同報告書が取りまとめられ、調査海域において投棄による影響が認められていないことが確認された。日本海以外の投棄海域についても、1995年8月〜9月にかけて、第2回共同海洋調査が実施され、1997年4月に共同報告書が取りまとめられ、調査海域において投棄による影響が認められていないことが確認された。
(2)ロシアにおける液体放射性廃棄物処理施設の建設に対する日本の協力
 ロシアによる放射性廃棄物の海洋投棄を防止するには、放射性廃棄物の貯蔵・処理問題の解決が不可欠との観点から、ロシアが自ら解決すべきことではあるが、わが国は日露核兵器廃棄支援資金の一部を利用して液体廃棄物処理施設の建設に協力している。
 本施設の名はスズラン(花言葉で「清潔、清廉」の意味)という。長さ63m、幅25m、高さ5mの自力航行能力のないはしけ(バージ:自力航行能力のない船)の上に設置される浮体構造型のものであり、年間7,000立方メートルの液体放射性廃棄物を処理する能力を有する。1996年1月の建設企業の選定を経て、建設が行われ、2001年1月ロシア側に引き渡された。それ以後、ウラジオストク付近のボリショイ・カーメニにある原子力潜水艦解体工場の埠頭に係留され、順調に稼働している。現在、8隻の原子力潜水艦が解体される計画であり、これらの液体廃棄物は「すずらん」で処理される予定である。
<図/表>
表1 ロンドン条約の経緯
表2 OECD/NEA諸国の放射性廃棄物の大西洋への投棄

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<関連タイトル>
わが国の海洋投棄中止にいたる経緯 (05-01-03-11)
廃棄物投棄に係わる海洋汚染防止条約(ロンドン条約) (13-04-01-03)
ロシア連邦による隣接海への放射性廃棄物の海洋投棄 (14-06-01-16)
ロシア極東における液体放射性廃棄物処理施設(スズラン)の建設 (16-03-02-08)

<参考文献>
(1)原子力安全委員会(編):平成6年版 原子力安全白書、大蔵省印刷局(1995年3月)
(2)日本原子力産業会議(編・刊):原子力ポケットブック1998/99年版、日本原子力産業会議(1999年2月)、p.224-225
(3)原子力工業 第40巻、第1号、p.4(1994)
(4)原子力産業新聞、1993年11月18日号
(5)日露非核化協力委員会技術事務局、低レベル液体放射性廃棄物処理施設「すずらん」の供与に関する事後評価(評価調査結果)(要約)(2008年9月2日)
http://www.tecsec.org/pdf/projectpostru01_j.pdf
(6)IAEA:Inventory of radioactive waste disposals at sea, IAEA-TECDOC-1105, August 1999.
(7)ロンドン条約及びロンドン条約96年議定書の概要、
http://www.env.go.jp/council/toshin/t063-h1506/ref_01.pdf
(8)国際海事機関(The International Maritime Organization )ホームページ(条約関連)、http://www.imo.org/About/Conventions/Pages/Home.aspx
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