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<概要>
 高レベル放射性廃棄物地層処分の技術開発が世界各国で行われている。フランスでは、高レベル廃液ガラス固化し貯蔵した後、地層処分する計画である。ガラス固化法としてはAVM法が実用段階にあり、ガラス固化体を製造、貯蔵中である。2006年に、放射性廃棄物等管理計画法により、高レベル・長寿命放射性廃棄物の処分計画が策定され、地層処分候補地域でボーリング調査を開始しており、2025年の操業開始を目標にしている。英国では、高レベル廃液はガラス固化し貯蔵した後、地層処分する計画である。2006年の放射性廃棄物管理委員会(CoRWM)の放射性廃棄物の長期管理に関する勧告に基づき、環境・食糧・農村地域省(DEFRA)が2008年6月に放射性廃棄物管理に関する白書「放射性廃棄物の安全な管理−地層処分の実施にむけた枠組み」を公表し、高レベル放射性廃棄物の処分サイト選定を開始した。2009年1月までに2市1州が関心表明を行っている。
<更新年月>
2011年02月   

<本文>
はじめに
 高レベル放射性廃棄物とは、原子力発電に伴って生ずる使用済燃料再処理後に発生する高レベル放射性廃液を固化(現状はガラス固化)したもの(以下、「ガラス固化体」という)、及び使用済燃料をそのまま処分する場合(以下、「直接処分」という)は使用済燃料自体をいう。再処理を行うか直接処分をするかは国ごとの原子力政策によって異なっている。再処理を行いガラス固化体処分のみを実施する方針の国としてはフランス、英国、日本等があり、直接処分のみを行う方針の国としてはカナダ、スウェーデン、フィンランド等がある。フランスは使用済燃料の一部については直接処分を行う計画もある。また、ガラス固化体と使用済燃料の処分を併用する国としては米国、ドイツ、スイス等がある。
1.フランス
 放射性廃棄物は、主として原子力発電所の操業に伴って発生するが、研究施設や医療施設、産業界からも発生している。これらの放射性廃棄物の管理は、放射能レベルと半減期という2つの要素を考慮して行う必要がある。フランスの原子力発電は、クローズド・サイクル(再処理路線)の燃料サイクル戦略を取っており、使用済燃料は放射性廃棄物とはみなされず再処理されることになっている。
 放射性廃棄物の分類は、放射能レベルに応じて(1)極低レベル廃棄物、(2)低レベル廃棄物、(3)中レベル廃棄物、(4)高レベル廃棄物の4種類に分類される。これらは、更にそれぞれ短寿命廃棄物(半減期が30年未満)、長寿命廃棄物(半減期が30年以上)に区別されている。
 これらの放射性廃棄物は、処分に先立って固化されて専用の容器に封入され、短寿命低中レベル廃棄物は、地表(チュムリとして)と浅層(モノリスとして)に埋設される(チュムリとモノリスについては図1参照)。処分場(公式には、「貯蔵センター」と称する)としては、現在、ラアーグ再処理工場近くに所在するラマンシュ・センター及びローブ県スレーヌ所在のローブ・センターがある。前者は1994年に閉鎖され、現在は制度的管理に委ねられている。1992年操業開始のローブ・センターには極低レベル廃棄物も併せて処分されている。高レベル廃棄物と長寿命中レベル廃棄物は再処理プラント内(マルクール工場またはラアーグ工場)に貯蔵されており、最終的には地層処分される。また、使用済燃料の一部を直接処分する計画も検討されている。放射性廃棄物管理庁(ANDRA)は1987年に処分場の候補地域として、(1)東北部の粘土層地域(エンヌ(Aisne)県)、(2)中西部の花崗岩地域(ドゥー・セーブル(Deux-Sevre)県)、(3)西部の頁岩地域(メーヌ・エ・ロワール(Maine-et-Loire)県)及び(4)中東部の岩塩層地域(アン(Ain)県)の4ヵ所を選定した(図2参照)。この4地域で、1987〜1990年の3年間、地質・水文に関する地表調査を行い1地域に絞りこみ、地下研究所の建設・原位置調査を含む特性調査を1990〜1995年の間に実施し、1995年末に許可申請、2000年に地層処分場の建設を始める計画であった。
 しかし、4地域の調査が公表されると各地住民の反対運動が高まり、1990年2月に首相は、1年間の凍結期間を設け、改めて科学的・技術的なリスク評価を大学、政府機関に依頼することを決定した。1991年12月30日に「放射性廃棄物管理の研究に関する法律」が定められ、以下に示す3種類の研究開発を実施することになった。
(1)アクチニドの群分離と、長寿命核種から短寿命核種への核種変換(消滅処理)の研究。
(2)地下研究施設を使った回収可能性の試験。
(3)中間貯蔵施設での長期貯蔵するためのコンディショニング技術の開発。
 この法律ではこれらの研究期間を15年と規定しており、3つのオプションに関する包括的な評価報告書を議会に提出し、議会の同意が得られれば、高レベル廃棄物と長寿命中レベル廃棄物処分場を建設するための法律が作成される。なお、ANDRAは、地下研究施設を使った回収可能性に関する研究開発を担当している。
 処分サイトの選定に関しては、1994年1月に東部粘土層地域(オート・マルヌ(Haute-Marne)県とムーズ(Meuse)県)、南部粘土層(ガール(Gard)県)及び西部花崗岩地域(ヴィエンヌ(Vienne)県)の4県の地質調査がANDRAに委託された。ANDRAは2年間にわたって予備的な地質の評価作業を実施し、地下研究所に適したサイトとして、ビュール近傍(オート・マルヌ県とムーズ県の県境)、シュクラン近傍(ガール県)及びラシャペルバトン近傍(ヴィエンヌ県)の3候補サイトを提案した。
 1996年6月に政府はANDRAに対して選定された3サイトの地下研究所認可申請を提出することを認めた。1997年に申請にかかる法律及び規制面での手続きが開始され、1998年12月に東部サイト(ビュール近傍)の地下研究所計画を原則として認める決定を行い、1999年8月に東部サイトでの地下研究所の建設、操業を認める政令(デクレ)を発行した。地下研究所では、2001年から研究活動を行い、2006年に総合評価が実施された。
 その結果、同年に放射性廃棄物等管理計画法が制定され、高レベル廃棄物及び長寿命中レベル放射性廃棄物について、可逆性のある地層処分を行うことが決定された。同法は、2015年迄に処分場の設置許可申請、2025年に操業開始というスケジュールとともに、設置許可申請を地下研究所における研究対象となった地層に限定することを定めている。ANDRAは、ビュール地下研究所を中心とした研究・調査を実施し、2009年度末に政府に地層処分の候補サイトを提案した。この提案に関して、国家評価委員会(CNE)、原子力安全機関(ASN)及び地域情報フォローアップ委員会(CLIS)の評価などを踏まえた政府の判断を経て、ANDRAは詳細な地下調査と地上施設に関する調査を行い、2013年に地層処分サイトを決定、2014年に設置許可申請を予定している。図3に処分事業の実施体制を示す。また、図4にビュール地下研究所の地層の外観、図5に処分場の概念図を示す。
2.英国
 英国のバックエンド政策は、1995年7月に発表された「放射性廃棄物管理政策の検討:最終結果」(Review of Radioactive Waste Management Policy:Final Conclusions)に規定されており、放射性廃棄物はその発生者(民間又は政府)に関係なく、国民の健康と環境に許容できないリスクを与えることがないように適切に管理するとの原則がうたわれている。この廃棄物管理政策は国際原子力機関(IAEA)の「各国が放射性廃棄物管理制度を構築するにあたっての基準」(Safety Standard,Establishing a National System for Radioactive Waste Management)に準拠したもので、政府や規制機関、廃棄物の発生者と所有者の間の責任を明確化している。
 原子力施設から発生する放射性廃棄物は管理上、低レベル、中レベル、高レベルの三つのカテゴリーに分類されている。低レベル廃棄物は、通常の廃棄物処分で許容されない放射性物質を含んでいるものの放射能量の上限を定めている。セラフィールド(Sellafield)再処理工場やその他の原子力施設で発生する低レベル固体廃棄物は、セラフィールドの南東約6kmに位置するドリッグ処分場(Drigg:BNFL(英国原子燃料会社))とスコットランド北東部ケースネス(Caithness)にあるドーンレイ処分場(Dounrey:UKAEA(英国原子力公社))において浅地中処分されている。
 中レベル廃棄物は、低レベル廃棄物に指定されたレベルを上回る放射能を含むもののうち、貯蔵・処分施設の設計にあたって熱除去を考慮する必要のない廃棄物をいう。中レベル廃棄物は、現在サイト保管が行われているが、今後、低レベル廃棄物とともに地層処分する計画である。これに関連して原子力産業放射性廃物管理会社(NIREX:Nuclear Industry Radioactive Waste Executive Limited)は1991年に低中レベル廃棄物の処分場としてセラフィールド地点を選定し、同地点の地下800mに処分施設を建設することとした。この建設に先行して、地下水の移動等に関してさらに詳細なデータを得るため、1992年10月に岩石特性調査施設(RCF:Rock Characterization Facility,通称「地下研究施設」)を建設することとし、1994年7月にカンブリア(Cumbria)郡議会に対して計画申請を行ったが拒絶された。このためNIREXは1995年2月に環境大臣に上訴し、1995年9月から1996年2月まで公聴会が開催され、この結果を受けて環境大臣は1997年3月に上訴を却下し、NIREXもこれを受け入れたため、現在計画は中止されている。上訴を却下した理由としては、設計が不適切、科学的な不確実性及び技術的に不十分、及びサイト選定プロセスが不適切であることがあげられた。
 再処理で生ずる高レベル廃液は、貯蔵管理の改善を目的として、1991年2月にセラフィールド再処理工場に完成したガラス固化施設WVP(Windscale Vitrification Plant)において、フランスの技術によるAVM(Atelier de Vitrification de Marcoule)法によって固化されている。ガラス固化体はステンレス鋼製のキャニスターに封入され、再処理工場の貯蔵施設に貯蔵されている。貯蔵施設は容量175リットルのキャニスターを8,000本収納でき、再処理工場から出る液体廃棄物30年分の固化体の貯蔵に対応できる容量を有している。ガラス固化体は少なくとも50年間貯蔵し、その後地層処分することとされている。
 2006年10月に、原子力廃止措置機関(NDA)が低レベル廃棄物と高レベル廃棄物の処分の実施主体として決定された。その後、2007年4月に政府はNIREX社をNDAに統合し、その中に放射性廃棄物管理局(RWMD)を設置した。放射性廃棄物の安全規制については、保健安全執行部(HSE)が実施している。HSEは安全規制の枠組みの策定や規制の実施のほか原子力施設に関する許認可業務も行っている。図6に実施体制図を示す。
 高レベル廃棄物の処分に関しては、政府は2008年6月に、高レベル廃棄物等の中間貯蔵や研究開発などを含めた長期管理計画に関する白書を公表した。
 白書では、地層処分場の設計、実施に向けた技術的なプログラム、サイト選定プロセス及び適用基準について示している。地層処分サイトの選定に関しては公募方式による選定プロセスが実施されており、その第1段階として、カンブリア州、コープランド市及びアラデール市の3地域が関心表明を行っており、現在第2段階目にあたる「不適格地域を判断するための初期選別」の準備が行われている。サイト選定のプロセスを図7に示す。
(前回更新:2002年10月)
<図/表>
図1 ラマンシュ貯蔵センターのモノリス及びチュムリ処分施設
図1  ラマンシュ貯蔵センターのモノリス及びチュムリ処分施設
図2 フランスの原子力施設(発電所は除く)と地下研究所候補地
図2  フランスの原子力施設(発電所は除く)と地下研究所候補地
図3 フランスにおける処分事業の実施体制
図3  フランスにおける処分事業の実施体制
図4 ビュール地下研究所の地層の概観
図4  ビュール地下研究所の地層の概観
図5 フランスにおける処分場の概念図
図5  フランスにおける処分場の概念図
図6 英国における処分事業の実施体制
図6  英国における処分事業の実施体制
図7 英国のサイト選定プロセスの段階
図7  英国のサイト選定プロセスの段階

<関連タイトル>
TRU(超ウラン元素)含有廃棄物の発生源と安全対策 (05-01-01-09)
外国における高レベル放射性廃棄物の処分(2)−ベルギー、スイス、カナダ編− (05-01-03-08)
外国における高レベル放射性廃棄物の処分(4)−独、スウェーデン、フィンランド編− (05-01-03-17)
再処理プロセスにおける放射性廃棄物の発生源 (11-02-04-02)
イギリスの核燃料サイクル (14-05-01-05)
フランスの核燃料サイクル (14-05-02-05)

<参考文献>
(1)(社)日本原子力産業会議:放射性廃棄物管理ガイドブック 1994年版(1994年7月)
(2)(社)日本原子力産業会議:原子力年鑑 平成10年版(1998年12月)
(3)原子力委員会(編):原子力白書 平成10年版、大蔵省印刷局(1998年8月)
(4)(社)海外電力調査会:海外諸国の電気事業 第1編 1998年(1998年5月)
(5)IAEA,”Bulletin Update on Waste Management Policies and Programmes”,No.13(1998年12月)
(6)(財)原子力環境整備センター:英国における岩盤特性調査施設について、原環センタートピックス No.42(1997年9月)
(7)動燃事業団:FACT II,PNC TN1450 95-008,1995.
(8)動燃事業団 環境技術開発推進本部:FACT III,PNC TN1450 96-006,p.30(1996年12月)
(9)Ingvar Rhen, et.al., ”ASPO HRL − Geoscientific evaluation 1997/5 Models based on site characterization 1986-1995”, SKB Technical Report 97-06.(1997)
(10)(財)原子力環境整備センター:放射性廃棄物データブック(1998年11月)
(11)OECD/NEA:OECD/NEA加盟国の放射性廃棄物管理計画、(社)日本原子力産業会議(1999年1月)
(12)英国原子力公社(UKAEA):
(13)原子力産業放射性廃棄物管理会社(NIREX):
(14)英国貿易・産業省:White Paper on Legacy Management(2002年7月)
(15)経済産業省資源エネルギー庁:諸外国における高レベル放射性廃棄物の処分について(2010年2月)
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