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<概要>
 わが国の低レベル放射性廃棄物の処分方策は、1976年の原子力委員会決定により、海洋処分と陸地処分を併用する方針が最初に示されたが、その後、海洋処分は選択肢としないと決定された。他方、陸地処分は、1986年の原子炉等規制法改正で「廃棄の事業」として位置付けられ、1992年以降旧日本原燃産業(株)(現日本原燃(株))が操業する青森県六ヶ所村の六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センターで、原子力発電所で発生した低レベル放射性廃棄物のコンクリートピット施設に埋設する処分が行われている。また、JPDR(Japan Power Demonstration Reactor:動力試験炉)の解体で発生した極低レベルコンクリート等廃棄物の埋設用トレンチへの埋設実地試験が1995年度に旧日本原子力研究所東海研究所(現日本原子力研究開発機構原子力科学研究所)で実施された。2000年から2007年にかけ、高レベル放射性廃棄物及びすべての種類の低レベル廃棄物の処分の基本的考え方が原子力委員会で検討・結論された。
 2007年6月の原子炉等規制法改正で高レベル放射性廃棄物等の地層処分を「第一種廃棄物埋設」、また、低レベル放射性廃棄物の余裕深度処分及び浅地中処分を「第二種廃棄物埋設」と区分された。

(注)東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故を契機に原子力安全規制の体制が抜本的に改革され、原子力安全委員会原子力安全・保安院とともに2012年9月18日に廃止、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足し、原子力利用の安全確保に係る規制全般について見直しが行われる。)。なお、福島第一原発事故の発生により、環境に放出された放射性物質(事故由来放射性物質)によって汚染された物質については、放射性物質汚染対処特措法 (2011年8月30日 法律第110号)が制定され、本データに述べる放射性廃棄物とは区別して取り扱われている。
<更新年月>
2009年01月   

<本文>
 わが国の放射性廃棄物の処分に係る原子力安全委員会等の検討、原子炉等規制法の改定及び浅地中処分(ピット及びトレンチ埋設)の実施の経緯を表1に示す。また、我が国で採用している放射性廃棄物の種類と処分方法を表2に、国による放射性廃棄物の処分に係る検討状況を表3に、各種の放射性廃棄物と処分方法を図1に示す。
 これらの低レベル放射性廃棄物の処分方策、実施に至った主な経緯等を、以下に示す。
1.海洋処分中止に至る経緯
 放射性廃棄物の海洋投棄ロンドン条約において、原則禁止に至る1954年から1996年の経緯を表4に示す。
 低レベル放射性廃棄物の処分方策について、1976年原子力委員会決定に基づいて、海洋処分と陸地処分とが併用されていた。その後、1993年11月の第16回ロンドン条約締約国協議会において、低レベル放射性廃棄物を含むすべての放射性廃棄物の海洋投棄を原則禁止する条約改訂案が賛成多数で採択された。わが国においても、1993年11月原子力委員会により、「わが国としては、今後、低レベル放射性廃棄物処分の方針として、海洋投棄は選択肢としないものとする。」との方針が決定された(ATOMICA 我が国の海洋投棄中止にいたる経緯(05-01-03-11)参照)。
2.陸地処分に係る経緯
(1)放射性廃棄物埋設施設安全審査の基本的考え方
 原子力安全委員会は六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センターの埋設許可申請に関する安全審査を念頭に「放射性廃棄物埋設施設の安全審査の基本的考え方について」を決定した(昭和63年3月17日決定、平成5年1月及び平成13年3月に一部改訂)。この考え方では、埋設処分された廃棄体中の放射性物質は時間の経過とともに減衰し、これに応じて管理も段階的に軽減できるとする「段階管理の考え方」(図2図3参照)が採用されている。。(注:原子力安全委員会は原子力安全・保安院とともに2012年9月18日に廃止され、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。)
(2)「廃棄の事業の規制」の制定
 1986年の原子炉等規制法改正において創設された放射性廃棄物の「廃棄の事業の規制」が制定された。これに関連して、青森県六ヶ所村の六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センターの廃棄物埋設事業許可申請を行うことができる廃棄物の種類と濃度上限値、埋設施設の仕様や廃棄体の製作に関する技術基準などの諸基準も定められた。
(3)六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センターの建設・操業(ATOMICA 六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センターの現状(05-01-03-21)参照)
 1988年に、旧日本原燃産業(株)(現日本原燃(株))から、原子力発電所で発生する低レベル放射性廃棄物の廃棄物埋設事業許可申請が提出され、その後の安全審査を経て、1990年着工、1992年12月操業開始にいたっている(1号埋設施設;200リットルドラム缶に固型化した均質・均一固型化廃棄体を対象)。1997年1月には、原子力発電施設から発生する雑多な種類の固体廃棄物を200リットルドラム缶に充填固型化した廃棄体を処分する2号埋設施設建設のための廃棄物埋設事業変更許可申請が提出され、安全審査を経て1998年10月に着工、2000年10月から廃棄体を受け入れている。なお、1号埋設と2号埋設はともに浅地中ピット処分方式である。
(4)極低レベルコンクリート等廃棄物の埋設実地試験
 原子炉施設の解体などから発生する極低レベルコンクリート等廃棄物(一体化した鉄筋類を含む。以下同)については、廃棄体の固型化処理やコンクリートピットなどの人工バリアを必要としないトレンチ処分方式の浅地埋設を採用することができる。このタイプの浅地埋設は、すでに旧日本原子力研究所東海研究所(現日本原子力研究開発機構原子力科学研究所)の動力試験炉JPDR(Japan Power Demonstration Reactor)の解体によって発生した極低レベルコンクリート等廃棄物の埋設実地試験の処分方式として採用されている。同実地試験の実施に際して、旧日本原子力研究所は1993年10月に埋設事業許可申請を提出、1995年6月に許可を取得、埋設作業は、1995年11月に開始され1996年5月に完了した。「段階管理の考え方」から図4のように短期間で規制が解除でき、同実地試験では、約30年である。
(5)余裕深度処分の調査検討
 原子力発電所から発生する炉心等の放射能レベルの比較的高い廃棄物を、一般的な地下利用に対して十分余裕を持った深度(約100m)に処分する方策が検討されている。六ヶ所サイトでは、次期埋設施設(余裕深度処分施設)計画に関し、2002年から2006年にかけ、調査用のトンネルを約100mの深さに掘削し、地質・地盤・地下水の調査・試験を実施している。現在も各種の追加試験を実施している。この余裕深度処分施設が操業すれば、原子力発電所等で発生する低レベル放射性廃棄物のすべての処分が可能になると考えられている。
3.原子炉等規制法等の「廃棄の事業の規制」に関する改正
 2007年12月の原子炉等規制法改正で高レベル放射性廃棄物等の地層処分は「第一種廃棄物埋設」に、また、低レベル放射性廃棄物の余裕深度処分及び浅地中処分は「第二種廃棄物埋設」に区分された。第二種廃棄物埋設は、放射能レベルに応じて余裕深度処分、浅地中処分(ピット及びトレンチ埋設)に区分され、これらの埋設処分に係る濃度上限値は、原子力安全委員会の推奨値に基づき、政令及び埋設規則により定められた(ATOMICA 解体廃棄物の放射能レベル区分(05-02-01-04)参照のこと)。
4.「RI・研究所等廃棄物(研究施設等廃棄物)」の埋設処分に係る検討の経緯
 原子力機構等の研究機関、大学、民間企業、医療機関等から多様な低レベル放射性廃棄物(「研究施設等廃棄物」)が発生している。これらの廃棄物の埋設処分方策については、表1に示すように、特に1998年以降、原子力委員会等で基本的な考え方が検討されてきた。この埋設処分について、平成20年6月6日に原子力機構法の一部が改正され、原子力機構が埋設処分の実施主体に指定された。さらに文部科学省は、同法第十八条第1項に基づき、国として定める「埋設処分業務に関する基本方針」(平成20年12月25日)を決定した。原子力機構は、この基本方針に即して、「埋設処分業務の実施に関する計画」を作成し、主務大臣の認可を受けることとしている。具体的には、第1期埋設開始を平成30年目標とする実施計画の検討を進めている。
5.TRU廃棄物、ウラン廃棄物等の低レベル放射性廃棄物の処分
 TRU廃棄物やウラン廃棄物等の低レベル放射性廃棄物の処分については、現在、整備・検討中である。
(前回更新:2004年9月)
<図/表>
表1 放射性廃棄物の処分に係る原子力安全委員会等の検討、原子炉等規制法の改定及び浅地中処分(ピット及びトレンチ埋設)の実施の経緯
表1  放射性廃棄物の処分に係る原子力安全委員会等の検討、原子炉等規制法の改定及び浅地中処分(ピット及びトレンチ埋設)の実施の経緯
表2 放射性廃棄物の種類と処分方法
表2  放射性廃棄物の種類と処分方法
表3 放射性廃棄物処分に係る安全規制の検討状況
表3  放射性廃棄物処分に係る安全規制の検討状況
表4 ロンドン条約の経緯
表4  ロンドン条約の経緯
図1 各種低レベル放射性廃棄物と処分方法の例示
図1  各種低レベル放射性廃棄物と処分方法の例示
図2 低レベル放射性廃棄物の段階管理の考え方
図2  低レベル放射性廃棄物の段階管理の考え方
図3 段階管理の管理期間の例(日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構))
図3  段階管理の管理期間の例(日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構))
図4 段階管理の管理機関の例(日本原燃(株)六ヶ所埋設センター)
図4  段階管理の管理機関の例(日本原燃(株)六ヶ所埋設センター)

<関連タイトル>
日本における放射性廃棄物の発生の現状と将来の見通し (05-01-01-05)
わが国における放射性廃棄物処理処分の規制と責任 (05-01-01-06)
低レベル放射性廃棄物の処分 (05-01-03-02)
わが国の海洋投棄中止にいたる経緯 (05-01-03-11)
六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センターの現状 (05-01-03-21)
解体廃棄物の放射能レベル区分 (05-02-01-04)
低レベル放射性廃棄物の再利用技術 (05-02-02-08)
廃棄物投棄に係わる海洋汚染防止条約(ロンドン条約) (13-04-01-03)

<参考文献>
(1)内閣府原子力安全委員会事務局:改訂12版 原子力安全委員会指針集、大成出版社(2008年3月)
(2)原子力安全・保安院:放射性廃棄物処分に係る安全規制の検討状況
(3)(財)原子力環境整備促進・資金管理センター:放射性廃棄物の処分について、http://www.rwmc.or.jp/disposal/radioactive-waste/
(4)原子力規制関係法令研究会:2008年原子力規制関係法令集、大成出版社(2008年9月)
(5)阿部昌義、大越実、吉森道郎:極低レベルコンクリート廃棄物の埋設実地試験、デコミッショニング技報、第15号、p.50-58(1996)
(6)日本原燃ホームページ:低レベル放射性廃棄物の次期埋設施設本格調査の概要について、http://www.jnfl.co.jp/cycle-maisetsu/research/index.html
(7)原子力安全委員会:参考資料1「放射性廃棄物埋設施設の安全審査の基本的考え方」、原子力安全委員会決定(昭和63年3月17日)
(8)文部科学省研究開発局原子力計画課放射性廃棄物企画室:「RI・研究所等廃棄物(浅地中処分相当)処分の実現に向けた取り組みについて」 概要(平成18年10月3日)、http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2006/siryo40/siryo31.pdf
(9)文部科学省:「埋設処分業務に関する基本方針」について(平成20年12月25日)
(10)原子力安全・保安院:廃棄物埋設事業に関する安全規制の手続き
(11)原子力安全・保安院:放廃第18-2号資料「第二種廃棄物埋設に係る安全規制の検討状況」(平成19年12月20日)
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