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<概要>
 わが国では、使用済燃料再処理に伴って発生する高レベル放射性廃棄物は安定な形態にガラス固化した後、30年間から50年間程度冷却のための貯蔵を行い、その後、地下の深い地層中に処分(地層処分)することとしている。ガラス固化体中に含まれる放射能は時間の経過とともに減衰し、1,000年後には数千分の1に低下する。その後は、半減期の長い核種による放射能が残存するが、数万年後には、核燃料1MTUから発生するガラス固化体の放射能が、燃料の製造に必要なウラン鉱石(約750t)の放射能と同じレベルに戻る。ガラス固化体は、頑強な鋼鉄製等のオーバーパックに納められ、その周りには低透水性の緩衝材(人工バリア)を設け、数百メートル以深の安定な地層(天然バリア)中に定置され、厳重な監視を経て最終的に埋め戻され(処分の状態)、長期にわたる放射性物質の移行が抑止される。
<更新年月>
2003年01月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.高レベル放射性廃棄物の放射能と発熱量の減衰
(1) 原子炉から取り出された使用済燃料から「再処理」によって「ウラン」や「プルトニウム」を回収した後には、「高レベル放射性廃液」が残る。この再処理廃液は、セシウム137、ストロンチウム90で代表される「核分裂生成物」のほとんどすべて(99%以上)と、長寿命の「超ウラン(TRU)元素」の若干量を含んでおり、しかも相当の期間発熱し続けるが、その発生量はわずかである。
 よく知られているように、「放射能」と「発熱量」は時間とともに減少してゆく。その傾向を「軽水炉」の使用済燃料に例をとって 図1 および 図2 に示す。「核分裂生成物」の放射能は数百年から 1千年までに大きく減衰し、一方「長寿命元素」のそれは絶対値は小さいものの1万年以後も継続する。
(2) しかし、数万年後には、核燃料1MTUから発生するガラス固化体の放射能は、燃料の製造に必要なウラン鉱石(約750t)の放射能と同じレベルに戻る。その放射能の推移を 図3 に示す。
2.深地層への処分の意味
(1)「現在と将来の人間の健康に影響が出ないように、また長期にわたって自然環境が保護されるように」ということが、高レベル廃棄物の「処分」に対する決定的条件である。 原子力発電の恩恵を亨受している人が、未来の人たちに少くとも管理の負担を残すことは絶対に避けなければならないことは明白である。そのためには、廃棄物の厳格な管理と高い隔離性が要求される。
(2)「深地層処分」が選択される理由であるが、一般的に地下深部は、(a)地表またはその近くで生じる洪水や地滑りなどから隔絶している、(b)地層の構造が長期にわたって安定している、(c)地震の影響は大きくない、(d)人間が侵入することは極めて困難である、(e)仮に埋設物から放射性物質が漏れ出しても、人間の生活圏に達するまでに著しく長い時間がかかる−といった、多くの利点をもっている。さらにこの処分法によると、わが国が排出した高レベル廃棄物は他国の協力に依存することなく、わが国の国土内で処置できるということも重視すべきである。
(3) 地層の長期安定性については、例えば、数回にわたって地球を襲ったウュルム氷河期の各間隙はほぼ1万年であり、しかもその全体の期間を通じて、地表面を除き地層それ自体に深刻な変動が現れてきたという事実はない。そして、最後の氷河期の状態がほぼそのまま現代まで引きつがれてきているのである(このことは、化石の地層分布などによっても明らかにされている)。
3.多重バリアシステムによる放射性物質の移行阻止
(1)「人工バリア」は、化学的に安定な「ガラス固化体」、長期にわたって放射性物質を物理的に閉じ込める機能を有する「オーバーパック」、並びにその周囲に充填される低透水性の「緩衝材」により構成される。
(2) 「ガラス」は、多くの種類の元素を均一に溶かし込む性質をもっている(核分裂生成物は多くの放射性元素の集合物)。そして溶け込んだ元素は、ガラス固化体の内部で周りの原子と化学的に結合し、「ガラス構造体」を造り出す要素となっている。そのため、一旦強固に閉じ込められた元素は簡単に外に飛び出せない。ガラスのもつ「閉込め能力」は、長期にわたって安定であることが確認されている。つまり、熱や放射線の影響を受けにくいことが知られている。また「ガラス」そのものも安定な物質である。このことは、1万年より昔の天然ガラスや、数千年前のガラス工芸品が、いまもって健全な姿を保っていることからも容易に推察できる。多くの国の「ガラス固化体浸出実験」によれば、ガラス固化体の寿命(閉込めの性能)はおおむね15万年程度まで保証されるという。
(3) ガラス固化体が裸のままの状態で地層内に埋設されるわけではなく、「オーバーパック」という鋼鉄製等の容器に封入される。この「オーバーパック」の役目は、地層中の地下水の浸入を阻止することにある。
 オーバーパックは、「核分裂生成物」が高レベル廃棄物の放射能を実質的に支配している期間(おおむね1千年)、健全であることが目標である。時間短縮のための加速試験によって、その可能性がすでに確かめられている。
(4) ガラス固化体を収納したオーバーパックは地下数百メートルより深い所に造られた地下坑道内に定置される。オーバーパックと周りの岩壁との間には”ベントナイト”といわれる一種の粘土が充填される。
 「ベントナイト」はモンモリロナイトを主成分とする粘土の一種で、水を吸収すると膨潤する性質と、いろいろな元素をよく吸着する性質を有している。たとえ岩璧から地下水が浸み出てきても、ベントナイトが膨潤するので、それ以後の水の透過が阻止される(難透水性)。一方、オーバーパックが長年の間に腐食し、ガラス固化体から放射性物質が浸出してきたとしても、ベントナイトによって吸着され、それ以後の移行が抑止される。
 このように「ベントナイト」を間隙の充填材として使用すると、水の透過と放射性物質の移行が抑えられ、”時間かせぎ”ができるので、「緩衝材」と呼ばれる。
(5) ガラス固化体の初期の放射能が高い千年程度の期間に耐える「人工バリア」を築くことは、それほど困難なことではない。この程度の期間は歴史の範囲内であり、現実に奈良時代や平安時代の建築物や物品が健全のまま多数残存していることからも裏づけられている。また、「人工バリア」の一つであるガラス固化体の外側の「オーバーパック」に、1千年以上の寿命を期待しても大丈夫である(数万年後の開栓を期待して地中に埋めるタイムカプセルなどはよい例である)。
(6) 一般的に地下深部は、地下水の流れが緩慢であり、その水質は還元性であるため、放射性物質は溶解しにくく、また、溶解した放射性物質は岩石鉱物に吸着し、その移行を防ぐ性能を有している。つまり、人工バリアの機能と天然バリアの機能が相まって、放射性物質を長期にわたって閉じ込める。従って、「深地層処分」により、たとえ放射性物質が漏出しても、地表面に到達するまでの時間を著しく遅延させ、その間に放射能が弱まり、人間の生活環境に影響が現れることはない。図4は「天然バリア」と「人工バリア」の関係を示す。
<図/表>
図1 国内再処理ガラス固化体の放射能の経時変化
図1  国内再処理ガラス固化体の放射能の経時変化
図2 国内再処理ガラス固化体の発熱量の経時変化
図2  国内再処理ガラス固化体の発熱量の経時変化
図3 ガラス固化体の放射能の推移
図3  ガラス固化体の放射能の推移
図4 「天然バリア」と「人工バリア」の関係
図4  「天然バリア」と「人工バリア」の関係

<関連タイトル>
放射性廃棄物の処理処分についての総括的シナリオ (05-01-01-02)
再処理プロセスにおける放射性廃棄物の発生源 (11-02-04-02)
高レベル放射性廃棄物の処理対策の概要 (11-02-04-03)
再処理プロセス廃棄物の安全技術の概要 (11-02-04-04)
放射性廃棄物の発生源・発生量と安全対策の概要 (11-02-05-01)
TRU(超ウラン元素)含有廃棄物の処分方針と基準 (11-03-04-03)

<参考文献>
(1) 核燃料サイクル開発機構:わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性、JNC TN1400-024(1999年11月)
(2) 核燃料サイクル開発機構:わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性、─地層処分研究開発第2次取りまとめ─報告書(1999年11月26日)
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