<大項目> 核燃料リサイクル施設
<中項目> 核燃料サイクル施設の事故・故障
<小項目> わが国における事故・故障・トラブル
<タイトル>
東海再処理工場における火災爆発事故 (04-10-02-01)

<概要>
 東海再処理工場のアスファルト固化施設で、1997年3月11日に、火災・爆発事故が発生した。この事故では午前10時頃起きた火災の後、同日夜8時頃に爆発が発生した。事故による負傷者はなかったが、作業員が若干の内部被ばくをし、環境へも若干の放射性物質が放出された。事故の原因は、固化体内部で微弱な発熱を伴う遅い化学反応が進行し、固化体の温度が上昇し、反応が急速に進み火災に至ったこと、その消火が不十分であったため固化体内部での反応が継続し、発生した可燃性物質が、爆発したものと想定されている。この事故の国際評価尺度(INES)はレベル3と評価された。
<更新年月>
2000年02月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.アスファルト固化処理施設の概要
 東海再処理工場のアスファルト固化処理施設は、地上4階地下2階の鉄筋コンクリート建物で、再処理の分離精製工程等から発生した低レベル放射性廃液を処理し、アスファルト固化体として減溶固化する施設である。図1に東海再処理工場建屋配置図を、図2にアスファルト固化処理施設を、図3にアスファルト固化処理工程の概要を、図4にエクストルーダの概略を示す。
 アスファルト固化処理施設に受け入れられた再処理の各施設の分離精製工程等から発生した低レベル放射性廃液は、水素イオン濃度の調整等必要な給液調整を行ったのち蒸発凝縮される。それらの濃縮廃液に原料アスファルトが充填され、エクストルーダ(混練機)に送られ、蒸気で加熱しながら混合脱水される。エクストルーダで脱水混合されたアスファルト混合体は、ターンテーブル上の空ドラム缶に収納され放冷され、アスファルト固化体として安定な形態に減溶固化される。事故はこのアスファルト充填工程(アスファルト充填室)で起きた。
2.事故の概要
 1997年(平成9年)3月11日10時06分頃、核燃料サイクル開発機構((現日本原子力研究開発機構)当時、動力炉・核燃料開発事業団)の東海再処理工場のアスファルト固化処理施設において、充填済みドラム缶数本に火災が発生した。図5に火災発生場所を示す。
 この火災により、固化体内の放射性物質が当該建家および隣接する建家内に拡散し、一部の排気筒モニタおよび室内ダストモニタの指示値の上昇や警報の発報が確認され、作業員の退避が行われた。この時点では、建家周辺の環境モニタリングの結果に通常と異なる変動は見られなかった。火災の発生後、当該施設のセル換気系のフィルタが目詰まりし、最終的には建家換気系およびセル換気系が全停止した。
 火災の発生から約10時間後の20時頃、アスファルト固化処理施設において爆発が発生し、建家の窓、扉等が破損し、環境中に放射性物質が放出された。
 敷地内のモニタリングポストの一地点において、同日20時40分頃から空間放射線量率がわずかながら上昇したが、同日21時以降は通常の変動の範囲内に戻った。アスファルト充填室と周辺の部屋との境にある扉等が吹き飛ばされ、建家内の設備類、窓、扉等が破損した。また、換気系ダクトとフィルタの一部が損傷を受けた。事故発生時に当該建家等にいた作業員129名のうち、37名の体内から微量の放射性物質が検出された。
 事故後、モニタリングポスト等の連続監視、モニタリング車による敷地内の空間放射線量率の測定並びに大気浮遊じん、ヨウ素および表土のサンプリングが実施された。
 事故に伴い環境へ放出された放射性物質による周辺公衆の被ばくおよび内部被ばくを受けた作業員の被ばくによる実効線量当量は、いずれも法令に定めるそれぞれの年間の線量当量限度を下回っていた。
 科学技術庁(現文部科学省)はこの事故に対する国際評価尺度(INES)はレベル3(重大な異常事象)に当たると評価し、国際原子力機関(IAEA)に報告した。
3.事故の原因
(A)火災の原因
 火災は、アスファルト混合物の加熱昇温によって生じたが、その原因についてはつぎの2点の可能性が高いと考えられる。
(1)脱水・混合器(エクストルーダ)内での物理的な発熱
(2)ハイドロパーオキサイド(ROOH)やパーオキサイド(ROOR)を経由した、空気中の酸素を取り込んだ酸化反応等による化学的な発熱
過去の経験では、エクストルーダに高トルクがかかっている時には充填温度が高くなる。今回も高トルクが観察されていることから、エクストルーダ内でアスファルト混合物の混練時の摩擦による物理的な発熱によって温度上昇があったと考えられる。また、充填後長時間経過しての発火であることから、ドラム缶内に化学的な発熱反応が生じ温度上昇があったと考えられる。複数の化学反応が考えられるが、赤外線吸光分析による調査結果から空気中の酸素による酸化反応の可能性が高い。
 これら物理的および化学的発熱によってエクストルーダおよびドラム缶内でアスファルト混合物が加熱され、蓄熱性の高い固化体の温度が徐々に上昇し、硝酸塩/亜硝酸塩とアスファルトとの酸化還元反応による発熱反応が活発に進行する熱暴走反応を引き起こした。発熱反応と蓄熱は、その初期にはドラム缶中心部で局所的に進み、温度上昇と熱分解生成物を発生させたが、ついには空気とアスファルト分解生成物等との燃焼反応に至り火災を発生させたと考えられる。
(B)爆発の原因
爆発はガス爆発であり、つぎの段階を経て起こったと考えられる。
(1)最初の火災発生後に消火操作が行われ、一部のドラム缶では消火したが、他のドラム缶は燃焼し続けた。消火操作後の初期においては雰囲気酸素が十分存在していたため、発生した可燃性物質は完全燃焼に近い状態であったが、セル換気系の運転停止後は、徐々に雰囲気酸素が不足して不完全燃焼状態となり、ドラム缶内から発生した可燃性物質は、充填室から扉類等の隙間等を通して隣接の各室等へ移行し、一部の可燃性物質は充填室、セル換気系ダクト内および2階の各部屋に滞留した。
(2)コンベア上の8本のドラム缶内のアスファルト固化体から発生した可燃性物質量は、充填室内の可燃性物質濃度を爆発上限界以上とするので、この時点では爆発は発生しなかった。
(3)しかし、セル換気系が停止した後も、槽類換気系は運転を継続していたため、槽類換気系からの空気と充填室内の可燃性物質が対流により攪拌され、可燃性物質は空気と混合し薄められ、時間経過とともに可燃性物質濃度が下がり、部分的には爆発限界内となった。
(4)17時頃のセル換気系および建家換気系の再起動に伴い、建家内の圧力バランスが変動し、充填室、脱水混合器室等で爆発限界内となり、ターンテーブル上のドラム缶の自己発火若しくはダクト内での電気系統による発火のいずれかの原因で爆発に至った。
4.放射性物質の環境への放出量の評価
 事故による放射性物質の環境への放出量は、排気筒等の排気ダストモニタの放射能測定データ、施設の周辺、つくば、大洗等で採取した大気浮遊じんの放射能測定データ等による推定、ドラム缶の燃焼状況を考慮した間接推定等を総合的に評価し、137Csの放出量は、1〜4GBqとした。
 事故に伴い環境に放出された放射性物質の吸入摂取による公衆の実効線量当量の推定結果は、約0.02mSv以下であり、法令に定める年間の実効線量当量限度を下回っている。事故による作業員の実効線量当量は、個人モニタリングデータ、鼻スミヤ試料、作業環境の空気中放射性物質濃度データ、全身カウンタによる137Cs摂取量推定値、個人線量計による外部被ばく線量等に基づき評価した結果、最大の者で0.4〜1.6mSvの範囲と評価され、法令に定める放射線業務従事者の年間の実効線量当量限度を下回っている。
5.今後の課題
 これまでの調査により、火災爆発事故の基本的な原因および事故進展の基本構成はほぼ把握できたと考えるが、遅い化学反応の機構や高めであったとされるアスファルト塩混合物温度の異常の程度、爆発の着火源や爆発原因物質とその量等について、今後中長期的な観点から以下のような取組みが必要である。
 アスファルト塩混合物の燃焼量や燃焼物の性状を詳細に把握する必要がある。新たに採取する試料等を用いて、処理対象廃液沈澱物中の微量成分の分析、固化体や沈澱物の熱分析による発熱反応特性の把握、塩粒子径等の計測等を実施して、反応に関与したと考えられる物質について、存在状態を含む詳細な調査を多数の試料について繰り返し行い、信頼性の高いデータを得る必要がある。沈殿物の定量的評価、脱水・混合機(エクストルーダ)出口におけるアスファルト塩混合物の温度の評価と温度上昇の要因分析、硝酸塩/亜硝酸塩とアスファルトとの反応特性の把握、アスファルト固化体の燃焼特性および反応生成物の燃焼・爆発特性の把握、模型による火炎伝播の確認を行うとともに関連する要因の試験・解析を粘り強く進める必要がある。
6.おわりに
 原子力の安全とは通常、放射能に対する安全であるが、当該施設の安定した操業実績から、アスファルトを取り扱う施設として最も肝要な火災の安全性に対する感覚が鈍化し、結果的には、火災爆発事故により原子力施設の安全確保上最も重要な放射能の閉じ込め機能の喪失という事態を招いてしまった。
 当該施設は内蔵する放射能量が再処理工場の主工程の施設に比べれば桁違いに少ないことから、今回の事故の放出放射能による環境への影響は深刻なものとはなっていないが、原子力施設の放射能の閉じ込め機能の喪失という事態は重大なものとして受けとめなければならない。事故の原因は、直接的には火災を発生させた事由およびそれを爆発に発展させた事由にあることになるが、根元的にはこれらの事由の出現を可能にした運転管理体制にかかわる事由がより重大であり、さらにはかかる体制を存続させていた事業者の体質も問われなければならない。今回の事故は、極めて重要な多くの教訓と提言を与えるものであり、今後の原子力施設の安全性堅持のために活かされることが期待される。
<図/表>
図1 再処理施設建家配置図
図2 アスファルト固化処理施設
図3 アスファルト固化処理工程
図4 エクストルーダの概略
図5 火災発生場所

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
世界の再処理施設における火災・爆発事故 (04-10-03-03)

<参考文献>
(1)東海再処理施設アスファルト固化処理施設における火災爆発事故調査委員会:動力炉・核燃料開発事業団東海再処理施設アスファルト固化処理施設における火災爆発事故について(1997年12月15日)
(2)平成9年5月7日付け 科学技術庁原子力安全局発表資料:動力炉・核燃料開発事業団東海再処理施設アスファルト固化処理施設における火災爆発事故の原因調査状況について、原産マンスリー、No.19、p24-63(1997年5月26日)
(3)科学技術庁原子力安全局(編):動力炉・核燃料開発事業団東海再処理施設アスファルト固化処理施設における火災爆発事故に係る報告、原子力安全委員会月報、通巻第223号、20(4)、p147-157、p159-169(1997年8月29日)
(4)原子力広報誌「あす」臨時号、動燃東海アスファルト固化処理施設火災事故特集、茨城県・社団法人茨城原子力協議会(発行)、p2(1997)
(5)小山、柴田、佐野:アスファルト固化処理施設の火災爆発事故における火災原因の検討、動燃技報No.107、p43-53(1998.9)
(6)大森、鈴木、加藤他:アスファルト固化処理施設の火災爆発事故における爆発原因の検討、動燃技報 No.107、p55-64(1998.9)
(7)青島、伊坂、小坂他:アスファルト固化処理施設の火災爆発事故の修復作業、動燃技報 No.107、p77-93(1998.9)
(8)小山 智造、柴田 淳広、佐野 雄一ほか:アスファルト固化処理施設の火災爆発事故に関する検討、原子力誌、40(10)、p740-766(1998)
(9)須藤 俊幸ほか:アスファルト固化処理施設の火災爆発事故による放射性物質の放出量並びに公衆の被ばく線量の評価、動燃技報、No.107、p65-76(1998.9)
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