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<概要>
 プルトニウムは代表的なα放射体でその取扱いには閉じ込めに厳重な対策を必要とする。また、プルトニウムはβ、γ及び遮蔽の困難な中性子線も放出し、外部被ばく対策のためプルトニウム燃料製造施設では自動化が取り入れられている。さらにプルトニウムは臨界量が小さいので、臨界管理ウランよりも厳重に行われており、取扱質量や設備の形状が制限されている。また、プルトニウム取扱施設では、多重障壁として単にグローブボックスのみではなく、工程仕切り壁、施設建屋外壁が障壁として設計されている他、部屋ごとに負圧のレベルを変えるなど環境管理に万全の対策が施されている。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.内部被ばく対策
 プルトニウムは代表的なα放射体であり、放射されるα線は容易に遮蔽できるが、プルトニウムが人間の体内に入ると内部被ばくを起こすので厳重な管理が要求される。国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告ではプルトニウムの吸入による体内摂取許容限度は、6.1×102 Bq(1.6×10-2 μCi=16nCi = 0.22mg)に定められている。また、経口摂取した場合は、摂取量の3×10-5〜10-62 しか消化管では吸収されないとされており、3.5×106 Bq(95 μCi=1.3g)が許容限度となっている。空気中の239Puの濃度規制値はこれを考慮して 1×10-9 Bq/cm3と定められている。
 プルトニウムを体内に入れないためには、取扱いに当たって作業者がいる部屋の空気中にプルトニウムが絶対漏れ出さないように閉じ込めを行う必要がある。通常はこの為に、「グローブボックス」または「セル」内でのみ取扱い、それらの密封性が損なわれた場合も内部を負圧にしてプルトニウムが周りの作業室に出てこないようにしている。
 我が国のプルトニウム施設では、グローブボックスが置いてある作業室のプルトニウム汚染を可能な限り低くするために、「ゼロ汚染管理」と呼んでグローブボックス外で微量でも作業着や床等に放射能異常を発見すればその除染と共に徹底的に原因を追求して、同じ原因の汚染を起さないような対策を取っており、実質的にプルトニウムをグローブボックス内に閉じ込めている。このため、プルトニウムを取り扱うグローブボックスの置いてある管理区域の作業室でも、空気中の濃度は上記濃度規制よりも遥かに低く、10-12Bq/cm3以下のレベルに保たれている。
2.外部被ばく対策
 一方、一般に相当量入手可能なプルトニウムは、現在原子力発電の主流になっている軽水炉の使用済燃料を処理して得られる原子炉級のプルトニウムに限られるが、このプルトニウムは表1に示すように239Puが最も多いものの、240Pu、241Pu、242Pu 、等の高位同位体を多く含み、燃料の燃焼度の増大に伴い高位同位体が増えている。
 これらは、241Puのように娘核種241Amが強いγ線を出すものや、(α,n)反応による中性子、及び偶数の原子番号からの相当量の自発核分裂による中性子を放出するものがあるので、単にα線に対する対策のみならずγ線や中性子の外部被ばくに対する対策が必要になる。241Amの放出するγ線はエネルギーが低く、比較的薄い遮蔽で大幅に減少させることが出来るのに対し、中性子は分厚い減速材で遮蔽する必要があり、グローブボックスに遮蔽体を取りつけた状態でグローブ操作を行うのは困難である。
 従って、取扱機器の自動化と遠隔操作化が、特にプルトニウムを大量に取扱うプルトニウム燃料製造施設では必須のものとなってきており、保守点検以外の運転の全自動化を目指した我が国の動燃事業団東海事業所(現日本原子力研究開発機構核燃料サイクル工学研究所)のプルトニウム燃料第3開発室を始めとして、諸外国の施設も多かれ少なかれ自動化が取り入れられている。
3.臨界管理
 核燃料物質の取扱に当たっては、臨界状態が起きないように管理することが重要である。臨界反応が起きないためには臨界を起こすに必要な条件を絶対に下回る、すなわち、核物質を臨界質量や臨界形状、臨界濃度以下( 表2 参照)に常に置いておくように管理することが必要である。実際の管理は核燃料施設によって異なり、質量、あるいは形状、濃度等、あるいはそれらを組み合わせて管理している。
 プルトニウムの臨界質量はウランに比較して小さく、例えば、ウラン235の臨界質量は金属で22.8kgに対しプルトニウム239のそれは5.6kg である。また、水のような減速材があると臨界になりやすいが、表 2に示すように水溶液では、ウラン235の820gに対し、プルトニウム239は510gであり、プルトニウム取扱ではより厳重な臨界管理を実施する必要があることがわかる。普通、質量で管理する場合は表の最小臨界量に安全係数を掛けた制限量を設け、各グローブボックスごとにこの制限量以下で管理している。
 一方、核拡散防止のための保障措置の目的で高精度の自動天秤と計算機を利用した厳重な計量管理が行われている。
4.環境管理
 プルトニウム取扱施設では、上記のようなグローブボックスやセルの排気は通常極めて低い放射能レベルに管理されている。グローブボックスのある部屋の空気も、万一の空気汚染を考慮してそのまま排気することはせず、最も除去しにくい 0.3μm の粒子でも99.97%以上取り除く性能を持つ高性能フィルターを1〜3段付けて空気を濾過してスタックから排気している。これらの換排気システムはバックアップを含む非常用電源によって常に作動するように考慮されており、ガス状の放射性物質を扱わないプルトニウム燃料施設では、排気の放射能レベルは外気と比較しても極めて低い状態にある。
 このようにプルトニウムを閉じ込めて環境に出さないために、多重障壁として単にグローブボックスのみでなく(これを1次障壁と分類すると)、2次障壁として、工程室仕切り壁、3次障壁として施設建屋外壁がそれぞれ役割を果たすように設計され、さらに、万一作業室にプルトニウムが漏れ出した場合に周りの他の作業室、さらに事務室等の非管理区域に移行しないように部屋ごとに負圧のレベルを変えて、プルトニウム粉末を扱うような汚染の可能性がある部屋を最も大きく負圧にしている。
 地球の大気中のプルトニウム濃度は1960年代に盛んに行われた大気圏内核実験によって殆ど6トンに近い量のプルトニウムが放出されたため、最も核実験の盛んであった1963年には空気中の年間平均濃度が6.2×10-11Bq/cm3となったと言われ、上記の工程室の濃度よりも遥かに大きく、排気の239Puの空気中濃度規制値の 1×10-9Bq/cm3の6.2%に相当していた。実際に中国の核実験では、東海村の原子力施設の外側の放射線量が高い場合が見出された。
 この他、プルトニウム施設では、上記臨界防止を始め、火災、爆発等の事故の防止対策が施設設計及び施設管理で十分に講じられている。例えば火災に対しては、十分な耐火性の材料を用いるのは勿論であるが、万一グローブボックス内で火災が発生した場合は内部雰囲気の不活性ガスによる置換、消火材、消火器の配備等、プルトニウムの環境に対する閉じ込めを保証しながら、消火できるような万全の対策が講じられている。
<図/表>
表1 各種プルトニウムの同位体組成とその放射線量率
表1  各種プルトニウムの同位体組成とその放射線量率
表2 プルトニウム、ウラン核種の臨界量と制限値
表2  プルトニウム、ウラン核種の臨界量と制限値

<関連タイトル>
プルトニウム核種の生成 (04-09-01-01)
プルトニウム混合転換技術 (04-09-01-03)

<参考文献>
(1)武藤正:プルトニウム施設とその管理、原子力工業、21巻 2号(1975)
(2)武藤正ほか:グローブボックス工学講座[10]安全対策、原子力工業、19巻 3号(1973)
(3)M.Taube:Plutonium;A General Survey”, Nuclear Chemistry Series V.4 (1974)
(4)B.G.Bennett;Transfer of Plutonium from Environment to Man Pub.in Conf-76-0701 Proceeding of the International Symposium on the Management of Waste from the LWR Fuel Cycle”, Denver, Colo. USA (1976)
(5)J.T.Thomas(ed.):Nuclear Safety Guide” TID-7016 Rev.1, NUREG/CR-0095(1961)
(6)原子力安全研究協会(編):核燃料の臨界安全、実務テキストシリーズNo.2(1984)
(7)科学技術庁原子力安全局核燃料規制課(編):臨界安全ハンドブック、にっかん書房(1988)
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