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<概要>
 原子力長期計画(1994年改訂)では、高速炉増殖技術をベースにした、新たなリサイクルシステムの研究開発にも取り組む方針が打ち出され、原子炉とサイクルの整合性のとれた研究開発、すなわち先進湿式再処理技術や新しい再処理技術の開発に向けた取組みがが重要であるとされた。核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構)は電力事業者等との協力の下に、1999年7月に「FBRサイクルの実用化戦略調査研究」を開始した。ここでは、乾式再処理技術の研究開発に関連して、金属電解法、酸化物電解法、酸化物電解法関連の機器開発、および周辺技術開発について各々、開発試験の現状をまとめた。
<更新年月>
2005年01月   

<本文>
1.はじめに
 高速炉燃料は軽水炉燃料に比べ、(a)プルトニウム含有率が高い、(b)燃焼度が高い、(c)燃料集合体構造・材質が異なる等の特徴を有している。このため、我が国では、サイクル機構(旧動燃事業団(現日本原子力研究開発機構))が中心となり日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)、国内関連メーカー及び諸大学の協力のもと1970年頃からピューレックス法に基づく高速炉燃料再処理の技術開発を開始した。サイクル機構東海事業所には基礎プロセス化学・抽出フローシート研究のためのホットセルである高レベル放射性物質研究施設CPF(Chemical Processing Facility)(1982年〜)、また工学機器開発のためのコールド試験施設 EDF(Engineering Demonstration Facility)(1982年〜)がある。
 1994年に改訂された原子力長計において、高速炉増殖炉技術をベースにした新たなリサイクルシステムの研究開発(新型燃料・アクチニドリサイクル)にも取り組む方針が打ち出され、更に、「もんじゅ」事故を受けた原子力委員会高速増殖炉懇談会でも、炉とサイクルの整合性のとれた研究開発の重要性が謳われた。つまり、一層の経済性向上、環境負荷低減、核拡散抵抗性の強化を念頭に置いたシステムの構築が求められ、先進湿式再処理技術の開発や、従来技術を抜本的に見直した新しい再処理技術の開発に向けた取り組みの重要性が認識され、1999年7月から、サイクル機構は電気事業者等との協力による全国的体制での「FBRサイクルの実用化戦略調査研究」(通称:FS)を開始した。この研究では、幅広い技術選択肢の中から、安全性確保を大前提に、(a)経済性向上、(b)資源有効利用、(c)環境負荷低減、(d)核拡散抵抗性向上、を指標として評価し、FBRサイクルシステム全体の整合性に留意しながら、将来システムの実用化像の提示を目指して検討が進められている。
2.乾式再処理技術の開発
(1)金属電解法
 金属電解法乾式再処理技術は、金属の精錬技術を応用したもので、工程が単純で高い経済性が期待されると共に、核拡散抵抗性、環境負荷低減の観点から優れた可能性を有している。
 金属燃料を対象にした場合は、剪断片からボンドナトリウムを除去した後、電解精製工程へ移送する。酸化物燃料の場合は、脱被覆工程において剪断ピンから被覆管を除去した後、リチウム還元工程において塩化リチウム(LiCl)溶融塩中で金属リチウムにより、金属へ還元する。こうして得られたアクチニド元素を含む金属は、電解精製工程において、塩化リチウム−塩化カリウム(LiCl−KCl)溶融塩中で溶解し、固体陰極あるいは液体カドミウム陰極でアクチニド元素を核分裂生成物から分離して回収する。回収したアクチニド元素には、溶融塩や液体カドミウムといった溶媒が付着しているため、陰極処理工程において付着物を高温で蒸留分離する。陰極処理で得られたアクチニド金属はそのまま金属燃料のための再処理製品となる。酸化物燃料とする場合は、酸化処理を行い再処理製品とする。一方、電解精製工程等の使用済み溶融塩には多くの核分裂生成物が含まれるため、定期的に塩リサイクル処理(パイロコンタクタによる超ウラン元素回収及びゼオライトカラムによる核分裂生成物除去)を行い、溶融塩を再生する(図1)。
 金属電解法は、これまでに金属電解法乾式再処理技術の開発実績を有する(財)電力中央研究所とサイクル機構の共同でCPFにプルトニウムを使用することのできる金属電解法乾式再処理試験設備(グローブボックス内)を整備し、リチウム還元工程、電解精製工程、陰極処理工程及び酸化工程の主要な工程について研究が行われている(図2)。これまでに、設備の試運転を兼ねたコールド試験酸化ウラン、金属ウランを使用したウラン試験を終了し、プルトニウム試験に着手した段階である。
 ウラン試験では、プルトニウムを添加する前に、ウラン単独系での基礎データの取得を目的として、酸化ウランの還元から回収した金属ウランの酸化処理までの一連の試験を実施している。試験の概要と結果を以下に示す。
・還元試験(650℃)では、10gの粒径1mm以下に粉砕したUO2粉末は反応当量のリチウムを添加後約13時間でほぼ完全に金属に還元された。
・電解精製試験は、約500℃のLiCl−KCl−3wt%UCl3中で直径12〜15mmの鉄陰極に定電流を流して行ったが、試験の結果、デンドライト状のウランが回収された。また、陽極近傍塩を攪拌することにより、陽極溶解率は99%以上を達成できる(図3)。
・陰極処理試験は、固体陰極ウラン析出物中の塩化物を蒸発分離する蒸留試験(1400℃)の結果、析出物に付着する塩化物は析出物重量の約50%であり、装荷した析出物の約97%を塩化物あるいは金属として回収された。
・陰極処理工程で得られた電解析出物のデンドライト状ウランの酸化試験は、示差熱分析装置内でAr−20%O2ガス気流下で実施した。試験の結果、約257℃において酸化反応が始まったことが推察された。
(2)酸化物電解法
 酸化物電解法とは、溶融塩に溶解した使用済燃料からウラン及びプルトニウムを電解操作により酸化物として電極上に回収する手法である(図4)。工程の中心となるプルトニウムの回収手段としては、核不拡散の観点からウランと共に混合酸化物として陰極上に析出させるMOX共析法の適用を目指して開発を進めている。
 試験としては、ウラン及び模擬FPを用いた試験を応用試験棟溶融塩電解試験装置にて、溶融塩中でのプルトニウムの基礎物性及び電気化学的データ取得とウラン、 プルトニウム、模擬FPを用いたMOX共析試験を実施した。
a)プルトニウム基礎データ取得
 MOX共析工程において、プルトニウムを効率的に回収するために、NaCs−2CsCl塩中でのプルトニウムイオンの価数変化及び安定性に関する情報を把握するために、プルトニウム(III・IV価)の酸化還元電位データを取得し、酸素ポテンシャルを与えた系では、電気化学測定で観察されたプルトニウムの酸化ピークが減少する傾向が観察された。酸素ポテンシャルを与えることで溶融塩中のプルトニウムイオンが沈殿してゆくことが推測される。
b)MOX電解共析試験
 MOX共析工程における使用済燃料からプルトニウム富化度30%程度のMOX顆粒を得るためのこれまでの試験では、使用済燃料中のFP元素(ネオジウム、セリウム、サマリウム、プラセオジウム、ランタン)及び腐食生成物(CP:鉄、クロム)によるMOX共析への影響評価が行われた。高プルトニウム富化度の回収物を得ようとする場合に、同時にPuO2を主成分とする沈殿が発生する。沈殿を抑制する電解条件について、吹き込むガス中の塩素ガス分圧を高くすることで、沈殿を抑制し、PuO2沈殿が生成せず、かつ析出物中のプルトニウム富化度が30%以上となる電解条件が把握された(図5)。
 また、上記の試験結果を踏まえて、使用済燃料の再処理を模擬した一気通貫的プロセス試験では、ウラン、プルトニウム、アメリシウムと共に、模擬FP(ネオジウム、セリウム、ランタン、バリウム、モリブデン、ジルコニウム、パラジウム、ルテニウム、ロジウム)及び模擬CP(鉄、クロム)が用いられた。試験の結果、ウラン、プルトニウム、アメリシウムのマスバランスは95%以上であった。また、回収されたMOX析出物のプルトニウム富化度は30%近い結果が得られた。
(3)酸化物電解法の機器開発
a)形状管理式CCIM型溶融塩電解槽開発
 質量管理による臨界管理方式を想定する電解槽では多系列化が不可避となる他、溶融塩のサンプリングや分析作業によるプラント全体の処理能力の低下が懸念される。また、酸化物電解法では高温の溶融塩環境下においてプロセスガスとして塩素や酸素を使用するため、電解槽内は過酷な腐食条件となる。このため、現行装置では耐食性の観点から緻密化ジルコンを採用しているが、セラミック系材料であることから大型化する場合の製作性、耐震性、機械的強度の課題を抱えている。そこで、処理能力の向上、廃棄物発生量の低減等の観点から、ルツボを冷却することにより温度を低減するとともに、内面に形成される塩凝固層(スカル層)によって腐食性物質を遮断するコールドクルーシブル(CCIM:Cold Crucible Induction Melting)技術の適用により腐食環境を緩和するとともに、臨界管理を形状管理方式とすることにより核物質の計量時間の大幅な合理化を図った先進的溶融塩電解槽として形状管理式CCIM型溶融塩電解槽の開発を進められている(図6)。
 これまでにCCIM技術の電解槽への適用性の確認、ならびに基礎データ取得用として工学規模の円環型誘導加熱式電解槽を第2応用試験棟に設置、また、半球型CCIM装置を用いて黒鉛製補助加熱体による固体塩の加熱溶融の可能性を確認した。
b)塩蒸留装置開発
 酸化物電解法では電解工程で回収した陰極析出物を燃料製造工程へ供給するため、陰極析出物に同伴する塩を除去する陰極処理装置が必要となる。塩除去の方法としてはプロセス設計の合理化の観点から蒸留方式が有望とされている。しかし、酸化物電解法の溶融塩(NaCl−2CsCl)に関する工学的な蒸発特性データはないため、蒸発速度に関する基礎データを取得するため塩蒸発試験を実施している(金属電解法との共通技術)。
 各パラメータ試験の結果、塩単独系における蒸発速度は理論式から予想された傾向を示し、圧力に反比例、絶対温度の平方根に比例、蒸気圧に比例、蒸留時間に比例、蒸発面積に比例した。また、模擬析出物(HfO2)を混合させた条件での蒸発速度は塩単独系の条件の約1/5程度に低下した。
c)乾式機器用材料開発
酸化物電解法では650℃の溶融塩中で塩素や酸素を使用しながら使用済燃料の処理を行うため、厳しい腐食環境が形成される。このため、溶融塩電解槽に適用する坩堝材料の腐食低減が重要な開発課題であり、これまでにコールドクルーシブル技術の適用とセラミック材によるルツボ材料の高耐食化について技術開発を進めてきている。
これまでに、各種金属材料を対象に、材料温度をパラメータとした腐食試験を実施し、耐食性上有望な金属材料としてハステロイ材を選定した。そこで、溶融塩中に腐食性模擬FP塩を共存させた環境で、試験片の冷却によって塩凝固層を形成し、ハステロイ材の腐食試験を行った。試験の結果、腐食速度は0.1mm/y以下であり、優れた耐食性を示した。
一方、セラミック材によるルツボ材料の高耐食化については、これまでに酸化物電解法の腐食環境で良好な耐食性が期待されるセラミック材を熱力学計算および腐食試験結果から選定し、耐食性を有効に利用する方法としてコーティング膜の適用を検討してきている。
(4)周辺技術開発
a)溶融塩中核種分析技術開発
乾式再処理では、高温の溶融塩中でウラン、プルトニウム等の核物質を取扱うことから、塩中の核種を分析することが必要となる。このため、光学的な手法を用いた蛍光光度法によるウラン試験、溶融塩吸光度測定装置による元素分析試験(Nd3+、Pd2+)や、金属プルトニウムを分析するための溶解法としてマイクロ波溶解法といった分析技術開発を実施している。
<図/表>
図1 金属電解法乾式再処理プロセス
図1  金属電解法乾式再処理プロセス
図2 乾式試験用グローブボックス設備
図2  乾式試験用グローブボックス設備
図3 電解析出物(金属ウラン)
図3  電解析出物(金属ウラン)
図4 酸化物電解法基本工程
図4  酸化物電解法基本工程
図5 MOX析出物外観
図5  MOX析出物外観
図6 円環型誘導加熱式電解槽
図6  円環型誘導加熱式電解槽

<関連タイトル>
再処理の前処理工程 (04-07-02-02)
溶媒抽出工程 (04-07-02-03)
高速炉使用済燃料の特徴 (04-08-01-01)
高速炉使用済燃料の再処理 (04-08-01-02)

<参考文献>
(1)火力原子力発電技術協会(編):原子燃料サイクルと廃棄物処理、火力原子力発電技術協会(昭和61年)
(2)清瀬量平: 原子力化学工学 (第4分冊) 燃料再処理と放射性廃棄物の化核工学、日刊工業新聞社(1983)
(3)笹尾信之ほか:高速炉燃料再処理技術開発の現状、原子力工業、VoL.33, No.6,7?31(1987)
(4)日本原子力産業会議(編):原子力年鑑 平成6年版(平成6年11月)
(5)権田浩三、松田照夫:パルスカラム抽出計算コード「パルコ」PNCT−841−82−19 (1982)
(6)根本慎一ほか:高速炉照射済み燃料の溶解に関する研究、動燃技報、No.95 PNC TNI340−003,pp43−51(1995)
(7)M.OZAWA, et al.:Salt−Free Purex Process Development, Proc. Vol.2 of RECOD’91, pp729 −734 (1991)
(8)Y.UEDA, et al.: Development of a Reflux−type Centrifugal Contactor, Proc. of ISEC’93 Vol. 3, pp97−102 (1993)
(9)中村博文:リサイクル機器試験施設(RETF)計画について、動燃技法、No.100,199−206(1996.12)
(10)小山他:再処理システムに関する要素技術開発−先進湿式再処理技術−、サイクル機構技報、24号(2004.10)
(11)明珍他:乾式再処理技術開発における要素技術開発、サイクル機構技報、24号(2004.10)
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