<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 イギリスでは、当初、軍事用プルトニウムの生産を目的に再処理開発を始めたが、その後、民間原子力発電計画に基づき発生する使用済燃料の処理、再処理施設を持たない国に対しての再処理請負へと転換してきた。イギリスにおける最初の産業規模の使用済燃料の再処理施設として、1952年にウインズケール(後に「セラフィールド」と改称)にマグノックス炉の使用済燃料の再処理工場が運転を開始した(1960年代から運転し30,000トン以上の処理実績を持つ)。さらに同サイトに改良型ガス炉(AGR)およびドイツ、日本等海外からの受託軽水炉使用済燃料の処理を目的に酸化物燃料用の大型工場(THORP)を建設し、1992年2月に建設工事完了。1994年3月に試験操業を開始し、1997年8月に全運転許可証を得た。
 1971年以降、再処理研究開発は英国原子力公社(UKAEA)が、核燃料サイクル業務全般は英国原子燃料会社(BNFL)が行っている。2005年4月には軍事用を除く廃棄物の処理や施設の除染・デコミッショニング等の責務処理を行う原子力廃止措置機関(NDA)が設立。施設はNDAへ移管されたが、実際の運営は従来どおりBNFLとUKAEAが行っている。
<更新年月>
2007年12月   

<本文>
1.ウインズケール第1工場
 ウインズケール(現在は、「セラフィールド」と改称)のサイトは、イングランドの北西部カンブリア州のアイリッシュ海に面する海浜に位置する。
 イギリスの再処理技術の開発は、第二次大戦の終わり頃に始まった、フランス、カナダとの協力によるプルトニウム回収に端を発する。当時、既に溶媒抽出法の研究が進められ、イギリスは、溶媒にジブチルカルビトール(通称「ブテックス」)を使用するブテックス法(Butex)を開発した。ウインズケール第1工場(B204:処理能力 天然ウラン500トン/年)は、ウインズケール・プルトニウム生産炉(黒鉛ガス炉、GCR)の照射済燃料要素を処理するため、建設された(図1)。使用済燃料(長さ約300mm、直径25mmの棒状金属ウラン)のアルミ被覆は、ダイスを貫通させることにより取り除かれ、金属ウラン燃料部分は硝酸により連続的に溶解される。溶解液中のプルトニウムは、スルファミン酸第1鉄溶液により原子価3価に還元し、ウランと分離した。プルトニウムの精製には、リン酸トリブチル(TBP)回分式溶媒抽出法、キレート(ベンゼンを希釈剤としたテノイルトリフルオロアセトン(TTA)溶媒を使用)回分式溶媒抽出法が採用されたが、後にTBP連続式溶媒抽出法(ミキサーセトラー抽出器)となった。一方、ウラン精製には、ミキサーセトラによるブッテクス法が採用された。本工場は、1952年から運転を行ってきたが、安全性の観点から1964年に運転を停止した。
2.ウインズケール(セラフィールド)第2工場
 1955年、イギリスの原子力発電計画がマグノックス炉(コルダーホール型:ガス炉)を使用することで発足し、これに対応する再処理工場の新設が必要とされた。マグノックス燃料の被覆(マグネシウム合金)は、貯蔵プールの水中で短期間に腐食するので早期の再処理が求められた。このためウインズケール第2工場(B205:処理能力 天然ウラン1500トン/年)が建設され、1964年から稼働した。これまで幾多の改良、補強を加えて操業を続けており、累計約30,000トンの使用済燃料を処理している。本工場は、機械的脱被覆、改良型連続溶解、TBP−ケロシンを使用する3サイクルの溶媒抽出によるウラン、プルトニウム分離精製が主プロセスとして採用された。使用済燃料の脱被覆は、燃料棒の曲がりを考慮して単純なダイス式から3個の回転刃(そろばんの珠状)を持つバナナの皮剥きのような機構に変更された(図2)。1985年から、POND−5と呼ばれる新しい燃料受入れ・貯蔵(850トン)・脱被覆施設が旧施設に代わって稼働している。
3.酸化物燃料前処理施設
 改良型ガス炉(AGR:黒鉛減速、炭酸ガス冷却、低濃縮ウラン酸化物燃料)の出現により酸化物燃料の再処理が必要になった。そこで、現存設備を最大限に活用するとの観点から閉鎖となった旧ブテックス施設(B204)建屋を再利用するとともに、せん断機と溶解槽を新たに設置し、前処理施設(FEP:Fuel Handling Plant:処理能力 濃縮ウラン400トン/年)を新設した。燃料溶解液はB204を利用して抽出第1サイクル処理を行った後、B205に供給することにした。処理法として燃料集合体せん断及び回分式溶解法が採用された。燃料集合体は油圧式せん断機で約25ミリの長さにせん断され、せん断片は回分式溶解槽の鋼製バスケットに裝入され、硝酸により燃料部分のみ溶解を行い、抽出工程に供給される。溶解槽は、高濃縮度燃料の再処理にも対応できるよう、溶解液に可溶性中性子吸収材を混合し、臨界安全性の確保を図った。
 この施設は、1969年8月に運転を開始し、ステンレス鋼被覆燃料および海外からのジルカロイ被覆軽水炉燃料約90トンの酸化物燃料を処理することにより、多くの運転経験の集積を図ってきたが、1973年9月26日、揮発性ルテニウムによる汚染事故が発生し、従業者(35名)が被ばくした。以後、運転は中止。本汚染事故の原因は、抽出塔へ燃料溶解液を供給する水車型定量給液器の器底に固体の核分裂生成物が沈積し、その発熱のために燃料せん断時に発生するジルコニウム細粉の発火および有機溶媒の分解が誘発され、これにより発生したガスが揮発性ルテニウムとともにプラントの操作員区域に流れてきたことによる。当時、マグノックス燃料より格段に燃焼度の高い酸化物燃料の溶解に当たって不溶解残渣(ジルコニウム細粉を含む)が多いことに対する充分な配慮が欠けていたと思われる。その後の施設では溶解槽溶液の清澄工程(溶解液に含まれる固体分を分離する)を重視するようになった。この施設では多くの有益な技術的経験が蓄積され、次のTHORPの設計に活用された。このプラントの前処理施設を図3に示す。なお、B204(1973年に閉鎖)とB205の2つの再処理プラントでは、2003年10月までに4万トン強の使用済燃料が再処理された。
4.THORP(軽水炉酸化物燃料再処理プラント)
 BNFLは、イギリス国内ではAGRが、また、諸外国ではLWRが引き続き建設されることを受け、使用済燃料の再処理を商業規模で行える施設として、THORP(THermal Oxide Reprocessing Plant)の建設を含む拡張計画を立て、1976年に公称処理能力濃縮ウラン1,200トン/年、最初の10年間で6,000トンの処理を予定した(後に7,000トンに修正)基本計画の許可申請を行った。しかし、本申請に対して多くの団体および個人より異議申し立てがなされたことから、環境大臣は公開の審問会(Inquiry)を開き、意見聴取を行うこととした。パーカー名誉判事のもと100日間、146人の宣誓証人、161件の意見書の審議を経て、THORPの基本計画の承認に達し、環境大臣への報告書が公刊された(1978年1月)。下院での議論を経て、総工費約28億5,000万ポンドの工場建設が進められた。1983年から受入れ・貯蔵施設の建設が開始され、1992年建設を終了。1994年3月、最初の使用済燃料がせん断され、1995年1月には、抽出工程に溶解液が供給され、原子力施設検査庁(Nuclear Installations Inspectorate)および環境庁(Environmental Agency)の検査に合格。1997年8月に公式に認可され、本格運転を開始した。THROPは軽水炉燃料とAGR燃料の再処理が可能な施設であり、9か国29社の電力会社と再処理契約を結んだ。2004年までの第1期分(ベースロード期間)の契約量は7,000トン(契約額:約90億ポンド)で、その内訳は日本:2,674トン(38.2%)、ドイツ:969トン(13.8%)、スイス:422トン(6%)、スペイン:144トン(2.1%)、イタリア:143トン(2%)、スウェーデン:140トン(2%)、オランダ:53トン(0.8%)、カナダ:2トン(0.03%)、その他:295トン(4.2%)で、イギリスは2,158トン(30.8%)である。2001年までの累積処理量は約3,900トンであり、BNFLは契約処理完了を2005年3月まで延長した。なお、THROPにおいては、2005年4月19日、THORP再処理工場前処理施設で放射性溶液(使用済燃料の硝酸溶液)の漏えいが発見され、通常操業を停止している。清澄液供給セル内で清澄機から計量槽への配管の破損をカメラで発見し、約83m3の放射性溶液の漏えいが確認された(図4参照)。環境や従業員への影響はなかったものの、健康安全局(HSE)は施設の設計ミスや漏えいの長期間放置(2005年1月半ばに破断)など多くの問題点を指摘した。なお、事象評価尺度(INES)レベル3に分類された。
 THROPのプロセス構成は、せん断、溶解、ピューレックス溶媒抽出であり、他の新大型工場(仏UP3、六ヶ所工場)と基本的には同じである。ピューレックス法のフローシートを図5に示す。
 この工場の主な特徴は、燃料受入れ・貯蔵工程ではMEB(Multi Element Bottle)という輸送用遮蔽容器の着脱式内部密封容器を使用することである。THROPでのプール貯蔵はMEBのまま行うので、受入れ時の作業量を減らし、また貯蔵時のプール水の汚染を防止できる(図6参照)。前処理施設のプールで燃料集合体をMEBから取り出す。集合体せん断機は保守時間を短縮するため摩耗部品であるせん断刃の交換がユニットとして遠隔的に行えるよう工夫されている。溶解槽は回分式で臨界制御には可溶性中性子吸収材(硝酸ガドリニウム)を使用する。燃料溶解液から不溶解残渣を除去するために遠心清澄機が使用される。ウラン、プルトニウム、核分裂生成物の分離は、TBP−ケロシンを使用する溶媒抽出で行われる。プルトニウムの分離は第1サイクルで行う早期分離型フローシートで、還元剤には原子価4価のウラン(ウラナス)、ヒドラジン、ハイドロキシルアミンを用いる。これは他の近代再処理工場と同じく”Salt−free”といわれる方式で廃液中の塩類を減らし、廃液量も低減できる。
 抽出装置は、第1サイクルではパルスカラム(脈動塔)を、ウラン第2、第3サイクルではミキサーセトラーを、プルトニウム第2、第3サイクルではパルスカラムを使用する。操業実績では、全ての核種についての除染係数(DF)は設計値を上回っている。
 このプラントの概略の寸法は、燃料受入れ貯蔵施設(70mL×36mW×34mH,200mL×43mW×35mH)、主工程施設(250mL×150mW×50mH)であり、ガラス固化プラント(WVP、64mL×38mW×40mH)が隣接する。図7にTHORPの主工程施設を示す。
5.その他の再処理施設
 北スコットランド州ドーンレイは、ドーンレイ高速実験炉(DFR)とドーンレイ高速原型炉(PFR)が建設されたイギリスにおけるFBR開発の中心地である。ここドーンレイには、前述した原子炉からの使用済燃料の再処理を目的にセラフィールドの再処理施設より小規模な再処理施設が建設された。DFR再処理施設は、1960年に運転を開始したが、DFR(1977年3月に閉鎖)がその役割を終えるとともに運転を停止した。その後、DFR再処理施設は、PFR燃料の再処理をすることを目的に1972年より改造・拡張されPFR再処理プラントとして1980年にホット運転(処理能力5−6トン/年)を開始したが、1996年9月に漏えい事故が発生して以来操業を停止している(図8)。1998年6月、英国原子力公社(UKAEA)は、経済上の理由から、ドーンレイ再処理施設が閉鎖すると発表した。
 また、ドーンレイにはオーストラリア(HIFAR:ルーカスハイツ)やグルジア(トビリシ物理研究炉)など国外の研究炉用高濃縮ウラン(HEU)燃料の再処理を行う材料試験炉燃料再処理工場(MTR)も建設されており、1958年に運転を開始以来、再処理を行ってきたが1996年に閉鎖した。なお、現在ドーンレイ施設の業務は、DFR、PFRおよびMTRのデコミッショニングが中心となっている。イギリスの再処理工場施設一覧を表1に示す。
6.研究開発
 イギリスでは、原子力開発の初期からUKAEAが軍事、平和利用の全分野の統括、計画、研究開発、施設建設運転等を実施してきたが、1971年に核燃料サイクル部門を分離してBNFLが創設され、兵器部門1973年に国防省へ移管した。BNFLはコールダーホール、セラフィールド、スプリングフィールド、カーペンハースト、リズレーで、それぞれ原子力発電、再処理、核燃料加工、濃縮、技術部門を運営しており、再処理の技術開発は高速炉関係を除いて大部分を分担している。なお、BNFLは組織改正、分割売却が進み、現在British Nuclearグループがセラフィールドとマグノックス炉サイトの運営を行っているが、セラフィールドサイトについても近い将来競売が予定されている。BNFLのR&D部門の会社であるNexia Solutions Ltdは2007年BNFLから分離、政府所有のUK National Nuclear Laboratory(NNL)になる見込みである。
 UKAEAは、1990年4月からAEA Technologyに改組され、より採算を重視した技術開発事業体として運営され、1996年9月以降、分割民営化が進んでいる。UKAEAの主な活動はデコミッショニング、独自の放射性廃棄物管理責任、核融合研究へ移っている。イギリスの原子力研究施設のサイトを図9に示す。
(前回更新:2004年10月)
<図/表>
表1 イギリスの再処理施設
表1  イギリスの再処理施設
図1 ウインズケール第1工場俯瞰図
図1  ウインズケール第1工場俯瞰図
図2 マグノックス燃料の脱被覆
図2  マグノックス燃料の脱被覆
図3 ウインズケール酸化物燃料前処理施設の説明図
図3  ウインズケール酸化物燃料前処理施設の説明図
図4 THORP計量槽
図4  THORP計量槽
図5 THROPのピューレックスフローシート
図5  THROPのピューレックスフローシート
図6 マグノックス使用済燃料貯蔵プール
図6  マグノックス使用済燃料貯蔵プール
図7 THROPの主工程施設俯瞰図
図7  THROPの主工程施設俯瞰図
図8 PFR再処理施設俯瞰図
図8  PFR再処理施設俯瞰図
図9 イギリスにおける原子力研究施設
図9  イギリスにおける原子力研究施設

<関連タイトル>
世界の再処理工場 (04-07-01-07)
使用済燃料の受入、貯蔵 (04-07-02-01)
再処理の前処理工程 (04-07-02-02)
イギリスの再処理施設における放出放射能低減化 (04-07-03-10)
世界の再処理施設における火災・爆発事故 (04-10-03-03)
イギリスの原子力政策および計画 (14-05-01-01)
イギリスの原子力開発体制 (14-05-01-03)
セラフィールド再処理工場の技術開発と現状 (14-05-01-17)

<参考文献>
(1)Proceeding of International Conference on Nuclear Fuel Reprocessing&Waste Management,RECOD’87,Aug.1987,in Paris,Vol.1,2,3,4;SFEN
(2)W.L.WILKINSON:”THORP takes BNFL into the 21st Century”,NUCLEAR ENGINEERING INTERNATIONAL,Aug.1987,p.32−36
(3)内藤奎爾(監訳):原子力の技術、燃料サイクル下、筑摩書房(1987)(Nuclear Power Technology,Vol.2 Fuel Cycle,UKAEA(1983),Oxford Pressの翻訳)
(4)日本原子力産業会議(編):原子力年鑑 2008(2007年9月)、p.228−229
(5)(社)日本原子力産業会議:原子力ポケットブック 2003年版(2003年8月)、p.263
(6)Proceedings of International Conference on Nuclear Fuel Recycling,Conditioning and Disposal,”RECOD 94”,1994,in London
(7)Proceedings of International Conference on Nuclear Fuel Recycling,Conditioning and Disposal,”RECOD 98”,1998,in Nice,VOL.I,p.19−26,p.87−94
(8)BNFL:The Thermal Oxide Reprocessing Plant,British Nuclear Fuels plc.(1992)
(9)AEA Technologyホームページ:
(10)英国原子燃料公社(BNFL):
(11)英国原子力公社(UKAEA):http://www.ukaea.org.uk/
(12)Board of Inquiry Report−Thorp fractured pipe:
(13)旧核燃料サイクル開発機構:再処理技術の歴史、現状および課題の分析・評価、技術報告、サイクル機構技法、No.27、23−30(2005年7月)
(14)健康安全局(HSE):Report of the investigation into the leak of dissolver product liquor at the Thermal Oxide Reprocessing Plant(THORP),Sellafield(2005年4月20日),
(15)(社)日本電気協会電気新聞:原子力ポケットブック 2007年版(2007年9月)
(16)IAEA:Nuclear Fuel Cycle Information System,United Kingdom,
(17)Nuclear Engineering:BRITISH REPROCESSING,Oct/1999
(18)Nuclear Engineering:BRITISH REPROCESSING,Oct/1990
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ