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<概要>
 新型転換炉(ATR)は重水減速沸騰軽水冷却圧力管型炉であり、炉心の特性から多様な燃料を燃やすことができる。我が国では核燃料の効率的利用、特にプルトニウムの利用に適する炉型として原型炉ふげん」を建設し、1979年から運転している。新型転換炉の燃料集合体は、BWR 軽水炉の燃料集合体と殆ど同サイズであり、軽水炉使用済燃料再処理施設の設備がほぼ転用できる。またプルトニウム混合酸化物燃料の使用済燃料もプルトニウムの含有量について配慮すれば、軽水炉用の工程設計を大きく変更しないで再処理できる。東海再処理工場で「ふげん」の使用済燃料を1986年から1996年までに約51.9トン処理している。
<更新年月>
1998年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.新型転換炉「ふげん」
 新型転換炉(Advanced Thermal Reactor,ATR)は、重水減速沸騰軽水冷却型の熱中性子炉である。核分裂で発生する中性子カランドリアタンクの中に満たした重水で熱中性子領域まで減速され、カランドリアタンクに正方形ピッチで配置されたカランドリア管群(「ふげん」では224本)を貫通する圧力管に1体づつ装荷された燃料集合体の発熱は、圧力管内を流れる軽水によって取出される。沸騰水型軽水炉(BWR)と同じく炉心で発生した蒸気は直接タービンに送られる。この設計では重水系に高圧が掛からず重水冷却系も独立しているので、重水漏洩の可能性が少ない利点がある。表1に「ふげん」の主要設計諸元を示す。
 この炉では中性子が重水によって充分に減速され、そのエネルギー領域ではウラン235とプルトニウムの核分裂時の中性子の放出の割合がほぼ同じになるので、混合酸化物(MOX)燃料を利用する場合、燃料集合体中の核分裂性核燃料物質(ウラン235と核分裂プルトニウム)の量を一定にすれば、炉心のどの位置に配置してもよいという使い易さがある。制御棒は重水中に配置されその制御棒反応度効果が燃料体からの影響を受け難いため、制御棒の仕様、配置を変更せずに燃料の多様化を図り易い。
 上記のように、ATRは、再処理によって回収されたウラン、プルトニウムの利用に極めて都合がよい特性を有している。
2.新型転換炉の燃料
 「ふげん」の燃料は、低濃縮ウラン酸化物又はMOXのペレット(外径14.4mm)をジルコニウム合金の被覆管に詰めた全長4,100mmの燃料棒28本を、同心円状に直径約120mmの断面に並べて円筒状の燃料集合体に纏めたものである。圧力管の中に挿入するので断面が円形であるが、寸法はほぼBWRの燃料集合体と同じである。図1に燃料集合体を、表2に燃料棒設計諸元を示す。
 「ふげん」の燃料はウラン濃縮度又は核分裂性核燃料物質量によりタイプA:平均核分裂物質1.4%、タイプB:平均核分裂物質2.0%に分かれる。集合体あたり最高燃焼度はタイプAで20,000MWd/t、タイプBで30,000MWd/tであるが、東海工場で1日当たり処理する使用済燃料の平均燃焼度はそれぞれ12,000MWd/t以下、17,000MWd/t以下で、冷却期間は2年以上である。
3.新型転換炉の使用済燃料の再処理の方法
 基本的には軽水炉燃料の再処理と変わる点はない。燃料集合体の外形寸法はBWR燃料集合体とほぼ等しいので、輸送容器や貯蔵容器はBWRのものが転用ができる。燃料の掴み具は専用のものを使用する。図2に東海工場のATR燃料再処理工程説明図を示す。
 燃料の剪断については、1976年東海工場のコールド試験時に精密模擬燃料を使用して円滑に剪断できることを確証していた。その後の実燃料の再処理でも順調に実施されている。2年冷却後のATRの使用済燃料の内蔵放射能は180日冷却の軽水炉燃料の場合の数分の一程度なので、この点ではプロセス上の問題はない。
 MOX燃料Bタイプは核分裂性のプルトニウムを1.3%含んでおり、燃焼による減量を考慮しても軽水炉燃料処理時の処理量(0.7t/日)ではプルトニウムの処理量(フロー)がプルトニウム精製工程(溶媒抽出)及び蒸発濃縮工程の施設の能力を超える。プルトニウム施設の改造補強をする方法もあるが、使用済燃料の一日当たりの溶解量を減らし、溶解液に硝酸ウラン溶液を加えて抽出工程の供給液を調製する方法もある。
 東海工場ではタイプB燃料については1日の溶解量を0.43tとし、溶解液に硝酸ウラン溶液を加えて抽出工程への供給液を調製することにしている。
4.東海再処理工場の新型転換炉燃料再処理実績
 前述のとおり動燃事業団(現日本原子力研究開発機構)の東海再処理工場は「ふげん」の使用済燃料を再処理する基本的能力を備えている。このため、1984年に施設設置承認の変更申請を行い、1985年7月に承認を受けた。同年11月にATR燃料34体約5.2tを受け入れ、以降1996年10月までに合計512体、約78.4tを受入れた。このうち再処理を行った燃料は1986年から1996年までに合計136体、約51.9tである。
 処理においては全工程が所期の性能を発揮し、ATRの使用済燃料の再処理が安全確実に行えることが実証できた。
 これらの再処理で回収されたプルトニウムは、動燃事業団(現日本原子力研究開発機構)のプルトニウム燃料工場のATR燃料製造ラインで再加工され「ふげん」にリサイクルされている。
5.新型転換炉実証炉燃料の再処理
 ATR実証炉については、2000年代初頭の運転開始を目途に、電源開発(株)が青森県下北郡大間町に建設計画を進めていたが、電気事業連合会から実証炉建設計画について見直しの要望がなされ、1995年8月原子力委員会決定においてATR実証炉建設計画は中止が妥当と判断された。
 なお、実証炉の設計は「ふげん」の設計を踏襲し、その大型化(電気出力60万kW)を図っている。燃料はMOX燃料とし、1集合体の燃料棒は36本、核分裂性核燃料物質量は約3%、燃焼度は30,000MWd/tであるので、「ふげん」の使用済燃料よりプルトニウムの取扱について軽水炉燃料の再処理工程条件との差が大きくなると予想される。
<図/表>
表1 新型転換炉「ふげん」の主要設計諸元
表1  新型転換炉「ふげん」の主要設計諸元
表2 新型転換炉「ふげん」燃料棒設計諸元
表2  新型転換炉「ふげん」燃料棒設計諸元
図1 新型転換炉原型炉「ふげん」の燃料集合体
図1  新型転換炉原型炉「ふげん」の燃料集合体
図2 新型転換炉使用済燃料再処理工程説明図
図2  新型転換炉使用済燃料再処理工程説明図

<関連タイトル>
重水冷却圧力容器型炉 (03-02-05-02)
新型転換炉の特徴 (03-02-02-02)
新型転換炉の燃料集合体 (03-02-02-08)
再処理の概要 (04-07-01-01)
再処理の前処理工程 (04-07-02-02)

<参考文献>
(1)東海事業所再処理工場技術課:新型転換炉燃料再処理、動燃技報 No.59(1986)
(2)山内一:新型転換炉におけるウラン−プルトニウム混合酸化物燃料の開発と使用実績、動燃事業団「報告と講演の会」予稿集(1986)
(3)火力原子力発電技術協会(編):やさしい原子力発電、火力原子力発電技術協会(平成2年6月)
(4)火力原子力発電技術協会(編):原子燃料サイクルと廃棄物処理、火力原子力発電術協会(昭和61年)
(5)動力炉・核燃料開発事業団:新型転換炉「ふげん」技術成果の概要(1991年8月)
(6)動力炉・核燃料開発事業団:動力技報 No.69、「ふげん」特集(1989年3月)
(7)動力炉・核燃料開発事業団:年報平成8年度、p19-23(1997年9月)
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