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<概要>
 使用済燃料再処理し残存核燃料物質をリサイクルする方式(再処理方式)と再処理せずに放射性廃棄物として直接処分する方式を比較し、再処理の経済的意義を検討した事例を紹介する。これまでの評価結果によると、軽水炉の場合、発電コストに占める核燃料サイクルコストは再処理する方式が直接処分する方式よりも現状において約10%高いが、核燃料サイクルコストが発電コスト全体に占める比率が小さいため、この差は原子力発電の経済性にとって支配的要素とはならない。なお、再処理方式では使用済燃料中の残存核燃料物質がリサイクルされ、天然ウラン資源の有効利用を図ることができることも指摘されている。
<更新年月>
2010年01月   

<本文>
1.核燃料リサイクルの資源論的側面
 低品位のものを含めれば地層中には大量の天然ウランが存在すると考えられているが、OECD/NEA-IAEAの2008年報告(レッドブック2007)によると、経済的に発掘できる既知資源は547万トンU、未発見資源を含めても約1600万トンU程度と推定されている。この天然ウランを現在主流の軽水炉において利用し、使用済燃料を再処理せずに放射性廃棄物として直接処分する方式(ワンススルー方式)の場合には、利用可能期間は化石燃料に比べて決して長いものではない。しかし、使用済燃料を再処理し、プルトニウムやウランなどの残存核燃料物質をリサイクルする方式(再処理方式)の場合には、回収された核燃料物質をウラン・プルトニウム混合酸化物燃料(MOX燃料)として軽水炉で再利用(プルサーマル利用)した場合、10%以上の天然ウランの有効利用を図ることができる。特に高速増殖炉を実用化すれば天然ウランの有効利用を飛躍的に高める(ワンススルー方式の軽水炉の30〜60倍)ことが可能となる。そこで、長期的展望に立った資源論的見地からは、原子力を化石燃料の代替として大規模に利用していく上で、再処理を行い、核燃料をリサイクルすることはきわめて重要と言える。
2.再処理しない考え方(ワンススルー方式:ONCE THROUGH方式)
 使用済燃料を再処理せず、直接処分して使用済燃料中に残っている核燃料物質を回収しない場合、核分裂生成物FP)だけでなく多量に存在するウラン、プルトニウム等も含めて放射性廃棄物として扱うことになる。廃棄物としての使用済燃料は、再処理した場合の高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)と同等以上に厳重に深部地層等に隔離処分(地層処分)しなければならない。この場合、再処理方式の場合に比べて廃棄物の体積が3倍程度、処分場の面積が2倍程度増すことになる。
 前述のように天然ウランの資源量が有限であるのは明らかであるが、米国などのように比較的自国の天然資源に恵まれ、近い将来においては原子力以外にも安価で豊富なエネルギー源の利用が期待できる国においては、ワンススルー方式を採用しているところもある。ただ、米国の場合も管理すべき放射性廃棄物の量をできるだけ小さくするために、使用済燃料の再処理と高速炉によるプルトニウム、マイナーアクチノイドの燃焼の可能性を検討している。
 また、原子力発電所から排出される使用済燃料を全量再処理する方針の場合にも、使用済燃料の発生量が再処理能力を超えたり、ある時期、回収するプルトニウムの量がプルトニウムの需要量を超えることも考えられる。このような場合、使用済燃料を一定期間貯蔵しておく措置がとられる。
3.再処理方式を採用した場合の原子力発電コスト
 原子力の発電コストを火力発電など他の代表的な発電方式と比較する検討が数多く行われている。経済性以外にも環境への影響、電源として安定性、社会的受容性、法規制対応等色々な観点があるが、kWh当たりのコストの比較は基本的な要素である。
 わが国において、燃料サイクルバックエンド事業の円滑な推進と投資環境の整備を図る観点から、総合資源エネルギー調査会電気事業分科会に設置されたコスト等検討小委員会が、バックエンド事業の費用構造、並びに原子力発電全体の収益性の分析・評価を実施し、その結果が2004年1月に示された。発電コストに関しては運転年数で均等化した場合と、法定耐用年数で均等化した場合とを検討するとともに、さらに運転年数、設備利用率、為替レート、燃料価格の上昇率、割引率が変化した場合の発電コストへの影響を評価した結果として、原子力発電全体の収益性が他の電源との比較において遜色がないという従来の評価が再確認された。図1に再処理方式を採用した場合の原子力発電、水力発電及び火力発電について電源別発電コストを示す。
4.核燃料リサイクルの経済性
 2005年10月、原子力政策大綱策定に当り、原子力委員会は今後の使用済燃料の取扱いに関して、a.全量再処理(使用済燃料は適切な期間貯蔵された後、再処理する)、b.部分再処理(使用済燃料は再処理するが、再処理能力を超えるものは直接処分する)、c.全量直接処分(使用済燃料は直接処分する)、d.当面貯蔵(使用済燃料は当面貯蔵し、その後再処理するか、直接処分するかのいずれかを選択する)の4つのシナリオを定め、それぞれについて、安全の確保、エネルギーセキュリティ、環境適合性、経済性、核不拡散性、技術的成立性、社会的受容性、選択肢の確保、政策変更に伴う課題、海外の動向の10項目の視点から総合的に評価した。この評価においては、総合資源エネルギー調査会「2030年のエネルギー需給展望」のリファレンスケースを基に、2000年から2060年までの原子力発電電力量を約25兆kWh(原子力発電の設備容量は今後増大していくが、2030年以降58GWで一定)と想定している。4つの評価シナリオにおけるコストの試算結果を表1に示す。直接処分した方が再処理するよりも核燃料サイクルコスト(発電コスト全体の2〜3割の部分)は4割程度安価(発電原価にして約0.5〜0.7円/kWh程度、これは一世帯あたりの年間負担額に換算して約600〜840円であり、年間電気代の1%程度である。)となっている。しかし、六ヶ所再処理工場がほぼ完成している現状を勘案すると、政索変更を伴うシナリオc.とシナリオd.では六ヶ所再処理工場への既投資額とその廃止措置費用の負担が必要であり、これを発電原価に換算すると約0.2円/kWhとなるので、直接処分シナリオのコストのメリットはかなり小さくなる。また、我が国における原子力発電の推進に当たっては、経済性の確保のみならず、循環型社会の追究、エネルギー安定供給、将来における不確実性への対応能力の確保等を総合的に勘案するべきとして、原子力政策大綱においては使用済燃料を再処理し、回収されるプルトニウム、ウラン等を有効利用することが基本的方針となった。
5.むすび
 使用済燃料の取り扱いについて、再処理方式とワンススルー方式のコストの差は上記4.における評価時点のウラン価格及び想定された燃料サイクルプロセスの単価の下では、発電コストでみて約10%程度である。再処理方式かワンススルー方式かの選択にあたっては、経済性よりむしろ国のエネルギー政策、環境への影響、パブリック・アクセプタンスなどが重要な因子と考えられる。天然資源の乏しい我が国を初め、数カ国でMOX燃料のプルサーマル利用が推進されている。また、わが国においては高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の開発が行なわれている。
(前回更新:1998年3月)
<図/表>
表1 原子力委員会の小委員会でのコスト試算(割引率2%の場合)
表1  原子力委員会の小委員会でのコスト試算(割引率2%の場合)
図1 各種電源の発電コスト
図1  各種電源の発電コスト

<関連タイトル>
PWRの燃料リサイクルコスト(1994年OECD/NEAの試算) (01-04-01-06)
バックエンドコストと原子力発電の経済性評価 (01-04-01-18)
核燃料リサイクルの概要 (04-01-01-01)
世界のウラン資源量と需給予測(レッドブック2003) (04-02-01-07)
再処理の概要 (04-07-01-01)
放射性廃棄物の処理処分についての総括的シナリオ (05-01-01-02)

<参考文献>
(1)総合資源エネルギー調査会電気事業分科会コスト等検討小委員会:「バックエンド事業全般にわたるコスト構造、原子力発電全体の収益性等の分析・評価(コスト等検討小委員会から電気事業分科会への報告)」、平成16年1月23日
(2)原子力委員会新計画策定会議:新計画策定会議(第13回)参考資料1「核燃料サイクル政策についての中間取りまとめ」、平成16年11月12日、http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/sakutei2004/ronten/20041112.pdf
(3)原子力委員会新計画策定会議 技術検討小委員会:「基本シナリオの核燃料サイクルコスト比較に関する報告書」、平成16年11月、 http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2004/kettei/sakutei041124.pdf
(4)資源エネルギー庁:原子力政策の現状について「なぜ、日本は核燃料サイクルを進めるのか?」
(5)電気事業連合会ホームページ:原子力・エネルギー図面集2009、P71
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