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<概要>
 高燃焼度燃料とは、従来の燃料より燃料集合体当たり取り出す総熱量を大きくした燃料のことである。燃料サイクル経済性向上の観点から、ウラン濃縮度を高めて運転サイクル期間を延長し、プラントの燃料費の削減、使用済燃料の発生量の低減などを目標として燃料の高燃焼度化が進められている。
<更新年月>
2006年11月   

<本文>
 近年、軽水炉燃料はウラン濃縮度を高めて、高燃焼度化へ向かう傾向にある。これは発電炉運転サイクルの長期化、および使用済燃料の取り出し量低減化により、原子力発電の経済性向上を目指しているからである。ここで高燃焼度とは、PWRにあっては燃料集合体最高燃焼度が40,000MWd/t(40GWd/t)を超えるものをいう。
 PWR燃料の高燃焼度化は、2段階のステップを踏んで進められており(図1参照)、ステップ1として39GWd/tから48GWd/tへの高燃焼度化を達成しており、ステップ2では2004年から55GWd/tの実用化が開始された。
 燃料の高燃焼度化に伴って想定される問題は、被覆管の腐食量増加、FPガス放出量の増加、燃料棒の照射成長などがあげられる。これらに対して、PWRにおける高燃焼度燃料はいくつかの改良が加えられている。図2にPWR燃料の高燃焼度化に伴う燃料設計上の課題と対応について示す。
1.ステップ1燃料
 従来、燃料集合体当りの最高燃焼度が39GWd/tに制限されていたため、取替え燃料体数の増加で運転延長を行い、設備利用率の向上を図ってきた。ステップ1燃料により燃焼濃縮度を48GWd/tに引き上げることで約1/3炉心燃料取替えにすることができ燃料サイクル費を約15%低減させることができた。ステップ1燃料は、1990年に実用化され、順次適用がすすめられている。燃料の構造は基本的に従来と同じであり、初期ヘリウム加圧量の若干の低減、燃料集合体寸法の見直しだけで対応した。
2.ステップ2燃料
 ステップ2の実用化に当たって、燃料設計上の課題に対する幾つかの対策が検討された。
(1)改良被覆管
 ジルカロイ被覆管の表面は高温の原子炉一次冷却材との化学反応により微量ながら腐食する。高燃焼度化に伴い原子炉内滞在が長期化するため、被覆管の腐食量は増加する。これに対して、ステップ2では、耐食性を向上させるために少量のNb等を添加した改良被覆管(MDA,NDA,ZIRLO)を採用している(表1および図3参照)。
(2)ウラン濃縮度の変更と高濃度ガドリニア燃料の採用
 ステップ2では、ウラン濃縮度を、ステップ1の約4.1%から約4.8%に変更し、燃料1体に含まれる核分裂性ウランの量を多くして、長期間使用できるようにする。これにともない、増大する余剰反応度を調整するため、ガドリニア濃度を6wt%から10wt%に変更したガドリニア添加燃料を採用することにより、燃料の燃え方を調整する。
(3)大粒径ペレット
 燃焼度の増加に伴ってFPガスの発生量は増大し、そのうち一部は二酸化ウラン・ペレット中を移動(主として拡散による)して、燃料棒内の空間に蓄積されるFPガスの量も増大してくる(図4参照)。これは燃料棒被覆管の内圧を増加させ、またペレットと被覆管の間の熱伝達特性を悪化させるので、重要視されている。ペレットの結晶粒径を大粒経化することにより結晶粒内で発生したFPガスが発生箇所から結晶粒界への移動する時間を長くすることができ、結果としてペレット外への放出が抑えられると期待されている。このため、ステップ2では、大粒経ペレットを採用することでFPガス放出量の増加を抑えることが検討されたが、FPガス放出低減効果を定量的には確認できなかった。このため、現在のところ大粒径ペレットは採用されていない。
(4)被覆管の集合組織調整化
 燃料の高燃焼度化に伴い、初期濃縮度が大きくなることにより運転時の異常な過渡変化による出力上昇が大きくなり、PCIにより被覆管が破損する可能性が大きくなる。そこで、被覆管を集合組織調整化することでPCIにより作用する応力の方向とジルコニウム六方晶の滑りやすい方向をずらすことでクラックの進展を抑えることを検討している(図5参照)。集合組織調整管は、ジルコニウム六方晶のC軸が従来の被覆管よりもさらに半径方向に配向したものである。
(前回更新:2004年2月)
<図/表>
表1 耐食性改良被覆管の組織
表1  耐食性改良被覆管の組織
図1 PWRにおける高燃焼度化計画
図1  PWRにおける高燃焼度化計画
図2 PWR燃料の高燃焼度化にともなう燃料設計上の問題と対策
図2  PWR燃料の高燃焼度化にともなう燃料設計上の問題と対策
図3 実機炉内照射試験による改良被覆管の耐食特性
図3  実機炉内照射試験による改良被覆管の耐食特性
図4 Halden炉内照射試験による大粒径ペレットの燃料棒内圧の燃焼度依存性
図4  Halden炉内照射試験による大粒径ペレットの燃料棒内圧の燃焼度依存性
図5 集合組織調整被覆管の耐PCI特性
図5  集合組織調整被覆管の耐PCI特性

<関連タイトル>
PWR用ウラン燃料 (04-06-03-02)

<参考文献>
(1)(社)日本原子力産業会議(編):原子力年鑑 1999/2000年版(1999年10月)、p.147−148
(2)山手 浩一:PWRにおける高燃焼度燃料の開発研究、火力原子力発電、47(9)(1996)、p.964−969
(3)S.Sasaki and S.Kuwabara:Utility Perspective on Commercial Light Water Reactor Fuel in JAPAN,ANS Topical Mtg.Portland USA(March 1997),p.11−20
(4)S.Suzuki et al.:Burnup Extension and Improved reliability,Light Water Reactor Fuel(Proc.Int.Top.Mtg.,West Palm Beach,Fl.,1994)ANS(1994)p.352−359
(5)T.Takahashi et al.:Advanced Fuel Development for Burnup Extension,ANS Topical Mtg. Portland USA(March 1997),p.550−554
(6)K.Yamate et al.:Burnup Extension of Japanese PWR Fuels,ANS Topical Mtg. Portland USA(March 1997),p.318−325
(7)S.Abeta et al.:Design and Performance of Mitsubishi PWR Fuel for Increased Reliability,ANS Topical Mtg.Portland USA(March 1997),p.309−317
(8)次世代燃料研究専門委員会:プルトニウム燃料工学、日本原子力学会(1998年1月)
(9)原子力安全研究協会(編):軽水炉燃料のふるまい 第4版(1998年7月)
(10)原子力安全・保安部会原子炉安全小委員会:報告書 PWR燃料の高燃焼度化(ステップ2)及び燃料の高燃焼度化に係る安全研究の現状と課題について(2001年12月7日)
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