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<概要>
 我が国における原子力発電の推進にあたっては、経済性の確保のみならず、循環型社会の追及、エネルギー安定供給、将来における不確実性への対応能力の確保等を総合的に勘案し、使用済み燃料を再処理し、回収されるプルトニウム、ウラン等を有効利用することを基本方針とする。軽水炉燃料の再処理によって発生する回収ウランには、天然ウランより多くのウラン235が残っており、プルトニウムと同様に貴重な純国産資源として再利用することができる。利用に際しての回収ウラン燃料の特性、回収ウランの利用実績、加工の課題および輸送の現状について述べる。
<更新年月>
2009年02月   

<本文>
1.はじめに
 原子炉で使用した燃料(使用済燃料)は、再処理を行うことにより回収ウランとして再利用することができる。再濃縮して軽水炉用核燃料の原料とすることは、天然ウランに比較して少ない仕事量で濃縮することができるのでより経済的である。このため、海外再処理委託に伴う回収ウランの再濃縮などを念頭に、海外転換、濃縮、再転換役務の委託先確保(ロシアでの濃縮、カザフスタンでの再転換など)に向けた政府間手続きなどを進め、また、国内回収ウランは、当面、将来のウラン需要に備えた戦略的備蓄と位置付けられている。
 六ケ所再処理施設の定格稼働時には、年間約740tUの回収ウランが発生し、現在、国内外に保管している回収ウランは、約7,000tU、うち海外再処理委託分の回収ウランは約6,500tU(ガス炉分約1,500tUを含む)となっている。
国内では(独)日本原子力研究開発機構(旧核燃料サイクル開発機構)の東海再処理工場から、海外ではCOGEMA社(現フランスのAREVA NC社)のLA Hague(ラ・アーグ)再処理工場およびBNFL社(現イギリスのNDA社)のTHORP再処理工場から発生しており、蓄積されている。将来は日本原燃(株)の六ヶ所でUF6に転換した後に、濃縮工場で濃縮を行い、得られる濃縮UF6を再転換工場でUO2に再転換し、最終的には成型加工工場で回収ウラン燃料体に加工し、原子炉に装荷する。図1に核燃料サイクル図を示す。図2にBWRにおける回収ウランを含む核燃料サイクル図を、図3にPWRにおける回収ウラン含む核燃料サイクル図を示す。
 鉱山から採掘される通常のウランや濃縮ウランにくらべて、回収ウランはどう違うのか。回収ウランの性質、回収ウランの利用実績、加工および輸送に関する現状と課題について以下に述べる。
2.軽水炉用回収ウラン燃料の組成上の特性
 回収ウランは使用済燃料を再処理することにより得られるため、表1に一例を示すように、ウラン組成として軽水炉用通常ウランにはないウラン核種が含まれるとともに、再処理では除去できなかった微量のFPTRUが不純物核種として存在することが特徴である。このため、回収ウランを軽水炉で利用する場合、これらのウラン組成の違い、不純物の含有によって、炉心燃料設計、燃料加工、輸送に影響を与える。
(1)ウラン組成
 通常の軽水炉で使用されている濃縮ウランは、天然ウランを濃縮することにより得られるため、ウランの組成は238U、235Uと微量の234Uで構成されているが、このウラン燃料を原子炉内で燃焼させた場合、燃焼につれて232U、236U等の核種が生成されるとともに、234Uの含有量が増加する。これらの核種の生成は、炉内での燃料の出力および燃焼度の履歴によって影響を受けるため、再処理される使用済燃料の出力、燃焼度の履歴の違いにより、得られる回収ウランの組成にばらつきが生じる。
1)232Uは、天然ウランには含まれない核種であり、半減期が短く、娘核種として高放射線核種(208Tl,232Bi)を生成するため、回収ウランの線量率を上昇(ビルドアップ)させる。この線量率の上昇は、図4に示すように10年で約3倍に達する。
2)234Uは、α線放出核種であり、天然ウランには微量に含まれるが、燃焼につれて増加していくため、回収ウランは234Uの含有量が天然ウランより多い。
3)236Uは、天然ウランには含まれない核種であり、中性子吸収断面積が大きいため、回収ウラン燃料を炉心に装荷した場合に炉心の反応度を低下させる。
(2)FP/TRU
 再処理で分離できなかったFP、TRUが微量に存在し、これらは放射線量を上昇させる。
3.回収ウラン加工の課題
 回収ウランに含有される232U、234UおよびFP、TRU等は通常のウランに比べて線量率を上昇させるため、ウラン加工施設で回収ウランを取扱う場合は、下記のように回収ウランに対応した許認可および設備対応を実施する必要がある。
・回収ウラン仕様/年間加工量の設定
・安全性評価の実施(敷地境界線量、排気、排水、従業員被ばくの評価)
・加工事業変更許可申請
・設工認(工事計画認可)および必要な施設対応の実施
つぎに、回収ウラン取扱いに関わる課題および国内外の回収ウラン取扱い施設の現状について述べる。
(1)回収ウラン取扱いに関わる課題
 上述のように、回収ウランを取扱う場合には、その特性と使用量を踏まえ、各設備能力に依存した対策が必要となるが、その場合の検討すべき課題について以下にまとめる。
1)加工スケジュール
 232Uの娘核種による線量率の上昇が起こるため、回収ウランを利用する場合は速やかに燃料に加工し、原子炉に装荷することが重要である。
2)遮へい、閉じ込めの強化
 回収ウランは、232Uの娘核種による線量率の上昇が起こること、234Uはα線放出核種であること、および微量ではあるがFP、TRUを含むことから、燃料加工時に遮へいおよび閉じ込めの強化が必要となる場合がある。さらに、成型加工で発生したスクラップ、廃棄物についても同様であり、保管には遮へいの強化等の対策の検討が必要となる。
3)排気、排水設備の強化
 回収ウランには再処理で除去できなかった微量のFP、TRUが含まれるとともに、UF6空シリンダの洗浄廃液等も発生するため、燃料加工時の排気、排水を処理する設備について影響評価が必要となる。
4)UF6シリンダの洗浄
 232Uから生成する娘核種は不揮発性であるため、濃縮または再転換の作業において、輸送容器(UF6充填シリンダ)から工程に回収ウランを供給する時に気化せず、シリンダ内に残留する。このため、回収ウランを取出した空シリンダは、回収ウランの充填時にウランの自己遮へいにより抑えられていた線量率が急激に上昇するため、シリンダの再使用にはシリンダ内部の洗浄が必要となる。
(2)国内外の回収ウラン取扱い施設
a.転換施設
 再処理から発生する回収ウランの形態としては、UO3またはUNH(硝酸ウラニル)の形態が一般的である。転換施設は、UO3またはUNHの形態の回収ウランを濃縮工程に供給するためにUF6に転換、あるいはUNHの形態の回収ウランを長期貯蔵のためにU3O8に転換するとともに、にU3O8で貯蔵している回収ウランを濃縮のためにUF6に転換するための施設である。
 国内では、旧核燃料サイクル開発機構(現(独)日本原子力研究開発機構)人形峠環境技術センターで、国内で実施された回収ウランの試験的利用において、ここの転換施設を用いて東海再処理工場から発生した回収ウラン(UO3)をUF6に転換した経験がある。これまで旧核燃料サイクル開発機構と電力10社が共同研究として再濃縮法による小規模、中規模試験を実施し、回収ウランの商業炉への再利用としては国内初の実規模での実績(PWR、BWR用に各20トンUを処理)を得た。さらに1994年8月から進められている回収ウラン転換実用化試験では、旧核燃料サイクル開発機構人形峠環境技術センターの製錬・転換パイロットプラントで、これまで約215トンUのUF6を得ている。一方、海外では、フランスのAREVA NC(旧COGEMA社)およびCOMURHEX社(ウラン転換会社)が回収ウランのUNHをUF6あるいはにU3O8に転換する施設を保有している。また、イギリスでは、NDA(旧BNFL社)が回収ウランのUO3をUF6に転換する施設を建設中である。
b.濃縮施設
 ウランの濃縮方法は、ガス拡散法と遠心分離法とがあるが、回収ウランの濃縮には遠心分離法が適しているといわれている。国内で実施された回収ウランの試験的利用において、回収ウランの濃縮は旧核燃料サイクル開発機構人形峠環境技術センターの濃縮施設で実施された。一方、海外では、URENCO社(ドイツ、イギリス、オランダのウラン濃縮合併会社)等が遠心分離法によるウラン濃縮を実施しており、回収ウランの濃縮についても対応が可能である。
c.再転換・成型加工施設
 一般的に燃料加工工場は、再転換工程と成型加工工程の両工程を備えている施設が多いが、再転換施設、成型加工施設を独立して設置している場合もある。国内の成型加工施設としては、PWR燃料では、三菱原子燃料(株)(MNF)の東海工場と原子燃料工業(株)(NFI)熊取工場があり、BWR燃料では、(株)グローバル・ニュークリア・フュエル・ジャパン(GNF-J)久里浜工場と原子燃料工業(株)(NFI)東海工場がある。このうち、MNFの東海工場は再転換工程を併設し、一部実施している。国内で実施された回収ウランの試験的利用では、再転換はMNF東海工場で実施され、成型加工はMNF東海工場、NFI熊取工場およびGNF-J久里浜工場で実施されている。一方、海外の成型加工施設は、ほとんどの施設が再転換工程を併設しており、軽水炉用回収ウラン燃料の製造対象がPWR燃料のみであるが、フランスではFBFC社(フランス・ベルギー燃料成型加工会社)で製造が可能であり、イギリスではNDA(旧BNFL社)で製造が可能である。
4.回収ウランの利用実績
 軽水炉での回収ウラン燃料の利用実績としては、海外、特にフランスを中心にPWRでの利用が図られており、国内でも少数体の利用を経て本格的な利用の段階にきている。国内のBWRでは、これまでに2回の利用実績があり、1987年に東京電力(株)福島第一原子力発電所3号機に4体、1993年に東京電力(株)福島第二原子力発電所1号機に24体の回収ウラン燃料を装荷しており、どちらも東海再処理工場で回収されたウランを利用したものである。一方、PWRでも、これまでに2回の利用実績があり、1991年に関西電力大飯発電所2号機に20体、1995年には関西電力美浜発電所3号機に52体の回収ウラン燃料を装荷しており、前者は東海再処理工場で回収されたウランを、後者は海外の再処理工場で回収されたウランを利用したものである。回収ウランのうち、新たな燃料の原料として利用された量は、軽水炉用約46トン、「ふげん」用約8トンである。わが国では、回収ウランは当面貯蔵され、軽水炉での商業利用の計画はない。
 使用済燃料の再処理によって得られる回収ウランは、ウラン資源が少なく核燃料サイクル路線を採るわが国において、プルトニウムとともに、わが国にとって価値のある資源である。かつ、回収ウランを利用することは、埋蔵量に限りある天然ウランの使用を節減することになり、その意義は大きい。
5.回収ウラン輪送の現状
 通常ウランの輸送は、濃縮UF6、濃縮UO2粉末および燃料集合体のすべてがA型輸送物として輸送されているが、回収ウランの輸送型式は、輸送物の収納限度に関する評価に差があり複雑である。すなわち、現行規則下では濃縮回収UF6、濃縮回収UO2粉末はIP型にもA型にも分類されないためB型に該当し、回収ウラン燃料体はIP型となる。一方、1996年施行の法令に準拠した後には、濃縮回収UF6、濃縮回収UO2粉末、回収ウラン燃料体のすべてがIP型で輸送できることになった。
 なお、通常ウラン、回収ウランともに核分裂性物質(天然ウラン、劣化ウランおよび一部の核分裂性核種の濃度が低い物質を除く、233U、235U、238Pu、239Pu、241Pu)なので、これらの合計が15gを超えるものは核分裂性輸送物としての規制を受ける。
(前回更新:2003年3月)
<図/表>
表1 軽水炉用回収ウラン燃料の組成と不純物の例
表1  軽水炉用回収ウラン燃料の組成と不純物の例
図1 核燃料サイクル概念図
図1  核燃料サイクル概念図
図2 BWRの核燃料サイクル
図2  BWRの核燃料サイクル
図3 PWRの核燃料サイクル
図3  PWRの核燃料サイクル
図4 回収ウラン再転換後の線量率の変化
図4  回収ウラン再転換後の線量率の変化

<関連タイトル>
濃縮ウラン (04-05-01-01)
わが国の発電用ウランの調達の現状 (04-06-01-01)
わが国の発電用ウラン輸入量の将来予測 (04-06-01-02)
六フッ化ウランから二酸化ウランへの再転換 (04-06-02-01)
燃料棒加工工程 (04-06-02-04)

<参考文献>
(1)原子力安全協会(編集・発行):実務テキストシリーズ No.3、軽水炉燃料のふるまい第4版(1998年7月)p.187-191
(2)原子力委員会:原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画−平成6年6月24日、原子力政策・情報ファイルCIRCULAR、Vol.8,No.7,p.65-130(1994)
(3)小原義之ほか:回収ウラン転換技術開発、動燃技法、No.100,137-150(1996年12月)
(4)日本電気協会新聞部(編):原子力ポケットブック2008年版、(2008年7月30日)
(5)資源エネルギー庁:回収ウラン
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