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<概要>
 レーザー法によるウラン濃縮法には、金属ウランを蒸発させて得られるウラン原子を用いる原子法とウラン化合物の六フッ化ウランを用いる分子法がある。分子法では、気体の六フッ化ウランに赤外レーザー光を照射し、ウラン235の六フッ化ウランを五フッ化ウランとフッ素原子に解離する。固体になる五フッ化ウランを気体の六フッ化ウランから取り出して、濃縮ウランを得る。1982年頃より理化学研究所で原理実証研究が開始された。動燃事業団(旧核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構))は、1988年より原理実証研究に基づいて工学実証試験を開始し、1997年に濃縮度2%を達成した。しかし、動燃事業団の濃縮事業の整理縮小により1998年9月末に工学試験を終了した。
<更新年月>
2005年07月   

<本文>
 ウラン化合物の中で最も高い蒸気圧を持つ六フッ化ウランには、波長16μm(波数625cm−1)付近のν−3バンドは吸収断面積が大きく、ウラン235とウラン238で約0.02μmの同位体シフトがある。常温では、吸収バンドが同位体シフトより大きく、ウラン235の吸収は見えない。六フッ化ウランを数10K以下の温度にまで冷却すると、図1のように、ウラン235の吸収線がウラン238の吸収線と区別される。
 分子法レーザーウラン濃縮では、冷却した六フッ化ウラン235に吸収波長赤外レーザー光を照射し、ウラン235の六フッ化ウランを振動励起する。励起六フッ化ウランをさらにレーザー光を用いて五フッ化ウランとフッ素原子に解離させる。六フッ化ウランの解離方式には2種類ある。弱い赤外レーザー光で振動励起されたウラン235の六フッ化ウランに紫外レーザー光を照射して解離する方式と、すべて赤外レーザー光によって選択励起と解離反応を誘起する赤外多光子解離方式である。
 同位体選択性がよいので、通常、図2に示す赤外多光子解離方式を用いる。照射する16μm光子1個のエネルギーは0.08eVであるのに、六フッ化ウランのU−F結合の解離エネルギーは3.3eVである。六フッ化ウラン分子に数十個の光子を吸収させ、解離エネルギー以上に励起すると、六フッ化ウラン分子の最も弱いU−F結合が切れ、五フッ化ウランとフッ素に解離する。
 図3に分子法レーザーウラン濃縮プロセスの概念図を示す。六フッ化ウランは多原子分子なので、比熱比が1に近く、断熱膨張させても冷却しにくい。このため六フッ化ウランを比熱比の大きな単原子分子や二原子分子の六フッ化ウランと反応しない気体(キャリアーガスと呼ぶ)に混合して、ノズルから超音速で吹き出させる。断熱膨張によりキャリアーガスの温度が低下するので、六フッ化ウランの温度も低下する温度になった六フッ化ウラン分子に赤外レーザー光を照射し、赤外多光子吸収によりウラン235の六フッ化ウランを、五フッ化ウランとフッ素原子に解離させる。解離効率を上げるため、選択用レーザーに加え、解離用レーザー光も照射する。解離した五フッ化ウランは、互いに結合して固体になるので、これを捕集装置に回収する。高出力・高品質の16μm赤外レーザー光は、炭酸ガスレーザー光をパラ水素中でラマンシフトさせ発生させる。
 効率の良いノズルを作り、高密度の低温六フッ化ウランを作ること、選択性よく、しかも効率良くウラン235の六フッ化ウランを解離させるレーザー波長と強度の選定、16μmの赤外レーザー光の高出力化と高繰り返し化、五フッ化ウランの効率的な回収器の開発などが主要な研究開発項目である。
 原料がこれまでガス拡散法や遠心分離法で用いられてきた六フッ化ウランであるため、そのハンドリング技術がそのまま使用できること、製品の五フッ化ウランは容易に六フッ化ウランに転換でき、現行の核燃料サイクルに適合しやすいなどの利点がある。一方、ウラン235の六フッ化ウランが解離するとき、かなりの量のウラン238の六フッ化ウランも同時に励起・解離されるため、同位体選択性が低いことが大きな弱点である。
 分子法に関しては、理化学研究所が1982年頃より原理実証のための研究開発を行い、1988年に赤外多波長レーザー光照射により、分離係数4.7を達成した。動燃事業団(旧核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構))は、1988年より理化学研究所の原理実証研究結果を工学規模の装置で実証することを目的に研究開発を始めた。第一期研究開発では、100Hz炭酸ガスレーザーシステムおよびラマンレーザーならびにフッ化ウラン供給・回収システムから構成される工学実証試験装置を開発し、ウラン濃縮試験を開始した。1992年2月に濃縮度1.3%を達成した。図4に工学実証試験装置を示す。
 これらの結果をもとに原子力委員会ウラン濃縮懇談会による評価を受け、技術の可能性を見極めるため、さらに研究開発を継続することが答申され、1993年度より第二期研究開発を開始した。超音速ノズルの最適化、分離性能の向上とレーザーの高繰り返し技術に取り組み、1997年2月に濃縮度約2%に成功した。しかしながら、動燃事業団改革によるウラン濃縮事業の整理縮小により、新法人設立(核燃料サイクル開発機構)にともなって1998年9月末に工学試験を終了した。表1に分子レーザー法ウラン濃縮技術開発スケジュールを示す。
<図/表>
表1 分子レーザー法ウラン濃縮技術開発スケジュール
表1  分子レーザー法ウラン濃縮技術開発スケジュール
図1 六フッ化ウランのガス温度と235六フッ化ウランの吸収スペクトル分離効果
図1  六フッ化ウランのガス温度と235六フッ化ウランの吸収スペクトル分離効果
図2 六フッ化ウランの赤外多光子解離の概念図
図2  六フッ化ウランの赤外多光子解離の概念図
図3 分子法レーザーウラン濃縮プロセス概念図
図3  分子法レーザーウラン濃縮プロセス概念図
図4 分子レーザー法ウラン濃縮工学実証試験装置
図4  分子レーザー法ウラン濃縮工学実証試験装置

<関連タイトル>
レーザー法によるウラン濃縮 (04-05-01-06)
原子法レーザーウラン濃縮 (04-05-01-13)

<参考文献>
(1) 核燃料サイクル開発機構:研究開発課題説明資料「分子レーザー法ウラン濃縮技術開発」, (2001年12月21日)
(2) 動燃事業団(編):動燃30年史(1998年7月)p.372−375,
(3) 中井洋太ほか:レーザー法ウラン濃縮の現状−原子法と分子法−、日本原子力学会誌、35(4),280?291(1993)
(4) 川越浩ほか:動燃技報, No.100, p.273(1996)
(5) 日本原子力産業会議(編):原子力年鑑1997年版(平成9年10月)、p.147
(6) 霜田光一:レーザー研究、Vol.14, p.401(1986)
(7) (有)エヌ・エヌ(編):レーザープロセッシング、日経技術図書(1990)、p.611
(8) M.Benedictほか(清瀬量平訳):ウラン濃縮の化学工学、日刊工業新聞(1985)
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