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<概要>
 ウラン粗製錬施設は、鉱石の特性、規模などの点から細部では異なることがあるが、ウラン粗製錬工程は、浸出、濃集と精製、およびウラン沈澱に大別することができる。
 それらの代表的例として、カナダKey Lake、フランスLodeveおよび米国Crow Butteについて、それらの製錬法の概要を述べる。
<更新年月>
2005年01月   

<本文>
1.粗製錬法の概要
 ウラン粗製錬は湿式製錬に属する。ウラン含有量が普通1%前後の鉱石からウランを溶出した後、いくつかの段階を経て、最終的にウラン含有量が75〜90%程度のイエローケーキ(ウラン精鉱)を生産する。
 ウラン湿式粗製錬の段階を要約すると、次のようである。
 鉱石の粉砕−−鉱石中のウランの浸出溶液への溶出−−溶液と固体廃棄物との分離(固液分離)−−溶液中のウランの濃集(Concentration)と精製−−濃集ウラン溶液からのウラン化合物の沈殿−−イエローケーキ製造(沈殿物の乾燥)
 浸出は、酸浸出法とアルカリ浸出法に大別できる。実施例では圧倒的に酸浸出法の方が多いが、鉱石に酸を消費する鉱物(例えば、炭酸塩鉱物など)がある程度以上多く含有されていると、酸消費量が多く経済性が悪くなるので、アルカリ浸出法が選ばれる。
 ウラン鉱石の溶出では、ウラン鉱物の種類、随伴鉱物の種類、鉱石の膠結度(硬さと組織)などによって、各段階での処理法が異なることが多い。
 また、通常のウラン粗製錬のほかに、鉱石を採掘することなく、鉱床自体に直接浸出溶液を送り込み、ウラン溶出後の溶液を取り出す方法をインプレース・リーチング(Inplace leaching)、またはインシチュ・リーチング(In−situ leaching)(*1)という。そのほかに、採掘した鉱石を通常は粉砕せずに不透水性基盤上に野積みして浸出液を上部から散布すると、溶液は堆積した鉱石中を流下する過程でウランを溶出して下部に溜まる。その溶液を再び上部へ循環させ、溶出液中のウラン濃度を高めて粗製錬施設に送る。この方法をヒープ・リーチング(heap leaching)という。それらを一括して表1に示す。表中の数値は、一般的な値を示している。
 インプレース・リーチング(IPL)では、鉱床の中に浸透してウランを溶出した浸出液を採水孔から回収して、イオン交換樹脂でウランを濃集する。近傍にいくつかのIPL鉱区を有する鉱山では、ウランを充分に吸着したイオン交換樹脂を一か所の施設に集めてウランを溶離し、イエローケーキを製造する。
2.世界のウラン粗製錬施設
 2004年3月現在での世界で稼働中のウラン粗製錬工場を、表2−1および表2−2に示す。17ヶ国、合計34の粗製錬工場が操業している。これらの合計年間生産能力は約56,000tUである。
 世界のウラン生産量は1994年まで10年以上にわたり減少しつづけた。それに対して、世界の原子力発電施設と発電量の増加によるウラン必要量は年毎に増加しており、1990年頃から必要量は生産量を上回るようになった。1995年より生産量が増加に転じ、1996年、1997年と増加トレンドが継続した(図1)。しかしながら、1997年の世界のウラン生産量(約36,000tU)は必要量の約58%を充当したに過ぎなかった。必要量の半分にも満たない。生産量と必要量とのギャップは在庫等の2次的な供給源から賄われた。2002年に20ヶ国で生産されたウラン生産量も同様の数値(36,042tU)であった。
 表2に示した世界のウラン製錬施設から特徴のある施設を選んで、それらの製錬法の概要を述べる。
(1)Key Lake 粗製錬所(カナダ)
 公称生産能力は6390U−トン/年で、約750鉱石トン/日を処理できる世界最大の粗製錬所である。鉱石の酸浸出には珍しい加圧浸出を採用しており、また溶媒からウランを逆抽出するのに硫酸アンモニウム溶液を使用することから、副産物として硫酸アンモニウムを生産している。ウラン回収率は98%である。鉱石は、平均して、U:2%のほかに、As:1.5%、Ni:2.0%、Mo:0.03%を含有する。
 粗製錬工程の概要は図2に示される。鉱石は、0.5mm以下で−0.044mm部分を40%含む粒度まで粉砕される。粉砕鉱石は、後の二次浸出工程から送られてきた既にウランを含有する硫酸浸出液と混合されて一次浸出(大気圧)されるが、この段階では鉱石中のウランの一部しか溶出されない。固液分離後、分離された溶液は溶媒抽出工程に送られ、不純物除去とウランの濃集がおこなわれる。分離された鉱石は、オートクレーブ中で酸素を添加した空気を酸化剤として、加圧下で新しい硫酸溶液で二次浸出され、鉱石中のウランの大部分が溶出される。固液分離され、固体(鉱さい)は石灰で中和後鉱さいポンドに送られる。溶液には硫酸が添加されて、一次浸出用の浸出液として使用される。
 溶媒抽出工程では、有機相にはアミンが、アミンに吸着したウランを逆抽出するには硫酸アンモニウム溶液が使用される。逆抽出後の硫酸アンモニウム溶液は、17〜21g/リットルのウランを含有する。ウラン沈殿工程に送られ、アンモニアガスを加えて中和することによってウランが重ウラン酸アンモニウム(ADU)となって沈殿する。固液分離後、重ウラン酸アンモニウムは乾燥され、イエローケーキとして出荷される。固液分離で分離された溶液は120〜160g/リットルの硫酸アンモニウムを含むので、晶出工程に送られ、硫酸アンモニウム(結晶)が副産物として生産される。
 鉱さい、溶媒抽出廃液などの廃棄物は、石灰で中和され、塩化バリウムが添加されて、水溶液中のウラン、ラジウムやその他の金属成分が沈殿する。それらは鉱さいポンドに送られ、鉱さいポンドでの上澄水は粗製錬所に送られ再使用される。余剰の上澄水は放流される。
(2)Lodeve粗製錬所(フランス、1997年閉鎖))
 公称生産能力は1000U−トン/年で、鉱石165000トン/日を処理できる。鉱石中には炭酸塩鉱物が多く、苦灰石[(Ca,Mg)CO3]換算で約15%を含有する。酸浸出には適しないので、アルカリ浸出法が採用された。硫酸ソーダを副産物として回収している。ウラン回収率は90%である。
 鉱石にはウラン鉱物と共に硫化鉄鉱物が含まれる。主な有用金属成分は、U:0.33%、V:0.022%、Mo:0.008%である。
 粗製錬工程の概要を図2に示す。
 アルカリ浸出なので、浸出液としては、炭酸ナトリウム(Na2CO3)と酸性炭酸ナトリウム(NaHCO3)の混合溶液が使用される。
 鉱石に主浸出(加圧)に使用された既にウランを含む浸出溶液が加えられて、湿式粉砕される。粉砕粒度は、0.16mm以下で−0.05mm部分を約60%含む。粉砕鉱石スラリーに、石灰乳が加えられ酸素加圧下で予備浸出がおこなわれる。この目的は、鉱石に含まれるウランを溶出することと、鉱石に含まれる硫化鉄鉱物を水酸化第二鉄と硫酸ソーダに変え、またその際に生ずる過剰の酸性炭酸ナトリウムを炭酸ナトリウムに変えることである。
 予備浸出後に濾過されて浸出液から分離された固体(鉱石など)は、更に新しい浸出液を加えられ酸素加圧の下、主浸出(加圧)でウランが浸出される。濾過後、濾過液は前述のように粉砕工程へ送られ、固体(鉱さい)は鉱さいポンドへ送られる。濾過液はU:3g/リットル、硫酸ソーダ(Na2SO4):25−30g/リットルおよび浸出液成分である炭酸ナトリウムと酸性炭酸ナトリウムなどを含有する。硫酸を加えて脱炭酸の後、水酸化ナトリウムを加えて一次ウラン沈澱を行ない、重ウラン酸ナトリウム(NDU)が生成される。固液分離の後、そのNDUに硫酸を加えて溶解する。二次ウラン沈澱では、過酸化水素(H2O2)が加えられ、含水過酸化ウラン(UO4・2H2O)が生成される。乾燥してイエローケーキとして出荷する。
 一次ウラン沈澱に続く固液分離で分離された溶液は、加熱濃集され硫酸が加えられる。溶液は約350g/リットルの硫酸ナトリウムと少量のモリブデンを含有する。モリブデン回収後、加熱して硫酸ナトリウム(結晶)が副産物として生産される。
(3)Crow Butte(米国)
 公称生産能力は380U−トン/年で、鉱石の処理能力は未詳。インプレース・リーチング(*1)が行なえる鉱床の主な条件は、次のようである。
 ・鉱床は比較的水平で、直下部は不透水層である、
 ・鉱床は地下水面下にある、
 ・鉱床の透水率が高い(透水率は150ミリダルシー以上)
 鉱床にウラン浸出液を注入する注入井と、鉱床内に浸透してウランが充分に溶けこんだ浸出液を回収するための回収井を、鉱床上部の地表から規則的配置をもってボーリングにより掘削する。注入井から、炭酸アンモニウム[(NH4)2CO3]と酸性炭酸アンモニウム(NH4HCO3)の混合液を注入する。(旧ソ連および中国では硫酸を浸出液として使用しているが、操業および閉山後の環境復元などにいくつかの問題点がある)。酸化剤として、酸素(O2)または過酸化水素(H2O2)が使用される。
 回収井から回収した浸出液の粗製錬過程の概要は、図2に示される。回収したウランを含む浸出液は、地上で固液分離後、イオン交換樹脂塔を通してウランをイオン交換樹脂に吸着する。吸着されたウランは、炭酸ナトリウム(Na2CO3)と塩化ナトリウム(NaCl)の混合液で溶離される。塩酸を加えて脱炭酸を行ない、続いて過酸化水素(H2O2)水を加えて、ウラン沈澱を行なう。沈澱物は含水過酸化ウラン(UO4・2H2O)である。乾燥して、イエローケーキとして出荷する。
 イオン交換塔からの廃液は、炭酸ガスと酸化剤を添加した後、再び浸出液として循環使用される。

 用語解説
*1 インプレース・リーチング(Inplace leaching)、またはインシュチュ・リーチング(In−situ leaching):
 両者を区別して用いる場合がある。In−situ leachingは、鉱床を破砕することなく、天然の状態のままウランを浸出する。通常は、溶出液は横方向に流れる。Inplace leachingは、鉱床を発破で破砕するが、鉱石はそのままの位置でウランを溶出する。通常は、溶出液は上部から下部へと流れる。
<図/表>
表1 ウラン粗製錬法
表1  ウラン粗製錬法
表2−1 世界で稼働中のウラン粗製錬工場(1/2)
表2−1  世界で稼働中のウラン粗製錬工場(1/2)
表2−2 世界で稼働中のウラン粗製錬工場(2/2)
表2−2  世界で稼働中のウラン粗製錬工場(2/2)
図1 特定諸国におけるウラン生産量と必要量の推移
図1  特定諸国におけるウラン生産量と必要量の推移
図2 粗製錬工程の概要図(Key Lake,LodeveおよびCrow Butte)
図2  粗製錬工程の概要図(Key Lake,LodeveおよびCrow Butte)

<関連タイトル>
ウラン粗製錬 (04-04-01-01)
その他のウラン粗製錬 (04-04-01-02)
イエローケーキ(ウラン精鉱)の性質 (04-04-01-03)

<参考文献>
(1)OECD Nuclear Energy Agency and IAEA: Uranium−Resources, Production and Demand−2003, OECD(2004)
(2)IAEA: Significance of mineralogy in the development of flowsheets for processing uranium ores, IAEA, Vienna, p.190−265(1980)
(3)OECD Nuclear Energy Agency and IAEA: Uranium−Extraction Technology, OCDE
and OECD Paris, p.62−63(1983)
(4)OECD Nuclear Energy Agency and IAEA: Uranium−Resources, Production and Demand −1997, OECD and OCDE Paris (1998)
(5)Uranium Institute: The Global Nuclear Fuel Market Supply and Demand 1998−2020, Uranium Institute(1998)
(6)日本原子力産業会議:原子力ポケットブック 2004年版(2004年8月)、p.190−191
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