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<概要>
 ウラン鉱山においては、一般鉱山の保安のほかに、放射線による障害の防止のための施策が必要である。坑内作業箇所の外部放射線の測定は、GMサーベイメータなどにより照射線量率を測定する。個人の被曝線量を測定するには、フィルムバッジ、ガラス線量計ポケット線量計などを用いる。空気中の放射性物質の測定は、ウラン粉塵については濾紙に多量の試料空気を流して採取する。ラドン電離箱で測定することが多い。
 坑内作業に伴う粉塵、ラドンおよび娘核種(以下 drs.という)はともに通気によって減少させることが出来る。また、マスクの着用によって放射性物質の吸入低減化が図られている。
<更新年月>
1999年04月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.許容量
 わが国の許容限度は放射線審議会が科学技術庁長官の諮問に対して答申したものを公布したものであるが、原則的には国際放射線防護委員会ICRP)の勧告を採用している。ICRPは基本的概念として、ICRPの言う許容線量当量であると考えているものを、次のように定義づけている(抜粋)。
 「人が進化してきた環境条件から幾分でも離れると、有害な影響をもたらす危険性が有るかも知れない。そこで自然放射線による被曝のほかに電離放射線に長く連続的に被曝することは、幾分危険性を含むと想像される。しかし人類は電離放射線を全く使用することなしにすませることはできないので、実際上の問題は、放射線の線量当量を個人および集団全般にとって、許容不可能でないような危険を含む程度にまで、制限することである。」
 「個人に対する許容線量当量とは、長期にわたって蓄積されるにせよ、一回の被曝にせよ、現在の知識に照らして、重い身体障害または遺伝的障害の起こる確率が無視できないような線量当量である。」
 この許容量の算出にあたってはICRPは次の仮定を設けている。
(1)50年間連続して被曝する。
(2)決定臓器にたいする最大許容濃度は、50年間職業上の被曝が行われた後の線量当量率が規定値を超えないようにする。
(3)壊変して放射性drs.を作る場合は親核種のみが体内に入る(ただし222Rn、220Rnの場合は空気中に存在する比のまま体内に入る)。
(4)臓器に蓄積された放射性核種は一定の率で排出される。
(5)平均の呼吸率は8時間の作業あたり一千万立方センチメートルで、24時間に対する呼吸率の二分の一である。
(6)ウラン以外については化学毒を考慮しない。
(7)週168時間の被曝の場合以外は1年間50週の割合、1週40時間の割合で被曝するものとする。
 また、ある限度以上の放射線の存在する区域(表1表2参照)については、管理区域を設けてその担当者を定め、担当者の許可なく管理区域への立ち入りを禁止するとともに、管理区域であることの標示を行う必要がある。
2.坑内の環境管理
(1)外部被曝
 坑内の放射線は鉱床内や坑内空気中および湧水中に存在するラドンdrs.から出るγ線が大部分であるが、GMサーベイメーターやシンチレーションカウンターなどにより照射線量率を測定する。
 常時管理区域内に出入りする者および特に必要のある者についての、個人モニタリングとしては、フィルムバッジ線量計を使用するが、潜像退行が大であるので補正する必要がある。ガラス線量計は照射線量率の低い場所では、被曝線量が少ないので長期間使用しなければならない不便がある。
 外部放射線は空気中のラドンdrs.を減少すれば多少は減ずるが、基本的には減少させることができないので、不必要な被曝を避ける以外に方法はない。
(2)内部被曝
 放射性物質を呼吸により体内に取り入れたり、飲料水によりそれらを摂取することによって内部被曝を受ける。
 飲料水中の放射性物質は、その水を飲まないことによって比較的容易に内部被曝を避けることができるが、空気中の放射性物質については、エアー・ライン・マスク(air line mask)でも使用しない限り、坑内空気を呼吸しないわけにはいかない。
 a)ウラン粉塵
 現在までの調査結果によると、ウラン粉塵は許容限度の1/10程度以下である。ウラン粉塵の源はウラン鉱物であるが、ウラン鉱物は破砕され微粒子になり易く、呼吸により体内に入り呼吸器官に沈着する。
 もちろんウラン粉塵は、さく岩機の種類や水の使用量および付近への散水の状況により異なるが、ウラン粉塵のみに着目すれば2級のマスクでも十分その効果はある。
 b)ラドンとその娘核種(drs.)
 ラドンおよびdrs.については管理上ラドン濃度を問題にしているが、ラドンのみでdrs.がなければ相当の高濃度でも危険はないと言われている。drs.特にその一次粒子によって危険性が増すと考えられているが、現在ではまだ完全な危険度の評価は確立していない。国内鉱山の調査結果では、一次粒子の存在比(f値)は切羽面で6〜15%で、主として8〜10%の場合が多い。f値は空気中の微粒子(0.1ミクロン以下)を増加させると減少する。従って作業に伴う廃塵(ローダーやさく岩機の排気など)により作業箇所のf値は低い値を示す。
 drs.の存在比はRaA:RaB:RaC=1.0:0.8:0.6位の場合が多く、通気の良い切羽では、1.0:0.3:0.1程度になることもある。
(3)障害防止対策
 粉塵、ラドン、drs.ともに通気によって減少する。特にdrs.の危険性の評価値はdrs.の存在比が通気により著しく乱されることにより急激に減少する。掘進切羽での通気効果の実験例を図1に示す。
 これらのことから坑内の放射性物質の危険性を低下させるには通気が最も良い方法と考えられている。この他に活性炭や濾材によるラドンやdrs.の除去も試みられている。
 また、drs.に対するマスクの効果については定量的な結果は求められていないけれども、2級程度のマスクでもdrs.の2/3程度は除去できる。特級マスクによる実験では99%程度除去できるけれども、呼吸抵抗が大きく坑内作業には適しない。しかし程度の差こそあれ、マスクの効果は無視できないものであり、drs.用のマスクの開発が急がれる。
 通気の方式には「押し込み」と「吸い出し」の2方式があるが、坑壁からのラドンの流湧出を押さえるためには正圧になる押し込み式がよい。
 坑内のラドン源は坑壁から直接流出するものと考えられる。坑壁から流出する分は押し込み式通気により出来るだけ流出を押さえることとし、坑内水から放出される分、例えば高ラドン濃度の湧水をセメントで止めるとか、側溝中の水が外気にふれない様に密閉するなどの対策がとられる。
 さらにラドン濃度の高い水を坑内用水として使用しないことも大切であると同時に、不必要な坑道は密閉により完全に流出を防ぐ必要がある。
<図/表>
表1 放射性物質の許容基準値
表1  放射性物質の許容基準値
表2 管理区域設定基準
表2  管理区域設定基準
図1 風管口と切羽との距離とラドン濃度の関係
図1  風管口と切羽との距離とラドン濃度の関係

<関連タイトル>
坑内の放射線 (04-03-02-01)
ウラン・トリウム鉱石に含まれる放射性核種 (04-03-02-02)

<参考文献>
ウラン鉱業技術集 動力炉・核燃料開発事業団 1968年7月
ウラン鉱業技術研修セミナー 講義テキスト(一般編) 日本原子力産業会議 昭和47年10月
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