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<概要>
鉱床そのものに溶媒を流し込み、ウランを回収する方法(インプレースリーチング法)において、バクテリアによる鉱物の浸出作用を利用することができる。バクテリアによる硫化鉱物の浸出機構としては、菌が鉱物自体に直接的に作用する直接機構と、酸化剤として鉱物に作用する間接機構の2つが考えられている。
人形峠鉱山においては、バクテリアによるウラン浸出機構が解明されると共に、直接浸出溶液を注入あるいは浸透させ、有用金属成分を溶液中に溶出させ、これを回収してコスト低下を図ろうという技術の開発が検討されてきた。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
(1) 鉱業に関連した分野でのバクテリアの応用は、経済、技術さらには環境問題ともあいまってその重要性を高めている。バクテリアによる硫化鉱物の浸出機構としては、菌が鉱物自体に直接的に作用する直接機構と、溶液中の第一鉄イオンが菌で酸化され生成した第二鉄イオンが強力な酸化剤として鉱物に作用する間接機構の2つが考えられている。いずれの場合も鉱物表面が酸化されることにより浸出が進行する。
 微生物は何億年の昔から地球上に数多く存在し、その生存状態、環境、種類は数え切れないほどである。われわれ人類はずいぶん古くからこれら微生物をいろいろな面で利用してきた。ことに最近になって遺伝子を操作するような技術も生まれ、醸造、食品、医療などの面における微生物工業の発展は目ざましいものがある。しかしこれらの利用技術は、有機的な利用が主であって、無機的な利用は比較的少ない。その少ない利用例として鉱山排水中に存在する鉄酸化細菌−Thiobacillus ferrooxidans−(以下鉄酸化バクテリアあるいは単にバクテリアと記す)を用いて硫化鉱物を酸化浸出したり、鉱山排水の処理を行ったりするものである。
 硫化鉱物を酸化浸出する例としては、小坂元山鉱床からの沈澱銅の採取、土畑鉱山でのインプレースリーチング、ウラン鉱の浸出にもこのバクテリアが用いられている。
 また排水処理の例として、柵原鉱山の排水処理、松尾鉱山の排水処理にもこのバクテリアが用いられている。この鉄酸化バクテリアを利用した第一鉄イオンの酸化法は、他の方法と比べコストが安く、また低pH域で酸化するため、他の金属との分離回収性が向上する等の利点がある。
 細菌はその活動エネルギー源および細胞構成のための炭素源や有機源を有機物に求める、従属栄養細菌(Heterotrophic bacteria)と、エネルギー源を無機化合物の酸化エネルギーに、炭素源を空気中の炭酸ガスに求める独立栄養細菌(Autotrophic bacteria)とに分けることができる。前者は12,000種類余りも知られているのに、後者は80種類ほどしか知られていない。このことが有機的利用は古くから多くの分野で行われているにもかかわらず、無機分野での利用が少ない理由の1つであろう。この独立栄養細菌には、硫黄、硫化イオン、次亜硫酸イオンなどを硫酸に酸化する細菌、アンモニウムイオンを亜硝酸イオンに、また亜硝酸イオンを硝酸根に酸化する細菌、あるいは水素ガスを酸化して水にするものなどが知られている。しかし金属イオンを酸化してそのエネルギーを利用するものとしては、今のところ第一鉄イオンを酸化する鉄酸化バクテリアだけと言われている。この鉄酸化バクテリアも数種類発見されているが、詳細な研究がなされているのはThiobacillus属に限られ、その中では硫黄酸化細菌であるThiobacillus thiooxidansと Thiobacillus ferro-oxidans についてのものが最も多い。このため一般に鉄酸化バクテリアといえばThiobacillus ferrooxidansを指すことが多い。鉄酸化バクテリアは一般に20〜30℃、pH2〜3で良好に生育し、第一鉄の第二鉄への酸化によるエネルギーを利用して空気中の炭酸ガスを固定し増殖する独立栄養細菌で、硫黄の酸化能力もあわせ持っている。外見は 0.5〜1.0μ程度の大きさの短桿状の好気性細菌で、運動性を有し、胞子を形成せず分裂によって増殖する。

(2) 微生物の生活反応を利用して浸出し回収するというバクテリア・リーチング技術は銅を対象する例が最も多く、ニッケル、マンガン、亜鉛などへの適用が有効とされている。ウランについての適用は、ポルトガルのウルゲイリサ鉱山でバクテリア・リーチングによってウランが回収されたという報告があり、またカナダのエリオットレイク鉱山でもウランの浸出実験といくらかの操業が行われた報告がある。
 人形峠鉱山では
(a)人形峠鉱山には硫黄あるいは鉄を酸化するバクテリアが棲息し、それらの培養液を用いて、人形峠産ウララン鉱石よりウランを浸出できることを確認した。
(b)Ferrobacillus sulfooxidans と推定されるバクテリアを優良菌株として選択した。
(c)当該バクテリアの培養条件および浸出条件が明らかになった。
(d)バクテリアによるウラン浸出機構が判明した。等の基礎試験を経て、峠鉱床内において上下2つのポケットを作り、上方のポケットに溶液を充満させ、加圧せずに自然に鉱床内に浸透させ、下方のポケットで浸透液を回収する。溶液には50g/1 の硫酸稀釈液を用い、pH、ウラン濃度、硫酸根濃度、含水率を測定し、これらから浸透の状態を追跡した。またバクテリア培養液の注入も行った。
  これらの結果
(a)10〜20℃の坑内でのバクテリアの大量培養は可能である。
(b)9K培地(硫酸鉄を主体とした無機質培地)で培養したバクテリアは T.T培地(硫黄を主体とした無機質培地)のバクテリアより培養日数を著しく短縮できる。
(c)鉱床内に成長曲線の幼年期のバクテリアを注入することにより、鉱床内でのバクテリアの増殖が期待できる。また、これは培養日数の短縮、経費の軽減につながる。
(d)鉱床内に被浸出能力回復期間を設けることによって、浸出液のウラン濃度の回復が期待できる。
(e)幼年期のバクテリアと、鉱床回復期間との組み合わせによって、高いウラン濃度を長期間持続させることができる。
(f)4ないし6単位の浸出系を交互に運転することによって、浸出液の定常的生産が可能。であることが判明した。
  この様に鉱床そのものに対して直接浸出溶液を注入あるいは浸透させて、有用金属成分を溶液中に溶出させ、これを回収してコスト低下を図ろうという技術の開発が検討されて来た。
<関連タイトル>
ヒープリーチング法 (04-03-01-04)

<参考文献>
『動燃二十年史』。編集、動燃二十年史編集委員会。発行、動力炉・核燃料開発事業団(1988年10月)
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