<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 ウラン探鉱は通常、探査地の選定を行う「プロジェクト開拓」、鉱化帯の発見・規模の解明を行う「広域調査」・「精密調査」、鉱量の確認を行う「鉱床評価」の順に作業が進められる。探鉱の結果一定の基準を満たしたプロジェクトは、「企業化探鉱」、「企業化調査(FS)」を経て、「開発」、「生産」が行われる。
 現在、日本の民間企業は、カナダ、ニジェールおよびカザフスタンで、ウラン鉱山の経営に参加し、ウランを供給している。1967年から海外探査活動を継続してきた動力炉・核燃料開発事業団(以下、動燃、現(独)日本原子力研究開発機構)の活動は、1998年に民間企業に引き継ぐことが決定され、動燃がカナダに保有する鉱業権益は、2000年11月に民間企業に譲渡された。一方、2003年以降のウラン価格の急上昇と世界的なウラン資源権益獲得活動の高まりを受け、2006年8月に資源エネルギー庁は「原子力立国計画」において、国による民間のウラン探鉱・権益取得活動に対する支援策を決定し、2007年から(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構による海外ウラン探鉱支援事業が発足した。
<更新年月>
2009年02月   

<本文>
1.日本のウラン探鉱の方法
1.1 ウラン探鉱・開発の手順
 図1に、ウラン探鉱・開発の流れを示す。
 ウラン探査とは、ウラン鉱床が存在する条件を満たす場所を、絞り込む作業である。具体的にはいろいろな手段を講じて数千平方キロメートル単位の地域から、鉱床が胚胎する数平方キロメートルの地域を抽出する作業である。したがって、探査作業は一般的に、初期段階からその進捗度合により、「プロジェクト開拓」、「広域調査」、「精密調査」、「鉱床評価」の順に作業が進められる。「プロジェクト開拓」で探査地の選定を行い、「広域調査」・「精密調査」で鉱化帯の発見・規模の解明を行い、「鉱床評価」段階で鉱量の確認が行われる。また、探査段階毎に一定の基準を設け、基準を満たしたプロジェクトが次の段階に進むことになる
(1)プロジェクト開拓
 ウラン鉱床が存在する可能性の高い有望地域を抽出する。現地にでかけ、地質情報、鉱業政策等の鉱業事情を収集すると共に、衛星写真等により地質、地質構造解析等を実施し、鉱床胚胎に好ましい地質条件が備わっていることを確認する。
 ただし、生産物の日本への輸出が不可能な場合や、政情・法律・立地の面で不利な国および地域を除外する。
(2)広域調査
 ウラン露頭・鉱化帯の発見、およびウラン鉱床胚胎に好ましい地質構造を抽出する。選定された探査地に専門技術者を送り込み、組織的な探査活動を開始する。探査作業により、鉱床発見の端緒となる有意な鉱徴、又は有望な地質横造が認められた場合は次の「精密調査」に進む。
(3)精密調査
 有望な地質横造におけるウラン鉱徴の把握、およびウラン鉱徴の拡がりの追跡を行い、有意なウラン量を有すると予想される鉱化帯の発見を目指す。
(4)鉱床評価
 この段階で発見された鉱化帯の規模を把握して鉱量の確認を行うと共に、経済性を評価するため鉱石の鉱物学的調査を行う。
(5)企業化探鉱
 鉱床の採掘計画および企業化調査を行うために必要な精度で資源量、品位、形状、質などを評価するための探鉱を行う。通常、鉱化帯の連続性が適正に確認できる程度の狭い間隔の試錐が実施される。
(6)企業化調査(FS)
 企業化探鉱の結果求められる資源量評価に基づき、鉱山設計(採掘法・製錬法の決定)を行い、求められる可採資源量、生産コストおよび生産時点のウラン販売価格などのパラメーターに基づき、DCF法(Discounted Cash Flow)などによる経済性評価を行う。
1.2 ウラン探査技術
 ウラン探査技術は以下の通りである。
 放射能調査:航空機に放射能測定器を搭載し、広い範囲を対象に放射能が強い地点を検出する。空中放射能調査や、地上で携帯用放射能測定器により、放射能異常地の選定、および放射能分布を測定する(ウラン鉱化露頭鉱床に有効)。
 地質調査:鉱床に密接に関連のあると考えられる岩相、変質作用の分布や地質構造を把握する。
 物理探査:電磁気・電気・磁気・重力および地震波等を利用して、地下のウラン鉱化作用に伴う変質帯や地質構造・岩相を探る(潜頭鉱床探査に有効)。不整合関連型ウラン鉱化作用の検出に有効な電磁気・磁気探査については、地上探査を行う前に広い範囲を対象に空中探査を先行させている。
 試錐調査:地下を探るための直接的な手段である。地殻に細い孔を穿ち採取した柱状の岩石試料と放射能検層の分析から、地下の岩相、変質作用、地質構造およびウラン鉱床の品位、厚さ、埋蔵量等を確認する。
2.日本のウラン探鉱・開発活動の概要
 1954年(昭和29年)に国内ウラン探査を開始した。人形峠鉱床や東濃鉱床が発見されたものの、ウラン資源量は少なく国内のウラン需要を賄うことはできないことが明らかになった。原子力発電の大幅な拡充が計画されことから、ウランの安定供給を目指して、1966年より海外探査が開始された。なお、1988年3月をもって日本国内における探鉱を終了している。日本国内のウラン埋蔵量は、動力炉・核燃料開発事業団(以下、動燃)の前身である原子燃料公社時代に確認した4,720tU3O8に、動燃が確認した2,981tU3O8を加えた7,701tU3O8(平均品位0.054%U3O8)である。表1に日本国内の地域別埋蔵ウラン量を示す。
 海外ウラン探査は、動燃を中心に、民間企業も加わり、1998年までに13か国(カナダ、オーストラリア、米国、中国、ジンバブエ、マリ、ニジェール、ギニア、ガボン、中央アフリカ、ザンビア、インドネシア、コロンビア)で実施された。この結果、動燃により、オーストラリア、カナダ、ジンバブエ、米国およびニジェールで約40,000tU、出光興産(株)および東京電力(株)によりカナダで約17,400tUのウラン資源が日本シェアとして確保された。
 1998年2月、原子力委員会は、「自主的な探鉱活動は必要な助成の下で民間活動に委ね、動燃(1998−2005:核燃料サイクル開発機構、現(独)日本原子力研究開発機構)の探鉱活動は適当な過渡期間をおいて廃止することが適当である」と決定した。2000年11月、核燃料サイクル開発機構がカナダに保有する鉱業権益は、日本の民間会社4社(伊藤忠商事(株)、海外ウラン資源開発(株)、三菱商事(株)、三菱マテリアル(株))から構成されるコンソーシアム(日加ウラン(株))に移転されることになった。また、国内企業に移転できなかった権益に関しては2002年までに海外企業への売却等を完了した。表2に核燃料サイクル開発機構が移転・売却等を行った海外鉱業権益を示す。
 動燃による海外ウラン探鉱が廃止されて以降、わが国のウラン探鉱は日加ウラン(株)によって小規模な探鉱が継続実施されるのみであったが、一方、2003年以降ウラン価格が上昇し始めると、カナダ、オーストラリアを中心に数百ものジュニアカンパニーが探鉱を開始し、中国、ロシアなど主要ウラン需要国による資源確保戦略も相まって、世界的なウラン資源権益獲得競争が活発化した。このような背景を受けて、2006年8月に資源エネルギー庁は「原子力立国計画」において、国による民間のウラン探鉱・権益取得活動に対する支援策を決定し、資源外交を活発化させると共に、2007年から(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下、JOGMEC)による海外ウラン探鉱支援事業を発足させた。
 ウラン価格の上昇とJOGMECの海外ウラン探鉱支援事業発足を受けて、2007年からわが国民間企業による新たなウラン探鉱プロジェクトが次々と発足した。表3にわが国の探鉱プロジェクトを示す。
 日本の民間企業は、従来カナダ、オーストラリアおよびニジェールで、ウラン鉱山の経営に参加し、日本にウランを供給してきたが、2006年からはカザフスタンのウラン鉱山経営にも参加した。カナダでは、海外ウラン資源開発(株)が1999年6月に生産を開始したマクリーン鉱山と、開発を目指しているミッドウエスト鉱山に参加している。また、出光興産(株)と東京電力(株)が2011年以降の生産開始を予定している世界最大級のシガーレイク鉱山に参加している。オーストラリアでは日豪ウラン資源開発(株)がERA社に参加してきたが、2005年に権益を売却し契約購入のみとなった。また、2008年に、三菱商事(株)がキンタイヤ鉱床の権益を、三井物産(株)がハネムーン鉱床と周辺鉱床の権益を購入した。ニジェールでは、海外ウラン資源開発(株)がアクータ鉱山を操業するコミナック社に参加している。カザフスタンでは、2006年に住友商事(株)と関西電力がウエストムィンクドゥック鉱山の開発プロジェクトに、2007年には丸紅(株)、東京電力(株)、東芝(株)、中部電力(株)、東北電力(株)および九州電力(株)がハラサン鉱山の開発プロジェクトに参加した。表4にわが国のウラン開発・生産プロジェクトを、図2にわが国のウラン探鉱・開発・生産プロジェクト位置を示す。
(前回更新:2001年2月)
<図/表>
表1 日本国内における地域別埋蔵ウラン量
表1  日本国内における地域別埋蔵ウラン量
表2 核燃料サイクル開発機構が移転・売却等を行った海外ウラン権益
表2  核燃料サイクル開発機構が移転・売却等を行った海外ウラン権益
表3 わが国のウラン探鉱プロジェクト
表3  わが国のウラン探鉱プロジェクト
表4 わが国のウラン開発・生産プロジェクト
表4  わが国のウラン開発・生産プロジェクト
図1 ウラン探鉱・開発の流れ
図1  ウラン探鉱・開発の流れ
図2 わが国のウラン探鉱・開発・生産プロジェクト位置図
図2  わが国のウラン探鉱・開発・生産プロジェクト位置図

<関連タイトル>
ウランの地殻中での挙動とその分布 (04-02-01-01)
日本のウラン必要量と必要量を確保する手段 (04-02-01-08)
カナダのウラン鉱山 (04-03-01-05)
オーストラリアのウラン鉱山 (04-03-01-07)

<参考文献>
(1)動力炉・核燃料開発事業団:動燃三十年史(1998年7月)p.324−354
(2)日本原子力研究開発機構ホームページ:平成13年度研究開発課題評価(事後評価)報告書−評価課題「海外ウラン探鉱」(2002年8月)
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ