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<概要>
 原子力産業界は、1960年代の原子力開発初期に原子力プラントメーカー、燃料メーカー、エンジニアリング会社が各国で振興した。しかし、1990年代以降、世界的な電力市場の自由化と新規原子力発電所建設の滞りと並行して、縮小する市場に適合した産業に必要な規模と競争力を維持していくため、国境を越えた再編、集約化が進行した。一方、近年の化石燃料の需給逼迫の顕在化や価格の高騰、地球温暖化対応の必要性の高まりを背景に、欧米各国での原子力発電の見直し・リプレース建設の現実化、あるいは途上国での原子力発電の新規導入といった動きが加速している。
 今後世界では、東芝−WH社、三菱重工−アレバ社、日立製作所−GE社の3大グループとロシア企業を中心に、中国、韓国、カナダの企業体、あるいはインドの企業体が参加し、新興市場において原子炉機器の製造、保守、ウラン濃縮、燃料製造を巡って、国境を越えた受注競争を繰り広げていくことになると考えられる。
<更新年月>
2009年01月   

<本文>
 国際エネルギー機関IEA)が2008年11月に公表した「世界エネルギー展望2008(WORLD ENERGY OUTLOOK 2008)」によれば、世界のエネルギー需要は、年率1.6%で増加し、2030年には今日の水準の約45%増に達すると予測している。この増分の7割強は途上国が占め、アジア地域の急速な経済成長と人口増加を反映して、日本を除くアジアを中心に約5割、中国だけでも約3割を占めるとされている。なお、最近の米国を震源とする経済不況により今後上昇幅が下方修正されるかもしれないが、この上昇傾向は続くものと予想される。世界の原子力発電設備容量は、2007年12月末現在、運転中のものは439基、3億7,206万kWに達しており、建設中、計画中を含めると総計566基、5億45万kWとなる。運転中の発電所の多くは、1970年〜1990年の期間に米国や仏国を中心に建設されたものである。
 1960年代の原子力開発初期に原子力産業は各国で振興したが、1979年のスリーマイル島事故や1986年のチェルノブイリ事故を境に、エネルギー資源価格が安定したこともあり、欧米諸国の中には原子力発電に消極的、脱原子力政策を掲げる国々が現れ、1990年代以降、世界における原子力発電所の新増設は減少した。しかし、近年の化石燃料の需給逼迫の顕在化や価格の高騰、地球温暖化対応の必要性の高まりを背景に、欧米各国での原子力発電の見直し・リプレース建設の現実化、あるいは途上国での原子力発電の新規導入といった動きが加速している。図1に原子力発電を巡る構造変化を示す。
1.原子力産業の動向
1.1 原子炉プラントメーカーの動向
 国境を越えた原子力産業の再編が進行した結果、原子炉の設計・製作・運転維持技術を支える海外の原子炉プラントメーカーは、GE(General Electric、米国)、WH(Westinghouse Electric、米国)、AREVA(フランス)の3社に集約化された。それぞれESBWR、AP1000、EPRといった新型軽水炉の世界的販売戦略へ乗り出している。日本では、規模は減少しつつも新規建設が継続されてきたため、プラントメーカー3社(三菱重工(PWR)、東芝および日立(BWR))の提携関係に変化はなかったが、2006年10月に英国BNFL傘下にあった米WH社(PWR)を東芝(BWR)が買収した。これを契機に、同年10月に三菱重工が仏アレバ社と提携(100万kW級中型炉の開発販売を行うアトメア(ATMEA)社設立)、同年11月に日立とGE社の原子力部門が新会社、日立GEニュークリア・エナジー社設立を決定するなど、国際的な再編の動きに参加することになった(図2参照)。また、ロシアでは、複数の国営企業が原子力事業を行っていたが、原子力部門の軍民分離作業に伴い、ウランの生産から原子力発電所の建設、運転までを手掛ける巨大原子力企業アトムエネルゴプロムが2007年7月に設立されている。
2.原子燃料供給事業の現状
 今後世界では、東芝−WH社、三菱重工−アレバ社、日立製作所−GE社の3大グループとロシア企業を中心に、中国、韓国、カナダの企業体、あるいはインドの企業体が参加し、新興市場において原子炉機器の製造、保守、ウラン濃縮、燃料製造を巡って、国境を越えた激しい受注競争を繰り広げていくことになると考えられる。なお、原子燃料供給産業は、(1)ウラン生産、(2)U3O8からUF6への転換、(3)濃縮、(4)軽水炉用燃料の加工に大別されるが、以下に現状を示す(図3参照)。
2.1 ウラン生産
 ウラン価格は、1980年頃から2000年頃まで二次供給(解体核高濃縮ウラン(HEU)、民間在庫等)が豊富であったことなどから、需給状況が緩和していたため、価格も低い水準にあった(図4参照)。しかし、近年、二次供給の減少、中国、インド等の需要増加の見通しや世界有数のウラン鉱山の事故等の影響から急騰(2000年末比約10倍)したため、需要拡大の見通しや価格の上昇による投資環境の改善を背景に、世界各国で天然ウラン増産に向けた動きが見られる。需給関係は、米国の経済失速や原油価格の動向、天然ウランの増産の速度、原子力発電拡大の動向により今後大きく変動するものと思われる。2007年のウランの生産量は41,279トンUでカナダが23%、オーストラリアが21%、カザフスタンが16%を供給し、2000年以降カザフスタンの生産量が延びている。また、ウラン生産者も、(1)カナダのCameco社、(2)オーストラリアのRio Tinto社、(3)フランスのAreva社、(4)カザフスタンのKazAtomProm社がウラン需要の約6割を供給している(WNA 2007)。
2.2 ウラン転換事業(U3O8からUF6への転換)
 世界の転換設備は、Cameco(カナダ)、COMURHEX/AREVA(フランス)、ConverDyn(米国)、Rosatom(ロシア)およびWestinghouse(NDA/BNFL)の5事業者がほとんどの転換供給を行っており、世界の総公称生産容量は約66,300tU/年である(WNA 2007)。二次供給源を加えた場合、当面転換供給量には余裕があるが、ウラン需給と同様、米ロHEU契約が終了する2014年以降、継続的な供給不足が予想される。転換施設は、技術的・資金的な問題が小さいため、比較的生産容量拡張に大きな障害はないと考えらている。
2.3 ウラン濃縮事業
 世界の公称濃縮容量は約58,450tSWUで、6つの主要な濃縮供給者、Rosatom(ロシア)、USEC(米国)、Eurodif/AREVA NC(フランス他)、URENCO(イギリス・オランダ・ドイツ)が99%以上の容量を保有している(WNA 2006)。しかし、ガス拡散技術は電力消費量が大きく経済性が悪いため、ガス拡散技術のみのAREVA NCおよびUSECの実質的な競争力は低下している。従って、西側世界の需給は5,500tSWU/年のロシアHEU、さらにロシアから西欧、アジア等に約5,000tSWU/年が供給され、かろうじてバランスがとれている。今後、AREVA NCとUSECのガス拡散プラントが閉鎖され、ロシアHEUが終了する2014年以降、西側では年間約15,000tSWUの供給不足が予想される。
2.4 燃料製造
 燃料製造業者は通常、初装荷燃料や初期の燃料を原子炉の設計に合わせて原子炉へ供給するため、原子炉メーカーと密接な関係を有する。それ以降の交換燃料は市場競争の中におかれ、燃料交換サイクルの長期化もまた燃料製造需要を減少させることから、燃料製造業界の競争は激しい。現在の軽水炉用の燃料製造需要は、年間およそ7,000tHMの濃縮ウランであるが、年間供給能力は12,000tHMで、生産量は需要量をはるかに上回る。特にPWR燃料製造業者の競争は激しく複雑である。業界再編時にはWHは再分化され、変遷を重ねた。寡占化が進んだ現在、AREVA NP(旧Framatome ANP)、BNFL/WHおよびGNF(GE+東芝+日立)の系列メーカーで、世界の燃料成形加工設備容量の2/3を占めている(図5参照)。
<図/表>
図1 原子力発電を巡る構造変化
図1  原子力発電を巡る構造変化
図2 世界の主要な原子力プラントメーカーの変遷
図2  世界の主要な原子力プラントメーカーの変遷
図3 世界の主な原子燃料産業の概要
図3  世界の主な原子燃料産業の概要
図4 ウラン資源の動向
図4  ウラン資源の動向
図5 世界の主要燃料加工メーカーの再編・寡占化
図5  世界の主要燃料加工メーカーの再編・寡占化

<関連タイトル>
核燃料リサイクルの概要 (04-01-01-01)
ウラン生産国と資源状況 (04-02-01-06)
世界のウラン濃縮施設 (04-05-02-02)
世界の核燃料製造会社とその生産規模 (04-06-01-06)

<参考文献>
(1)(株)アイ・イー・エー・ジャパン:米国原子力情報サービス No.237、2000年6月、p.13—25
(2)原子力委員会:平成18年原子力白書、第1章 平成19年3月、http://www.aec.go.jp/jicst/NC/about/hakusho/hakusho2006/1.pdf、平成19年原子力白書、平成20年3月、http://www.aec.go.jp/jicst/NC/about/hakusho/hakusho2007/index.htmhttp://www.world-nuclear.org/info/inf28.html
(3)資源エネルギー庁:原子力政策の課題と対応?原子立国計画?、平成19年3月
(4)資源エネルギー庁:原子力を巡る世界情勢とわが国における原子力立国計画の進捗状況、平成19年9月
(5)資源エネルギー庁:原子力政策の今後の取組み、核燃料サイクルの着実な推進とサイクル関連産業の戦略的強化
(6)WORLD NUCLEAR ASSOCIATION(WNA):Mining&Uranium Market,
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